70 マヨネーズとオムライス。
『では、改めてお伺いしますが。害をなす気も悪気も無かった、と』
『はい』
『以上で宜しいでしょうか』
『はい』
『では、被害に遭われた方から以下の様に嘆願がなされておりますので、お知らせします。被告人が罪を認めるだけに留まった場合、以降、飲食物に関わる一切に近付けない様に。との要請でした、ですので判決は、飲食物に』
『まっ、待って下さい、お金なら払います。だから』
『どうぞ、続けて下さって構いませんよ』
『出来るだけ、治療費や、損失を補填しますので』
『お幾ら、でしょうか』
『それは、分からないので、弁護士に』
『お尋ねしたいのですが、向こうでもご自分が提供する相手の事を、全く知らずに提出なさっていたのでしょうか』
そんなの別に、向こうなら気にしない事なのに。
ココって、そんなに、気にしなきゃいけないなんて。
『はい、殆どは、はい』
『そうですか、成程。では弁護士とご相談なさって下さい、一時休廷とします』
仕事をしなくちゃならなくて。
だから出来る事をしてただけなのに。
何で、どうしてこんな事に。
《弁護士が到着しましたが、どうなさいますか》
『あ、通して下さい、お願いします』
《はい》
綺麗な人だった。
ぴっちりしたスーツで、まとめ髪で、眼鏡をしてて。
『あ、あの』
「十分に火が通っていない卵料理、商品名オムライス、を提供なさり食中毒を出した。でお間違い無いでしょうか」
『はい』
「では、金額の計算ですが、お相手方の情報がまだ有りませんので調査してまいります。コチラでもお読みになってて下さい、では失礼致しますが、何か問題が有りますでしょうか」
『いえ』
「では、失礼致します」
異世界の弁護士さんって、こんなに冷たいんだ。
「成程、ご愁傷様です、お見舞いの品ですどうぞ」
《すまん、舐めてた》
「異世界ナメプざまぁ」
《本当にな、抗生物質も、耐性菌の事は全く考えて無かった》
「頭でも打ちましたか」
《いや、真面目に》
「いや不真面目だからこそ、抗生物質を軽く考えてらっしゃったのでは」
《いや待ってくれ、俺はしっかりと避妊も》
「あらそうですか、是非お聞かせ下さい、避妊具による性病が回避出来る割合や避妊成功率も」
《それは》
「約30%から18%に低下する、ですが、まだ2割も可能性が有る」
《そこまで浮気されてたのか》
「はい、複数人、しかも私より長い付き合いの者も居たそうです」
《悪かった》
「性病も薬で治りますが、耐性菌はもう、ご存知ですね」
《あぁ、スーパー梅毒とかな》
「鼻、有りますね」
《元からだ》
「ですので分かりますね、耐性菌、性病について私は厳しい」
《あぁ、流行り病が大流行する前に、誰もが使ってたら効きも悪くなる》
「それに食中毒も流行っては困ります。お見舞いの品に納豆や味噌を入れましたが、お好きで無いなら結構です、ヒナちゃんにあげて下さい」
《有るのか》
「そりゃ有りますよ、東の国だって有るんですから」
《まぁ、そうか》
「お好きですか、納豆」
《ただ、出来るなら、ひきわりが良いな》
「入ってますよ、両方」
《天使か》
「それと果肉が有る物は控えて下さい、胃腸を刺激しますから、それと麺類は良く噛む様に。そうめんとうどんの乾麺も差し入れに入ってます、どうぞお大事に」
《アレは、汁は》
「執事君が作れるかと」
《あぁ、アイツな》
「まだ不仲ですか」
《いや、まぁ、世話はしてくれるが。頼むのは、気まずいな》
「そうですか」
《助言が欲しいんだが》
「仲良くする利が有るならした方が良いのでは、賢いのでしょう、お兄様は」
《何か、弟に言われてるみたいだな》
「と言うかアナタは叔父ですかね、クソ不出来な叔父」
《ヒナの前で》
「クソとか言いませんよ、でもこの前のウ〇コは驚きましたね、何処からその子供らしさが出たのかと」
《そこかよ》
「子供らしくないですか?躊躇い無しにウ〇コって言うの」
《アンタも言ってるが》
「排泄物が何か、あ、それとヨーグルトも良いですよ。色々と試してみて下さい」
《いきなり食い物の話に戻すか》
「戻すと言えば、他にも卵でやらかした方々が居るそうで」
《居るのか》
「そう吐き出す様に言われましても、アレも一種の排泄物ですからね」
《まぁ、そうだが》
「生野菜は勿論、マヨネーズに半熟オムライス、マシュマロやカスタードでも出たそうで」
《オムライスでもか》
「割り入れて暫く経った卵液を使えば、例え感染源が微細だろうと感染が広まるかと」
《あぁ、成程な》
「私は茶碗蒸しでもヒヤヒヤしていたのに、何故ですかね」
《まぁ、向こうの、しかも母国の衛生観念と同じだとでも思ったんだろ》
「0じゃないんですけどね、サルモネラや大腸菌感染、生産者が保菌している場合も有りますから」
《あぁ、玉ネギか、そうだな》
「で、提訴なさったそうで、お好みじゃありませんでしたか」
《いや、加害者にも人権を、だとかほざいてるらしい》
「成程、頑張って下さい」
《そこまで怒らないんだな》
「勉強が大変ですし、そう流される世界でも無いですから」
《安心と信頼の実績か》
「ですね、そんななら、もうココはとっくに消し飛んでる筈ですから」
《まぁ、そうだな》
「追加で納豆が欲しいなら仰って下さい、腸の状態が戻るには、長く掛かりますから」
《ありがとう》
「いえいえ、では」
まだ調子が悪そうですね。
少し執事君には手加減を頼みましょうか。
「お心遣い、ありがとうございました」
「いえ、ですが追加の納豆や麺類の汁を頼む事も有るかと思います、ヒナちゃんの看護の見本にお願いしますね。今は寧ろ、気味悪い程に優しくしてやって下さい、もっと反省するでしょうから」
「申し訳御座いません、実は僕が、若葉マークについての確認を怠った為に起こった出来事なんです」
「あら、それは全く知りませんでしたが。ならアレは天罰ですね、私も馬鹿にしておいたので気にしないで下さい、コレは天罰です」
「すみません、ありがとうございます」
「いえいえ、出過ぎた真似をしました。お疲れ様です、では」
「はい、では」
さぁ、実際、どう思ってしていたのか確認させて頂きましょう。
『私、出来る事が少なくて、だから料理が出来無くなったら本当に困るんです』
「でも半熟オムライスを出してしまった」
『それは本当に、ダメだなんて思わなくて、本当に申し訳無いと思います』
「半ばパニックだとは思いますが、弁護士の方は」
『あ、はい。でも、どうしたら良いのか、分からなくて』
「すみませんが、何を、どうしたら良いのか分からないのでしょうか」
『この、全部、全てです』
面会に来てくれたのは、同じ国の人だった。
でも、私とは違って、この国の言葉が話せてた。
「では、立ち会わせて頂けますか」
『良いんですか』
「はい、何かするとはお約束は出来ませんが、それで構わないなら。ですね」
『はい、宜しくお願いします』
そして弁護士さんに来て貰ったんですが。
「成程、詳しい要望が無ければ叶えられない、ですかね」
「はい、ご承知頂けて助かります」
「いえお邪魔してすみません、因みにですが、コチラはお読みになりましたか」
『あ、はい、でも怖い事ばかりで良く分からなくて』
「読むのが不得手、ですかね」
『はい、すみません』
「失礼ですが、学習障害と言われた事は?」
『無いです、でも、勉強は殆ど出来ませんでした』
「そうでしたか。私からは以上です、お邪魔してすみませんでした」
「いえ、経験せねば分からない事も有るかと、ですが出来るなら経験して頂きたくは無い事ですから」
「気を付けさせて頂きます、ありがとうございました」
「はい、では」
『あ、待って下さい、私、どうしたら良いのか』
「何をどうしたいか整理し、要望を伝えれば大丈夫、頑張って下さい」
結局、何もしてくれませんでした。
『判決は以下になります』
食中毒を出した者を、一律で監督所で隔離し、一般的な試験に合格するまで外部との接触を禁ずる。
と言うモノだった。
「まぁ、妥当かと」
《失敗したらこうなるワケか》
『ネネさんはもっと大変でした、ハニトラのお城で暮らしてたんですから』
《ほう》
「本当に、大変でした、コチラを何も知らない筈の貴族がさも親し気に接触して来る。如何に安全を守るか、ココの常識を理解し、如何に安全圏に逃げ過ごすか。もう、命懸けでしたが、お兄様は楽してますね」
『大丈夫です、カウンセラーのお仕事をしてくれますから』
「いつですか」
《今日だ、忙しいだろアンタ》
『それっぽい所でしてくれるそうです、とっても楽しみです』
「楽しみですか」
『はい、もしかすれば恋や愛が分かるかも知れませんから』
「成程、分かりました、行きましょうか」
『はい、レッツゴー』
《あぁ、おう》
罪には罰を。
改心には先ず教えを。
少しは、学べると良いんだがな。




