……なんで、こんなことが――
「………………」
「……ふぅ、やっぱ高月先輩の前だと緊張しますね。でも、どうにか歌い切れ……ん、どうかしました先輩?」
「……いえ、何と言うか……」
それから、数分経て。
歌唱を終え、どこか達成感の窺える表情でそんなことを言う戸波くん。彼が歌ったのは、80年代に発表され今なお数多のアーティストに歌い継がれている珠玉の名バラード。彼自身の好みなのか、最初に歌った私の選曲に合わせてくれたのかは分からない。なので、そこは是非とも聞いてみたいところではあるけれど……ただ、それはともあれ――
「…………いや、上手すぎじゃない?」
そう、ポツリと口にする。うん、素人目……いや、素人耳? まあ、それはともあれ……うん、素人の私でも分かる。明らかにレベルが違う。それこそ、先ほどの賛辞が嫌味に聞こえてしまうくらいに……いや、もちろん彼に嫌味なつもりがないのは分かってるけど。まあ、それはともあれ――
「……貴方、どうしてそんな上手いの? 何処かジャングルの秘境とかで連々と歌声を鍛えていたとか?」
「……いや、ジャングルの秘境で歌声を鍛えてる人は相当稀だと思うんですけど……でも、そうっすね。高校時代、めっちゃ歌が好きな友人がいたのでその影響はあるかもしれませんね」
「……いや、それは貴方が歌の上手い理由にはなっていな……まあ、別にいいけれど。……それより、その友人は……いえ、何でもないわ」
私の問いに、虚空に視線を移し思案顔で答える戸波くん。いや、それは理由になってな……まあ、それはともあれ……なんで、こんなことが気になるのだろう。その友人が、どちらの性別かなんてことが。




