79 歯科医師マリーと異世界。3
『始めまして、ヒナです』
「ビリーです」
《ミリー》
「はい、良く挨拶出来ました。手と顔を洗って、うがいしてきて」
走って行ってしまいました。
《人見知りか》
「そーなの、下の子がもう真っ盛り」
《もう1人は恥ずかしかったらしい》
『何故ですか』
「んー、違いが分かるから、みたい」
《家族かそうじゃないか、敵か味方か》
『分からないから怖いですか』
《だね、お兄さん、独身だからって遠慮しなくて良いよ》
《いや、流れに任せる》
「あら偉いわねー、信頼して身を任せる事も大事な事だものね」
《そう言う感じは止めてくれ、恥ずかしい》
「あら可愛い、褒められたら喜んで良いんだからね?」
《ヒナは褒められるのは嫌かい?》
『いえ嬉しいです、何で恥ずかしいですか』
《大人はあんまり、頭を撫でられながら褒められる事は無いんだ》
『何故』
《それは》
「私は大人になっても撫でられてた」
《それに今でもね》
マリーは喜んでいると言うか、自慢げです。
『何故ですか』
《羞恥心》
大元は覆い隠す。
失敗や失態を覆い隠したい気持ち。
『何を失敗しましたか』
《いや、イメージが違うだろ》
『分かりません』
《無いのは分かってるが、笑われる様な事が嫌なんだ》
『笑ってません、笑顔だけど笑ってません』
《確かに、まぁ、屈辱感かも知れない》
屈辱。
立場を低くされる。
『子供は立場が低いですか』
《いや、ただ俺が、そう思ってるだけだ》
「いや私も流石に子供扱いは嫌だけど、コレは本当に褒めてるだけだよ?お兄ちゃんとして」
《アンタ、兄弟にもしてたのか》
「うん、犬だって喜ぶんだから、褒めない?」
《じゃあ、父親にも》
「そりゃ圧倒的に立場が違うもの、偉い、凄いだもの」
『お父さんは凄いですか』
「うん、家族を養う為に働いてるのは勿論だけど、ちゃんと私達と遊んでくれたし勉強だって教えてくれた。施設に預ける事だって出来たのに、敢えてしなかった、一緒に居る事を喜んでくれて働いてる事も喜んでくれたんだから。凄い、偉い、だからお父さんの日はもう豪勢にお祝いしたよ」
『お父さんの日』
「うん、それにお母さんの日も有る」
『お母さんの日』
「子供の日も有る」
『それは知ってます、ひな祭りも知ってます、スミレの日は紫色でお祝いしました』
「スミレの日?あぁ、成程」
『お父さんの日やお母さんの日は何をしますか』
「んー。ビリー、ミリー、教えられる?」
「うん、出来る」
《いや》
「じゃあミリーはお手伝いね、ビリーは説明をお願い」
「うん」
まさか、いきなり内面と向き合う事になるとは思わなかった。
《ふふふ、真面目だね君は》
《知ってて言ってるのか》
《勿論、妖精は耳が良いからね》
《なら、何で俺を》
《君だって僕にしてみたら子供だよ、もう100年は軽く生きてるんだから》
《全然、知り合いと違うんだが》
《成長は其々だよ、しかもどの種か分からないけれど、成長段階が無ければ当然に通過する筈の儀礼も無い。その姿のまま生き続ける者は特に、その外見でしか得られない事に接する機会を失い、その姿での事しか知らない》
《けれど、かなり違うんだが》
《経験は人種だけを育てるモノじゃないからね、僕だって未熟な面は多かった、ただ虫歯が食べられるだけで本当は良かったんだよ》
《そんなに、変わるものなのか》
《それこそ恋を知れば、だよ、何物にも代え難い何かを見付けたら。誰だってコロっと変わってしまうんじゃないかな》
《はぁ》
《居なかったんだね》
《こうだしな》
《生きるだけで精一杯なら、誰だって余所見は出来無いよ》
《余裕が、有った筈だった》
《自身の事に全て気付けていたのなら、今頃君は悟れていた。人種は器用で不器用だ、何かを得る為に何かを対価とする。特に自身を犠牲にするさまは、精霊種の祖だと感じさせられるよ》
《もう1人の知り合いにも似て無いな、分かり易く話してくれてるのか?》
《英語には無い表現が多い言語だからか、その子は少し意地悪か》
《あぁ、意地悪、な》
《きっと精霊と深く繋がっているんだろうね、逆に僕には難しい事だよ、引き出しはそう多くは無いから》
《けど、良く知ってる》
《それこそ長く居るからね、それだけ、殆どは聞きかじりだったりだよ》
《どうしたら良い》
《君は良くやっていると思うよ、悪魔には無くて人種に有るモノは何だと思う》
人種に有って、悪魔には無いモノ。
《全く、分からない》
《苦悩や葛藤だよ、彼ら彼女達は既に分かりきっている、けれど期待している。その君の苦悩や葛藤が、成長の糧になる、人種としての基準点となる》
《出来るなら、俺を見本にして欲しくないんだが》
《反面教師と言う言葉が有るじゃないか、それに、完璧な者はそう居ない。そう示す存在である事も、有意義なんじゃないかな》
《撫でるな褒めるな》
《慣れた方が良い、あの子にもそうなって欲しいなら》
《くっ》
《よしよし、良い子良い子》
何だか誤魔化された気がするんだが。
『知ってましたか、お母さんの日とお父さんの日』
《あぁ、まぁ》
『先代がどちらなのか分かりません』
《じゃあ、両方で、良いんじゃないか?》
『あ、はい、そうします。帰ったら準備します』
《おう、そうだな》
『何で褒められてましたか、虐められてますか』
《いや、虐められて無い、慣れて無いだけだ》
『慣れた方が良いです、嬉しいですから』
《ぉぅ》
確かに悪い事じゃない。
なのに、どうしてこんなに屈辱的なんだろうか。
「お昼寝は良いの?」
『1つ教えて貰ったら帰ります』
《何かな?》
『死んだら食べて、その後はどうしますか』
《1年に1つ食べて、尽きたら会いに行くよ》
「だから大事にしてるの、長生きして欲しいから」
《その間にお土産話を沢山集めて、向こうで暫くは2人だけで過ごすんだ》
「ふふふ、直ぐに3人になったんだもんね」
『ココにもう1人居ます』
「そうなの、どっちだと思う?」
『まだ分かりません』
「そうよねー、楽しみ」
『楽しみですか』
「勿論、殆どは望まれて産まれて来るもの」
『違う子も居ますか』
「気付かなかったり、記憶に無かったりしたら、そうじゃない?」
『気付かないって有りますか』
「それが有るのよー、ココではまだ出会って無いけど。向こうに居たの、スポーツ選手で腹筋で抑えられてて全然気付かなかったった、しかも生理もまばらだったから余計に分からなかったみたい」
『有るんですね、そんな事が』
「それに怪我をして頭を打って記憶喪失になったら、そうなるかも、じゃない?」
『成程』
「それに、例えお母さんが子供を嫌いでも悪い事じゃない、大昔に食べられたサメそっくりの子なら怖くなっちゃうでしょ?」
『はい、確かに』
「それは遺伝子のせい、誰かが悪いんじゃなくて、誰も悪くない」
《理由は其々、けれど真実を知るには心構えが必要になる》
『はい、ちゃんと消化出来る内臓が出来るまでは、止めておくように言われてます』
《伯母みたいな人にな》
『はい、お友達で伯母です』
「良いねぇ、良かった、一安心」
《またいつでもおいで、歓迎するよ》
『はい、ありがとうございました、さようなら』
「はい、さようなら」
《またね》
《はい、お邪魔しました》
私も、アレをされてみたいです。
『お願いが有ります』
《お、改まってどうした》
『あの抱っこされたまま眠ってみたいです』
《あぁ、おう、どうぞ》
『はい、宜しくどうぞ』
お母さんにして貰ったのは、数えられる程度です。
お父さんにして貰ったのは、殆ど覚えてません。
でも、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんにして貰った事は有ります。
その時だけ、お出掛けの時だけは、抱っこして貰えましたから。




