第一話
冒険者ランクについてはわかりやすいように英語表記にしています。
僕には、日々の楽しみがある。
寝ること?違う。ご飯を食うこと?違う。新しい武器を買うこと?どれも違う。
冒険者ギルドに昼頃居座っていると、いつも僕を迎えに来たかと思わせる可憐な少女。
長髪の栗毛、瞳の色はまるでエメラルドのように透き通っていて美しい。雰囲気が少しくらいが容姿端麗でまさに僕にうってつけの彼女だ。早く迎えに行ってあげたいが、今はまだ早い。もう少しだけ待とう。
パーティ仲間が討伐クエストの準備を整えたみたいだ。
「おーい、行くぞー」
もうちょっとだけ見ていたかったが仲間を待たせるわけにはいかない。
重い腰を上げる。僕もたくましい冒険者になって彼女にふさわしい漢になろう。
冒険者になってから一か月が経った。
いまだに魔物討伐には行けず毎日薬草を採りに行っている。
同じ日に冒険者になり俺に話しかけてくれた彼は魔物討伐に行っていて、最初とは比べものにならないほどの筋肉がついていた。
明日こそは頑張ろうと思ってみても、甘えた心が薬草採取へと駆り立てる。
冒険者ギルドの方々は薬草が不足していて受けてくれるだけでありがたいとは言ってくれて、時々報酬を少し多めにくれる時があるけど。
周りの冒険者からは時々自分へのぼやきが聞こえてここに来るのが日に日に辛くなってきた。
「今日も薬草採取に行ってくださるんですか」
受付に立って少しだけ考えて、
「はい、そうです」
今日も太陽の下、薬草採取だ。
街から出て壁沿いを徒歩で三十分。
すると一昨日に見つけた薬草の群生地がある。
薬草は日の出に当たることで育ちやすいとされている。壁の影の影響で咲きづらいとされている反対側だが、壁の上半分が欠けているここは日光が当たってくれるため大量で、さらには下位の薬草だけでなく中位の薬草も咲いている。
街の中でもあそこは直さないといけないと話が出ているくらいだが、如何せん高すぎて修理に難航しているらしい。とはいえ、時間の問題だろうから今だけのフィーバータイムだ。
いつものように雑草を掻き分けて赤色の花と青色の花を探す。
一昨日採りすぎたから昨日は依頼の最低数の十本だけ採ったけど、もうあんまり残ってなさそうだ。
また別の群生地を見つけに行かないといけないのか。
二十分経過して見つけたのはたったの三本。うち一本が中位の青い薬草。
昨日は一時間で作業が終わったけど、今日は二時間はかかりそう。まあ、中位の薬草を見つけれただけまだ良しとしよう。
中腰で作業しているから、時々背中が痛くなり休みながら薬草を採っていると小さなスライムがいた。
スライムは特段襲ってることはない。村に住んでた時に何度か村の中にいるスライムを触ったりして遊んでいたから慣れている。
後ろからぺちゃぺちゃ音がする。違和感はあったけど些細な事だから気にしない。
一時間が経ち、二時間かかると思っていた薬草採取が終わった。
奥へと進んでいったらまた群生地を見つけたみたいだ。運がいい。
早めに終わったし他の群生地が奥にあるかもしれない。ここは街の近くで安全だから大丈夫だと信じて少しだけ探すことにした。
「ずっとついてくるな・・・」
スライムは仲間になりたいのかずっとついてくる。
この世界にも『テイマー』という職業が存在していて、魔物を捕まえ、戦闘もだが非戦闘向きの魔物となると荷物運び、それに家事を手伝わせることができるらしい。ただテイム条件があり、魔物から自分に対して好意がないと捕まえられないらしい。冒険者人生短めだしレアな職業と聞いたからまだその適正にあっている人物みたことがない、いつかは見てみたい。
俺の職業は『魔術師』、魔物に好かれるということはないはずだからこのスライムは何をしたいのだろう。犬の気持ちですらわからないことがあるんだから、こんなぷにぷにした生き物のことなんて尚更わかるわけがないか。
どんどん奥へ進むと、後ろだけではなく前方からもぺちゃぺちゃ音が聞こえてきた。
雑草を掻き分けるとそこには大小さまざまなスライムがぺちゃぺちゃ音を立てて飛び回っていた。
ここはどうやら薬草だけじゃなくスライムの群生地でもあったみたいだ。後ろにいたスライムがみんなに合流し、一緒に飛び回っている。
感情がないと思っていたけど、なんだかこうしてみるとずいぶん楽しそうだ。
久々に癒しを感じられてどこか安心した。
しばらく眺めていると、スライムが飛ぶのをやめた。
辺りはシーンと静まり返る・・・。
スライムは雑食性で草、魔物の死体、それに硬い石までも食べることができる。ただそれには体よりも小さいものと限定されている。
スライム数十匹が急に密集し始める。
可愛いなぁと呑気に眺めていると一匹が他の一匹に結合される。そして一匹、また一匹と結合し、どんどん大きくなっていく。
初めて冒険者ギルドに来た日にどんな魔物がいるか掲示板を眺めていた。色々な魔物がいてまだ初日だったからワクワクしていたのを覚えてる。その記憶の片隅に丸い見た目をしていて村にいた愛くるしい見た目とは裏腹に、人の二倍以上はある大きさがあるらしいそいつはDランクだった。
俺はといえばHランクだから、街の近くに警備団がいるから安全だと思っていた。
村にいた時は時々危険な魔物が現れても元冒険者の農家があっさり倒してくれて、未だに魔物の恐ろしさを実際に理解はできていなくて、どこか平和ボケしていたんだろう。
こんなたかだかスライム、されど魔物なんだ。
体よりも小さければなんでも食うさっきまで小さかったスライムは今や俺よりも大きくなり、Hランク級がDランク級へと進化し、呆然としている捕食対象を見下ろしているような、そんな気がした。




