【第12話】世界線
登場人物
・秋城 紺:撮影班。ドローンの身体を持つ。
・瀬川 怜輝:純粋な感性を持つ配信者。”セイレイ”に改名。
・noise:瀬川の先輩である謎のイケメン。
【セイレイ】
役職:勇者
Lv:5
HP 67/67
SCB:skill
青:五秒間跳躍力倍加
緑:Not unlocked
黄:Not unlocked
赤:Not unlocked
【勇者:役職補正】
ATK、SPD+5
経験値に20%の加算ボーナス付与。
配信参加メンバー全員に10%の移動速度上昇を付与。
ATK:16+5(27)
DEF:15
SPD:36+5
DEX:11
LUK:14
【noise】
役職:大剣士
Lv:7
HP 108/108
SCB:skill
青:大防御
緑:Not unlocked
黄:Not unlocked
赤:Not unlocked
【大剣士:役職補正】
ATK、DEF+5
斬撃付与ダメージに10%の加算ボーナス付与。
大剣装備要求レベル-5のボーナスを付与。
ATK:24+5(51)
DEF:24+5
SPD:15
DEX:12
LUK:9
セイレイはATK、SPDが上昇。
noiseはATK、DEF、LUKが上昇。
遂にnoiseの体力が3桁の大台を超えた。より一層、セイレイとnoiseの戦闘スタイルに明確な差が出てきた気がする。
ゴブリンの亡骸はやはり時間経過と共に灰燼と化していた。そして、案の定肉体とトレードする形で魔石がその場に現れる。
だが、どういう訳だろうか。魔石のサイズがやや大きい気がする。”極小”がセイレイの指先で摘まめるくらいだったのに対し、今回の魔石は線路に転がってた石くらいの大きさはある。バラストね、バラスト。
「ちょっとこっちに向けて」
私は魔石を持つセイレイにそう言葉を掛けた。彼は一瞬不審げに眉をひそめていたが「ほらよ」と私の方へと魔石を向けてくれた。
「”詳細説明”」
もはやスキルの宣言も慣れたものだ。私は配信画面に重なって表示されたレティクルを合わせ、魔石の鑑定を行う。
すると魔石の輪郭をなぞるように黄緑色の光が描画され、ご丁寧にフレームが作られる。”名称認識”から成長したことによって、魔石の説明もしてくれるようだ。
表示された文字列はこうだ。
【魔石(小)】
大気中に漂う魔素が凝縮、結晶化したものである。魔物の生命活動を助ける心臓としての役割を持つ。
アイテム購入の対価としても使用可能。
また、魔石(極小)×5へと変換することも出来る。
「また知らない単語が出てきた……」
アイテム購入って何……?
セイレイとnoiseに助けを求めるように、じっと二人の方を見てみる(カメラを合わせただけ)。でも私が分からなかったら二人も分からないよね。
「これが資金になるってことか?何が買えるんだろうな」
セイレイは不思議そうにあらゆる角度から魔石を眺めていた。だけどどんな角度から見ても魔石は何に変化することもなく、きらりと蛍光灯の光に反射するのみ。
「ポーチを見つけてきた。ひとまず手に入れた魔石はここに収納するぞ」
noiseはエレベーター付近に配置されたベンチの上から、腰に巻くタイプの黒色のポーチを拾い上げた。その中に今まで手に入れた魔石を押し込んでいく。
ひとまず魔石を収納したところで——……
……今、私は何に気付いた?
それは、当たり前だと思っていたことだった。
「……ねえ、私達……なんで、お互いの姿を認識できているの?」
「どういうことだよ?」
セイレイは私の問いに眉を顰める。
確かに、今のは言葉不足だったようだ。質問の意図が理解できるよう、改めて質問を投げかける。
「意識から抜けてたけど……天井を見てよ。蛍光灯に電気が付いてる。地下のレストラン街だって、私達は普通に姿を見ることが出来た」
「……確かに、言われてみれば。でもそれはここを管理してる人が居るってことじゃあ……」
「魔物しかいないのに?」
「……」
「”電気が付いていること”が普通だったから気にも留めなかった。けど、この施設……ううん。この世界は明らかにおかしいよ。まるで配信の為にお膳立てされてるみたい」
魔物に追われて、それどころじゃなかったから気付かなかった。
だけど、私はセイレイもnoiseも姿を認識できている。その当たり前が、改めて考えればおかしな話だ。
「蛍光灯が付く」という前提で成り立つショッピングモールだ。
人の子ひとりいない世界では真っ暗闇でもおかしくないはずなのに。
「別にわからないまま終わるのなら、それでもいい。俺は早くここから抜け出したい」
noiseは淡々と、そう話に割って入った。
ちらりと彼に視線を向けると、noiseは周囲の光景を見渡しながら言葉を続ける。どこを見渡しても、魔物を遠ざけるべく強引にマネキンなどを積み重ねたバリケードが作り上げられていた。
「俺達の目的は”ここの謎を知る”ではないだろう?”ダンジョン化した施設から抜け出す”。これが俺達の最終目標だ」
「う、まあ、それはそうなんです……けど」
頭の中に溜まったモヤを解消したい気持ちもあった為、心からその言葉に賛成することは出来なかった。
言葉の上ではnoiseの言葉に同意しつつも、後ろ髪を引かれるような思いは消えない。
そんな本心を見透かされたのだろう。noiseは困ったような笑みを浮かべる。
「優先度を間違えるなよ?好奇心は猫をも殺す、だ」
「……うぅ。それもそうですね」
「早くあいつらのところへ生きて帰りたいからな……ところで」
話は終わりだ、と告げるようにnoiseは明後日の方を向いた。
その視線の先は、婦人服売り場のレジだ。
——正確には、レジ前に不自然に配置された玉座を。
玉座の上には、七色に輝く宝玉が飾られていた。
「あれはなんだ?明らかにこの世界のものではないだろう」
「ん、なんですかあれ……胡散臭い占い師が使ってる水晶玉みたいな」
「もう少し良い例えがあっただろう……ゴブリン共は、これを守っていたのだろうか」
noiseは物思いに耽るように顎に手を当てた。
だがしばらくしてから、自分の発言を思い返したのだろう。ばつが悪そうに視線を逸らした。
「……いや、申し訳ない。好奇心がどうの、と言ったところだったが……」
「noiseさんって結構面倒な性格ですね」
「……よく言われる」
話せば話すほどボロが出るイケメンのことはさておき、私としてもこれに意味がないとは思えなかった。
どちらにせよ、視聴者の好奇心を解消する為にも必要なはずだ。
配信画面に重なって表示されたレティクルの十字を合わせ、私は再びスキルを宣言する。
「じゃあ、もう一度使いますね。”詳細説明”!」
”鑑定”とかに変えて欲しいなあ、という本音を心の片隅に寄せておく。
その間にも、宝玉をなぞるように輪郭が光を描き、解説欄が構築された。
【世界線の欠片】
”存在した世界線”を映し出す結晶体。
これに触れることによって、並行世界の配信者達をホログラムとして描画する。
その表示されたメッセージは、想像をはるかに上回る代物だった。
「……平行世界?」
脳裏を、何かが過ぎる。
『——セイレイ君っ!無茶はしないでっ』
『無茶しないで乗り越えられるもんかよ!スパチャブースト”青”っ!!』
今の私達ではない、記憶の断片だ。
『もう誰も苦しませるものか!もう誰も悲しませるものか!俺はっ、勇者として——世界を救うっ!』
この記憶は、一体……誰のもの?
To Be Continued……