恩人
「…………はぁ」
それから、暫くして。
もうすっかり暗くなった空の下を、溜め息と共に1人歩いていく。この煌びやかな夜に似つかわしくない、暗鬱な溜め息と共に。
そっと、顔を上げ辺りを見渡す。すると、そこにはイルミネーションに負けないくらいの明るい笑顔が溢れんばかりに広がって……うん、なんて素敵な光景。なんて美しいのだろう。そんな素晴らしき世界の中で、私はなんて――
「――あれ、ひょっとして先輩っすか?」
「…………へっ?」
卒爾、後方から届いた声。どこかで――いや、ほぼ毎日のように聞いている馴染みの声。だけど……正直、今は答えたくない。と言うか、この顔を見せたくない。だけど――
「……改めてだけど、今日はありがとう。本当に助かったわ、戸波くん」
そう、振り返り告げる。仮にここで無視に近い応対をしたとて、彼なら悪く思わないでいてくれると思う。でも……まさに今日、恩がある身でそれは流石にどうかとも思うから。
……まあ、お世辞にも明るい応対とは言えないだろうけど。ともあれ、そんな私に対し――
「はい、お安い御用です!」
そう、朗らかに答える戸波くん。そんな彼の笑顔に、どうしてかホッと安堵を覚える自分がいて。