61 兄。
「ネネ様」
「ごめんなさい、認める事に利が多いと判断しました」
「何故ですか、何処がですか」
「ヒナちゃんには怒りが有るかも知れない、それは分かっていますか」
「怒り、そんな気配は」
「無意識に無自覚に、出ているかも知れない、若しくは出す準備をしているのかも知れない。受容の5段階はご存知ですか」
「はい、ですが」
「否認、取引、抑うつ、受容、そして怒りも含まれています。問題を受け入れるには、必ず何処かで怒りが湧く、その怒りと疑問をぶつける相手をヒナちゃんは見付けた」
「だとしても、もっと」
「犯罪者では無いですが、ほぼ犯罪者だと私は思っています、と言うか私が引っ掛かっていたら家族が犯罪者にするか殺し屋でも雇っていたでしょう。結局はお金と余裕です、今は訴えられていないだけ、ほぼ犯罪者。ですが、ヒナちゃんはだからこそ、彼を兄とした」
「知識なら、悪魔に」
「アレは経験です、人種から得られる経験、知る事だけで満足するなら悪魔は引き籠ったままの筈」
『まぁ、そうね』
「あ、ラプラスの悪魔、さん」
『どうも』
「何でしょうか」
『まぁ怖い、でも仕方無いじゃない、ヒナ様にピッタリの相手なんて早々見付からないのだもの』
「ですが」
「ちょっと待った、どう言う事でしょうか」
「ヒナ様から、お聞きでは」
「いえ、ただ買い物に行っているだけだ、と」
『婚約相手を探し回っていたのよね?』
「はい」
「成程、そうでしたか」
『でも見付け出せなかったの、ね?』
「はい」
『で、割り込んだのは、その通り。知識と経験には差が有る、その温もりも肌触りも、経験しなければ得られない感覚』
「本当なら、当人に当たるのが1番です。ですが正直、ヒナちゃんの親がコチラの望む反応や手応えをを示すとは限らない、けれどいつかヒナちゃんは怒りをぶつける先を必要とする。コレは逃げです、私は怒りを受け止められる自信が無い、十分に応えてあげられる自信は有りません」
『それは良いのよ、だって、適材適所。寧ろ、アナタに怒りたくないのに怒ってしまったら、今度は自己嫌悪してしまうわ』
「ですが、だからと言って彼が最適だとは思いませんが、この綺麗な場所には妥当だと私も思いました。真に加害者である者からの言葉は、例え違う被害者だろうと、幾ばくか溜飲が下がる事も有る。馴染み、納得するには、彼は適当であると私は判断しました」
『でも、嫌なのよね』
「我儘は承知しています、ですが、傷付き穢れる事を知って欲しくは無いんです」
「無垢で無辜で有って欲しい」
「はい、今のままが最善で、最良です」
『それはアナタの理想、真実は違っていると分かっている筈よ』
「人種で申し訳無いのですが、詳しくお話し頂けませんか」
「虹の国のエルフは、僕の伯父です」
「あぁ、すみません、心より謝罪致します」
「いいえ、ネネ様は違う、アレが特殊個体だと分かっています」
『けれど、アナタに染み付いた強烈な嫌悪は、拭えない』
「あの話を聞いた瞬間、まるで体験したかの様に、ハッキリと嫌悪と恐怖。憎悪と苛立ちが湧いたんです」
『妖精種も大元は精霊が根源』
「繋がって、しまったんですね」
「はい」
「拷問してもし足りない、後代までトラウマを残すなんて」
『でもね、ふふふ、もう少しで虹の国の扉は開くわ』
「本当ですか」
『ふふふ、アナタの姿を伯父様が見て、どう思うかしらね』
「あ、無理はいけませんからね。心の箱に入れて、脇に置いておくだけだって、十分に良い筈なんですから」
『分かっているでしょう、既に受容の5段階をアナタは示している』
「否認、取引、怒り」
『同じ人種が怒ってくれている、それは不快かしら、怒りは悪かしら』
「いえ」
「でも、本当に無理はダメです、嫌なら嫌と言って良いんですからね」
『けれど、もし、アナタが怒りを発散出来る人種が居たら。どう、かしらね?』
「知りたいです、何故、どうしてなのか」
『それに、いきなり本人より、外殻から攻めるべきじゃない?』
「まぁ、私もいきなり本人は、戸惑うかと」
『彼は叩かれ台となる事を選んだ、その点については、評価してあげても良いんじゃないかしら?』
「でも、だからって人種の悪の代表は、酷では」
『優しいのがアナタの欠点ね』
「僕も、受け入れます」
「人種の悪の代表として」
「その、練習台になって頂きます」
『そうね』
「それでもやっぱり」
『はいはい、ちょっと借りるわね』
「はい、先に戻っております」
「あ、はい」
「はい、ありがとうございました」
虹の国について既に知る者にしか、言えなかった事。
まだ、ヒナ様にも言えてはいない事。
きっと、些末な事として扱われるかも知れませんが。
僕は、出来るだけ嫌な事は、汚い事はお耳には入れたく無かった。
確かに、僕は無反応も過剰な反応も恐れている。
出来るなら、このまま、何処かに消えて欲しい。
「あの、彼は何故、どうして、ご自身で幸せにしてやろうとは思わないのでしょうか」
『あら』
「あ、いや、コレは素朴な疑問でして。全く」
『ふふふ、冗談よ。気付いての事かしら、それとも、純粋な疑問かしら』
「好意が有れば良いなとは思いますが、全くの純粋な疑問です」
『シルキーは悲しみのあまりバンシーとなるか、消えてしまうの、知っているかしら?』
「あ、そうなんですね」
『そうなの、だから怖がっているの、アナタみたいに』
「痛い所を」
『気付いたら死んでしまうかも知れない、けれど惹かれてしまう、きっと時間の問題ね』
「死んで欲しくは無いのですが」
『そうよね、私も。じゃあね』
「あ、ありがとうございました」
執事君とヒナちゃん、安易なカップリングでしょうか。
いや、でも、見た目的には最高ですし。
世話好きとヒナちゃん。
持ちつ持たれつ、な気がするんですが。
実際、どうなのか。
『アズールが拒絶はしないと言ってくれました、良かったです、説得してくれたのでしょうか』
「いえいえ、話し合いの末に一部合意を得た、程度ですね」
《アンタ良い家の娘さんだろ、しかもかなりの金持ち》
「何故です」
《言い回し、しかも近しい者にもソレなら、相手はビビッてたのかも知れないな》
「いや、コレは。まぁ、本当に育ちが良いねと嫌味を言われた事が有りますが、そんなにモロ出しですか」
《姿勢が滅茶苦茶良い》
「どうも」
《それに声の抑揚も抑えて、殆ど表情に出さないだろ》
「あ、そこです、ヒナちゃんに幾ばくか悪影響だとは思いませんか」
《他で学ぶだろ、変に騒々しいよりずっと良い》
『口説いたら手足の指先からアズールに千切りにして貰います』
「任せて下さい、何よりも薄く刻んでみせますので」
「大変ですわねお兄様」
《あぁ》
『はい、私のお兄ちゃんは大変です、頑張って下さい』
コチラはまだまだですが、ジュリアさんとロミオさんの所も、いずれは結婚して家庭が出来る。
もしかすれば、それらの予備策として、彼を兄に指名したのかも知れない。
優しいからこそ、遠慮してしまう。
なら、優しくしなくて済む相手を、と。
《子供らしい面が有って、安心した》
『子供らしい面とは何でしょうか』
《無邪気に楽しむだとか、興奮する、はしゃぐ、だな》
『ネネさんが大好きなのでつい興奮してはしゃいでしまいます、子供らしかったんですね』
《良い意味でだ》
『では悪い意味は何でしょうか』
《ガキ》
『同じでは』
《幼い、幼稚》
『私は子供ですが』
《だから良い意味しか無い、本来あるべき姿、当然で当たり前の姿だしな》
『お母さんに、あんなにはしゃぎません、出て行かれて困りますから』
ネネさんは悲しい事実を悲しむ。
なので、言うのは出来るだけ控えています。
《それ、悲しかったか?》
『分かりません、困るが強かったと思います』
《相手をしてくれた記憶は無いのか》
『はい、写真では見た事が有りますが、覚えてません』
《俺は、愛されてたと思うか?》
『いいえ、利用されていた、ただの道具だと思います。だからですか、成程』
《いや、まぁ、仕返しも確かに有るな》
『私も仕返しです、どうして家に帰って来てくれなかったのだと思いますか』
《面倒だから》
『無関心だった』
《それか、本当にどうしたら良いか分からなかった》
『大人なのに』
《例えばだ、いきなり俺にアナタの子供よ、とか言われたらどうしたら良いか分からず。下手したら関わらなかったかも知れない》
『ビリビリでぐちゃぐちゃでしたが、結婚式の写真は有りました』
《あー、じゃあ浮気かもな》
『はい、かも知れない、と言われています。でも、私には関係が無い事です』
《けど、その浮気した男の子供でも有るから、浮気された事を思い出すからかも知れないが。確かにヒナには関係無いな、唆したワケでも何でも無い、ただそこに居るだけなんだから》
『はい、でも無関心に扱われました、何故ですか』
《家族でも、他人は他人、お母ちゃんは勝手に急に他人になった》
『じゃあ施設に預ければ良いです』
《それも面倒が有った、大人は怒られたく無いんだ、だから嘘も言うし誤魔化しも上手くなる。大人なのに何で出来無いんだ、そう言われるのが怖いんだよ》
『何故、事実です』
《だからだ、事実だとしても本人が欠点と思っていれば、それは欠点を指摘した事になる》
『欠点を指摘されて怒るのは未熟では』
《本当に、その通り》
「ヒナ様、そろそろ」
《頭を動かすのはもう終わりだ、任せる》
「はい」
『今日もトントンしてくれますか』
「はい、勿論」
灰色兎にベッドで抱っこされて、アズールにお話して貰いながらトントンもして貰います。
どんな疑問も吹き飛びます。
安心して眠れます。
次も目が覚めたいと思います。




