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退魔師の望まれぬ花嫁  作者: 別所 燈
第一章 初婚ではありませんが、旧家に嫁ぎます
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13話 久しぶりの朝餉と小夜の義父母

 結局小夜は五日ほど寝込んだ。


 その間、夫の惟明は忙しい仕事の合間を縫うように、小夜を見舞ってくれていた。


 小夜が布団から起き上がれるようになると、みつ豆まで買ってきてくれた。


 床上げが済み、すっかり元気になった小夜は、朝餉の支度の手伝いに復活した。


 再び八重におそわりながら、アサリのすまし汁、焼き魚に、砂糖としょうゆで甘辛く煮付けた肉を作る。


 八重は揚げ物に、青菜の白あえを準備していた。


 久しぶりの惟明との朝餉である。


 箱膳を運び込むと、二人は向かい合った。


「小夜が、元気になってよかった。しかし、無茶はするなよ」


「はい」


 惟明は相変わらず、表情があまり動かないが、彼の瞳をまっすぐにみれば、そこに柔らかなぬくもりがあるのがわかる。


 惟明が汁物の碗を手に取ったのをみて、小夜は手を合わせ「いただきます」とつぶやいて、赤い塗り箸をとる。


 いつも通りの静かな朝餉が始まった。


 今日の惟明は着物を着ているから、休みなのだとわかった。

 食事が終わり、惟明の湯飲みに煎茶を注ぐ時、小夜はずっと疑問に思っていたことを口にする。


「旦那様、気になっていたのですが、小夜は、お義父様とお義母様にご挨拶に行かなくてもよろしいのでしょうか」

 断られたらどうしよう……そんな不安が付きまとい、いままで切り出せなかった。


「ああ、その件なら、必要ない」


「もしかして、旦那様のお義父様とお義母様は……」


「ん? 気づいたか?」


「あの、私に会いたくないのでは……」


 惟明は苦り切った顔をする。


「そんなわけなかろう。興味津々でかえって手を焼いている。ついでに伝えておくが、父上は俺の上司だ。偉くなって現場に出張ることもなくなり、暇を囲っている」


「そうなのですか。旦那様、小夜はぜひご挨拶に伺いたいです」


「そうか、石本、八重、そこにいるのだろ?」


 ふすまの向こうに惟明が声をかける。


「はい、旦那様こちらに」


 本当に襖の向こうに二人が揃っていたので、小夜は驚いた。


「小夜が父上と母上に、挨拶をしたいそうだ。いい加減、その悪趣味な真似はやめてくれませんか?」

「ほっほっ」

 愉快そうに石本が笑う。


「あらあら、まあ」

 おっとりと八重も笑う。


 八重がパンと手を打った瞬間、二人の姿がぼやけて、品の良い美しい中年男女の姿が現れた。


 小夜はびっくりして、腰を抜かした。


「……石本さんに、八重さん?」


「正確には石本と八重に化けていた俺の父と母だ。母は妖の血筋でちょっとした変化の力を持っている」


「な、なんてこと」


 小夜はあまりの驚きに後じさりした。


「お、お初にお目にかかります。小夜にございます。あ、いえ、違いますね。その、今まで気づかず申し訳ございません。数々のご無礼を……」


 慌てた小夜は畳に額を擦り付けんばかりにひれ伏し、おかしな挨拶をする。


「あなた方の悪趣味に付き合わされた、小夜が可哀そうだ」


 腹を立てたように惟明が言う。


 そして、小夜の隣で惟明は彼女の背中を優しくなでる。

「悪いな、父上と母上は少々変わり者でな」

 惟明が申し訳なさそうに小夜に言う。


 その一方で義父母はまなじりを吊り上げる。


「何を言っている。お前が朴念仁だから、小夜さんが怯えていたのではないか」

 

「そうよ。可哀そうに小夜ちゃんったら、惟明さんが離縁だなんてくだらない冗談を言うから真に受けちゃって、一生懸命家の中でお手伝いしていたのよ。私たちがいなかったらどうなっていたことやら」


「何を言っているんですか? あなたたちはただ楽しんでいただけでしょ」


 呆れたような惟明の声に、小夜はそろそろと顔を上げる。


「改めまして、小夜ちゃん、これから先も惟明さんをよろしくね」


「小夜さん、末永く惟明を頼むよ」


 二人はそういって柔らかく笑う。彼らの温かい言葉に小夜の瞳にじわりと涙が浮かぶ。


「は、はい、全力で惟明様をお守りします」


「確かに、小夜ちゃんは強いけれど、ほどほどにね。それに小夜ちゃんの力のことは隠しておくから、この家の外では絶対に漏らしてはダメよ」


「そうだよ。小夜さん、本家やお上にその力がばれたら危険だ」


「は、はい、お義父様、お義母様、ありがとうございます」


 小夜はいろいろな思いが行き交い、驚き冷めやらぬ状態だが、何とか言葉を絞り出す。

 ただ、受け入れてもらったことは嬉しくて……。 


 そこで義父が突然後ろを振り返る。


「石本、八重、小夜さんを頼むよ」


 襖の向こうから、石本と八重が入ってきた。どうやらこちらが本物のようだ。さきほど義父母が化けていた姿と区別がつかない。


「はい、ご隠居様」


「お任せを」


 小夜はますます混乱し、意識が遠のいてきた。


「父上、母上、いいかげんにしてください!」


 惟明が叫んだ。






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