表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/255

55 執事と悪霊。

『君は今、少し驚いている』


「はい」


 僕は、仕える事と家族として振る舞う事を、幾ばくか混同している事に気付き。

 驚いている。


『家族は要らない、けれど疑似家族の様な関係に、不快感は無かった』


「はい」

『そして、関係性を変えられてしまうかも知れない事に、幾ばくか動揺した』


「はい」


『本当に家族を必要としないなら、割り切れている筈だ』


「はい」


『けれど、違う』


「はい」

『分かるよ、君は強がっていたワケでも何でも無い、本当に必要が無いと思っていた』


「はい」

『求めてはいなかった』


「はい」

『けれど、必要とされる事に心地良さを感じる』


「それは、僕は」

『シルキー属だから、けれどそこは問題じゃない、相手と程度の問題だよ』


「確かに、ヒナ様に求められる事に満足していますが」

『ココには様々なシルキーやバンシーが来る、そこで僕はいつも不思議だったんだ。何故、どうして、自分が幸せにしてやろうと思わないのかって』


「僕は、執事として」

『けれど相手が出来ると寂しく感じたり、時に傷付くシルキーも居る。鈍感なシルキーも居るんだよ、自分の気持ちに気付けないシルキーは存在する』


「僕は、ヒナ様に、そんな感情は」

『なら、そこそこ、程々の相手とそれなりの家庭を築いても問題無いんだね』


「それとコレとは別です」

『なら君が満足する相手を探して来れば良い、週末は僕らが面倒を見る、不眠不休も可能なシルキーには簡単な事だろう』


「分かりました」

『楽しみにしているよ』


 ムキになっていたワケでは有りません。

 当たり前の助言に対し、行うべきだと思ったからです。


「ヒナ様」

『はい、何でしょうか』


「ヒナ様に相応しい相手を探して参ります、ですので、暫くお待ち下さい」

『代理は直ぐに見付けてくれるだろうけれど、今週末は、僕らが家に行っても良いかな?』


『はい、是非、招きたいと思っていました』

《じゃあ、お言葉に甘えるね》


『はい』




 アズールの居ない家は不思議でした。

 代理の執事は居ますが。


 何か少し不思議です。


《寝る時は、いつもどうしてる?》

『アズールが何年も前の今頃の事を話してくれます、何かするヒントになるので』


《そうなんだ、じゃあ私のはどう?》

『覚えてますか』


《大体は、でも、読んだ本の事だけだと思う》

『それでも構いません、アズールも偶にそうですから』


《そうなんだ、勉強熱心》

『はい、アズールは勉強熱心です』


《じゃあ、先ずは去年の私は……》


 ジュリアとロミオが居た時は、少し不思議なだけでした。


 でも、平日はもっと変でした。

 いつも通り静かなだけなんですが、いつもより静かな気がしました。


 それに家が広く感じました。


 静かで、広くて。

 1周間が過ぎると、穴が空いてるみたいでした。


『少し、モヤモヤしているみたいだね』

『はい、静かで広くて、この前は何処かに穴が空いてるみたいでした』


『でも、寂しくは無い』

『はい、アズールは私の為に頑張ってくれているので、寂しくは無いです』


『じゃあ、もし、逃げ出したのだとしたら』


『残念ですが、少し寂しいですが、仕方が無い事だと思います』


『成程』


『何が分かったのでしょうか』

『男心、かな』


『そうですか』


 ロミオは答えを教えてくれたり、何も教えてくれなかったりします。

 確かに意地悪に思えますが、理由が有ってしている事。


 きっと今は言うべきでは無いか、私に考えろと示唆してくれています。


 でも、私に男心が分かるとは思えません。

 その部分が空っぽな気がするからです。


『よし、今日は出掛けようか』

『何処に行きましょうか』


『内緒』


『分かりました、楽しみにしています』




 少し遠くで、ヒナ様を見掛けました。

 僕が居なくとも、問題は無さそうでした。


 問題が無い事は良い筈が。

 残念だ、そんな感覚が胸の奥の奥の方で、ザワザワと波風を立てている様でした。


『じゃ、次へ行きましょうね』

「はい」


 僕は今、演算の悪魔、ラプラスと一緒に居ます。

 ヒナ様に最適な相手を探しに様々な場所へ向かい、話し掛け、ラプラスの演算を待つ。


 僕は思い通りの事をしている筈。

 なのに、とても落ち着かない。


 居心地が悪く、戻りたい衝動に駆られる。


 いつも通りに世話をしたい。

 それは役目を終えれば出来る事だと分かっているのに、今直ぐにも戻りたい。


『何故、アナタは我慢している様な気配なのかしら?』


「慣れ、だと思います」

『少し前と同じ様に、世話をしていたい』


「はい、ですので世話をしない時間に、慣れていないだけかと」


『なら、戻った時の事を考えれば良いんじゃないかしら』


「はい」


 もう既に考えている。

 けれど、ヒナ様は遠くに居る。


 実際には、何も出来ていないも同義。


『仕方無いわね、私の世話をさせてあげる』


 忠臣は二君に事えず。


 ですが、ヒナ様の為になる事を、何か学べるかも知れない。

 もしかすれば、気が紛れるかも知れない。


「はい」




 妖精種や悪霊種の大元は、精霊、けれど精霊の影響度合いは様々。

 シルキーの子は度合いは低いけれど、この子は違う。


『ふふふ』


『幾ら精霊に近い(ウトゥック)でも、君の笑みだけじゃ何も分からないよ』

『あら、そうなのね』


『悪魔でも無く、万能でも無いからね』

『そうね、思わず意地悪してしまう程、だものね』


 精霊の度合いが強い弊害、その性質の影響度も強くなり、抗い難いモノとなる。

 彼は悪霊種、神に連なるモノ、その繋がりは影響を強く表す事が多い。


『それで、どうなのかな』


『受け入れる利がまだ薄い、認めるには時間が掛かる。けれど、もう我慢の限界ね』


『そう、意外と気が短いんだね』

『そうなの、すっかり離れ難い程、しっかり染み込んでるの』


『けれど、認めない』


『拒絶、無反応は怖いもの、仕方が無いわ』

『無自覚に無意識に、認めようとはしない』


『でも、いずれ自覚するわ』


『そう、なら婚約はどうするんだろうか』

『アナタが保留にすれば良いじゃない、何も動かない婚約なんて、お互いに不幸になるだけだわ』


『そう言わせて貰うよ、じゃあねラプラス、演算の悪魔』

『またねウトゥックの子、精霊の子』




 初めてラプラスに会ったのは、執事君が出掛けて暫くの事。

 ココの者が自分の所に来たので挨拶に、と。


 ヒナにでは無く、僕へ。


 この時点で、事象は確定したも同然だった。

 ただ、最善の道は何処か、は分からない。


 精霊の情報は膨大で、混沌としている、何故なら1つの器に入っているからだ。


 けれど悪魔は、個別の情報源を持ち、時には共有する程度。

 一種の、大きな分類がなされている状態。


 精霊としての度合いが高ければ引き出せる情報も多い、けれども1つ引き出すだけで、芋づる式に膨大な情報が現れる。

 分類、区分けは個々人に任され、時には選択を間違う事も有る。


 そして情報は、必ずしも正しいとは限らない。


 その時代、その当時は正しくとも、今も正解かは別。

 そして重要度や緊急性が高い情報程、強く印象に残り、時には思考の邪魔をする。


 しかも情報には様々なメモ書きが有り、度合いが高い程、その情報までもが入る事になる。


 その点、執事君は根源的な情報のみ。

 だからこそ、単純な答えに辿り着き易い筈が、敢えて遠回りをしている。


 シルキー属は必ず愛する。

 それが人種なら、尚更。


 けれど、抗っている。


 ヒナが愛せない者かも知れないからこそ、怯え認めず、否定している。

 バンシーにならない為に、嘆き悲嘆に暮れてしまわない様に。


 バンシーは、病持ちとも言える存在だ。

 どんなに抗おうとも、悲しみの記憶が蘇り続ける。


 何度でも、鮮明に。


 その恐怖と愛してしまう特性を理解し、恐れている。

 目覚めぬ様に、無関心であるとした。


 けれど、もう直ぐ蓋が開く。

 想いは溢れ、蓋を押し上げるだろう。


『ただいま』

『お帰りなさい』

《お帰りなさい》


 僕らは今、意外な形で疑似子育てを継続している。

 ヒナの家で、僕らは家族の様に過ごしている。


 出迎えにはハグを。

 嬉しい事にはキスを。


 ヒナは僕らの為に。

 僕らはヒナの為に。


 家族の練習をしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ