第7話_一週間チャレンジ宣言(01)
四月二十五日、水曜日の朝。
灯凪高校の朝礼放送が始まる直前、生徒たちはいつもよりざわついていた。
教室のテレビ画面には、〈本日特別放送あり〉という表示が出ていたからだ。普段なら天気予報や連絡事項だけが流れる時間帯。だが、この日ばかりは、何かが起きる“予感”が校内を駆け抜けていた。
「……本当に、やるんだな」
翔斗が、放送室の前で深呼吸していた。手にはメモと、模型の完成写真が印刷されたカラー資料。背後には結香、恵里、颯斗、葵、アリヤ、トロイ。全員、少し緊張した面持ちだ。
「スクリプト、間違えないで読めるか不安……」
「読まなくていいよ」
結香の声は、きっぱりしていた。
「翔斗の“言葉”で伝えて。それがいちばん強いから」
「……うん」
放送部員がカウントダウンの指を出す。
3、2、1――
チャイムが鳴ると同時に、朝の校内放送が始まった。
「おはようございます。二年の城ヶ崎葵です」
まず、冷静な声がスピーカーを通じて響いた。
「今日は、皆さんにある“挑戦”について、お伝えします」
続いて、翔斗がマイクの前に立った。額には少し汗がにじんでいたが、その目は真っ直ぐだった。
「突然ですが、僕たちは今、“あるステージ”を作ろうとしています」
ざわ……と、職員室のテレビ前でもざわつきが起きる。
「その名も――『潮風デッキ復活計画』」
結香がスイッチを押し、模型の写真が全校に配信される。舞台、観客席、照明タワー――すべて手作業で作った“未来のミニチュア”が映し出された。
「この島に昔あった、海上ステージ。灯凪サンセットフェスの会場だったその場所を、もう一度“光と音の場所”として蘇らせたいんです」
マイクの前で翔斗が息を整え、続けた。
「ですが、僕たちはまだ、“計画中の有志”にすぎません。許可も支援も、何も正式には得ていません。だから……皆さんに“証明”したい」
彼は大きく一歩踏み出した。
「今日から一週間以内に、このステージの“最終模型”を完成させ、校内で公開プレゼンを行います!」
教室中にどよめきが走る。ざわざわと椅子が動く音。先生たちの間でも「模型って……?」「プレゼンって何を?」とささやき声が飛び交っていた。
「僕たちは、七人です。でも、この島のために動きたい気持ちは、きっともっと多い。だから、見てほしいんです。僕たちが“どうやって舞台をつくるのか”」
翔斗の声が、少しだけ震えていた。でも、それがかえって言葉に力を宿していた。
「完成予定は五月二日。朝の公開展示と、昼の発表会を予定しています。場所は体育館ステージ。もし時間がある人は、見に来てください」
そして、最後の一言。
「“ステージは、誰か一人のものじゃない”。それを、模型で伝えます」
放送が終わると同時に、静寂が戻った。
数秒後、あちこちの教室で拍手や歓声、そして一部の生徒たちからの爆笑が混ざった反応が起こった。
「やば、あの二年生たちマジかよ!」
「模型ってガチでやんの?」
「面白そう……」「無理じゃね?」
けれどそのどれもが、すでに“無関心”ではなかった。
(02につづく)