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92 灰色兎の1日。

 先ずは執事の気配に気が付きます。


「おはようございます」


『おはようございます』


 このヒナ様の対応は、殆ど寝ぼけている。

 ほぼ寝言です。


「朝食はどうなさいますか」


『納豆にします、ごはんにします』

「はい、準備して参ります」


『うん、はい』

「宜しくお願いしますね、灰色兎」

《はい》


 執事は朝食の指示を出しに向かい、俺はヒナ様を鏡台の前まで連れて行き、櫛を持たせる。

 そうするとヒナ様は、無言でネコにブラッシングを始める。


 なので俺はヒナ様の髪を解き、軽くブラッシングをする。


「ニャー」

『ニャー』


 俺には全く分からないんですが。

 ヒナ様は、偶にネコ語を話す。


「戻りました、代わります」

《はい》


 そして朝食の指示を終えた執事が部屋に戻って来ると、俺は身支度を終えた後、ヒナ様のお兄様を起こしに行きます。

 と言っても、ドアをノックするだけ。


 そして彼が部屋から出て来ると、俺の朝の仕事は殆ど終わります。

 その後はヒナ様からネコを預かり、侍従用の食卓へ向かう。


 以前、ヒナ様に食事の同席を提案されたが断った。

 あまり食性の違う者同士が同席する事は、慣れぬヒナ様には負担になるだろう、と執事から既に提案が有ったからだ。


 俺の食性は、完全に草食と呼んで良いだろう。

 だが、決して他が羨ましく無いワケでは無い。


 食べれるは食べれる、そして美味しいとも思う。

 だが肉や魚の油が壊滅的に体に合わず、しかも胃もたれまで起こす。


 出来るなら、食性も人種が良かったと思う。

 野菜や果物をミキサーに入れ、飲むだけ。


 この体格を維持する為には、そのまま食べてはいつまでも食事が終わらなくなってしまうからだ。

 人種同様、穀物類で何とか燃費は良くなっているが、やはりどうしても量が必要となる。


 それに、顎が疲れる。

 俺の食性は正直、全く楽しく無い。


 そうして食事を終え、準備を終える頃には、ヒナ様が学園へ向かう時間となり。

 総出でお見送りを行う。


《お、時間通りだな》

「はい、でも今日はアズールと行きます、帰りもアズールに迎えに来て貰います」

「畏まりました」


《気を付けてな》

『はい、行ってきます』


 ただ、総出と言ってもそう多くは無い。

 あの、バアル・ゼバブ王と比べると特に、ほぼ居ないと言って差し支えないだろう。


 料理人は1人、妖精種のニッセ属がメインからデザートまでの調理を全て行うからだ。

 そして同じく妖精種だが、愛想の無いブラウニー属が屋内の雑用をこなし、屋内が嫌いなドモヴォイ属が外の雑用をこなし。


 執事の補佐にと人種の侍女が1人。


 そして執事と俺を入れ、たった6人の使用人でココは動いているが。

 元はヒナ様お1人、そこに更に加わったが特に問題は無い。


 最近の俺のする事は、ネコの世話だけ。


 ヒナ様が庶民用の学園に居る間、ネコの世話は俺か執事の担当になる。

 貴族用なら連れて行けるが、双方の安全の為、庶民用の学園への魔獣類の持ち込みは禁止されているらしい。


 そして世話については、正直、特に無い。

 雨の日は窓際で一緒に過ごし、晴れの時は庭で過ごす、それだけ。




《はぁ、触って良いか、灰色兎》

《どうぞ》


 驚いている。


《アンタ、話せるのか》

《はい、この言語はヒナ様の加護のお陰です》


《そっか、アイツ何で教えてくれて無いんだ》


《多分、単にご説明を忘れているだけかと、俺に興味が無さそうでしたから》

《いや正直、無心を装ってはいたが、物凄く触りたかった》


 そこは分かっているが、敢えて無視していた、そしてコレは社交辞令。


 以前に人種の男に無断で触られ指摘した際、激怒された事が有った。

 何故か、どうしてか、この毛皮に触りたがる事は男の自尊心が許さないらしい。


《でしたら、もしかすれば、敢えて言わなかったのかと》


 まだヒナ様は他人が興味を示す言葉を言わない限りは、誰かに何かを提案する事は殆ど無い。


《あぁ、アイツ最近、俺への意地悪を覚えたからな。この前はアイスをくれなかったんだぞ》

《でしたら初めての事、かと、ココでは特には無かった筈ですから》


《マジかぁ、いや、だよなぁ》


 頭を抱え苦悩していますが。


《あの、どうぞ、大概の部分なら触られても問題は有りませんから》


《あぁ、助かる》


 そうして背中に回り、暫く両手で堪能していたかと思うと。

 また、溜め息が。


《あの、どうかしましたか》


《悪戯は、意地悪は子供の特権なんだ。そうやって何処まで安全か、何処からがダメか学んで、次は他人との関係に生かす》


《成程、確かに幼い兄弟姉妹も、そうでしたが》

《酷いといきなり試し行為になるんだ、悪戯じゃなく許されるかどうか、になる》


《あぁ、悪霊種や妖精種みたいですね》

《そこも関わるのかぁああああ》


 雄叫びを上げてますが、手つきは優しい。


《問題ですか》

《いや、半ばコレは俺の問題だな、情報の整理が必要だ》


《成程》

《少し手伝ってくれないか》


《はい、俺で良ければ》


 ヒナ様やネネ様を知れば知る程、俺は自身の知識の無さに落胆している。

 精霊種に連なるものの、精霊との繋がりは薄く、そして血族の記憶も少ない。


 ネネ様の黒蛇が、実に羨ましい。


《妖精種や悪霊種は、意地悪や悪戯が当たり前なのか》

《はい、ですが気になる非血縁者にだけです、身内には行わず他人だけにします》


《あぁー、成程》

《そして成長と共に制御が難しくなるので、幼い頃に躾けられるんですが。それまでに気になる者が居なかった場合、加減が難しくなり、時には問題となる場合が有る》


《あー、そうそう、そんな感じだわ》

《ですがヒナ様は、先ずお兄様に行った、問題無いのでは》


《あぁ、だな。ただ、今まで出来て無かった事が、残念と言うか辛いんだ。もっと幼い事に覚え、寧ろ今の時期には加減を知っていても良い筈が。そこだ、だから迷ってるんだか悩んでた間が有ったんだ》


《成程》

《危ない、見逃す所だった、あぁあああああ》


 こんなに荒ぶる方だとは。

 いや、手つきには問題無いんですが。


《随分、猫を被ってらっしゃる》


《分かるだろ、少し訛んだよ、気を抜くと特に》


 確かに、話し方の違いは有りますが。


《そこまで、気にされる事ですか》

《威厳の問題だな、弱点は少ない方が良い、それにカッコつけてる方が保てる》


《体面を》

《だな、顔を埋めて良いか》


《あ、はい、どうぞ》


 確認さえして貰えるなら、殆どの事は不快には思わない。

 しかもヒナ様とネネ様が認め頼っている方、断る理由も無い。


《お前、本当にとんでも無いな、手触りが》

《どうも、ありがとうございます》


《手入れはどうしてるんだ》

《特には、換毛期には毎日洗い流しますし、撫でられている間にかなりの毛が落ちるので何もしていませんね》


《ブラッシングは良いのか》

《入浴が難しい場合以外は、撫でられる方が良いですね》


《そうか、そんなものなのか》

《あ、中にはブラッシングの方が好きなのも居ますから、個体差かと》


《成程》


《あの、俺の言葉遣いは大丈夫でしょうか。つい最近まで、そう丁寧に話す事が無かったんで、上手く出来ているか心配なんですが》


《俺には十分だと思う、それにあんまり堅いのもどうかと思う。けど見習うならアズールだな、俺より上手い》

《成程、ありがとうございます》


《はぁ、失敗は良いんだよ、ヒナが失敗するのは。けど俺が失敗すんのは不味い、何か問題になりそうなら言ってくれ、ヒナの為に》

《はい》


《本当に凄いな、お前は凄いよ本当》


《肌触りを褒められるのは嬉しいんですが、能力の足りなさに申し訳が》

《いや肌触りも能力だろ、つか正直、贅沢だと思うぞ。花なんか生きて咲いてるだけで褒められるんだぞ、クソ羨ましいわ。しかも喋って肌触りが良くて暖かくて、自我が有ってネコの世話も出来て、自分の世話も出来る。で、何がしたいんだ》


《俺は精霊種に連なります、ですが知識が殆ど引き出せず、血族の記憶も殆ど無いんです》

《俺より有る、ココの事は殆ど知らない、しかも専門は詐欺。それとも何か、俺より後ろ暗い過去でも有るのか》


《いえ、無いですが。労働を強制されず、嫌な事も何1つ無い、なのに提供出来る事が殆ど無く、本当に申し訳無いんです》


《じゃあ、血族の為に知識を蓄えて、子孫を増やしまくれ。今、何かしたいなら、子作りだな》


《そんな事で》

《価値観が違うのはもう分かるだろ、お前は貴重で希少で大事なヒナの家族だ、しかも家族に家族が出来たらヒナは喜ぶに決まってる。後はどう、家族とどう過ごすかだ》


《産まれたら、暫くはココには通いになってしまうので》

《寝る時だけでも、いや、この前の緊急事態には不味いか》


《はい、出来れば、お傍に居たいです》

《もし、万が一が有ったら代理はどうするつもりだったんだ》


《今は、姉の子が育つのを待っている段階で、その子次第ですね》

《人種寄りなのか》


《はい、ただ、男の子ですし。合う合わないも、有るかと》

《けど、もう相手は居るんだろ?》


《はい》

《いや、良いんだ、寿命が有るなら早いに越した事は無いしな。ただな、代替案が無いとな》


《はい、知識が有れば、そうした事も思い浮かぶのではと》

《仕方無い、ダメなら我慢だ、ヒナに我慢させる》


《それは、若干、本末転倒な気が》

《良い代替案が浮かんだ、暫く掛かるが大丈夫、上手くいけば何の心配もいらない》


 果たして、どんな案なのか。

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