6 ひな祭り。
『ユノさんって6月に生まれたから、ユーノ、ユピテルの妻から取られたんだそうです』
トイレから戻って来ると、もう既にユノちゃんとヒナちゃんが馴染んでらっしゃる。
「そうでしたか」
《元々多く作る予定で、全員バラバラなんですよ、上手い具合に》
『凄い。あ、ネネさん、ネネさんはどうですか』
ヒナちゃん、感情の起伏は有るんだけど、表情が本当に無。
「全員2文字ですね、それと直感、音の響きを重視しての事で。意味は後付けでした」
《意外と言えば意外かも、ネネちゃんのお母さんバイオリン奏者なんだよ》
『私、何か楽器をしたいです』
「基礎としてピアノがオススメですね、目で正しい音が出てるか分かるので」
『頼んでみます』
「はい、是非」
『あ、ひな祭りってどんなのですか』
今日1番の吐血ポイントかも知れない。
前世もきっと女の子だったろうに、説明も無しとは。
「別名、桃の節句とも言います。先ずお人形を飾ります、ココで言う王様と王妃様」
『はい』
「超お金持ちは何段も並べます、三人官女や五人囃子、要するに侍女や侍従です」
『おぉ』
「更に嫁入り道具やお輿入れ道具、造花やお餅も飾る、要は人形の結婚式です」
『結婚式』
「お祭りなので雛アラレや白酒、桜餅やちらし寿司、それと蛤のお吸い物を食べます」
《あ、飾ったお餅、菱餅も食べるんだよ》
『お腹いっぱいになりそう』
「ですね、お餅は、好きに食べましたよね?」
《ウチはおかきか揚げ出し餅にして食べてた、量が出来て喧嘩になり難いから》
「ウチは安倍川餅でしたね、4等分にして好きに食べる」
《あ、5月も有るよ男の子の日、それに4月も》
「4月」
《スミレの日、オカマさんの日》
『オカマさんの日』
「5月は端午の節句や菖蒲の節句とも言います、鯉のぼりや兜を飾って菖蒲湯に入り、粽と柏餅を食べます」
《男の子は青、女の子は赤が定番、だとスミレの日は何色でしょう》
『紫ですね!』
《はい正解~》
『スミレは、どうするんですか?』
「公式行事はまた別では」
《だねぇ、コレはまだ新しい行事だから、好きにして良いんです》
「成程」
『ネネさんも知らない行事ですか』
「ですね、同じ日に虹色で、性別が男女以外の方がお祝してる事しか知りませんでしたから」
『虹色の日』
《でも虹色の日は6月6日だと思うんだよねー、雨も良く降るし。オカマさんの日はそのままに、その他の日にしても良かったのにって思う》
『それ以外?』
「ゼパル子爵やカイム子爵の様に、一概には言えない方、ですかね」
《あー、うん、そんな感じ》
『オカマさんは、男だけど女の格好をしている方、で良いでしょうか』
《中には女性っぽい喋り方の人も含むかな》
『奥深い』
「ですね。スミレの日、ココに情報は無いんでしょうか」
《あ、確かに、既に有るかもだもんね》
「お調べ頂いても良いですか」
「はい」
『それとピアノの先生もお願いします』
「はい」
ダメだ、どうしても過度に気を遣っている気がする。
そもそも、突っ込んでいいものか、流すべきなのか。
《ヒナちゃんは、お雛様した事無い?》
『はい、アレはテレビの中の作り話、物語だと思ってました』
「そうですね、誰しもが必ずしているワケでは無い筈ですから」
《高いのは高いからねぇ》
「安い車が買える程、平均のお給料だと3ヶ月分ですかね」
『ウチにお金有りました』
《じゃあ宗教かな?》
「あぁ」
『神様にお祈りしてるの見た事無いです』
《ヒナちゃんが眠ってた時にしてたのかもね》
『成程、確かに』
「そう言う方は鳥居も嫌いますからね、神社の赤い鳥居」
『1回だけ行った事が有ります、着物を着ました』
「七五三ですね」
『はい、七歳のをする前にココに来ました』
ダメだ、血の涙が出そう。
《ヒナちゃんにとって、向こうはどうだった?》
『特に何も無いです』
《良く一緒に居たのは?》
『お母さんです、お父さんは、あんまり帰って来ませんでした』
「だからお給料が良かったのかも知れませんね」
《だね、一緒に桃の節句する?》
『はい、お作法が分からないのでお願いします』
「なら着物を仕立てましょう」
《だね、それとスミレの節句の用意もしないとだし、忙しくなるねぇ》
『はい、楽しみです』
「では昼食の準備をして参りますが、他にご希望は有るでしょうか」
《私、しじみのお味噌汁が飲みたいでーす》
『ネネさんとユノさんの好きな、おにぎりの具が食べてみたいです』
「イクラ、いや、筋子ですかね」
《じゃあ私はネギ味噌》
「ネギ味噌」
《アレ焼きおにぎりも美味しいよねぇ》
『お願いします』
「はい、承知しました」
「あ、甘い卵焼きも、お願い出来ますでしょうか」
「はい、では」
私には何も無いのに。
ネネさんはグルグル、ユノさんは雨みたい。
「私には、比較的向こうはクソです」
『何となく分かります』
「ココは地獄と名付けられていますが、この世界は天国だと思います」
『はい』
「なので好きに生きましょう、他に何がしたいですか」
『何でもしたいです』
《じゃあ、着せ替え人形や塗り絵は?》
着せ替え。
塗り絵。
『どう遊ぶんですか?』
《やってみよう》
「作る所から、ですかね」
《そうなる?》
「いや、出来るなら理想の姿の人形が良いかと」
『理想』
「黒髪の長い髪が良いとか、金髪のふわふわとか」
《あ、男の子のお友達も居たりするよね、それで好きに着せ替えさせて遊ぶの》
『成程、好きに着飾らせる』
《そうそう》
『じゃあネネさんとユノさんにお願いしたいんですが』
《そっか、確かに、執事君も居るんだしね》
「コレに、ですか」
『はい、私は子供ですから、大人の着せ替えはダメですか?』
《ううん、全然アリ、だってお友達だもん》
『お友達』
「お友達って何ですか?」
《ネネちゃんそこから?》
「だって、友達って人其々じゃないですか」
《私は気が合って一緒に遊べたら友達、あんまり遊ばないと知り合い、かなぁ》
「そう言われると私の友達が知り合いの位置に移動になるんですが」
《あー、でも毎日遊ばなきゃ友達ってワケでも。成程、確かに》
『大人でも難しい事ですか』
《そうだねぇ、生活の仕方が変わるから、その時が特に難しいかな》
「殆どの学業の仕方は一律ですが、大人になるにつれ、特に働く環境次第で大きく変わりますから」
《だよね、夜勤とか早朝の賃金が高いし、休みの日は一律じゃないし》
「特別な習い事が有ると遊ぶ時間が減りますし、大きくなる程、お金が無いと遊ぶのが難しくなる」
《確かに、じゃあ友達の基準は一緒に遊びたい人、偶にでもね》
「じゃあそれで」
『ならお2人は私のお友達、で、良いんでしょうか』
「私の理想は一切の利害が絡まない事ですが、損得無しに関わりたい人、ですかね」
《そこにイチャイチャしたいが入ると恋人だよね?》
「何で話をずらします?」
《ズレて無いもん、ネネちゃんね、2人に言い寄られてるの》
『分かります、ネネさんは優しくて真面目で賢いです』
「ぐっ、ありがとうございます」
《ネネちゃん褒められ慣れてないの》
『何故ですか』
「家族の中で、私が1番平凡で、凡庸なので」
『ネネさんより優しいですか』
「そこは、そんなに差異は、無いかと思いますが。コレが、当たり前なので」
『当たり前すら出来無いのも居ます、偉いと思いますが』
《ネネちゃんは理想が高いの》
理想が高い。
無理しちゃう。
お腹いっぱいはゲロ吐いちゃう、だから。
『何でも程々が良いと思います』
「ですよね」
《選択肢が多かったり、失敗した事が有ると選ぶのって難しいからね》
「はい、恋人選びに失敗しました」
可哀想。
可哀想は良い言葉?
悪い言葉?
『可哀想はダメですか』
「いえ、他人事なら受け入れられるんですが」
《次に失敗しない方法を模索中なの》
「はい」
もし、お母さんやお父さんを選べるなら。
私も、うん、悩む。
『分かります、選ぶのは難しいと思います』
「ですよね」
《私も、上手く騙されたら分からないと思う》
騙された。
『何で騙すんでしょう』
「自己の損得勘定、利害を優先し、他人の感情を蔑ろにしても構わないと思っている」
《それが当たり前で、あんまり悪くないと思ってる、かな》
他者を省みず自己の優先は悪い事。
分かる。
多少悪い事でも、当たり前だから仕方が無い。
分からない。
『少し悪いが当たり前は分かりません』
《多分、線引きとか境界線が合わないんだと思う、場所によっては良い事や悪い事が変わるから》
線引きや境界線は場所により変わる。
分かる。
でも。
『ネネさんも良くない、ユノさんも良くないのに、何でその人はしちゃったんでしょうか』
「分かりませんが、多分、私なら許すだろうと思っていたのかと」
『舐められてます』
「ですよね」
《友達から恋人、家族って、ある意味で環境が変わるから。その都度、妥協したり合わせたり、時には無理しちゃう事も有るみたい》
『何故ですか』
《好きだから、好かれたいから、だよね?》
「ですが、こう話すと、何でも許して舐められる様な結果に繋がった事は、認めざるを得ません」
『無理して許したんですか?』
「いいえ、気にならなかったので、無理した記憶は無いんですが」
《もしかして束縛欲しかった系かな?》
「どんなのでしょう?」
《嫉妬して欲しい、飲み会には行かないで欲しいって1回は言って欲しい、とか》
「あぁ」
あー、ネネちゃんの物分りが良いから、不安になって試しまくって調子に乗った系かなぁ。
《飲み会に行ったら可愛い女の子が居たとか言ったり、その女の子を褒めちゃう系?》
「はぃ、余っ程楽しかったんだろうなと、流しました」
《で、あんまり他の女の子を褒めるから、別れた方が良いんじゃないかって話すと。俺の事、大して好きじゃ無いのか、信用して無いのかって逆ギレする》
「ふぇい」
《あー、一人っ子ですかね》
「いえ、けど、年が離れてて、もうお子さんも居ます」
《親戚付き合いは?》
「年に1度、程度かと」
《はい実質一人っ子。恋人は居た人?》
「今となっては本当か分からないんですが、高校時代に2人、深い付き合いになる前に別れたそうです」
《別れた理由は?》
「受験勉強で、お互いの時間が合わなくなり、自然消滅だそ」
《はいフラれた人の言い訳〜、時間はお互いに作るもの、お姉ちゃんは結婚したもん》
「理想が、ココに」
《向こうは一人っ子で、けど親戚付き合いが多い方。良くウチに来て面倒見てくれて、勉強も一緒にして、はい結婚》
「そうなりたかった」
《高校で好きな人は居なかったの?》
「良いなと思っても、頭も緩そうな方が好きだと聞いたり、二股しているのを見てしまったりで」
《お金持ちでも禄でも無いの居るんだ、実際》
「顔が、良かったので」
《あー》
『何で顔が良いと馬鹿でも良いんですか?』
《それは脅したり強請れるからだよ》
「ユノちゃん」
《顔が良い子にアホな事をさせます、弱味を握ります。はい、後腐れの無い関係の出来上がり》
「凄い、闇バイトの真髄ですか」
『闇バイト』
《別名、ウ◯コ鉄砲玉。鉄砲玉、分かる?》
『はい、使い捨ての犯罪者ですよね』
《そうそう》
「使い捨てケツ拭き、お気軽重犯罪野郎、情弱日雇い」
《使い捨て便器》
「ユノちゃん」
《売春婦の事ね、でも体を売るなら合法で一括、人生賭ける位はしないと》
「ユノちゃん」
『売春は良くない事では?』
《うん、ダメ、絶対ダメ》
「ですが。ぅうん、攫われて売るしか生きる道が無い場合は、仕方が無いかと」
『それは分かります』
《あ、結婚は売り買い無し、対等が大前提、損得勘定はアリ》
「まぁ、確かに半ば財産を共有する事になるので、財産の損得勘定は必要ですが」
『はい、分かります、ですが結婚と売春の違いがまだ分かりません』
「ユノちゃん、順を追っていきましょう」
《ふぇーい、ごめんー》
「お食事のご用意が出来ました」
『お外ですね、行きましょう』
良かった。
多分だけど、体は売らされて無さそうで、本当に良かった。