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勘違い

レストラン

作者: ルーバラン

「トモミ、お前がツッコミ、俺がボケとして俺たちが芸人としてコンビを組んで、ちょうど1年になった。そこで、せっかく結成1周年なんだから、俺はお前にあることを話そうと思う」


「は、はいっ!」


今私と先輩はレストランの中にいる。今日は1周年ということで先輩がおごってくれるということでのこのこと私はついてきたというわけだ。けど、あまりの先輩の真剣な面持ちにちょっと緊張気味な私。


「おいおい、お前ってば何緊張してんだよ? そんなに緊張するこたねえよ。お前にとっておいしい話をするだけだって」


「え、え、お、おいしいだすか!?」


なんだ、先輩怒ってるわけじゃないのか。よかったあ……それにしても、なんだろ? アイスがおいしかった話じゃないよね?


「トモミ、ここの料理、マジでうまいんだよ。あ、いいっすか? 今日はこの『暴れうしどりとマントヒヒが力をあわせてコース』で」


……どんなコースだとつっこみたい私。これはツッコめと先輩がボケているんだろうか。


「どんなコースやねーん」


「……」


「……」


あ、あれ? ……あ、普通にメニューにある書いてある料理名だったのね。

……外した。この空気は舞台の上で10回、20回では聞かないほど味わってる。


「それでは、『暴れ牛鳥とマントヒヒが力をあわせてコース』、2つでよろしいですね。少々お待ちください」


私達に背を向けた瞬間、肩を震わせるウェイターさん……あのウェイター、絶対笑ってるよお……。


「……先輩、穴があったらはいりたいです」


「まあ、気にするな。で、さっき言おうとしてたおいしい話なんだけどな……と、すまん。俺その前にちょっとトイレ行ってくるわ」


「あ、わかりました」


先輩は私の返事を聞いた後に席を立ち、トイレへと消えていった。

……先輩がいなくなってから数分経ったが、全然先輩が戻ってこない。先輩が帰ってくる前に最初の前菜がやってきてしまった。


「お待たせいたしました、本日の前菜は、イカのアボガド和えでございます。こちらのイカは噛めば噛むほど甘みが口の中いっぱいに広がりますので、どうぞよく噛んでお召し上がりください」


「あ、ありがとうございまーす」


うん、おいしそうだ。盛り付けもきれいだし、イカもプリプリッとしていて、いいネタを使っているみたい……先に食べてしまいたいが、先輩が戻ってくる前に食べてしまうわけには行かない。

……早く先輩戻ってこないかな。


「ふぅ……あいつにどういったら芸人の心構えを教え込むことができるんだろなあ……」


なんかぶつぶつ言いながら先輩が戻ってきたけど、今はそんなことはどうでもいい。早くイカ食べたい。


「あ、悪い悪い、待たせたな」


「ほんとですよ、すっごくお待ちしましたー」


「……中々言うな。お前も」


だって早く前菜食べたいんだもん。


「それじゃ、いただきますか」


「はい、それでは『いただきます』!」


そういっても、先輩がまず前菜を口に入れるのを見てからじゃないと私は箸を伸ばせない。先輩が食べてからじゃないと食べることが出来ないのは下っ端のつらいところ。そんなことまで気にしなくてもいいのにと私は思うのだけど、後輩だからしょうがない。

よし、先輩がイカを取った。私も食べるぞ!


「と、そうだった。その前に言わなきゃいけないことがあったな」


……く、口に入れてから物しゃべってよ! 私がイカ食べれないでしょ!


「いいか、お前にとって大事な話だからな。よく聞けよ」


「は、はい!」


……いいから先輩、イカ食え。


「絶対にかんじゃダメだ」


「あん?」


箸でイカをつまみながら、イカを私に向けて言う。

このおいしそうなイカを噛むなと?


「何言ってるんですか先輩、噛んだほうがおいしいですよ!」


「お前、何言ってんだよ。かんだ方がおいしいなんていうやつは3流だ。かんだりしたら、どんなにいいネタでも台無しだろうが」


「ええっ、じゃあ噛んじゃだめなんですか!?」


「当たり前だ! 噛んだりしたら俺はお前とのコンビ解消するからな!」


そ、そんな……噛めばかむほど味が出るはずのこのイカを噛まずに食べなきゃだめで、しかも噛んだらコンビ解消なんて。


「ううぅ……先輩、意地悪です……すごく意地悪です」


このおいしそうなイカを噛めないなんて……なぜだか無念で涙が出てきた。


「ねえねえ、あそこのお姉ちゃん、何で泣いてるの? あれが『シュラバ』?」


「しっ、見ちゃいけません!」


「あそこの男、女を泣かせてるよ」


「うあ、さいてー……」


なんだか、ぼそぼそと周りの声が聞こえるけど、私の頭の中はイカでいっぱいだ。ああ、イカ……イカ。


「……お、お前泣くなよ。なんか、いやな視線を大量に感じるんだけど。俺は常識の話をしているまでだぞ。噛んじゃだめなんて基礎中の基礎だろ。噛んで許される人なんてごくごく一部だ。俺やお前なんかは許される立場じゃないからな」


「そうなんですか……」


「ま、まあ話はこれぐらいにして飯でも食うか……」


ぱくっと先輩がイカを口に含んだのを見て、自分もイカを食べる。噛まずに食べた。やっぱり味がしない。


「お、このイカうまいな」


ふと向かいに座っている先輩を見ると、もぐもぐと噛んでいる先輩の姿があった。


「何噛んどんのじゃお前はあ!」


「ふぐぅ……!?」


あまりに腹が立ってしまったので、先輩の頭をスパーンとはたき、そのまま店を後にした。


「うあ、振られてやんの」


「かわいそ……」


そんな会話がボソッと聞こえてきたが、私の頭の中はイカでいっぱいだ。ああ、イカ……。

「笑いの祭典ザ・ドリームマッチ2010」で、一番噛みまくったところがチャンピオンになりやがったのでこんな話になりました(話題が古い) あれを優勝にされたらほかの芸人が……(-.-;


それでは。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませて頂きました。 『噛む』『ネタ』と、いまや一般化したお笑い用語の勘違いっぷりに笑わせていただきました。 勘違いしたまま会話が進む、というアンジャッシュのコントのようなテンポの良さが…
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