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75 放っておいて欲しかった。

 ココは、酷い世界だ。


《助けて下さい》


 誰も立ち止まってくれない。

 コッチすら見てくれない。


 誰も。


『どうしましたか』


 真っ白な、綺麗な服を着た小さい女の子。


《困ってるんです》


『はい、そう見えます』


 小さい子だから、言わないと分かんないのか。


《誰か、大人の人を呼んでくれるかな》


『何故ですか』


 小さい子だから、そこも言わないと分かんないか。


《僕、困ってるから助けられそうな大人を呼んで来て欲しいんだ》


『各当する者が誰か分かりません』


《あぁー、えっと、ココの偉い人を呼んできてくれるかな》


『何番目の、でしょうか』


 だから馬鹿な子供って大嫌いなんだよ。


《じゃあ、1番で》

『分かりました』


 ちゃんと呼んで来てくれよ。

 頼む。




《ヒナ、どうだった》

『1番偉いのを呼んで来てくれと言われたので、コレから呼びに行きます』


《そ、そうか》

『はい、一緒に行きましょう』


 正直、気が乗らなかった。


 無いとは思うが、何か叱られるんじゃないか。

 何か言われるんじゃないか、そう警戒していたんだが。


 そもそも、規模が違った。


《城、デカい》

『はい、王様ですから』


《そうか、王様か》

『はい、ですが地方分権です、でもルールは統一されています。他に行って問題が起きては困りますから』


《ある程度、地方自治が認められてる、って事か?》

『はいそうです、でもその責任は最高位です』


 そうして初めて王様に会ったが。

 本当に、ただの壮年の男にしか見えなかった。


「散歩に行こうか」

『はい』


 単なる優しそうな人種に見える。

 だが、悪魔、天使の側面も有るが悪魔だ。


「バアル・ゼバブだが、何か」

『王様を呼んで来ました』




 確かに、1番偉いのって言ったけど。

 何で。


 どうして、こんな事になってるんだ。

 異世界に来たのに、誰も何もしてくれない。


 話し掛けても、声を掛けても無視。


《何で、どうしてなんですか》


「何が、だろうか」

《何がじゃないですよ!僕、ずっと無視されてるんです、誰に声を掛けても話し掛けても無視。だから僕、困ってるんです、寝る場所も食べるにも困ってるのに》


「君は、放っておいて欲しかったんじゃないだろうか」




 その言葉で全てを思い出した様な顔をしていた。

 本当にココは便利だ。


《違う、そうじゃ》

「放っておく、つまりは何もしない事、じゃないだろうか」


《違う、こんな》

「では、暫くは何も言わず見守っていて欲しい、と言ったのか」


《それは》

「生活を維持する為の家賃や生活費は払ってくれ、但し僕の事には口を出すな、けど必要な時には手助けをしろ。親なんだからそれ位は言わなくても分かれよ、か」


《そこまでは言って》

「では、何なら言ったんだ」


 そうして時が止まると、飽きたのか諦めたのかヒナは踵を返した。




『何故、言わないんでしょうか』


《俺にも良く分からないんだが、大概、あの場合に何か言えるかどうかで変わる。アイツは言えなかった側、だから言えなかった》


『良く分かりません、放っておけと言われたら本当に何もされない筈ですが』

《まさか、親が僕を捨てるワケが無い。まさか、親が世話をしないなんて有り得ない。まさか、親なんだから言わないと分からないなんて思わなかった》


『自分を、精霊種だと勘違いしていたんでしょうか』


《まぁ、だな》

『なら仕方が無いです、でもコレで分かった筈です、精霊種では無いと』


《どうだかな、精霊種だと思い込んでたには理由が有る筈だ。それが解決しない限り、自分を単なる人種、とは受け入れないんじゃないか》


『そうですか』


 悪魔にも救えない者が居ます。

 願いが無かったり、願いを良く分かっていない者です。


 でも、私も何も無かったのに。

 こうしてココに居る。


《今日は》

『私には何も有りませんでした、なのに、どうしてココに居るんでしょうか』


《逆に、何も無かったからじゃないか、アイツは中途半端に持ってたから困った事になっただけ》


『そうかも知れません』


《アイスとケーキ、どっちが良い》


『今日はお兄様のおにぎりが食べたいです、家族のおにぎりは食べた事が有りません』


《ネネのは》

『ネネさんはお友達です、親しいですが家族とは少し違う気がします』


《有るのか、ならアレは伯母さん相当だ、有るには有る》

『ですが一親等のは無いです』


《俺が1番身近か》

『はい、お兄様ですから、1番身近な家族です』


《何味が良い》

『歩けます、どうして抱っこしますか』


《機嫌が良いと抱き上げる事も有る》

『そうですか、味はお任せします』


《梅も入れるからな》

『デザートを食べる分は残しておいて下さい、甘い物は心の栄養です』


《あぁ、だな》


 抱き着いて欲しそうだったので抱き着きました。

 撫でられました。


 ネネさんも、良くそうしてくれます。




《すみません、ゼパル子爵ですか》

「そうよ、どうしたのかしら?」


《あの、暫く、泊めて頂けませんでしょうか》


「ごめんなさいね、もうウチっていっぱいいっぱいなの。代わりに通貨をあげるわ、好きなだけ持っていて頂戴」

《ダメなんです、それだけじゃ。家が無いと宿泊所にも止まれないんです、お願いします、せめて一晩だけでも》


「無理なの、ごめんなさいね。身綺麗にだけはさせてあげるわ、はい」


 金だけ有ったって、どうにもならない。


《お願いします、泊まる場所を下さい》


 泊まるには宿泊名簿に名前と、住所か保証人の名前が必要になる。

 万が一にも何か有った時、誰かに責任を取って貰う為。


 けど、俺には家も保証人も無い。


「本当に、ごめんなさいね。あぁ、ラウム男爵の家には」

《もう行きました、ダメでした》


「そう、じゃあ」

《ボティス侯爵もカイム子爵もダメでした》


「まぁ、でしょうね、相性は悪いもの」

《じゃあ、どうしたら》


「あ、図書館が有るわよ。しらみつぶしに行くより、良いんじゃないかしら。じゃあ、もう良いかしら、忙しいの」


《はい、ありがとう、ございました》

「いえいえ、じゃあね」


 その後、図書館へ行ったけれど。

 結局はしらみつぶしに行く事になり。


 最後の最後、ビフロンス騎士爵だけが残った。


《あの、ビフロンス騎士爵のお宅でしょうか》

《そうよ》


 西洋式の大きな扉いっぱいに大きな、茶色い髪の綺麗な女性にしか見えないけど。

 彼女も、悪魔。


《あの、家に、泊まらせて頂けないでしょうか》


《それだけ、で良いのかしら》


《出来るなら、保証人に、なって頂けませんでしょうか》


《それ、私に何のメリットが有るのかしら》


《出来るだけ、何でもします、だから》

《アナタじゃないと出来無い事って、何かしら?》


 分からない。

 ずっと考えてた。


 ココには魔法が有る。

 けど、僕みたいな転移者は他にもいっぱい居る。


 しかも悪魔は知識が豊富。

 僕に、得意な事は、何も無い。


《何も、無いです》


《ふふふ、そんな事は無いわよ。アナタにはアナタの物語が有る、いらっしゃい》


《はい、ありが》

《但し、本当に、保証人だけで良いのかしら》


《あ、それは。出来るなら、今日は、泊めて頂きたいです》


《泊めるって、何処から何処までの事を指すのかしら。お風呂や食事、挨拶や軽い会話、トイレを貸す事も含まれているのかしら》


 僕が、親に放っておいてくれなんて願ったから。

 ココは、忠実に叶えようとしてくれてる。


《ははっ、あはは》

《ふふふ、伝えると死んでしまう様な苦痛を味わう呪いにでも掛かっているのかしら。可哀想ね、ふふふ》


 ただ、放っておいてくれとしか思って無かった。

 放っておいてくれとしか、僕は言わなかった。


《ごめんなさい》


《何が、かしら》


 ココの名前はゲヘナって言われてた。

 そうだ、ココは地獄なんだ。


 親に甘えた罰なんだ。


《詳しく言わないで、ごめんなさい》


《本当にそうね、さ、いらっしゃい甘えん坊さん》

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