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72 監督所。

『では、衛生の授業を始めます』


 意外にも監督所には大勢の人が居た。

 しかも、東西南北、様々な者が。

 

 どうやら捻じれの修正の為、各国の者が一斉に来ているらしい。


 では何故、今でも多くの東洋人が外で若葉マークを付け働いているのか。

 それは単に、悪魔の存在を許容出来てしまうから。


 悪魔には天使の側面も有る、と聞けば殆どが納得し、問題にしなかった。

 けれど、他は違った。


 自身が信じる宗教への冒涜だ。

 そんな筈は無い、騙そうとしているんだ。


 帰る、帰してくれ、と。

 まぁ、大暴れ。


 そうして監督所に入れられ。

 真面目に学ぼうとする者、不貞腐れて部屋に引き籠る者、と更に分かれる。


「はぁ、申し訳無い、ボティス伯爵」

《いや、君が気にする必要は無いよ、なんせただの一般市民なのだからね》


「まぁ、正直、背負える気がしませんし」

《こうなった責任をたった1人で負える者なんて、居ないよ》


「皆の責任」

《先代の、ね。さ、次へ行こう》


 刑務所でも無く、更生施設でも無い。

 監督所。


 ココで生きるに際し監督が要らなくなるかどうかを監督する場所、ある種の学校なのに。

 何故か、必ず不良が生まれる。


『おーい、アジア人、どう誑し込んだんだ』


 指で目を引っ張るアレ。


「初めてされました、やっぱり国を出なくて良かった」

《気にしていなくて助かるよ、彼は自国の地図もマトモに読めないからね》


「あぁ、ならアジアの何処の者か分からないでしょうね」

《だね》


 どうやら大きな事件や事故で亡くなった方も、時差有りでコチラに来ているらしく。

 あの装置はフル稼働、ある意味でココは待機所にもなっているらしい。


「そんなに、ですか」

《大丈夫、敢えてだよ、いっぺんに処理したらつまらないからね》


 じっくりと精霊や悪魔は楽しんでいるらしい。

 仲が良くなれば心打たれ、後悔すれば共に悲しみ、改心すれば喝采が生まれる。


 アレは、ココのテレビとなった。

 水晶玉や鏡で覗ける、最高の娯楽。


「本当に、良かったんでしょうか」


《傷には様々な薬が必要だけれど、結局は縫合するに限る。筆舌に尽くし難い行為を行われた者程、その存在を喜ぶんじゃないかな》


「まぁ、かも知れませんが」

《大丈夫、彼は(ヴィデンス)球体(スファエラ)が存在を許した者、それにココが必ずしも救いになるとは限らない。そう、アレから見ていないんだね》


「はい」


 試験運用時はヒナちゃんも居たので、映像や音声は後程にとの事になった。


 そして確認すると、やはり本物は違った。

 音声や映像を確認出来ず、私は文字起こしだけで確認をした。


 その中に、あの男性が居た。


 ヒナちゃんの兄。

 天才詐欺師が。


《アジア人とだけ仲良くするなんて!人種差別よ!!》

『ココでも、俺達』

《はいはい、残念だけれど違うよ、静かにしようね》


 肌の色に関係無く、理性的、と言う言葉からかけ離れた存在。

 母国にも一定数居るが、そもそも母数が違う。


 それらを野放しにすれば、大事なモノが傷付けられる。

 コレは自己防衛。


 ココの自衛策。


 鳥居や桜の樹で懸垂していた者は、本当に、十字架や国旗で剣道をされても喜ぶのだろうか。

 いや、喜ぶのだろう、同じバカで嬉しくてチビってしまうんだろう。


「はぁ、人種として本当に申し訳無い」

《はいはい、気にしない、気にしない》


 何故、大昔の人種が人種では無くなりたかったか。

 多分、これらのせいでしょう。




『牡蠣であればノロウイルス、カレーならウエルシュ菌、卵にはサルモネラ菌。とても身近ですが、この世から全て消すのは難しい、何故ならバランスが崩れ更に驚異的な細菌やウイルスが出てしまうかも知れないからです』


 ココには真面目に授業を受ける者、真面目に受けぬ者が居る。


「ちょっと当たり前を知らないからって、ココまでするのって、本当に酷いと思うの」

『本当、少し失敗しただけで、まるで刑務所みたいな所に入れられて』

《たった1回、失敗しただけなのに、凄く厳し過ぎだよね》


『そして清浄魔法ですが、何にでもは使えません。簡単に原理をご説明致しますと、皆さんなら有機物、で分かるとは思いますが、その有機物を原子にまで分解するのが清浄魔法です。ですので、生きている者に使うとどうなるか、その魔法の効果が有った範囲の血肉が全て消えてしまいます。そうしていずれは簡単に殺せてしまう、ですので精霊や悪魔がココの者には使えなくさせ、生活圏内にのみ魔法を行使しているのです』


「まるで完全管理だよね」

『ね、奴隷制度みたい』

《本当、厳し過ぎだと思う》


 何故、不真面目な者と混在させているのか。

 それは間違い、を可視化しているからに過ぎません。


『そしてマヨネーズに関してですが、既に代替品が存在している事をご存知無い方が多いらしいのですが。ニンニクの入ったアイオリやアンチョビの入ったバーニャカウダー、レモン汁を使ったオランデーズソース、エシャロット等が入ったベアルネーズソースが既に御座います。ご興味が有りましたら、コチラも併せて調べてみて下さい』


「何か、馬鹿にされてる気がする」

『それ位、知ってるのにね』

《やっぱり、ココって何か合わないよね》


《あのー、先生》

『はい何でしょう』


《生野菜は、専用業者から購入しなければならないって、本当ですか》

『はい、肥料に糞を使う所が殆どですので、生で食べても食中毒が起きない育て方が出来る農家が必要となり。そう実際に育てられているか、監督するのも販売業者の仕事ですので、そうなっておりますよ』


《そう、ですよね、ありがとうございました》


「あの子、やらかしたんだ」

『ダッサ』

《少し考えれば分かる筈なのにねぇ》


 何故、間違いを可視化させているのか。

 それは不真面目な者がどんな道を辿るのか、知らしめる為。


『まだ授業に慣れていない筈ですが、どうやら余裕の有る方が居るみたいですね、口を動かしたいならココで教科書を読んで頂けますでしょうか』


 愚か者は黙ったまま、授業後も謝罪には来ない。

 コレも、悪しき見本の1つ。


『あの、今日は、ココまで、で大丈夫ですか』

『はい、良く聞いてらっしゃいましたね、その通りですよ』


『はい、すみません、ありがとうございました』

『いえいえ』


 学ぶ事が難しい者。

 真面目にしたくとも難しい者も居る。


 だからこそ、授業は短時間で終わらせ、自習に任せる。

 それは出来の良い教科書、そして教師が居てこそ。


《先生ごめん、ココまでしか聞いてられなかった》

『そう、良いのよ、今日はココまで』


《後ちょっとだったんだ、ありがとう先生》

『いえいえ』


 誰でも間違いを犯す。

 けれど問題は、どう償うか、どう活かすか。


「先生、話し合って、頭に入れたいんですが」

『ならあの子とあの子が良いわね、行ってらっしゃい』


「はい、ありがとうございます」

『いえいえ』


 誰にでも学ぶ機会は与えらえるべき。

 ただ、粗末にしたのなら、その先の不始末は自業自得。


 学ぶべきだと教えなかったのが悪い?


 不思議ですね。

 学びには期限は無いと言うのに。




『あ』

「終わりましたか」


『はい、終わりました、早かったですね』

「はい、少しだけ、ですね」


 ネネさんが嘘を言いました。

 多分、何か問題が有ったのだと思います。


 でも、言わなくても良い事、なのだと思います。


『動物園か赤ちゃんの保育園みたいでした、とても大人とは思えません』

《凄かったからな、悪魔の子だー、は聞き取れた》

「それはまた、騒々しかったかと」


『いいえ、そうですよと言ったら静かになりました。言っていた方は驚いて固まっていました、全く意味が分かりません』

《ヒナ、罵詈雑言は分かるか》


『汚い言葉で罵ったりする事です、事実や虚偽が混ざったりもします』

《そう、アレは言葉を投げただけ。思う通りの反応じゃ無かった、しかも受け止められるのは勿論、投げ返されるとは思わなかった》


『何故です』

《言うだけ言って鬱憤を晴らせたり、良い思いが出来た成功例が有る、若しくは失敗が身に付かない》


『それは危険では』

《だから下らない喧嘩で死ぬ奴が居る、酔っ払いもそうだ。酔ってたから、で難を逃れた事が有るから酔っぱらう、で殴って死なせる》

「まさか、有ったんですか」


《辞めさせた奴が客をな、ヒナの母親は飲んでなかったのか》

『はい、真っ赤になるので匂いも嫌だったそうです、お父さんに言っているのを聞きました』


《良く覚えてるな》

『はい、数えられる程度ですから』


 偶に、誰かが邪魔をします。

 悲しんでいるのかどうか確認したいのに、気配を邪魔する誰かが居ます。


《そうか》

『ボティス、邪魔されます、何故ですか』

《それは気配だけじゃなく、君が表情を読める様になって欲しいから、じゃないかな》


『何故です』

《読まれたくない者が居たら、読めない場所に居たら、必要な事じゃないかな》

「成程、ココの子はそう育つんですね」


《はい》

《成程な》

『分かりました、でも不安です』


《人種はね、もっと不安なんだよ、だから言葉も大事にする》


『ちょっと、悲しくさせてしまう事を言ってしまったかも知れないです』

「大丈夫ですよ、少しだけ、母子家庭なら良く有る事ですから」

《だな、俺はアレが初めてだったしな。でも全く、傷付かなかった》


 嘘かどうかは邪魔しない。

 邪魔する意味が無いからでしょうか。


『何故、傷付かなかった、と敢えて言うのでしょうか』

《甘い想定をしている奴は、あの反応で傷付く、けど俺の想定通りだった》

「相手に瑕疵が有ったにせよ、アナタには無い筈では」


《自己防衛だよ、少しでも罪悪感が有るから突っぱねた、傷付けられない様に》

「ですが、今度は向こうの想定を超えた」


《酷い女に育てられたから、きっと酷い女に違い無い、じゃないと俺が捨てた正当性が崩れる》

「で崩れた、アナタ、ココでカウンセラーをしたらどうですか」


《嫌だね。俺も、真似するワケじゃないが、あんまりなのは嫌いなんだ》

「ウ〇コビーム」

『ビーム』


《反応速度が凄いな》

「ココ暫くは避ける為に生きてた様なものですから」

『ウ〇コビームの威力は何ですか』


「馬鹿が嫌いな男や女を退ける事が出来ます、因みに米俵ビームも有ります」

『米俵ビームの威力は何ですか』


「一揆を起こそうとする農民に効く」

『強い』

《家族でもそんな風にしてたのか?》


「あ、まぁ」

《アンタこそ、キャバクラで働けば良かったのに》


「下戸なんです、甘酒で爆睡出来る程」

《ほう》

『何かしたらウ〇コビームします』


「あ、賢い猿は気に入らない者にウ〇コを投げるそうです」

『臭そう』

《良い年の婦女子がウ〇コ連呼するな》


「ウ〇コウ〇コ」

『喰らえ、サルモネラビーム』


《うっ、本当にやられた》

「可哀想に、何でも食べるからですよ」

『はい、若葉マークには注意しましょう』


《はい》


 サルモネラビームは強いです。

 大概の人種に効きます。

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