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77 歯科医師マリーと異世界。1

 早速、次の日にヒナちゃんが来てくれる事になり。

 村の入り口で待ち合わせをしたんですが。


《実は俺は……》


 まさか、患者さんが。

 いえ、元患者さんが詐欺師だったとは。


「あの、それで」

《だから俺は近付かないが、頼めるか》


「それは、全然、構いませんが」

『訴えられて無い凄腕詐欺師です』

《あの時までは、な、今は分からない》


 正直、もう結婚していますし、夫も一緒なので危機感は感じませんし。

 あの情報からしても彼は虐待を受けていた事が有る、それに、犯罪者でも患者は患者さんですし。


「んー、訴えられていないそうですし、犯罪者では無いと思うんですが。どう、対応するのが正しいんでしょうね?」

《君の思う通りで構わないと思うよ、宜しく女王様》

『ヒナです、宜しくお願いします』


《じゃあ、取り敢えず僕らは先に行こうか》

『はい、私は歩くのが遅いので丁度良いと思います』


《そう、じゃあ行こうか》

『はい』


「あの、もう少し、詳しくお伺い出来ますかね?」

《最初は、ホストから始めた事だった……》


 経験は全く無いですが、そうなってしまったのは何だか分かった気がしました。

 だって、母親は女、復讐心が有ったって不思議じゃないですから。


「別に、私は、気にしませんが。やっぱり、ちょっとおかしいんですかね?」


《そう尋ねられるのは、正直、意外だった》

「本当に、経験が無いので分からないんですよ。確かに理屈では分かりますよ、でも素人が書いたマニュアルが犯罪要因だ、は流石にやり過ぎだと思うんですよね。だって、自称専門家だとか専門外の筈の教授や医師が、効かない健康食品を大々的に宣伝してたりってザラですから」


《はぁ、まさかの穏健派だったか》

「私、単純なので、もし自分が同じ立場だったらしてたかもなって思っちゃうんですよ。心って目に見えないじゃないですか、それに皆が皆全部気付けてたら、そもそも犯罪も戦争も無いだろうなって」


《まぁ》

「ただ、被害者の方に私が会ったら態度を変えるかも知れませんが、それをご了承の上でご同行願います」


《良いのか》

「はい、アナタにも見せ付けてやりますよ、普通の家とやらを……」


 洋式ですけど、ウチはバリバリの農家。

 実家もそうだったので、歯科医師になれたらもう、親族も呼んでお祝いですよ。


 そして親族にも愚痴って、そこで見逃されなかった子は無事に親元から離れた。

 でも、責められたんですよね、人様の家に首を突っ込んだって事で村八分。


 で、引っ越した。

 正直、引っ越した者勝ちですよ。


 車が無くても生活出来る程々の場所に住んで、直ぐに買い物にも行けるし病院にも行ける。

 足が無いって、本当に大変なんですよね、田舎って。


《分かる、ウチも、そこまでじゃないが田舎だった》

「本当、不便ですよねぇ。買い出しに出たら纏め買い、新作を買うのに車で出掛けて、病院に行くまでも時間が掛かるし医者を選べない」


《何で、戻らなかったんだ》


「疲れちゃったんです、あの子の事が起きた直ぐ後で、やけくそででんぐり返してたらココだった」


《頭、打って無いよな》

「それが不思議なんですよね、カーペットの上でゴロンとして、視界が変わったらココだった」


《トラックとかじゃないのか》

「トラック?トラックの移動中に移動するんですか?」


《いや、こう、引かれる直前とかに》

「それ、戻ったけど四肢麻痺で感覚が残ってたら最悪なんですけど」


《あぁ、確かにな》


「えっ、そうした、方で?」

《いや、実は、そこら辺の記憶が無いんだ》


 良く知らないんですが、篩に掛けられた来訪者には良く有る事、らしいんですよね。

 で、その篩の衝撃で、記憶が曖昧だって。


 しかも、言葉の恩恵が無い。

 成程。


「何か、特別な訓練を受けられた感じですかね?」


《だな》

「成程、じゃあ私が気にする必要は無いですね、その篩ってしっかり機能してるって教えて貰いましたから」


《あぁ、知ってるのか》

「いえ、殆ど知りません、でも最近の状態について尋ねた時にザックリと聞いたんです。詳しく聞いても、所詮は凡人の考えしか出ませんから、敢えて聞きませんでした」


《何でも深く首を突っ込めば良いワケでも無いし、良いと思うがな》

「ですよねぇ、自分、不器用ですから」


《古い映画好きだったのか、家族の影響か》

「残念、名言集が大好きだったんですよ、良いのをネットで拾って印刷して手帳に集めてたんです」


《良い趣味だな、それ》

「はい、かなり良い趣味だと思います、雑談にも使えますから」


《積載量は個々人、しかも適材適所だと思う》

「ですよね、だからアナタも、積載量には気を付けて下さい。パンクする子も増えてるみたいですから」


《ぁあ、ココ、少し独特だからな》

「そうですかね、凄い単純だと思いますよ、出来無い事は諦める。死も生も特別じゃない、当たり前、でもだからこそ大変にする……」


 死を悲しみ過ぎるから、報復を考える。

 生を喜び過ぎるから、執着を覚える。


 ココで覚えた事ですが。

 寧ろ、それこそが自然だと思うんですよ。


 過度に悲しみ過ぎない、過度に恐れない、特別にしない。


 森林地帯のとある部族は、母親が子供の生死を決める。

 土地に還すか、育てるかを決める。


 でも、ココでは誰かが担ってくれる事も有る。

 生きる苦しみを終えさせてくれる、誰かが居る。


 だからこそ集団を大切にする、周囲を大切にする。


《俺もそう思う》


「あー、言わせましたね、流石詐欺師」

《すまない、悪かった》


「いえいえ、ココでは試す事も許されてますし、嫌う権利も有るから大丈夫ですよ」


 輪を乱さないなら、嫌ったって良い、避けたって良い。

 それが集団に何の問題も齎さないなら、好みは個人の自由、ですから。




『綺麗な泥ですね』

「でしょー、泥なのに白くて綺麗、しかもお肌にも良い」

《あぁ、パックか》


「はい、もう大変だったんですよ、皆さんの歯が綺麗だから食べていけないって」

《で、ロバか》


「歯磨き粉でも有名な場所が出して無い、謎の歯磨き粉とか向こうに有ったじゃないですか」


《あぁ》

「で、どうなんですかって聞かれるので一応調べるワケですよ。で、漢方が気になって、そのお陰でロバに繋がった」


 あの時は本当に面白かった。

 方々を回って呆然として、それから半泣きで悪魔に相談をして。


 それを僕らは見てた。

 いつか、僕らを必要とするんじゃないかって。


『では、泥はどうしてでしょうか』

「コレはもう、歯を治すにはどうしたら良いか、ですね。専門なので何から出来てるかは知っていたので、この方に協力して頂きました」


《やっと、僕の出番だね》

「ですね」


《僕は歯の妖精。しかも虫歯の乳歯が大好物で、良く夜中に子供達へお菓子を内緒で食べろと唆していたんだ》


 願ってたけど、唆すまでは出来無かった。

 痛いのは僕らは大嫌いだから。


『実に恐ろしい妖精ですね』

「前半は本当、後半は嘘、お腹が空いて泣いてたのを拾ったの」

《はいはい、1つは確実に本当。それでこの子が僕らに言ってたんだ、歯を作りたいから誰か協力してくれないかって、けど僕以外は特に興味を示さなかった。綺麗な乳歯が好きで、皆は満たされていたから》


 お腹が減っても死ぬワケじゃない。

 でも、仲間は悲しそうにするし、僕も悩んだ。


 何故、どうして、こうなんだろうって。


『虫歯は何味ですか』

《僕には甘くて美味しいけれど、他は苦いらしい》

「なので私が成功したら、アナタに少しは虫歯をあげられるかもって、唆した」


 そこは本当に打算だけだった。

 歯が簡単に治れば、虫歯も増えるかもってね。


《お腹が空いていた僕は、言われるがままに泥の有る場所を教えて、暫くして彼女は成功させた》

「勿論、自分を実験台にしてですからね、何か失敗したら怖いですから」


 何回か失敗すると思ってたけど、彼女は1回で成功させた。


『自分の体の心配はしなかったのですか』

「しましたけど、誰かを犠牲にする方が嫌ですから」


『お兄様は若葉マークのサンドイッチを食べて大変な事になりました』

《バカだね君は》

《面目無い》


『マークの事を私も教え忘れてました』

《けれど見れば分かるだろうに、その為に向こうのマークと同じにしたって聞いたよ》

《仰る通りで》

「けど、今回は魔女狩り事件と同じ事が起こらなくて、本当に良かったと思う」


《あぁ、アレは俺も読まされた》

『はい、お兄様は人種ですから、お腹を壊した後に読み聞かせました』

《手間の掛かるお兄さんだね》


『はい、でも構いません、家族ですから』

「良い子だねー」

《で、完成した歯が凄く綺麗だったから、死後に歯を貰う為に結婚したんだよ》


 本当に、綺麗で美味しそうだった。

 舐めたくて、齧り付きたい位に綺麗で。


『乳歯で虫歯が好きなのでは』

《そうなんだけどね、食べたくなったんだ》


『相性が良かったんですね』

《うん、その時に初めて分かって驚いたけど、ちゃんと気付けて良かったと思う。こんなに美味しそうに見える綺麗な歯は、初めてだから》


 僕だけが違ったと思ったけれど、違うのは少しだった。

 歯の妖精は、好みの歯を持つ者に恋をする。


『黄色い歯は何味ですか』


《悲しくなるけど美味しいよ、だから最後の最後、どうしてもの時にだけ食べる様にとっておいたんだ。他の皆も、美味しいけど悲しくなるから、僕に回してくれてた》


『病気だった歯は悲しいですか』


《病気じゃないのに薬を飲まされていた子の歯が、1番悲しいね》


『何故、飲ませるんですか』


《僕らがお茶を淹れる間、お兄さんに聞いてご覧、きっと分かる筈だから》

「ごめんなさい、ありがとう」


 経験した病の数だけ、味が変わる。

 そして悲しみの分だけ、僕らも悲しくなる。

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