表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

先輩〜Sana's Story〜

作者: 稲神蘭

あらすじ


大学に進学しても、高校時代からの後輩・未波との関係は変わらなかった。二人はカフェ巡りをしたり、日常の何気ない会話を交わしたりしながら、穏やかな時間を過ごしていた。


未波は、紗奈にとって特別な存在だった。しかし、彼女には決して言えない秘密があった。どれだけ周りに人がいても、心は満たされることがなく、生きることに疲れを感じていた。それでも、未波の前では明るい先輩を演じ続けた。


そんなある日、未波の部屋を訪れた帰り際、紗奈はスマホを置き忘れてしまう。何気ない出来事のはずだった。しかし、それが二人の関係を大きく揺るがすきっかけになるとは、まだ誰も知らなかった。

【隠された涙】


私は、いつものように微笑みながら未波の部屋を訪れた。カフェ巡りの帰り道、穏やかな音楽が流れる中で、彼女と楽しいひとときを過ごすことが、私にとって唯一の救いだった。大学生活の中で、笑顔を見せることは当たり前で、誰にも弱さを見せたくなかった。だけど、その裏側では、日々心の奥深くで叫ぶような孤独と苦悩が渦巻いていた。


「じゃあ、今日はここまでね。また時間作ってカフェ行こう」


そう言いながら、私は未波に笑顔を振りまき、家を後にした。未波はいつも明るく、私のことを心から心配してくれる存在だ。だけど、彼女には決して伝えられない秘密がある。私は、誰にも見せられないほどの重い気持ちに押しつぶされそうになっていたのだ。



【未波に見せる仮面】


翌日、サークルの部室で未波スマホを貰うと、彼女はにこやかに笑った。私が机の上に忘れたスマホのことは、表向きの会話の中にすっかり溶け込んでいた。私は「ありがとう!」と明るく言ったが、私の胸の中では、どこか罪悪感と虚無感が渦巻いていた。


未波は私に「何か悩んでることがあったら話してほしい」と、優しく問いかけてくれる。だけど、私はただ微笑むだけで、その奥にある深い闇を隠し通した。未波には、私が毎晩一人、部屋の片隅で涙を流しながら「どうしてこんなに生きづらいんだろう」と呟いていることも、決して伝えることはなかった。



【ひとりの夜】


部室で未波と過ごす時間が終わった後、私は自宅に戻る。誰にも気づかれず、静かな部屋の中で、ようやく心の奥底に溜まった感情と向き合う時間が訪れる。玄関を閉めると、ふと部屋の隅に散らばった写真や小物が目に入る。そこには、かつての笑顔の自分、そして未波と過ごした幸せな瞬間が写っている。


しかし、今の私は、どこか遠い存在のように感じる。部屋の明かりを落とし、ただ一人で向き合う暗闇の中で、心の痛みが増幅される。暖かいカフェの雰囲気とは対照的に、この静寂な夜は、私の中の孤独と苦悩をさらけ出す時間だ。


「こんなにも心が重いなんて……」


呟くと同時に、手が震え、スマホのメモ帳に打ち込んだ。

「どうしてこんなに生きづらいんだろう…

誰にも言えない。未波には、絶対に伝えたくない。だけど、もう限界かもしれない…」


その文字を見つめながら、私は涙を堪えることもできず、ただただ静かに泣いた。

未波には、笑顔でいる自分を見せ続けるために、必死で心を抑えていたはずなのに、今この瞬間だけは、すべての仮面を外して、本当の私が崩れ落ちるのを感じた。


時折、外の窓越しに見える月明かりが、私の心の影を映し出すように儚く輝く。こんなにも自分は弱く、孤独なのだろうか。


未波が、私の心の叫びに気づいてくれる日は、果たして来るのだろうか。私は、ただ一人で苦しみ続ける覚悟を、今この瞬間に確認していた。



【偽りの笑顔と本当の心】


次の日、未波との時間はまた始まった。

カフェでの会話、ショッピング、そして久しぶりのゲーム対戦。未波はいつも通り、私のそばにいてくれる。

彼女の無邪気な笑顔や、時折見せる優しい眼差しが、どれだけ私を救ってくれたかは計り知れない。


「紗奈先輩、今日も笑ってて偉いね!」


未波のその一言に、私はぎこちなく微笑み返す。

だけど、内心ではまた夜が近づくたび、あのひとりの闇が襲ってくるのが分かっていた。楽しい時間の後、部室を後にした後に、ふとした瞬間に自分の弱さを思い出す。未波には、決して見せたくないこの苦しみ。


私は、いつも自分の心を守るために、笑顔という仮面を作り上げるしかなかった。

未波との楽しい思い出の数々が、私の心を少しでも温めることがあっても、その温もりは一時的なものに過ぎなかった。夜が訪れるたびに、またあの孤独な戦いが始まるのだ。



【未波に打ち明けられぬ真実】


未波に心を開けない理由は、ただ一つ。私が抱える苦しみは、彼女には到底理解できないほどの重荷であり、彼女の笑顔を奪いたくないからだ。

私がスマホのメモ帳に綴った言葉、あの切実な叫びは、決して未波に見せるものではなかった。


未波は、私の明るい一面を見て、いつも励ましてくれる。彼女の存在があるからこそ、今日も私は笑顔を作ることができる。


でも、その笑顔は、内側で泣き叫ぶ私の仮面に過ぎなかった。

「紗奈先輩、何か悩んでることがあったら、話してほしいです」と彼女が尋ねてきても、私はただ「大丈夫」と答えるだけだった。


未波の優しさが、かえって自分の弱さを隠すための鎧となり、心を閉ざす理由になってしまったのだ。



【孤独との戦い】


夜の部屋に戻ると、私は誰にも邪魔されず、自分の心と向き合う時間に入る。部屋の隅で、ひとりぼっちの机に向かい、スマホのメモ帳を開く。


そこに、今日もまた溜まった心の叫びを打ち込む。


「もう、どうしても耐えられない……」


キーボードを叩く音だけが部屋に響く。未波には、こんな私を見せることは決してできない。


彼女の明るい未来を奪ってしまうかもしれないから。だけど、心の奥底では、毎日のように繰り返される孤独と絶望に、もう耐えきれない自分がいる。


窓の外に広がる夜景は、まるで無数の星が遠くから冷たく輝いているかのようだ。

その輝きを見つめながら、ふと自問する。


「私は、このままでいいのだろうか。未波には、いつか本当の私を見せる勇気が出るのだろうか。」


その答えは、いつも虚無の中にあった。未波の温かさに包まれている間だけは、ほんの少しだけ心が温かくなる。


でも、夜が深まるにつれて、その温もりは次第に消え、冷たい孤独だけが残るのだ。



【最後の選択】


日々、未波との楽しいひとときと、部屋でひとり苦しむ夜。どちらも私にとっては大切な時間だった。


しかし、その両面性に、私は次第に疲弊していった。未波には絶対に伝えられない、私の闇の部分。いつも笑顔でいるために、どれだけの自分を犠牲にしているのか、もう分からなくなっていた。


「もう、限界……」


スマホのメモ帳に書き込む文字は、まるで私の心の叫びそのものだった。

未波に笑顔で接しながらも、夜になると、冷たい壁の前で震える自分がいた。


ある夜、特に暗い夜、ふと我に返ったとき、思った。もしかしたら、これ以上未波に偽りの笑顔を見せることはできないのかもしれない、と。


私が本当に望むのは、誰にも頼らずに静かに消えてしまうことだった。未波に対して、心から「ありがとう」と言えるその日まで、私はどう生き続ければいいのだろうか。


その瞬間、私は自分の決意が揺らぐのを感じた。未波の笑顔を守るために、いつも自分を押し殺してきた日々。


だが、もし私がここで歩みを止めるのなら、未波だけでなく、私自身の未来さえも奪ってしまうのではないか。


「どうして、こんなに苦しいのだろう……」



【未波への想い】


日常の中で、未波と過ごす時間は、私にとって唯一の明かりだった。


未波が笑うたびに、ほんの一瞬だけ、闇の中に光が差すような気がした。

だけど、その光はすぐに闇に飲み込まれてしまう。


「紗奈先輩、今日もありがとう!」と未波が元気よく声をかけてくれるたび、心の奥で私は叫んでいた。


どうして自分はこんなに弱いのか、どうして未波に本当の自分を見せることができないのか、と。


未波には、いつか本当の私を知ってほしいと願いながらも、同時に彼女を守りたい気持ちが勝っていた。

私が抱える闇が、彼女の明るい未来を奪うのではないかという恐れが、いつも心を支配していた。



【そして、私の未来へ】


もう何度も夜を越えてきた。未波の優しさに支えられ、何とか日々を乗り越えてきた私。


しかし、今日の夜、部屋の中でひとり静かに涙を流しながら、ふと思った。


「もし、私がこのまま消えてしまったら……未波は、どれだけ悲しむのかな」


その問いは、決して軽くはなかった。未波には、私のすべてを知ってほしくはなかった。

だからこそ、これまで何度も自分を奮い立たせ、無理やり笑顔を作ってきたのだ。


でも、夜の静寂の中で、心の奥にひそむ声はこう告げる。


「もう、耐えられない……自分のためにも、そして未波のためにも、新しい一歩を踏み出すべきだ」


その瞬間、涙と共に心の中で小さな決意が芽生えた。

未波に素直に本当の私を見せることができる日は、いつか必ず来るはずだ。たとえ今はまだ、その道のりが険しくても、私は前を向いて歩むと誓った。


私の未来は、今まさに新たな一歩を踏み出す直前にあった。未波への感謝、そして自分自身への許し。すべては、これからの道を照らす灯火となるに違いない。


静かな夜の中、窓の外に瞬く星々を見上げながら、私は小さく呟いた。


「未波、ありがとう。そして、ごめんね。」


その言葉は、未波の温かな笑顔へと繋がる未来への約束でもあった。たとえ今、心の奥で苦しみ続けていても、いつか必ず、私たちは本当の意味で向き合える日が来ると信じている。



【終章】


これが、私の隠された真実。未波に笑顔を振りまくその裏側で、日々、苦しみと戦いながらも、前を向こうとする私の姿。

誰にも見せない弱さと、守りたい大切なもののために、私は今も未波の心の中で生き続けている。


もし、未波がいつか本当の私を知る日が来たなら、その時はきっと、互いに理解し合えると信じている。

でもその時は来ない。


たとえ私の心がどれほど傷ついていても、未波の存在は、私にとってかけがえのない希望の光なのだから。

いつもは新しい小説を書いてたけど、今回はやってみたい!っていう気持ちとこの作品が1番好きなのでこういう形式してみました。

展開は同じでも別目線ってだけで全然ちがくて難しかったです。


4/30 修正しました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ