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第4話_壊れた図面と万能ノート(02)

 スキャンを終えると、恵里はスケッチブックを広げて鉛筆を走らせた。翔斗はその手元を覗き込んで驚いた。

  「え、これ……模写してるの?」

  「ううん、“再現”してるの」

  「再現って、コピーじゃなくて?」

  「足りない情報を補って、“近い形に直す”の。模写は見たものをそのまま描くけど、再現は“見えてない部分”も入れる」

  結香が目を見開いた。

  「……それ、舞台そのものじゃない?」

  「え?」翔斗が振り返る。

  「だって、今の私たちの計画って“失われた舞台を、あるべき姿に再現する”ってことだよね。資料も、技術も、記憶もつなぎ合わせて」

  「確かに……」翔斗がつぶやく。「舞台そのものの“再現作業”なんだ」

  恵里は、鉛筆を止めずに続けた。

  「私、こういうことしてるときが一番落ち着くの。自分の“存在意義”を感じられるから」

  「存在意義……」

  翔斗が口の中で反芻したその言葉に、どこか自分自身の輪郭が揺らいだような気がした。

  誰かの言葉を繰り返すことで、自分が何かに触れている感覚。それが“他人とつながる”ってことなのかもしれない。

  ふと、恵里が手を止めて言った。

  「ところで、この舞台って、構造的に無理がある」

  「え?」

  「潮風デッキって、設計上は四十年前の基準で作られてる。今の安全基準じゃ、多分通らない。補修しても、舞台上に何十人も乗せるのは無理」

  「じゃあ……ダメなの?」翔斗が身を乗り出す。

  「そうじゃない。“乗せ方”を変えればいい」

  「乗せ方?」

  「ステージの面積を広く取らず、“点”で支える構造にすればいい。軽量化すれば、載せられる人数は限られるけど、演出に集中できる」

  結香が目を輝かせた。

  「つまり、物理的制限を逆手に取って、“小さくて強いステージ”にできるってこと?」

  「そう。“安全性”は縛りじゃなく、設計の出発点になる」

  翔斗が両手を叩いた。

  「それ、言い回し天才すぎる」

  「べつに天才じゃない。ただ、“当たり前”を言ってるだけ」

  それでも、彼女のノートに描かれた図面はすでに“未来”を示していた。線と線の間に流れる思考、寸法と寸法のあいだに込められた“安全と創造”。

  翔斗はそのスケッチをじっと見つめながら、少しずつ自分の中で変化が起きているのを感じていた。

  “誰かに褒められるため”ではなく、“何かを実現するため”に動いている人間の姿――それは、たしかに眩しかった。

  「これで、ベースの構造が形になれば……次は?」

  結香が言った。

  「音響と照明の計画、かな」

  「それって、……あの人しかいないね」翔斗が言った。

  「うん。次は――葵の出番」

  恵里のスケッチブックの余白には、小さく“Rebuild ver.1.0”と書かれていた。

 (03につづく)

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