私の婚約者が浮気?いいのよ、だってあの人、もう死んでいるもの
免責事項
・R15推奨作品
・ヒロインはちょっぴり悪い子
・カカオ99%でもチョコよ理論
・作中の仕掛けには先達の叡智を拝借
〜デット〜
「本当に愛しているのは君だけだよ」
夜の帷が降りている。
とある子爵令嬢の自室には一組の男女がいた。
「ロマンサとの結婚は、大貴族の家名を手にするためだけに決めたものだ。」
令嬢に向かってそう囁く男の名前はデット。
「大丈夫さ、ウチの方が資金援助をしているんだから。家名と金、双方の利益で繋がった白い結婚だけでも、あのきみの悪い、いき遅れ女には勿体無いくらいさ。」
彼は婚約中の身でありながら、度々浮気を繰り返していた。
「だから今度、毒殺するんだ。勿論バレないようにやるさ。それから兄貴の方も始末したら、ネイク家は完全に僕の者だ。」
そして正真正銘のドクズだった。
「彼女が死んだら結婚しよう。その前祝いに、今日はコイツで乾杯だ」
デットは持ってきた高級なワインを二人分、杯に注ぐ。
先に口をつけたのは彼の方だった。そしてーー
◇
〜ロマンサ〜
「はぁ…」
思わずため息がでてしまった。
幸せが逃げてしまうと言うけれど、不幸せも逃げてくれないかしら。なんて詮無きことを考えてしまう……心が弱っている証拠ね。
「おいたわしや、ロマンサ様。倫理観皆無のデットの事でお悩みなんですね。」
「いや、違うけど……というか居たのねアリス」
「付き合い長いそば付き侍女ですからね!」
どこからともなくさっと現れ、婿入りの分際であの成金ドクズめがと、ぷんぷん怒った表情をするアリス。
義憤にかられたと書かれた顔で「浮気なんて倫理的にゆるされませんよ」なんて言う彼女に、こちらはつい苦笑してしまう。そうよね、貴女は昔から、そういう性分だったわよね。
でもデットが私を避けるのも、まあ仕方ないのかも。
私も逆の立場だったら、私とはあまりお近づきになりたいとは思わないだろうし。
「だいたい皆、ロマンサ様の事を軽視しすぎてなんですよ!人魔大戦終結に貢献した八大英雄が一角の末裔だと言うのに。この国の倫理はどうなっているんだか……」
「まあ、死霊術師は英雄物語でも不人気だしねぇ。てゆうか貴女、よく倫理的にとか言う割に、死者の大軍勢で戦うのはNGじゃないのよねぇ」
「戦闘術の一環ですからね。アリよりのアリです!というか、死霊術をきみ悪がる人達は、ネイク家のご先祖様が一万のアンデットを操って戦って下さらなければどれだけ犠牲が増えていたか理解していないんですよ」
まあ、それは一理あるかもね。
愛しのお兄様もそれが原因で父から引き継いだ諸々がうまくいかず資金難に陥り、私が成金婚約者に支援してもらわないといけない事態になっちゃったわけだし。
お兄様ったら死霊術の資質なんて全くないのに、周囲からとっても怖がられちゃって……おいたわしや
「あんなモラハラ浮気野郎、さっさと婚約破棄してしまいましょうよ!」
「いやー、資金援助のしがらみとか色々あるし、それはちょっとねぇ。」
それに、悩んでいるのはそんな事じゃないし。
私がそう呟くと、アリスは怪訝な顔をした。
「え、婚約者の不貞疑いよりも重大な悩みとかあるんですか?それ、1人で抱えるには重すぎません?ちょっと私に話してみませんか、少なくとも、お部屋に沢山ある人形よりは私に言った方がスッキリしますよ。」
職業倫理に溢れる私は、ロマンサ様の不利益なることは絶対に他言しませんし。
そう言われ、それもそうかと思った私はアリスに少々重い独白を聞いてもらうことにした。
そうね、どこから話したものかしら……
「まずね、デットの浮気については、本当に何とも思っていないの。だって彼、もう死んでいるんだもの。」
◇
〜アリス〜
「だから……死者に怒っても仕方ないでしょう」
いつもおっとりしたロマンサの口から出たとは思えない物騒な言葉に、アリスは目を見開く。
「えっ……それってどういう……」
「ほら、我が家って代々死霊術師の家系じゃない。実は大昔にご先祖様が調伏したチャーマーズって大悪霊がいてね、その子を最も素質ある子孫が代々、秘密裏に引き継いでいるのよ。」
今代は私。悪霊の引き継ぎなんて、加護か呪いかわからないけどね。とロマンサは言う。
「で、その大悪霊の力って言うのは『哲学的ゾンビ』を最大で三体まで使役できる能力なのね」
「哲学的…ゾンビ…」
ロマンサは説明を続ける。
『哲学的ゾンビ』は通常のアンデットのような『一目見れば死者とわかるそれ』とは全く違うものである。
それは、簡単に言えば魂だけがない人間のこと。
魂はないけれど、魂がある時と同じ記憶を持ち、経験も蓄積され、命令がない限りは基本的に生前の人間とまったく同じ言動をする。
心臓だって動いているし、食事だって摂る。
傷は治るし、生者と交われば子供を作る事すらできる。
よって傍から見ている分には、魂の有無は決して判別できない。
「そんな……そんな、事って……」
言いながら、アリスの背中を冷たいものが流れる。
身体が震えている。
だって、死体を操れるなんて。
生きているようにしか見えなくできるなんて。
「それはつまり、殺人を犯しても絶対に……って、こと……?」
よく出来ました、とでも言うふうに、にっこり微笑むロマンサ。アリスの震えはとまらない。
それはそうだろう。
死体が以前と変わらず動くというのなら、殺人を起こそうと、事件にすらならないのだから。
つまり、そう言うことだ。
ロマンサはデットを殺めたのだ。
そして哲学的ゾンビとして操っている。
その上で平然と暮らしていた。
いつからだ?いつから入れ替わっていた?
恐ろしい……
しかし、もっと恐ろしいのは……
「じ、じゃあ、デットが以前と変わらない行動を続けているのは……」
先程、ロマンサは言った。
『命令がない限りは、基本的に生前の人間とまったく同じ言動をする。』
それは即ち、『命令すれば生前の人間と違う行動を取らせることも出来る』と言うこと。
社交界で『婚約者に浮気されている女』と言う謗りを受けてまで、『デットだったもの』にやらせることは何なのか?
「まさか……」
例えばの話。
ある人物を先んじて殺しておき、その死体を操って刺客とすれば、どんな相手だって殺す事が可能となる。
遺書だって、自分に都合の良いように書かせられる。
「日記にね、書かせているの『俺は脅されて仕方なく浮気相手の言う事を聞いていた。本日、関係を全て清算するつもりだけど、自分に何かあれば財産は愛するロマンサに全て譲渡する。』ってね……で、それも今夜終わるわ。デットの遺産と、婚約者を殺された賠償金と、私をコケにした女への復讐、一石三鳥ね」
恐ろしい。
恐ろしすぎる。
こんなに恐ろしい力はない。
しかし、それでもまだ恐怖は終わらない。
そう、アリスの立場に立った時、最大の恐怖は……
「あの、もしかしてあと2体……そのゾンビを使役していらっしゃるんですか……それが、悩みの理由?」
それは近しい誰かが、いつの間にか、知らない間に、ロマンサの操る死体にすり替わっているかもしれないという事実!
「実は、そうなのよ。やむを得ない事情があって最近また一体増えてしまったの。おかげで貴重な『枠』が無くなってしまったわ」
まあ、もうすぐまたひと枠空くのだけれど。
おっとりと紡がれた回答を聞いて、アリスは絶望的な表情を浮かべた。
その理由は主人への失望か、はたまた恐怖か。
その様子に苦笑を浮かべてロマンサは言った。
「勿論その2体が誰かまでは、流石に貴女にもナイショだけれど……ああ、いま話したことは、くれぐれも他言無用にしてね。これはお願いではなくて命令よ。」
◇
〜再び、ロマンサ〜
私は、震える足取りで退室するアリスを見届けてから思う。
やはり、アリスは察しがいいわねぇ。
あの一族は皆、実に察しがいい。打てば響くというか……我が家に代々使えてくれて本当ありがたい。
ちなみに、アリスには言わなかったけれど残り2体のうちの一体は、兄さんの妻だ。
私はあの女を「哲学的ゾンビ」にしたの。
だって仕方なかったのよ。
私が本当に愛しているのは、兄さんなの。
だから他の誰とも結婚する気はない。行き遅れなんて、言いたい人は自由に言えばいいんだわ。
それくらい、胸に秘めたこの気持ちは特別で、気軽に口には出来ないほどに兄さんのことを愛してる。
でも、血の繋がった兄妹愛は、禁断の愛。
私は善良だから、我が家の大悪霊について何も知らない優しい兄さんを本当に愛しているから、兄さんには真っ当な人生を歩んで欲しいと、本気で思っているの。
だから涙を飲んで、他の女と結婚する事だって許しちゃう。
でも、ほら、そのままだと嫉妬しちゃうじゃない?
死者なら「怒っても仕方ない」と思えるじゃない?
だから……ね。
大丈夫大丈夫、絶対にバレないし、子供だって作れるわ。その子供は生きているけど、半分は兄さんの血だから、私もきちんと愛せるしね。
そういうわけで、残る最後の一体が今回のため息の原因だったんだけど……枠を消費したこと以上に、あの子には悪い事をしたと胸が痛むわ。
私は善良だからね。
ついうっかり、本当についうっかり、デットの命令を書き換える能力を行使するために、大悪霊を顕在化させたところを、あの子に見られてしまったの。
完全に私のミスね……はぁ……
あの子ならきっと裏切らないとは思ったけれど……ほら、倫理観は人それぞれだし、生者に絶対はないじゃない?ああ、もちろん私が兄さんへ向ける愛は別としてね。
大悪霊の能力は強力だけど無敵ではない。
倫理的にも相当にアウトよね。
だから一子相伝で秘匿しないといけないんだけど、私一人だけで秘密を抱え込むのはけっこうメンタルにくるのよ。能力的にバレるリスクは無いんだけどね。
哲学ゾンビに魂はないけれど、生きている人間と全く同じ言動をする。だから傍から見ている分には、魂の有無は決して判別できないわ。
判別できるとしたらーーそう。
この世界を上位から俯瞰できる神様くらいだもの。
例えるなら小説に対する読者みたいな存在ね。
もし、この世界が小説であったとしたら、生きた人間と哲学的ゾンビの違いも、神様ならきっとお分かりになると思うわ。
魂があるか否か。
生きた人間なのか哲学的ゾンビなのか。
その違いは、小説であればーーーそう、きっと、こんな風に表されるの。
生きた人間の視点は、一人称
哲学的ゾンビの視点は、三人称
だって生きている振りをしているに過ぎない哲学的ゾンビが、生者と同じ視点など持てるはずがないものね。
……なんてね。
詮無い事を考えるのは、まだ心が弱っている証拠かしら。
でも、今日、アリスの前で悩みを口にしてよかった。確かに少しはスッキリしたわ。表情すら変わらない人形相手よりは、ずっとね。
さーて、それじゃあ楽しい妄想でもしましょうか。私が円満に結婚するために、兄さんを除くこの国の全員を哲学的ゾンビにして……
あら?どうしたの大悪霊、珍しいわね、アナタから語りかけてくるなんて。
え?
悪徳がたまったから能力を拡張できるようになった?
またまたー、宿主はこんなに善良な私なのに、そんなはずないじゃない。
ちょっと詳しく教えてくれる?
『婚約破棄』、『ざまぁ』、『悪女』
激戦区、異世界恋愛で埋もれないように上記の人気要素を全部取り入れて、さらに美味しくなるように、『ヤンデレ』、『ブラコン』、『ゾンビ』、『▪️▪️▪️』をトッピングしてみたの!
『▪️▪️▪️』に入るワードが分かったら是非、感想欄に神告してね♡(ヒント:二文字以上が漢字)
っていうのは読者様的にアリなのかナシなのか、ちょっとお試しで書いてみた本作。どう思われたか↓の★~★★★★★の5段階で評価していただけると、励みにも今後の参考にもなります。ご協力頂けますと嬉しいです。
※2日程様子見て低評価多ければ投稿ジャンル変更予定
※苦言も歓迎。ただ私の心が死なない程度で……