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【第6話】魔石

登場人物

・秋城 紺:撮影班。ドローンの身体を持つ。

・瀬川 怜輝:”残機ゼロ”という名義を持つ配信者。

「……あれ?俺……ゴブリンに……」

 意識を取り戻した瀬川は、胡坐(あぐら)を掻いて傷ひとつ無い自分の身体を念入りに確認し始めた。

 私が声を掛ける前に、突如配信に乱入してきた男子が語りかける。

「目を覚ましたか。怪我はないか?」

「……え?先輩……?」

 え?知り合い?

 瀬川は目を丸くして、栗色の髪を伸ばした少年に視線を送る。

 まるで目の前にいる人物の存在が信じられないといった様子だ。

「……俺、死んだ?え、ここって天国か?」

「俺まで殺すな。安心しろ、お前は生きてる」

 とんでもないボケをかました瀬川に淡々と突っ込みながら「先輩」と呼ばれた少年は立ち上がった。

 彼の側には、先ほど斬り払ったゴブリンの身長に近しい刀身を持つ肉厚の大剣がフローリングを抉る形で突き刺さっている。

 

 一体、どこでそんな大剣を手に入れたのか。

 彼はどのようにして、ここまで生き抜いてきたのか。

 そして、瀬川とどのような面識があるのか。


 聞きたいことは山ほどあったし、というか瀬川が起きる前に聞こうとした。

 だけど「まずはこいつが起きてからだ」とはぐらかされ、私も話を聞くに至ってはいない。どうにもつかみ所の無い男だ。

 とりあえず、謎のイケメンには「配信者は皆この世界に送り込まれた」「私は元々彼と同じ学生の女子生徒」という部分だけは伝えた。本名ボロだけはやめてね。

 

 残機ゼロの配信に乱入した彼は、端的に言ってオーバースペック人間だった。

 ワックスで固めているのだろうか、綺麗に整えられた栗色の髪。そこから覗くのは、まるで俳優かと思わされるほどに整った顔貌。

 胸元で揺れる高校指定の藍色のネクタイには、金色のピンが飾られている。

 服装は瀬川と同じ制服の、白のカッターシャツに灰色のブレザー。チェック柄にデザインされたズボン。

 なのに、瀬川よりもスマートに着こなしているように見える。ルックスが与える影響というのはこんなに大きいのかと改めて認識させられる。なるほど、イケメンは罪だ。

 そんなハイスペック系男子は、あろうことか大剣でゴブリン2体をいとも容易く屠って見せたのだ。

 本当に——

「残機ゼロ、立つ瀬無いね」

「おい心の声漏れてるぞ」

「やばっ」

 つい本音が漏れてしまった。

 瀬川は不服そうに私を睨んでから立ち上がった。すると自身の衣類に違和感を覚えたのだろう、身体に視線を落とす。

「あれ?俺、制服着てたはず……」

「あっ、それはね」

 私が何かを言おうとする前に、件の先輩が話に割って入る。

血塗(ちまみ)れだったからな、俺が着替えさせた……ああ、心配するな。このドローンは元々女子生徒なのだろう?着替えている間は視界から逸らしてもらった」

 瀬川が気にするであろう話まで完全に先回りして、全て説明を終えてしまった。

 何から何まで完璧である。これがモテる男……!

 今の瀬川は紺色のズボンと白のカッターシャツ、それからベージュ色のジャケットといったカジュアルな衣装に身を包んでいた。

「何から何まで、ありがとうございます……あ、でも服ってどこから」

 自身が纏う服の入手経路について問いかけると、先輩は「ああ」と何食わぬ顔で答えた。

「呉服店から取ってきた」

「取ってきた?え、呉服店って何階でしたっけ」

「2階だったからな、そう遠くはない」

 さらりと告げる事実に、私と瀬川は絶句した。

 コメント欄も[やばいこのイケメン][強すぎ][次元が違う]などの言葉が流れている。

 今私達が居るのは地下1階なのですが?


 実際、瀬川が意識を失っている間。

 先輩と呼ばれた人物は「ちょっと服を取ってくる。お前はこいつを見ていてくれ」と告げたと思えば、大剣を持って颯爽と駆け出していったのだ。

 私が止める暇も無く。

 単身で飛び出すにしてはあまりにも危険すぎる。ゴブリンの脅威を見ていたから尚更のこと。

 だが、先輩はおおよそ10分ほどでさっさと服を持って戻ってきたのだ。

 規格外も良いところである。


 ちなみにゴブリンの死骸は、絶命した後だいたい5分くらいで塵となって消えた。こう、黄砂みたいにブァサーって。

 そして、消えた場所には赤色の綺麗な石ころみたいなのが転がってた。

 

 瀬川の無事を確認した彼は、次にゴブリンの死骸があった場所に転がった石を拾い上げた。

「魔物が倒れたところには絶対これがある。撮影班、これが何か分かるだろうか?」

「私を何でも屋みたいに聞かないでくださいよ……」

 先輩も”撮影班”扱いしてきたのは内心不服だが、これに関してはアカウント名を開示していない私が悪いのもある。本名は配信中で言えないし。

 そして、肝心の石ころについてだけど……”画面共有”という前例もあるし、何かスキル生えてこないかな?こう、大きく変化するわけじゃ無いけどちょっと助かる系の。

 そう心の中で願っていると、スキルは期待に応えてくれた。


 [information]

 ドローンスキル:名称認識 を獲得しました。


 来たぁ!なんかちょっと助かる系スキルぽい名前だ!

「あっ、もしかしたら行けるかもしれません。あー……その、先輩。先に私達の”画面”を共有しますね」

「画面?」

 私の発した言葉の意味が分からないのだろう。先輩は興味深そうに顎に手を当てた。

「”画面共有”っ」

「なっ……!?」

 さすがに、目の前に生み出されたホログラムで構成されたシステム画面には驚いたようだ。飄々としていた表情は崩れ、驚きに目を見開く。

 けど一々リアクションなんて待っていられない。

 私は続いて瀬川に行動を促した。

「残機ゼロ、石ころをこっちに見せて」

「あ?あー、これで良いのか?」

 すると、瀬川は赤色の綺麗な石ころをこっちへと向けてきた。彼の指先で摘まめるほどのサイズだ。

 私はドローンの身体を動かし、画面中央に表示されたレティクルにその石ころを合わせる。

「おっけー。じゃ、行くね?”名称認識”!」

 私がスキル名を再び宣言すると同時に、レティクルに合わせられた石ころが薄緑色に光る。

 点滅しながら煌めく文字列にはこう記されていた。


 ”魔石(極小)”


「……なるほど」

 先輩は興味深そうに表示されたシステムメッセージを見て頷いた。

 ちなみに”画面共有”で見れるのはあくまで体力ゲージとか、コメント欄とか、UIの類だけみたい。私が見てる視界までは共有できてないみたい。それでもコメント全部読み上げるとかは無理だから、そこは助かる。

 瀬川も表示されたメッセージに興味津々と言った様子だ。

「へぇ、これ魔石っていうのか。ますますゲームみたいだな……ということは何か使い道があるんだろうな」

「……おい、残機ゼロ。他に気付くことは無いか?」

「え?これが魔石、ということ以外にっすか?」

 一体、この先輩は何に気付いたというのだろう。

 表示される文字列は「魔石(極小)」ということくらいしか……。

 ……その時、瀬川は気づいたようだ。

 

「そっか、サイズ表示があるのか!」

 わっ、急に叫ばないでよっ。

 咎める姿勢に入ったが、瀬川が発した言葉を飲み込んだ瞬間納得した。

 なるほど……”極小”か。

 先輩としても求めていた回答だったのだろう。「そうだ」と満足げに頷いた。

「レベルの概念があり、役職の概念があり、魔石にはサイズが定められている。恐らく”大”まで存在するだろうな……明らかに何らかのシステムが構築されている……そう考えるべきではないか?」

「システム……確かに」

 そう言って、次に彼らは同時に私を見た。

 ドローンの姿として存在する私を。

「撮影班になってるこいつの存在とか、完全に配信を補助する役割を振られていますよね。明らかに特別扱いだ」

「憶測の域を出ないがな……」

 そこで先輩は言葉を切り、真剣な表情で私達を改めて見据えた。

「なあ。俺を、お前らの配信に参加させてもらえないだろうか?こっちとしても情報が欲しい」

「え、俺が先輩のメンバーに、じゃなくてですか?」

 先輩の提案に、瀬川は驚いた様子で目を見開いた。だが、先輩は至って真剣な表情を崩さない。

「俺はリーダーという柄じゃないんだ。むしろそういう役は、残機ゼロ……お前の方が向いてる」

「部長やってたじゃないですか」

「過去の話だ」

 話の断片から読み取れるのは、恐らく先輩と瀬川は同じ部活だったということだ。そして、先輩は部長として周りを引っ張っていたのだろう。

 勝手に彼らの関係性を想像していると、眼前に一つのシステムメッセージが表示された。


 [information]

 配信メンバー参加希望者がいます。

 ▶受け入れる

  拒否する


 なるほど、配信を受け入れるかどうかの権限は私に委ねられているのか。

 当然受け入れるつもりだが、念のためにとコメント欄に視線を送る。

[胡散臭い]

[こいつ一人で行動出来るのでは?]

[気を付けろ、イケメンは裏切る]

[↑草]

[すまんクソワロタ]


「ぶっ」

 あっごめん笑っちゃった。イケメンは裏切るってコメントは予想してなかった。

 男二人が恨めしげにこっち見てる。

「おいお前、先輩を馬鹿にしただろ。一匹狼だけど内心構って欲しそうに周り見てるだけなんだ、別に裏切ろうなんてそんな魂胆持ち合わせるほどじゃねえ!」

 すると、瀬川が爆弾発言を仕掛けた。

「あっ、おい」

 先輩が慌てて瀬川の口を塞ごうとする。引きつった笑みで、擁護と言う名の追い打ちをかける瀬川を止めようとした。

 だが止まらない!

「中学の頃の先輩を尊敬してたから知ってるんだ。部活で足引っ張りたくないからって皆が帰った後に一人で必死に自主トレーニングしてたこととか、隠れてこっそり猛勉強してたりとか、すげーんだぞ先輩は」

「やめろ馬鹿、というか何で知ってる、おい!」

「そんな先輩が裏切ろうなんて卑怯な手口使うもんかよ!裏切ったら皆から見限られるだろ?”離れていくのが怖いから誰にも近づきたくないんだ”とか呟いてた先輩がこうして俺達に近づいてくれただけでも進歩なんだぞ」

「お前、マジでその口閉ざせ!な!?」

 ついに先輩は頭を抱えて蹲ってしまった。可哀想。

 瀬川の気迫に押され、コメント欄も[お、おう]とかドン引きしてる。

 一応、先輩の信頼は得ることが出来たようだ。失ったものの方が多い気がするけど。


 ……ただ、いつまで経っても「先輩」呼ばわりはどうにも扱いづらい。

「あー……その、先輩。落ち込んでるとこごめんなさい。配信中はどう呼んだらいいですか」

 正直、本名も気になる。だけど、配信中は撮影班としての役割がある私には知ることが出来ない。

 マイクが名前を拾ってしまうだろうし、文字で書いてもカメラが名前を認識してしまう。本名バレを気にしなければいい話だけど……ネットリテラシーについては瀬川が一番注意しているようだ。結構君も本名言ってるけどね?

 落ち込んでいた先輩だったが、やがてゆっくりと立ち上がった。

「……まあ、これが自己紹介として一番手っ取り早いだろう。これで良いのか?”ステータス・オープン”」

 瀬川の時と同様に先輩もそう宣言した。ちなみに声に覇気は無かった。

 すると、私達の画面内に先輩のステータス画面が表示される。


【noise】

 役職:大剣士

 Lv:5

 HP 84/84

 SCB:skill

 青:解放条件達成済

 緑:Not unlocked

 黄:Not unlocked

 赤:Not unlocked


「……解放条件達成済?」

 正直、彼の配信名さえ分かれば良かったのだけど……まさかの想定外の情報が得られた。

 正体不明のスキルである”SCB”の解放条件を満たしていたのだ。

 つまり、条件が揃えば発生可能ということ。

 そして、件の配信者——noiseも、表示されたステータス画面を興味津々に見つめていた。

「このSCBとは何だ?どうすればスキル?を使えるんだ」

「むしろ私が知りたいです」


 To Be Continued……

瀬川君の存在が色々と喰われてしまった気がする

ごめんね、ちょっとだけ辛抱してね

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