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僕とAIと魔王のスローライフ

作者: もみじ山
掲載日:2025/11/12

そいつとは少し風が強い日の夜、森の中で出会った。

外出先から拠点の山小屋に戻っている途中だった。

馬を走らせていると不穏な気配が纏わりついてきたのだ。


けれど、僕は気のせいだったことにして無言で山道を馬で駆ける。



『可愛い子猫ちゃん、私と一緒においで。楽しく遊ぼう?』


『……マスター、へんな人が話しかけてきます』

「落ち着いて。枯れ葉が風で揺れているだけだ」


『素敵な子猫ちゃん、私と一緒においで。この私が面倒を見てあげるよ』


『マスター、見えてるでしょ。暗がりに怪しい人がいるの!』

「確かに見えるよ。でもあれは古い柳だと決まってる」


『子猫ちゃん、キミが大好きだ。嫌がるなら力付くで連れて行くぞ』


僕達が乗っている馬に並走して浮遊していたあいつは、僕の肩に乗った子猫に手を伸ばしてきた。


カッチーン!!

頭にきた僕はついに叫んだ。


「なんなんですか、貴方は! 魔王ごっこしたいなら他に行ってくれませんかね!?」


「やーっっと反応してくれた。『魔王』の歌詞を知ているってことは、おまえも転生者だろ?」


ニヤリと笑った男の耳は尖っていて、頭には2本の角。

長く艶のある黒髪は月明かりが反射して銀色にも見える。

一目で魔族とわかる、こちらへ向けられた赤く光る瞳。


こんな所で出くわすなんて……


これが、僕と自称魔王の出会いだった。



***



「おーい。朝飯ってまだか?」

「居候のくせに図々しいなぁ」

「だから俺のほうが先にこの山小屋を使ってたんだって。居候はおまえだ」


この山小屋は、150年前に魔王を倒した勇者一行のうちのひとり、賢者が晩年住んでいたと言われている。

山の中腹にあり、訪ねて来たときには空き家になっていたので勝手に住むことにした。

「山小屋」というよりは小ぢんまりとした「日本の一軒家」というかんじなのだが、貴族のお屋敷を見慣れてしまった僕としては「山小屋」という感覚だ。


昨夜出会った自称魔王はあのまま僕についてきて一泊したので、とりあえず朝食をとりながら話を聞くことにした。

今朝のメニューは和定食。白米と焼き魚とおしんこ、キノコの味噌汁がポイントである。美味しいご飯を食べるために料理を覚えたら趣味になってしまった。

美味しいご飯、サイコー!



「……で、150年前に倒されたはずの魔王さんがどうしてここに?」

「いやぁ前世で死んだ!と思ったら魔王になっててさぁ。それも勇者に倒される半年前よ」

「それは大変でしたね。なんだって魔王なんかに」

「ん〜〜やっぱりスリルを味わってみたいとか思ったからかなぁ?


「…………」

「いや、今では平和が一番だと思ってるよ! 勇者に狙われて身にしみたし。平和万歳!! だからそんな目で見ないで……っっ」


白い目を向けられた魔王は泣きそうな顔してる。

まあ、たしかに命を狙われたら流石に懲りるかもね。


「いや俺ってさ、高校では生徒会長やってたし、結構良い大学を出て、就職も順調で、わりとエリートコースだったわけよ。そうすると毎日つまんないというか、スリルを味わってみたくなるというか……で、気がついたらこの状況。ありえなくねぇ?」


『言葉遣いにエリートらしさが感じられません』


朝の見回りから戻ってきた子猫が、窓から入ってきて会話に加わった。


「勇者にやられたふりして隠れてから150年だからな。そんだけ月日が経てば性格も変わるって」

「たしかに」

「そんでさ、この子猫なに? 昨日から気になってたんだけど。おまえのナビゲーター?」

「似たようなものですね。正確にはAIですよ」


「猫型AIか! いいなあ。俺も欲しい」

「ポンコツAIだから間違ってることもありますけどね」

『ひどいですっマスター!』


ペチペチと猫パンチしてくるけど痛くない。

むしろ可愛い。AIのくせに。


「転生のときに神様が希望のものをくれると言ったから、困ったときに便利なAIみたいのが欲しいと答えたんだ」

「神様に会ったのか? 俺は見てないぞ」

『ワタクシ、ご希望通りマスターの役に立ってますよね? えっへん!』

「実際に手元にやってきたのは、初期AIの猫型使い魔だけどね」

「初期かぁ……」

『えっワタクシ、役に立ってます……よね!?』


「最初はまちがいだらけで騙されたー!!って思ったけど」

『それは大変申し訳ありませんでした』

「今ではわりと助かってるよ。図書館で情報を集めたり旅でいろいろ見聞きして学習させたしね」

『良かった……役に立ってた……ほっ』

「ちなみに名前はあるのか?」

『自己紹介が遅れました。アイと申します』

「おい、テキトーに付けただろう」

『マスター!!???』


呆れ顔の魔王の言葉を聞いてアイが叫んだ。

ここはスルーしとこう。



「そういえば転生って言ってたけど、家族はいるのか?」

「僕は伯爵家の四男だったので家を出たんですよ。旅の途中で賢者の家の話を聞いて、珍しい本もありそうだからアイのためにここまで来たんです」

「そうなのか。俺は魔王城を出たあと、変装して冒険者してたな。この家を見つけてからは時々隠れ家に使ってたんだが、久しぶりに来てみたらお前らが住んでたというわけだ」

「そうでしたか……でも、これからどうしましょう? 僕も貴族の生活に馴染めなくて出てきた身なのでここしか住む場所がないんですよね」


最後はちょっと喧嘩みたいになって家を出たから気まずいし。


「べつに、このまま皆で住めば良いんじゃないか?」

「一緒に住むということですか?」

「だって異世界に来てからまた和食を食べられるなんて思ってもなかったし。俺としては大歓迎だ」

「アイは僕の記憶も把握してますからね。大抵のことはなんとかなります」


ドヤ顔をする子猫。


「良いなあ。アイちゃん、俺にしとかない? こいつより優しくするよ?」

『マスターを「こいつ」とか「おまえ」と呼ぶような者には従えません』

「残念、振られた。でも、このまま住むだろ?」

「でもなぁ……庭の畑も家畜も僕が整えたものだし、魔王と住むことで何かメリットある?」


『魔王は魔力が高いので害獣が近寄ってこなくなると思われます』

「ま、そういうことだ。それに俺、狩りも上手いぞ」

「ふむ」


僕は狩りが苦手だからしばらく肉を食べてないなぁ。

少し考えて、頷く。

こうして僕とAIと魔王の共同生活が始まった。



「それにしても、畑の植物も家畜もよく集めたな。今飼っているのは山鶏と山羊か?」

「ええ、旅で会った農家さんや牧場で分けてもらったんです」

「世渡り上手かよ」

「ちゃんと対価は渡しましたよ。肥料の作り方とか、アイスの作り方とか」

「アイス作れるのか! 食べたい!!」

「作ってあげても良いけど、乳搾りくらいはやってくださいね」

「おう、まかせろっ」


「それにしてもアイスの作り方なんてよく知ってたな」

「前世は雑学好きだったので」

「もしかしてメガネをかけたガリ勉だった?」

「いえ、雑学が好きなだけで学校の成績は普通でしたよ」

「ふーん」

『補足しますと、視力が落ちると頭の回転も鈍ってくるのでメガネ=頭が良いとは限りません』

「あ。そういう雑学なのね……」


僕は料理係で、畑と家畜の世話をして。

アイは魔法で掃除洗濯。

魔王は狩りに出て食料を採ってくる。


そんな日々が過ぎて数ヶ月、珍しくお客さんがやってきた。




「お久しぶりです、姉さま」

「本当に久しぶりね。こんなところに住んでたなんて……探すのに苦労したわ」


6人いる兄弟姉妹の中でも一番仲の良かった姉さまが会いに来てくれた。


「すみません。家を出たし、もう関わらないほうが良いと思って」

「家を出たと言っても私の弟であることに変わりはないのよ」

「……ありがとうございます」

「こんな所にいたら不便でしょう? お土産に魔道具をいくつか持ってきたわよ」


姉さんは天才魔道具師なのだ。

あまりに引きこもって開発ばかりしているから婚約者に捨てられて一騒動あった。

相手のあまりにヒドイ態度に口を出したら「庇われるほど私は弱くない」って姉さまに怒られたっけ。


「あの時はごめんね。折角かばってくれたのに責めるようなことを言ってしまって」

「気にしていないから姉さまも忘れてください。元々貴族の生活は僕に向いていなかったんです」

「今更だけど、貴方の気持ちは嬉しかったわ。あの時は有難う」

「姉さま……」


しんみりしていると元気が声が響いた。



「あれっお客さん?」


魔王さんだ。

タイミング悪いな。


「うわっ美少女! えっおまえの姉さん!?」


アイに説明を受けた魔王さんは興味津々だ。

めずらしく引き締めた顔で姉さんを誘う。


「はじめまして、美しいお嬢さん。ワタクシとお茶でもいかがですか?」

「ごめんなさい。私、長髪の殿方は苦手なの」


ガガーーーンとショックを受けている魔王さん。

姉さんは一筋縄ではいかないのだ。


その後、姉さんは少し話をして帰っていった。

お土産にもらった調理プレートとホットカーペットは、僕と姉さんで共同開発したものである。

まぁ、前世で見たものを姉さんに説明して作ってもらっただけなんだけど。

電気のないこの世界では、代わりに魔石の力で動かすのだ。



魔王さんは姉さんの言葉がショックだったのか、あっさりと髪を切ってしまった。

「今までもてなかったのは長髪のせいだった。これで俺もいけるぜ!」と張り切っていたが、その髪型がこっちの女性にも人気あるかはビミョーだ。


『魔王さんがもてないのは御本人の問題かと思われます』

「なんだとコラーー!!」

アイがはっきり言うから喧嘩がはじまった。

いつものことだけど。


でもアイの言う通りだと思うんだよね。

ツーブロックに片耳ピアス。そして態度がアレではヤンキーもどきにしか見えない。

そういえばスリルがどうとか言ってたな……そんなことを思いながら、魔王さんが仕留めてきた大牛をチラリと見る。



ちょうどもらった調理プレートもあるから明日は焼肉にしよう。

牛の解体を魔王さんにお願いすると、アイが肉の部位を説明しながら美味しい捌き方(?)のレクチャーを始めた。


僕は今夜と明日の料理に使う野菜を畑で収穫する。

空を見上げれば澄み渡る青空。


気がかりだった家族とも仲直りできたし、ここでもそれなりに楽しくやれている。

冷たい風が吹いているけれど心の中はなんだかポカポカ温かい。

春になって山桜が咲いたら姉さまも誘って皆で花見をしよう。


僕達のスローライフはまだまだこれからだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

スローライフを書きたかったはずなのに、なぜかスローライフが始まるまでの話になってしまいました。想像と違う!と思われた方、すみません。いつか続きを書きたいと思います。


だがしかし、今は年末に向けて忙しく……仕事の山を超えた!と思ったら次の山がやってくるというループに入っており、息抜きがてら短編を書いてみました。連載も早く更新したいけれどもう少しだけお預けです(涙

私ものんびりスローライフを送りたいー。

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