5 名付けについて。
《どうもー、ユノちゃんでーす、ミモザとも呼ばれてます》
『ヒナです、宜しくお願いします』
《超可愛い》
『ありがとうございます、先代から頂きました』
《中身も?》
『いえ中身は空っぽです』
《好きな食べ物は?》
『最近はあんまんと肉まんです、香草は殆ど嫌いです』
《じゃあニンジンとかピーマン食べれちゃう?》
『食べれます、青椒肉絲美味しいです、ニンジンはタラコと和えたの美味しいです』
「タラコ」
『タラコお好きですか』
『意外と魚卵が好きかも知れないと、最近気付きました』
《ネネちゃん何でも食べれちゃうからねぇ》
『タラコ差し上げます、タラコのおにぎり、焼いたのも好きです』
《じゃあお昼に頂こうか?》
「是非」
うん、凄く心が痛い。
ネネちゃんが考えてた通り、多分ネグレクトを受けてたぽい。
うん、親を取り締まるべきだよね、いっそ免許制にしたら良いのに。
《ネネちゃんが途中で躊躇ったの、分かる》
事前にヒナちゃんの事を相談していたんですが、やはりユノちゃんも感じたらしい。
独特な無表情さ、でも不意に嬉しそうな顔もしてくれるけれど。
私は、どうしても考え込んでしまって、踏み込めなかった。
「ユノちゃん、上手でした」
《いやいや、近い子が居たんだ、下の子の同級生が良くウチに置き去りにされたから》
「波乱万丈では」
《いや、私は食べさせたり見守ってたりで、殆ど大人が動いてたから》
「居るんですね、実際」
《平和だからだと思う、海外じゃ絶対に有り得ないし、有ったら無事じゃ済まないだろうし》
「確かに、それでその子は、どうなったんでしょう」
《施設、少子化だとか言ってるのに、親戚が誰も引き取らなかったんだって》
「そこは、性別によるかと」
《あー、けど男の子だよ?無表情で、大人しい子だったんだけどね》
「自己嫌悪」
《どうしたどうした?》
「ウチ、余裕が有ったのに」
《いやいや、目の行き届く限界って有るし。それこそ里親の家で育った人とかと話した事有るけど、世話になった事より産みの親、ってなる子が出るんだけど。結局は幻想が崩れて荒れて闇落ち、とか多いらしいし、報われない事が多いみたい》
「全く、考えてもいなかった事が」
《誰だって本当は自分の事でいっぱいいっぱいになるんだよ、誘拐が少ないからって、悪い事が何も無い世界じゃないし。まだ若いんだし》
「まだ若い、で済ませてると、何か見過ごしそうで」
《ぶっちゃけ、子を持つなら免許制にしたらって思った。ポンポン作る人程、何も考えて無い、だから負の連鎖が起こるって》
「切れ味が凄いですね」
《お店に来てた弁護士さんがね、でも免許制にしても、車と同じかなって》
「無謀運転するヤツはする」
《結局は、周知と取り締まりだよねぇ》
「何が出来るんでしょうか、ヒナちゃんに」
《否定しなければ何でも良いと思う、賢そうだし、半分はココの子なんだろうし》
「確かに、先代から、と言ってましたけども」
《ココの悪魔さんの事は何も知らないしねぇ、もう歴史はある程度は学んだんだし、そもそも馴染むの優先じゃない?つい見ちゃうもん、亜人とか獣人さん》
「ですよね」
こうして新たな地、八大地獄国で学ぶ事となった。
男にちょっかいを掛けられないのだし、落ち着いて学べる、筈。
《宜しくー》
「宜しくお願いします」
『良いんですか、私で』
「ヒナ様のご都合次第ですが、はい」
『何故ですか』
「アナタが心配な部分も有ります、それにココを知るにも、一緒が良いと判断しました」
『一緒に学ぶ事になりますが』
「はい、ですのでヒナ様のご都合に沿います」
《断っても良いですし、半端に受けて頂いても構いませんよ》
優しい。
どうすれば、そうなれる。
どうすれば、こうなれる。
悪魔は何でも知っている。
なのに私は殆ど何も知らない。
知りたい。
どうすれば優しくなれるのか知りたい。
『はい、宜しくお願いします』
「では先ず僕から、学習要項等をコチラで用意させて頂きますが、宜しいでしょうか」
《あ、お名前をお伺いしても?》
「執事で構いません」
『ごめんなさい、名を付けるべきだったでしょうか』
「いえ、名付けは一生に関わる事でも有りますので。では、そこからご説明させて頂きましょうか」
『構いませんか?』
「はい」
《宜しくどうぞ〜》
「名付けには主に3つ有ります……」
1つは幼名、1つは仮名、1つは真名。
仮名は上書きが出来る、それこそ役職名やあだ名は仮名扱い。
真名は死ぬまで変える事が出来無い、例え嫌な思いが纏わり付こうとも、その名は一生付いて回る。
そして名は寄り添い、縛り、形を変えさせる。
時には本質すら変えてしまうのが名付け、慎重に行わなければならない事。
そして私のヒナは、幼名。
本当の名前は、自分で付ける事だけは、たった今理解しました。
『全く知りませんでした』
「外とも同じ、共通なんですね」
「はい、この世の理ですから」
『名が欲しいですか?』
「いえ、今はヒナ様の執事、それだけで十分ですので」
『では幼名は何でしたか』
「アズールです」
『青色、その通りの綺麗な幼名ですね』
「あ、はい、どうも」
どうして恥ずかしがるんでしょう、良い幼名なのに。
「あ、それと名付けは、時に婚姻を表すものかと」
「はい、ですがあくまでも名付け側の願いが反映されます。親子や兄弟姉妹、身内として作用するので、他人として生きるには名付けは行われません」
兄弟姉妹。
《私はお兄ちゃんとお姉ちゃん、それと弟が2人に妹が2人》
「私は姉が2人、兄が2人、妹が1人ですね」
『私は1人でした、ココに兄弟姉妹は居ないです、多分』
《多分?》
「ヒナ様は情報が敢えて秘匿されていますので、ヒナ様の名前以外は公開されておりません」
「ご不便は」
『いいえ、無いですね』
《ヒナって色んな意味が有るもんね、きっと色々とヒナ様の目で見て、知って欲しいんだろうね》
『はい、私もそう思います。ヒナには色々な意味が有るんですか?』
《鳥の赤ちゃんの雛、ひな祭りのお雛様》
「小さい、お姫様、可愛い。ですかね」
「それと向こうの中つ国では、未成年売春婦の隠語でも有るそうです」
「ではココでは」
「僕は実態を知りませんが、音の響きも含め、現存しているそうです」
《国が違えば無難な名も、意図しない意味が付いちゃいますからねぇ》
「幼名をオソマ、ウ◯コと名付ける場合も有ります、悪い事から守る為に」
《けど執事君の幼名からして、きっと良い意味だけだろうね》
『はい、私はとても愛されていますから。ひな祭りは誰もがやるんですか?』
「男の子は勿論、出身地方によっては、やらない場合も有るかも知れませんね」
《だね、アジア圏、中つ国や日本位だから。世界全体で見ると、やらない事の方が多いだろうね》
「ですね、少し休憩を宜しいでしょうか」
『あ、はい、では休憩で』
「執事君、他にもお伺いしたい事が有るので、案内をお願いしても」
「はい」
ひな祭りって、どんなのだろう。
「ひな祭りの準備はなさってますか」
「はい、勿論ですが」
「ですよね、軽くコチラからご説明しても構いませんか」
「はい、問題有りません」
「では、それから紹介所でしょうか」
「はい、そうですね」
「私達をどう思いますか、距離を取るべきでしょうか」
「いえ、ヒナ様は歓迎し、お知りになりたがっていますので構いません」
「アナタ個人でも構いませんが、コチラが問題となるなら制して下さい、ヒナ様を傷付ける気は微塵も有りません」
「はい、承知しました」
「何か要望は有りますか」
「いえ」
「ありがとうございます、要望が湧き次第いつでも仰って下さい」
「はい」
「では、案内はココまでで、ありがとうございました」
「では失礼します」
人種は器用で不器用だ。
勘はどの種よりも劣化し、直感と言うモノを信じきれず、言葉を使わねば意思の疎通もままならない。
知能を生かしきれない可哀想な生き物、人種。
最初は幾ばくか警戒させて頂きましたが。
既に精霊と悪魔により、認められた星の子。
良い方に出会えた事を、今は感謝しています。