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83 脅迫の罪人2。

 極悪人だからこそ、地獄でも楽に過ごせてしまっているのだろうか。


 やはり中世なのだろう。

 そう思わせるネグリジェを着せられた、けれど下着はかなり現代的だった。


 胸当ての様なブラに、紐で結ぶ下着。


 そしてどんな原材料か分からないけれど、洗い上がりの良いシャンプー、トリートメント。

 ボディーソープに、化粧水。


 仕上がりも香りも良い。


 もし中世に魔法が有れば、ココまで快適に。

 いや、所詮は人は足を引っ張り合う生き物。


 偽物が溢れ取り締まられ、賄賂を渡せる者だけが反映し、良品は潰される。

 そして粗悪品の後始末の為、美容液だクリームだと販売し、何か被害が出れば金を持ち出し夜逃げ。


 世を悪くすれば自分や子孫の首を絞める事になるだけなのに、一体、何がしたいのだろうか。


『悪魔とは、本来は人の心に宿った邪心を言う、そうは思わないかい』


「確かに、そうですね」


 邪心、悪魔に支配された心を持ち、世を乱すだけの利己的な存在。

 確かに、悪魔だ。


『自己紹介をしよう、プルフラス、悪魔だ』


 悪魔。


「どう見ても、そうは見えませんが」

『後で真の姿を見せるよ、先ずは食事だ』


 彼が手を軽く手を挙げると。

 良い香りの食事が運ばれて来た。


 喉の渇きも餓えも忘れていたかの様に、一斉に欲が湧きたった。

 私は、寝惚けていたのだろうか。




「ご馳走様でした」

『ソロモン72柱のグシオンやシトリー、マルコシアスやバラムも君を欲しがった。特にアンドラスは悔しそうにしていたけれど、僕が君を得た』


「すみません、悪魔学は学んでおりませんで」

『構わないよ、ココと向こうは少し違うからね』


「そうですか、それで私は」

『ココで暮らす、ただそれだけだよ』


 僕ら悪魔は、ココで如何に人種に過ごさせるか、そうした存在意義を有している。

 全てでは無いけれど、その殆どがその意義の下に行動している。


 そして過ごさせる相手を選ぶ。


「何故、私なのでしょう」

『君の生き様と本質だよ』


 11位のグシオンが惹かれる個性は、和解・名誉・尊厳・嫉妬、豊かさ・成功・快楽。


 そして同時に、天使Laviah(ラヴィア)としては、崇高・勝利・名声。

 雷から絶対的に守る者、でも有る。


「天使」

『72柱には、同時に天使の側面も存在しているんだよ』


「そうでしたか」

『そして12位のシトリーは、その能力から君に惹かれた』


 情愛へ影響し、時には自ら服を捨てさせ。

 時には秘密を暴き嘲笑い、官能・快楽・愉悦に浸る。


「あぁ」

『35位のマルコシアスは、自身・自画自賛・快楽。防衛の要で有る強き戦士、真実のみを口にし忠実な騎士』


 Chavakiah(カヴァキヤ)の性質としては、喜び・和解・契約・継承。

 平和と調和、忠誠心と善意に報いる、家族の守護天使でも有る。


「かなり、天使の側面が強いかと」

『そうだね』


 51位のバラムは偽預言者としての性質を、54位のアンドラスは不和と口論を齎す者としての性質を気に入っていた。

 けれど彼ら、彼女達には、完璧には当て嵌まらなかった。


「では、アナタには」

『闘争、戦争、不和、欺瞞。僕は72柱では無いからね、それだけ満たされていれば、僕には十分なんだ』


「過不足は」

『72柱では無いからね、特に影響は無いよ』


「誰しも、持っているのでは」

『その大きさや強さ、だね』


「そこまで、戦争に興味は無いのですが」

『戦争にも種類が有るだろう』


 冷戦、激戦。

 侵略の為の戦争か、防衛の為の戦争か。


 民や国を尊重する為の加担か。


「ですが私は」

『まだ君は考えるには早い、ココを知り学んでから、じっくり考えるべきだ。疲れたろう、今日はもう休んだ方が良い』


「はい、すみません、ありがとうございます」

『おやすみ』


「はい、おやすみなさい」




 この世界には、本当に魔法が有るらしい。

 昨晩、無かった筈の眠気が押し寄せ、私は直ぐに眠ってしまった。


《おはようございます、洗面所に道具を揃えさせて頂きましたが、不足が有りましたらお申し付け下さい》

「はい、どうも」


 歯ブラシが有った。

 動物の毛で出来たモノや、フロスだろう糸、そして幾ばくか毛先が砕かれた枝。


 枝を使う事は知っていたけれど。

 使い方が全く分からない。


《あぁ、ソチラは好みの硬さまで噛み柔らかくし、ブラシと同じ様に致します》

「そうですか、どうも」


 洗面所から持って出ただけで、この配慮。

 ココは本当に地獄なのだろうか。


 いや、そもそも私に侍女が付いている事がおかしい。

 何故、どうして。




『おはよう』

「おはようございます、責苦はいつになるのでしょうか」


 ココに、星屑と星の子の違いが現れる。

 彼女は紛れも無く星の子だ。


『いつでも、君が望むなら』

「では今からお願い致します」


 償い。

 この事に関して、星屑は触れる事すらしない。


 ただ緩慢なる今を過ごし、最も油断した時から、贖罪の儀が行われる事になる。


 では、星の子はどうだろうか。

 こうして贖罪を自ら求める。


 その時から、僕らは手を貸す事になる。


『では食後直ぐに始めよう』




 確かに、知らなければ償えない。

 私は幾ばくか不幸にした相手への償いなど、微塵も考えてはいなかった。


 ましてや向こうとは違う世界。

 ココでどう償うべきかのか、私には全く分からない。


《では、今日はココまでで》

「まだ日が高いのですが」


《段階と言うモノが御座います、先ずはご休憩を》


「分かりました」


 私が今学んでいるのは、ココの事。

 この地獄(ゲヘナ)以外にも国があり、私の様な種を人種と呼んでいる。


 そして、純粋な人種は稀有。

 元は悪魔と精霊から、妖精や魔獣が生まれ、その果てに人種が生まれた。


 そして魔法が存在する、向こうとは全く異なる世界。


『今日は散歩をしよう、準備を』

《はい、畏まりました》


 私は簡素なネグリジェの様なワンピースに、真っ黒な毛皮のコートを着せられ、幾ばくか緩いブーツを履かされた。


『良いかな』


 一方の彼は、艶の有る灰色の質の良い燕尾服に、変わった形の持ち手の杖。

 悪魔だからなのか、容姿は壮年、とても穏やかで綺麗な顔立ちの男性。


「はい」

『歩き辛いだろう、ココに軽く手を添えて』


「はい、ありがとうございます」


 コレは、何の罰なのだろうか。

 コートを脱げば貧相な本体しか無い、そうした嘲り用なのだろうか。


『寒くは無いかな』

「はい」


 屋敷から幾ばくか歩いた頃、ウサギ耳の有るメイドが荷物を抱え、ユニコーンが闊歩している。

 西洋の地獄とは、こんなにも愉快な場所なのだろうか。


『興味が尽きないようだね』

「はい、想像すらしていなかったので」


 ただ地獄に落ちるだけ。

 幾度も焼かれ切り刻まれ、また再生させられる。


 そんな場所に行くのだろうと思っていた。

 その覚悟で人を貶めたと言うのに。


 私は。


『どうかな』


 私は今、私専用のコルセットに、下着を買われている。

 コレは一体、どんな刑罰なのだろうか。


「着慣れていないので苦しいですね」

『だろうね、色柄はどうだろうか』


 色柄。


「私の好みが反映されるのでしょうか」

『勿論、君が身に着けるモノだからね』


 丁寧な針仕事がなされた、装飾に特化した下着の数々。

 実用性の有る下着だけで構わないのに、何故。


 まさか私は、コレから身体を売らなければならないのだろうか。


 なら、私の好みなど。

 いや、売るのだから個性も必要なのかも知れない。


「では、コチラとコチラは除外して下さい、似合うとは思えませんので」

《ではお仕立ては3日後となりますが》

『構わないよ、家に届けておくれ』


 そうして私がコートを着る間も支払う素振りは無く、店を出たと思うと次の店へ。


「あの」

『コレは必要経費だよ』


 やはり、私は売られるらしい。

 けれど、コレが売れるのだろうか。


 そんな杞憂を知ってか知らずか、私は店に入らされた。




『では休憩にしよう』

「はい」


 既に用意されていたであろう服を、何枚も買われてしまった。


 そして今はコルセット無しの、外出用ドレス。

 いや、ドレスと言うよりは洋装、と呼ぶべきだろうか。


 古い探偵物の映画で見た様な、灰色のチェック地の洋装を着させられている。


『好きなモノを頼んで構わないよ』


 メニューを開くと、カラフルな絵入りだった。

 コレは西洋には滅多に無い方式の筈が、いや、ココには私の様な者が大勢来ているのだろう。


 なら、私に出来る事は、やはり体を売る事だろうか。


「では、コチラを」

『紅茶の好みは有るかな』


「いえ」

『ではオススメをお願いしよう』


 どう、罰せられるのだろうか。

 どう償わされるのだろうか。


 いつ、本当の地獄に落とされるのだろうか。


《お待たせ致しました》


 怯える間も無く、あっと言う間に品物が届いた。

 けれど紅茶から湯気が立ち。


『どうぞ』


「頂きます」


 生地はサクサク。

 こんなに美味しいナポレオンパイは、滅多に無い。


 それに紅茶も。


 一体、何処まで持ち上げて落とす気なのだろうか。

 少なくとも私は、絶対に反省しない、その自負が有ると言うのに。


 どう、反省を促すのだろうか。


『どうかな』

「はい、美味しいです」


 もしココが本当に地獄なら。

 親友の居る天国は、どれだけ幸福に包まれているのだろうか。




『じゃあ、馬車で帰ろうか』

「あ、はい」


 馬車に乗った事は無いけれど、こんなにも静かで揺れないモノなのだろうか。

 例え車だろうとも、下手な田舎道ですら揺れると言うのに。


 いやコレこそが、魔法の有る世界の中世、なのだろうか。


 向こうの常識の通じない世界。

 寧ろ、こうして緩慢な日々を送らされる事が、罰なのだろうか。


『靴はドレスが仕上がってからだ、楽しみにしていておくれね』


 一体、いつ地獄は始まるのだろうか。

 それとも既に、始まっているのだろうか。

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