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【第3話】配信

[登場人物]

・秋城 紺

・瀬川 怜輝

「ん、待って。”残機ゼロ”のアカウントで配信……ってことは。瀬川君、配信できるアカウント持ってるの?」

 表示されたシステムメッセージから読み取れる事実を確認する為、私は瀬川にそう問いを投げかけた。

 もはや完全にごまかす手段を失ったと言わんばかりに、瀬川は観念したように諸手を挙げる。

「あー……駄目だ、隠せねえな。そうだよ、よく”残機ゼロ”ってアカウント名でゲーム配信やってる」

「あっ、そうなんだ。私も皆でワイワイしてるゲーム配信なら見たことあるよ」

 さすがにゲーム配信、という概念は知っている。

 好きな動画投稿者が時々流行のゲームをプレイしながら談笑しているのを見たことがあったからだ。瀬川もそう言うタイプだとは思わなかったが……。

 すると、どこかでスイッチが入ったのだろうか?瀬川は途端に真剣な表情を作って熱弁を始めた。

「俺からすればゲーム配信はもっと真剣にやるべきなんだ。全力の技術と知識の集大成を以て、100%……いや、200%の実力を出してぶつかり合う。そんな血で血を洗うような配信であるべきだろ」

「うん?急にどうしたの瀬川君」

「ただ流行っているからやる、だけなんて生温い。フレーム単位で競い合う高度なゲーム技術を見せつける場なんだ、ゲーム配信を馬鹿にするなよ」

「いや馬鹿にしてないけど……」

 先ほどまでは私に話を合わせてくれていたというのに、配信のこととなると別のようだ。

 彼の両目にはもはや炎が(たぎ)っているようにも見える。

 しかし、自分の世界に没頭している自覚はあったのだろう。私が沈黙していることに気付いた瀬川は苦笑を漏らした。

「悪い、自分の世界に没頭してた」

「あー、うん。別に気にしてないけど……で、どうするの?配信する?」

 このままではいつまで経っても話が進まないと判断し、そう促してみることにした。

 すると彼は「ネットリテラシーが……」と唸っていたが、しばらくして強く頷いた。

「まあこのタイミングで出るってことは意味があるんだよな。やってみるか」

 思いのほか理性的な返答が得られたことに内心驚きつつも、私は画面へと意識を向けて宣言した。

「えっと、配信……しますっ」

 

 すると”画面共有”を使っていないにもかかわらず、瀬川の眼前にも先ほどと同様に配信画面が構築されていく。

 ホログラム……だろうか。駆け巡る無数の光が生み出す文字列は、規則性を以て私達を配信の世界へと導く。

 画面中央には十字の形を作ったレティクルが。

 画面左下には”残機ゼロ”と書かれた配信者名と、25/25と書かれたHPゲージが。

 画面中央上部には配信中であることを示す”Live”の文字列が。


 そして、画面右下には”COMMENT”と書かれたフレームと、時間ごとに意味を持った文字列が刻まれていく。

[残機ゼロさんもいるんだ]

[色んな配信者いるよな]

[ニュースから来た]

[大丈夫か?]

[すでに何人かアカウント停止したらしいぞ]

 だが”残機ゼロ”の配信を知らない私は、コメント欄に書かれた言葉の意味を理解できない。

 しかしそれに対してさすが配信者。瀬川 怜輝は私(恐らくカメラだと認識しているのだろう)の方に視線を送りながら、気持ち悪いくらいの笑顔を作った。

「はいどうも視聴者の皆さん、こんにちは。残機ゼロです!今日は特別に顔出し配信を行っていこうと思います」

(……誰?)

 思わずそうツッコまずにはいられなかった。口に出さなかっただけ偉いと自画自賛したい。

 だが視聴者の関心はそこになかった。

[いやお前ら配信者が何の前触れもなく消えたってこっちで話題になってるんだよ]

[俺の同僚もいきなり居なくなった。配信者やってたらしいから、残機ゼロさんと似たような状況かも]

「……は?おい、どういうことだ?」

 先刻までの営業スマイルはどこへやら。怪訝な顔色を浮かべて眉をひそめた瀬川は、コメント欄を睨む。

 すると時間を置いてからコメントが入力されていく。

[ちょっとまとめ記事から引用するぞ。20××年10月15日、17時ごろ。全国各地において年齢、男女問わずに忽然と消息を絶ったという報告が上がっている。共通点はいずれも配信者であるということ。配信者は廃墟のような場所へと転送されたという。警視庁は行方不明者の捜索・ならびに保護を急いでいる。]

[つか警察でも隠れて配信者やってるやつ多かったから捜索進んでないらしいな]

[こっちだって仕事回ってねえよ。正直やばい]

「……マジか」

 どうやら、想像以上に外の世界は大変なことになっているようだ。

 ()()()()()は、皆揃ってこの崩壊した世界へ転送された……概ね、そう言ったところだろう。

 どうやらとんでもない状況に巻き込まれたというのは理解できた。

 しばらくコメント欄に目を通していた瀬川だったが、思い立ったようにカメラ……というよりも私に話しかけた。

「なあ、秋——いや、撮影班。コメント見たか?()()()は皆この世界に転送された、らしいぞ。配信者は」

「……あ」

 気付かずにスルーしてくれるのを期待していたが、残念ながら瀬川は勘が鋭いようだ。

 ご丁寧に”配信者”という単語を強調していた。

 ちなみに私が声を出したことに対し、コメント欄からは[彼女か?]などとあらぬ噂を立てられていた。なんでやねん。

「お前も配信者だったのかよ。俺ばっか割食ってねえか?」

「べ、別に良いでしょ。隠したって」

「また後でアカウント教えろよ。不公平だ」

「……気が向いたらね。というか視聴者をあんまり置き去りにする会話はやめようよ」

 はぐらかすように私はそう配信へと意識を戻させる。苦し紛れの誤魔化し方だったが、瀬川は「そうだった」とハッとしたようだ。

 何はともあれ、まずは情報が欲しい。

「話を置き去りにして悪かった。他の配信者は一体どういう状況になっているんだ?」

[俺さ。この配信の前にアカウント停止したやつの配信見たんだよ]

 すると、瀬川の問いかけに答えるように更新されるコメント欄。私達の意識はそのコメントに向けられた。

 しばらく待っていると、同一人物と思われるコメントが更新される。

[魔物?に殺されて、HPが消滅して、そのままブッツン。で、このアカウントは非公開ですって表示になって見れなくなった]

「……は?なんだよそれ。冗談だよな?」

 瀬川の表情が、怯えにも似たものへと変化していく。

 私だってそうだ。ドローンの肉体となってこそいるが、まるで全身の血の気が引いていくような、眩暈に襲われたような気分だ。

 

 魔物に?殺されて?

 アカウント停止?

 意味わかんないことばっか言わないでよ。


[冗談だって思うなら一回魔物に殺されてみたらいいと思う。少なくとも、俺が見た配信者に救いは無かったよ。お前はそうならないよな?]

「……はは、は……」

 まるで、全身に掛かる重力が強くなったような気分だ。瀬川はバランスを維持することが出来ずふらつくが、すんでのところで踏みとどまった。

 やがて瀬川は震えた声音でぽつりと呟く。

「……”ステータス・オープン”……」

 どうやら、配信中は”画面共有”は不必要らしい。私と瀬川で共有した配信画面に”残機ゼロ”のパラメータが再び表示される。


 【残機ゼロ】

 役職:なし

 Lv:1

 HP 25/25

 SCB:skill

 青:Not unlocked

 緑:Not unlocked

 黄:Not unlocked

 赤:Not unlocked


「……HP25、か」

 茫然自失といった表情で瀬川はぽつりと呟いた。

 

 残機ゼロ。

 何気なく付けたであろうそのユーザーネームが、今はとても重苦しく感じた。


 To Be Continued……

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