95 不味いを知る。
ヒナちゃんが、お兄様はどうかしてる、から週末のお茶会が始まりました。
『本当に不味いのに完食しました』
《いや、大人なら分かると思うが、アレに旨味も有るだろ?》
「暑い気候でなら、ですね、他の気候だとダメでした」
《あぁ、気候か》
『ネネさんも食べられるんですか』
「はい、悲しい事実ですが、どうやら暑いと味覚が老化するらしいんです」
《老化》
「苦味が受け入れられるのは経年劣化の果てですから」
《そこまで言うか》
「はい、未だにビールが飲めませんから」
《子供舌》
「老人舌」
『もう、老いているんですね』
《馬鹿、好みだ好み、まだ28だぞ》
『私の3倍です』
「3倍老人」
《良いのか、食わすぞ》
「有るんですか」
《おう、毎晩食ってる》
『どうかしてます』
《慣れようとする顔がもう、マジで面白いんだ》
『食べ続けたら慣れるって言われましたが、まだ慣れません、嘘ですか』
「年齢にもよりますが、まぁ、ヒナちゃんの年齢では難しいかと」
《いや苦味耐性が有る奴も本当に居るからな?》
「きっとサディストか前世が虫か小鳥の血筋が入っているんですよ」
《小鳥の血筋》
「小鳥って不味い実でも食べる子が居るじゃないですか」
『いつまでに慣れるとは言われませんでしたが、ほぼ嘘です』
《いやいや、急に美味く感じるかも知れない、だろ?》
「まぁ、そうですが」
《あぁ、夜で腹一杯だったから苦かったのかもな、ビールもそうなると苦く感じる》
『本当ですか』
「私の場合は、より苦く感じる、ですが」
《な?試してみろ、今日は美味く感じるかも知れないぞ》
『違ったら怒ります、何かします』
《おうおう、やってみ》
そうして用意された撒撇を、一口。
ギュッとし、嫌悪を表す表情。
不味い、苦い顔が、可愛い。
コレが、キュートアグレッションですか。
「可愛い」
《だよな》
『この不味い顔が可愛いですか』
「はい、正直、どうして兄や姉が悪戯をするのか全く分からなかったんですが。はい、良く分かりました」
中々見れない、ファニーな顔。
食べ物で言うなら、クセになる美味しさ。
『分かりません』
「はい、私がヒナちゃんの頃には全く分かりませんでした。いつ、この良さに気付きましたか?」
《俺は結構幼い頃だな、弟が初めて炭酸を飲んだ時、面白いと気付いた》
『何でしますか』
《見た事も無い反応、顔だったから、それが知れて嬉しかったのも有る》
「それに混線も有るかと、ドーパミンは攻撃性とも関連していますから」
《あぁ、キュートアグレッションか》
『可愛いと捻り潰したくなりますか』
「そこはならないんですが、嫌な思いをしているだろう事より、その可愛い顔が見たい欲求に駆られますね」
《変態が開花したな》
「変態、コレ変態関連なんでしょうか」
《俺はそこまで喜んで無いだろ》
「確かに」
『ヒナが嫌がってる事を喜んでますか』
《いや、その顔だ、嫌がって無くても見せてくれると助かる》
『こうですか』
完成度が高い。
「完璧ですが、若干、物足りなさを感じてしまう」
《だろ》
『何が違いますか』
《コレ食ってからしてみろ》
出来てる。
「あぁ、素晴らしいです」
『ありがとうございます』
《後はこのまま、ニッコリが意図せず出ると最高だな》
『もしかしてコレは、その訓練でしたか』
《おう》
「思い付きでは」
《確かに思い付きは後からだが、分かっただろ、ニコッとするタイミング》
『はい、何となく分かった気がします』
《ほら、な》
「成程、こんな事も有ろうかと、私も用意してきました。コチラです」
ネネの用意した薬草の塊は、本当に不味かった。
と言うか吐き出した。
《何だったんだ、アレは》
「嘔吐剤の強化版です、苦味に強い方用に、特別に配合して頂きました」
『コレで次は毒を食べても安心ですね』
《おま、本当にコレ凄いからな》
「残念ですがコレはお兄様専用の調合です、万が一にもヒナちゃんに何か有っては困るので、お兄様だけの服用になさって下さい」
『食べたら体に悪いですか』
「いえ、大丈夫ですよ、お兄様だけなら」
《本当か?初めて他人から貰った物を吐き出したんだが》
「マジですか、昆虫食もいけますか」
《ゲテモノ好きを釣って金が入るならするだろ、排泄物より遥かにマシだ》
『お金を稼ぐのは大変ですね』
「ですね、特に向こうでは、私なんかは下の下ですから」
『遊園地は素晴らしい発想です、何故無かったのか不思議です』
《あー、遊園地は子供の遊び場だから子供っぽいと思われたくない、若しくは発展や学習には不必要だ。とでも思ったんだろ》
「残念ながら、らしいです、それと設計士では無いからと遠慮なさる方が多かったのではと。運、ですね」
『エルは凄いです、見ても無いのに図が書けます』
《賢さの塊かよ》
「数学マニア、ですね、美しく感じるんだそうです」
『解説されましたが数字は数字です、エルには見えない何かが見えています』
《才能だな》
『私には何の才能が有るんでしょうか』
《そりゃ統治だろ、感情的にならず統治出来る者、かなり理想的だと思うがな》
「ですね、感情を知りながらも大局を見て方向を決める、向こうにはそれが出来る者が少ないんですよ」
《お、政治の話か》
「でしたら阪神淡路大震災の事からにしましょう、そこで多くの事が知れる筈ですから」
《マスキュリズムについてどう思う》
「大賛成です、肉体労働の対価に脱膣だなんて本末転倒ですから、ですが適材適所が叶う事が最も幸福な状態だと思います」
《高級クラブのママ》
「行った事が有りますけど、綺麗に無難に過ごしてらして、実に素晴らしいなと思いましたよ」
《俺が行った店より凄そうだ》
「いえいえ、財界人と言うより音楽関係の方が多い店、らしいです」
《あぁ、成程な、けどソッチの方が凄そうだけどな》
「どうなんでしょうね、ソコに行った以外は特に無いので」
お兄様は楽しそうです。
嫌な思い出だけでは無いのだと思います。
『お店にはこんな会話が溢れてますか』
《場所によるが、だな》
「そうなんですね」
《下の下は本当にヤバい、客になりそうなのしか居なかった》
『チョロかったですか』
《おう、けどこのママはチョロくない、違う意味でヤバいな》
「ヤバい連呼しないで下さい」
『何がヤバいんですか』
《大人しい顔して、かなりの過激派だ、尖ってる》
「他とはこんな風に話してませんよ、無難に流れに合わせて返事をしていただけですから」
《けど言わせるとこうだ、正解だな、言ったら余計に敵が増えてた》
「何で敵が多い前提なんですかね」
《家族に恵まれて、本人にもさして問題が無さそうで苦労も無さそう。なら、羨ましいと思うか、弱点を探すかだ》
「参りました、友人と呼べる友人は殆ど居ません」
《あぁ、ウ〇コのせいでな》
『ウ〇コ』
《持ってる奴は持たざる者を慮れるが、持ってない奴は今を生きるので手一杯で慮る事が難しい。ってかウ〇コって言ったな》
『言いました、急に言いたくなりました』
「ウ〇コ」
《アンタが真似してどうする》
「はい、お父さん、コレを食べると全ての罪を贖えますよ」
『良く噛んで味わって下さい』
《毒を食った覚えは無いんだが》
『入れておきました、お菓子に、頼んでおきました』
《な、本当か》
『嘘です、そうしておけば良かったなと思いました』
《するなよ、したらしたって言ってから食わせろ、コレを用意する間が無いと困る》
『大丈夫です、生き返らせてあげますから』
《それ、どうなんだ、魂とか》
『臍の緒みたいに繋がってます、他のが入る事は有りません』
「その入れ物にはその魂、となるそうで、間違って入る事は無いそうですよ」
『はい、魂を戻せる悪魔は少ないです、あまり遠くで無残に死なれると戻すのが大変です』
《なぁ、一体先代は、何なんだ?》
『分かりません、でも凄いと思います』
「凄く無い悪魔が居ないので困りますが、追々、様子を見に来て頂けるかと」
『はい、それに頑張れば会えますが、私はまだ完全では有りません。立派になってからお会いしたいと思っています』
《そっか》
『お兄様も、お兄様の名前を知りません、どう、すべきでしょうか』
「あー、そう言えば、私も」
《ワザとじゃ無いのか》
「勿論ですよ、と言うか、欲しいですか名前?」
《それがな、不便じゃないんだよな》
『欲しいかどうか考えておいて下さい、灰色兎の菜園を案内してきます』
《あぁ、おう》
『当てて下さい、何が植わってるか』
「成程、そうきましたか」
名前な。
正直、どっちでも良いんだが。
家族なら、寧ろ有るべきだよな。




