7 ココについて。
今日はネネさん達とお勉強です。
《では、始めますよ》
『はい』
「宜しくお願いします」
《します》
ココの正式名称は、八大地獄国。
通称、地獄。
東の国、向こうで私が産まれた日本は、辺獄と呼ばれている。
そしてこの世、この世界は煉獄。
地獄は南北の分割統治。
南部は八熱と呼ばれている。
そして州は8つ。
復活を意味する等活州
黒縄州
圧縮を意味する衆合州
叫喚州
絶叫を意味する大叫喚州
焦熱州
業火を意味する大焦熱州
無間州
《ココでは郡、州、区、町又は村。更に丁目、番地、更に細かい区画では号を使います》
「向こうの海外は通りの名を書くんですよ」
『不便では?』
《はい、それだけが原因では無いのかも知れませんが、警察が間違えて突入する事も多いそうです》
「そして住人を射殺する事も有ります」
『変えれば良いのに』
《大規模ですので、馴染ませるまでに途方も無い労力とお金が掛かるので、嫌なのかと》
『つまり人命より面倒を避けているんですね』
《ココからでは、そう思えてしまいますね。では次は北部です》
『はい』
北部は八寒郡、大体半分上です。
頞部陀は、腫れ物。
尼剌部陀は、しもやけ。
頞哳吒は、嗚咽。
臛臛婆は、呻く。
虎虎婆は、口ごもる。
嗢鉢羅は、青い蓮。
鉢特摩、赤い蓮。
摩訶鉢特摩、大きな赤い蓮。
コチラも州です。
《正式に住所を書く場合は、こうです》
八大地獄
〒0ー01ー04ー03
八熱郡
等活州
道具箱区
白蓮町 3ー1
道具箱は、本来は多苦処。
あらゆる者に拷問の様な苦痛を与えた者、燻され焼かれる等、様々な道具をも使い苦しめる場所。
だそうです。
『私でも直ぐ探せます』
《ですが戦時下に於いては問題となります、ですので敢えて通りの名を使用している、とも受け取れますね》
『何故戦争をするのでしょう』
《人のモノがどうしても欲しくなる、それが無いと死んでしまう、と言う妄想等々。様々な理由が有るかとは思いますが、時には良かれと思い、侵略してあげる場合も有ります。はい、スズランの姫、例をどうぞ》
「明らかな圧政、教育や命の使い方を間違えている場合」
《若しくは、虐められている場合。必要なモノを売らず、協力せずに喧嘩を売り、果ては侵略しようとする》
『困っているなら先ずは助けを求めるべきでは』
《助けを求めては弱っている事を示してしまう、攻め入られてしまう危険性が有る》
『でも喧嘩を売るんですか』
《欲張りなんです、広い土地を奪ったのに、活用を考える前に更に拡大させようとする。奪えた味が忘れられないか、奪われる恐怖からか、若しくは統率の為か》
『統率の為』
《敵を作れば味方が出来る。どんなに間違っていても、言い続ければ真実となる、そうするしか無い。そう思っての事、かも知れませんね》
『良く分かりません』
《そうですね、私もです》
ココだけなのか、又は特別なのか。
勉強道具がそもそも違う。
半透明な下敷き形タブレットと黒板が同期しており、先生の解説文や図の配置を自在に変えられ、ヒナちゃんやユノちゃんが書き足した内容まで閲覧出来る。
コレ、向こうで欲しいわ。
『はい、終わりました』
《はい結構です、では休憩にしましょう》
見様見真似でヒナちゃんが住所を書けた所で、休憩へ。
教師の方は人種。
向こうの東の国とココの東の国、それと地獄の専門家。
この知識を持ってしても、王太子妃になれないらしい。
「はい、ほら無理です」
《もー》
《スズランの君は謙虚ですね》
『何処まで覚えればなれますか』
《スズランの君は都度で宜しいかと、基礎と違いは把握してらっしゃいますし、応用も可能でしょうから》
『先生は出来ませんか』
《ですね、他に興味が湧きませんし、幾らでも研究出来ますから》
《奥深いですからねぇ、日本史》
《本当に、なんせ飢饉が無いので一揆は発生した事が無い、ですのでその違いが飢饉だけなのかも解明は未だに出来ていない。考える事、分からない事が盛り沢山ですから》
確かに。
飢饉が無ければ一揆は無く、それこそ羅生門も、大仏も。
いや、大仏は公共事業的に有りそうだけども。
「あの、大きな大仏とかは」
《ふふふ、王太子妃には十分かと。飢饉、羅生門、大仏ですね》
《成程》
『全く分かりません』
《ヒナ様がご希望で有れば、別途、授業をさせて頂きますね》
『はい、追々でお願いします、お2人と沢山遊びたいので』
《はい》
健気、素直、可愛い。
やっぱり悪魔は天使なんだ、うん、ヒナちゃんは天使です。
「ヒナ様、ハグを」
『はい、どうぞ』
可愛い。
可愛いしか無い。
《はい、では細かい地区分けに入りましょう》
私、全然知らなかったんだけど。
地獄って、マジで超細かく分かれてんの。
八大地獄の中に、十六小地獄とか言うのが各所に内包されてるらしい。
等活は殺生を行った者、同罪の者と獣を狩る様に互いを傷付け合い、時に処刑人に叩き潰され切り刻まれるが涼風が吹き何度でも生き返る。
この生き返るのがポイント、等しく活き返る、どんな状態でもこの先は生き返っちゃう場所だよって事らしい。
で、詳しい区分けなんだけど。
・屎泥処は黄金沼区って意訳されてる、確かに糞尿沼は流石にね。
で向こうの地獄だったら、獣を食べずに殺生した者が、糞尿で煮られ虫に食い破られる。
らしい。
実際は大きな池の有る市場がメインの場所、なんだけどね。
・刀輪処は宝剣林区、公園とカフェが主な地区。
必要も無く獣を殺した者、有り得ない程に燃え盛る火の中、剣の雨が降り注ぐらしい。
・瓮熟処は聖杯所、食器とか調理器具の製造所が有ったり、直売場が有る地区。
獣を苦しませてから食べた者、煮られ煎られ、瓶詰めにされる。
・多苦処は道具箱、ヒナちゃんの住んでる地区。
比較的何でも揃う場所で、商店街とか商業施設の集合体って感じで、住むには超便利。
・闇冥処は儀式の間、教会とかが集まる地区。
宗教儀式において不必要に苦しめ殺した者、真っ暗な闇の中でゆっくりと同じ様に痛めつけられた後、時には強風によって全身を砕かれ熱風に焼き殺される。
・不喜処は音楽堂、そのまま音楽堂。
不必要に大きな音で驚かし殺した者、あらゆる生き物に食い千切られながらも焼かれ、骨すら粉微塵になろうとも苦痛が続く。
・極苦処は粗末な部屋、使用人とかが住む庶民街の低層地区、治安は最悪らしい。
気ままに殺した者、おろし金や刃物が生えた様な焼けた山の頂上から転がされた後、その山を登る様に追い立てられるが頂上に着くと再び突き落とされる。
《あのー、見学は》
《ヒナ様以外は、可能ですよ。ヒナ様は、もう少し学ばれて大きくなられてから、ですね》
『はい分かりました』
素直ってだけで、何でこんなに可愛いんだろう。
《では追々で》
「ですね」
《はい、では、以降は名だけが存在していたので、少々独自路線となっております》
・衆病処は療養所、大きな病院とか研究所が有る地区。
看護すべき者を放置又は苦しめた者、万病に苦しむ呻き声の中、あらゆる苦病に苛まれ続ける場所。
・両鉄処は製鉄所、そのまんま。
鉄や銅により苦しませた者、釘や刃物を飲まされ溶けた銅に沈められ、鉄の壁に挟み潰される。
・悪杖処は老人介護施設、療養所に隣接してる。
看護者を杖により害した者、生前の行いと同じ様に叩き突かれ杖の谷に落ち、串刺しになろうとも打ち据えられる。
・黒色鼠狼処は小さな動物園、今度ヒナちゃんと行く予定。
害獣を放置又は無闇に増やした者、鼠や狼に追い掛け回されながら、少しずつ食い千切られていく。
・異々回転処は回転木馬、動物の訓練施設とか研究所、牧場が有るらしい。
生き物を酷使し死なせた者、大小様々な燃える岩や刃物の上を、生き物に突かれ蹴飛ばされながら身を削り取られてる。
・苦逼処はビックリ箱、色んな製造所が集まる地区。
生き物を閉じ込め苦しませ殺した者、前面に棘や刃物の生えた焼けた箱に入れられ、その箱は焼けながら狭まり血が無くなるまで搾り取られる。
・鉢頭麻鬢はスイカ割り、農林水産管理とか、研究所が有るらしい。
生き物を敢えて死を長引かせ殺した者、四肢を鈍い刃物や嘴で八つ裂きにされ、最後に頭を八つに噛み砕かれる。
・陂池処は庭池、国立公園的な保養所だったり、水生生物とかの研究所が有る地区。
生き物を捨て池を汚した者、汚物と銅が煮詰まった鍋で、四肢の先から蛇や魚に齧り取られていく。
・空中受苦処は射撃場、各種族の訓練所が有る場所。
生き物の死体を弄んだ者、獣により空中へと放り投げられる際に四肢が噛み千切られ、残った体に鳥や獣が襲い掛かり散り散りになる。
共用語は英語なのに、基本はラテン読み、意訳も含んでて覚えるのは苦じゃないんだけど。
《あのー、何でこんなに細かいんでしょう?》
《良い質問ですねミモザの君、では先ず、予想をお伺い出来ますか》
《あー、恨みの強さ、ですかね?》
《はい、それも1つですね。ヒナ様、どうでしょう》
『スズランのお姉様の望む地獄が無いと悲しいです』
《はい、それも理由の1つ。ではスズランの君は、どうお考えでしょうか》
この先生、丁寧、だからこそ怠けられないよね。
流石、家庭教師って凄い。
「信者、信仰を集め、道徳を広める為かと」
《はいお手本をありがとうございます、ふふふ》
《やるねぇ〜》
『流石ですお姉様』
「ヒナ様それはダメ、本当」
《恥ずかしぃのぉ》
「恥ずかしがり屋さんですね」
《堂々となさって宜しいんですよ、ココは向こうとは違うのですから》
ネネちゃん、スンってなった。
「確かに、失礼しました、続きをお願い致します」
《はい》
何か、凄く嫌だけど、可愛げが無いって事。
少し分かっちゃったかも。
いや、私は思わないんだけど。
勝手に修正されていくから、コッチからは手助けも何も出来無い、だから頼られなくて小憎らしい。
みたいに、元カレさんがなっちゃったのかなって。
全然、分かんないんだけど。
アレかな、自尊心、もっと言うと男らしさとかの問題かな。
なら違う事で頑張れば良いのに、変な部分に縋って張り合うとか、マジでキモい。
『あ、先生』
《はいどうぞヒナ様》
『八寒にも同じ地区が有りますか』
《はい、正解です。ですので州によっては無い地区も有ります、272も覚える必要は有りません》
「成程」
《良かった、流石に272は無理だよぉ》
《ですよね、ふふふ》
本当、良い先生だなぁ。