81 憤怒の図書館。
『やはり真実が知りたいです』
俺はヒナに付き添い、例の図書館へ。
今回も言葉が一時的に理解出来る薬を飲んだが、本当に不味かった。
《んー》
『なら、先ずは悲嘆の図書館へ行くべきだね』
《えー?》
『悲嘆の図書館、悲嘆国に有りますか』
『ううん、北の最も寒い場所に有る図書館だよ』
『では何故、ジュリアは反対なのでしょうか』
《悲しいお話ばかりだから、だから心配なの》
『けれど悲しみの種類を、もう少し知るべきじゃないかな』
悲しみの種類。
《なぁ、なら憤怒も有るのか》
『勿論』
《先ずは、ソッチから、どうかな?》
コレは、遠回りした方が良いらしい。
《なら、俺は賛成だな、怒りも時には悲しみに直結する》
『分かりました、そうしてみます』
少し不服そうだが。
ネネの言った事が効いてるらしい。
《行くか》
『はい』
《またね、ごめんね》
『良く学んでおいで、またね』
『はい』
もし俺だけだったら、抑えられたかどうか正直分からない。
もう嘘は言いたくないし、言う気も無い。
それにヒナには、おためごかしは通用しない。
《赤レンガか》
『はい』
ココは最も暑くなる場所に有ります。
遠回りしろと言われました。
知りたいのに直ぐに知れないのは、まだ私が消化出来無いと思ったからだと思います。
でも、知りたいです。
「ようこそ、どの様な本をお探しでしょうか」
『愛の図書館で悲嘆の図書館の話題が出ました、私は早く真実を知りたいのですが、先ずはココへと案内されました』
「そうでしたか、では、ご案内致します」
中庭に案内され、待っていると本とハーブティーとお菓子が来ました。
《復讐の、罪人》
「はい、では、失礼致します」
薄い2冊の本が来ました。
上下に分かれています。
『良いですか』
《あぁ》
コレを読めば真実に近付くんでしょうか。
『どう思いましたか』
《俺に似ているけど違う、もっと強くて明確な復讐心だった、良く出来たと思う》
『復讐には反対ですか』
《俺以外には、だな、出来れば俺だけにして欲しい》
『ですが私なら最も大切にしているモノを手に入れます、そして同じ目に遭わせます』
《それは、どうして同じ目に遭わせたいんだ、それを上回るのはダメなのか?》
『同じ思いを、して欲しいからです、嫌だと言う事を分かって欲しいからです』
《何が嫌だった》
『前は何も無かったです、でも今、同じ事をされたら同じ事をします』
《例え蘇生するにしても、殺して欲しくない、手を汚して欲しくない》
『私は何もしません、何も』
真実を知らせる事は、ヒナに殺す理由を与える事にもなる。
何故なのか。
そう考えている限りは、ヒナは殺さないだろう。
けれど、もし、全てを知り怒りが湧いたら。
悲しみと怒りで、手を汚してしまったら。
後で後悔する事になる。
悲しむネネやジュリアを見て、ヒナは後悔する筈。
いや、そうであって欲しい。
《先代は、ヒナが殺して喜ぶのか》
『分かりません、でも、絶対に否定はしません』
コレは悪魔や精霊に連なるからこその、絶対的な繋がりから来る信頼、らしい。
先代は、本当にヒナに見定めさせるつもりらしいが。
それは悪魔として。
俺やネネは人種だ。
しかもヒナにも人種の血が残ってる。
なら、向こうを知る人種としては、手を汚して欲しくない。
《2つ、約束して欲しい》
『中身によります』
《だよな、1つ、俺が記憶を消せといったら自分の記憶を消す事》
『2つ目は何ですか』
《自分で記憶を消すべきだと思ったら、消す事》
俺だから分かる、と言うのは烏滸がましいかも知れないが。
分かるんだ。
一時期は父親に期待した事も有った。
だが、案の定だった。
俺は怒りを抑える為、冷静さを保つ為に、あらゆる体験談を漁った。
なのに、俺は揺らいだ。
分かっていたのにショックで泣いた、覚悟していたのに傷付いた、怒りが湧いた。
父親に、自分に、母親に。
周囲に、何もかもに。
暴れて壊して叫びたかった。
望んで生まれたんじゃないって。
けど俺には弟が居た、居てくれた。
もし居なかったら刺してたか、殴ってた。
物理的に壊してた自信しか無い。
『分かりました、約束します』
《よし、行くか》
とうとう、ヒナちゃんが破裂しそうだ、と。
なので悲嘆の図書館と呼ばれる場所へ行き、真実を知る事に。
ただ、先ずは彼が、保護者が悲嘆に対処出来るかの試練を受ける事になったらしく。
「私が立会人、ですか」
《人種には人種を、それで人種限定らしい》
「しかも、向こうを知る者は限られる」
《立会人なら特に、ジュリアより理不尽に慣れてるのは、アンタだろ》
「まぁ、彼女よりは、ですが」
《それに多分、俺の過去と関係するだろうから、見せるならアンタだと思った》
「流石に、暴力への耐性は無いんですが」
《そこは本当にすまない、ただ任せて後悔しないのは、アンタだけなんだ》
まぁ、年下に任せるのはコチラも賛同しかねますが。
「何故、そこまでするのでしょうか」
自身の場合なら、善人だから、同郷だから。
もう既に情愛が有るから、と色々と理由は有りますが。
彼には拾われた恩が有り、実質、面倒を見て貰う側。
しかも知り合った期間は短い。
《弟を重ねてるのは間違い無い》
「でしょうね」
《それに償いだとも思ってる、辛い思いをすれば、嫌な思いをした誰かに償えるんじゃないか。その考えも有る》
「でしょうね、ですがアナタには利己的な面が存在する」
《殆どがソレだと思ってくれて構わない、けどヒナをどうにかしてやりたいと思ってる、本当に》
今まで彼は嘘を言わなかった。
ですが、嘘を嘘だと思っていなければ嘘にはならない。
「依存し逃げている様にしか見えない、痛みを得るだけでは、コチラの鬱憤は晴れませんよ」
彼がそうかは分からない。
けれど被害者だったかも知れない立場としては、責められて安心するだなんて事は絶対に許せない。
《アンタ、この結論の先、分かってるのか?》
「それは、まぁ、先ずは話し合って」
《その先の結果だ、出来るなら俺が傷付かない道を探すって事だろ。けどもう本当に時間が無いんだ、俺の思い込みかも知れないが、ヒナは限界だ》
今は、子供の日から2日後。
1日は耐えられた。
けれど疑問が抑えられなくなった。
何故、どうして、あんな目に遭ったのか。
何故、どうして、そんな事をしたのか。
「分かりました」
《助かる》
そうして、そのまま悲嘆の図書館へ。
『忙しい所をすみません、どうしても知りたくなりました』
「いえ、何故、どうして、ですか」
『はい、何をしても頭から離れなくなりました』
「気にするな、は無理ですよね」
『はい、頑張ってみましたがダメでした。ガラス工房に行っても、お風呂に入っても、アイスやケーキを食べても消えませんでした』
「分かります、ですがもう少しだけ、待っていて下さい」
『はい』
《じゃあ、行ってくる》
『はい』
《では、コチラへどうぞ》
案内は、悪魔
扉の先には、何処までも続く鏡張りの廊下。
「私の姉は、誤魔化し続けた結果、破裂しました」
家族の中でも楽天家な方で、仕事が好きな仕事人間でした。
ですが仕事中、不意に破裂し、救急車を呼ぶ事になった。
診断の結果は、一時的なパニック発作。
姉は我慢しているつもりは無かった、と言っていましたが、そうなってもおかしくは無い状況でした。
誹謗中傷対策、ストーカーへの対応、仕事仲間からの嫌味や嫌がらせ。
プレッシャー、失恋、増量。
1つ1つは対処が出来ても、数が多ければ、その重さや棘が増えれば風船で出来た容れ物は破裂する。
体が、脳が勝手に止めろと動く。
切っ掛けは、他者に向けられた溜め息、だったそうです。
分かっているのに、突然に恐ろしくなった。
そしてあっと言う間に呼吸が荒くなり、止められなかった。
知っていたのに、呼吸を制御出来なかった。
単なる時間薬は、忙しければ忙しい程、毒となる。
蓄積し、広がって、気付かぬ間に破裂させる。
そう破裂する位なら、今なのかも知れない、そう思っていますが。
本当に、コレしか無いのかとも悩んでします。
《板挟みにして悪かった》
「私にも権利が有る筈、最悪は中断させます、良いですね」
《はい、勿論、その為の立会人ですから》
幾ら覚悟をしていても、衝撃を受ける事になる。
酷ければ酷い程、怒りと悲しみが湧くのを知っている。




