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54 学園と大粛清の黙示録と愚者の石。

 今日は学園の行事で博物館に来ました。

 私の記憶から抜けていた、大粛清の黙示録と愚者の石が見学出来ます。


《コチラは悪魔を救う為、最後の審判を行った人種が居た証、とされる遥か昔の日誌です》


 悪魔に関わる事なのに、日誌には私の知らない事が書かれていました。


【僅か数日前、善き来訪者が現れた。

 真の悪を悪とし、悪魔の子だから、と問答無用で精霊種や悪魔との子を殺そうとはしない来訪者が来た。


 その者は優しくも強く、精霊と悪魔に償うと約束した。

 そして精霊は来訪者を愛し、更なる知恵と力を与えた。


 悪魔を滅する為の秘儀、そして力を。】


《何で滅ぼそうとしたんだろー?》

「可哀想だから?」

《はい、その通り、当時の悪魔は滅びを願っていました》


 全く、思い出す事も出来ませんが。

 そんな時代が有ったのでしょう。


《そっかー》

《では、次は大粛清の黙示録の展示です、皆さん着いて来て下さいね》




 大粛清の時が始まった。


 第1の封印が解かれ、白い竜が暴れ始めた。

 第2の封印が解かれ、赤い竜が戦を誘い。

 第3の封印が解かれ、黒い竜が実りを枯らした。


 第4の封印が解かれ、苔生した竜が疫病を広めた。

 第5の封印が解かれ、血と復讐が求められ。

 第6の封印が解かれ、地が揺れ空は灰色となり。


 第7の封印が解かれ、地が割れ愚か者が谷間に落ちた。




『バビロン婦人、コレは呪文ですね』

《はい、悪魔をこの世界から排除する呪文。けれど悪魔が消えれば精霊が消え、人種は疫病と戦わねばならず、いずれ途絶える事になる》


『悪魔の苦悩は人と共に在る』

《そして喜びも》


『滅する事は出来なかった、ではどう償ったのですか』

《悪魔との子を成し、他の者に悪では無いと示した、それだけで十分だったのです》


 寄り添い、共に生きる事を選んだ。

 選ばれた。


 それだけで、悪魔には希望となった。


『ですが、選ばれなかった精霊はどうなったのでしょうか』


《羨み、悲しみ、祝福し憤った。ですから死後は、その者は精霊と共に過ごし、悪霊種が産まれた》


『ではかなり、最初の頃なんですね』

《はい、まだ人種が安定して存在していなかった時期、ですね》


『恋しかった、嬉しかったんですね』

《はい、とても、とっても。さ、次へ行きましょう》




 そして、精霊が第1のラッパを鳴らした。

 血の混ざった雹が降り始めた。


 精霊が第2のラッパを鳴らした。

 火の塊が降り注ぎ、海は赤く染まった。


 精霊が第3のラッパを鳴らした。

 ニガヨモギの名を持つ星が泉に落ち、川は汚れた。


 精霊が第4のラッパを鳴らした。

 太陽が翳り月が翳り、そして星も翳ると殆どが暗くなった。


 精霊が第5のラッパを鳴らした。

 星が地に落ち大穴を開け、黒煙の様に蝗の軍勢が大挙した。


 精霊が第6のラッパを鳴らし。

 火と煙と硫黄、そして人が人を殺した。


 精霊が第7のラッパを鳴らすと。

 神殿は閉ざされ、血の池と硫黄の池に投げ込まれ、契約の箱だけが残された。




 箱の中には、血の混じった雹に悪が練り込められたかの様な黒色が混ざった石、愚者の石と名付けられた。


 その石は万物を短命にし、愚かにする。

 その妙薬は悪魔の好物、嗜好品、一時の快楽を得る為の禁制品なり。


 封印を解いてはならない。

 ラッパを鳴らさせてはいけない。


 大粛清を生き残った者は居ないのだから。


『呪文の先に起こる事』

《はい、ですが事実とは少し変えています。箱の中には悪魔達の残滓が残った、そして悪魔の好物では無く人種の天敵、コカとケシだけが残った》


『危ないお薬の原材料ですね』

《ですが、使い方次第では良薬となる。悪魔の品物は悪魔へ、未だ、人種に管理は難しいですから》


『永劫、無理では』

《かも、知れませんね》


《あー、居た居たー》

「綺麗だったよね、タペストリー」

『そうですね』

《き、君達の分の昼食を少し、用意してあるんだけれど。どうだろうか》


《わー、ありがとー、食べるー》

「僕もー」

『では頂きます、ありがとうございます』

《う、うん、構わないよ》


 悪魔は滅びる事を諦め、希望を抱き今でも探している。

 最も良い世界の在り方、遺伝子、環境を。


 いつか私も、探しに行く事になるのだと思います。

 私も、悪魔ですから。




《君は、何故、庶民用の学園に居るんだろうか》

『以前に通っていた貴族用が合わなかったからです、アナタは何故ですか』


 僕は、婚約相手を探している。

 確かに以前は僕も貴族用の学園に通っていた、けれど思う様な相手が居らず、ココに来た。


《僕の求める基準が、高いかも知れない、と思ったからだ》

『そうですか』


 彼女は僕の理想の相手だ。

 既に貴族らしく、表情を崩す事無く、阿らず庶民を見下さない。


 まさに、理想の相手。


《もし良ければ、僕と婚約してくれないだろうか》


『考えてみます』

《ありがとう、改めて正式な書類を送らせて貰うよ》


『はい、相談してみます』

《ありがとう、本当にありがとう》


 何の精霊種が混ざっているか分からないけれど、綺麗で聡明で、乱れない。

 きっと、幸せな結婚が出来る筈、きっと。




『アズール、婚約の申し出が有りました』


「成程」

『クラスメイトの貴族の息子です、良い案件でしょうか』


「先ずは、書類が届いてから、かと」


『どうして、私に興味が有る、好意が有るだろう筈の相手に興味が湧かないのでしょうか』


「ヒナ様は、それだけで相手を判断なさらない方、何かが合わないのでは」

『何も知らないのに、不思議です』


「それはお相手も同じかと」


『向こうにだけ、相性が良い、と言う事が有るのでしょうか』

「それは相手にとって都合が良い、だけでは」


『成程』


「お知りになっても心が動かされないなら、お断りするのが妥当かと」


『私の心は、動くんでしょうか』


 ネネさんやジュリアやロミオは好きですが、この好きと違う相手と結婚する筈です。


 なのに、全く何も無い気がします。

 その場所が空っぽな気がします。


 なので動く気がしません。


「では、アンバー様は如何ですか」


『興味深いですが、毎日、一緒に居たいと思う程では有りません』


「僕としましては、夢魔同様、もしかすれば初潮を迎える迄は眠ってらっしゃるのかと」


『その場所が空っぽで、全く無い気がします』


「すみません、僕にも無いので、コレ以上は難しいかと」


『分かる必要が有るのでしょうか』


「ネネ様やジュリア様なら、そう仰るかと」

『でもアズールはそうは思わないんですね』


「世には分からない者が一定数、存在するそうです」

『そうなんですね』


「はい、ですので僕やヒナ様は、もしかすればそうなのかも知れません」


『でも、家族は欲しいです』

「そうした方も、居るそうです。恋人では無く家族が欲しい、恋よりも平穏が欲しい、と」


『私は、そうなのかも知れませんね』

「ですが違うかも知れない、先ずはジュリア様にご相談なさってみてはどうでしょう、そうした者に詳しいかと」


『はい、相談してみます』




 ヒナが、アセクシャルやノンセクシャルかも知れない、って。

 しかも貴族の子息から、婚約の申し出が。


『結論を出すには、かなり早いと思うのだけれど』

『はい、ですがアズールもそうなので心配です』

《あー》

「すみません、僕は家族にも興味が無いので」


『私は家族が欲しいです、なので私と居て苦痛では無いか心配です』

《あぁ、成程》

「いえ、僕は苦痛を感じてはいません、寧ろ幸福であるとすら思っています」

『けれど仕える事と家族は違う、分かるね』


『はい、でも私は家族みたいだと思っているので、それが嫌か心配です』

《それ、もし嫌だったらどうするの?》


『行動と考えを変えます』

『成程、コレは少し問題だね』


「はい」


 私、シルキーとバンシーと暮らしていたから分かるんだけれど、このシルキーは驚いてた。


 うん、偶に居るんだよね。

 仕える事と家族としての行動を混同しちゃう子、寧ろ混同する子の方が多い。


 だから話し合いも無しに解雇されると、物凄く悲しむし、恨んでバンシーに転化する子も居る。


 でも、大人になると大概は混同しなくなる。

 仕事は仕事、家族は家族って。


 でも、かなりの年だし。


『君は、何回目の勤め先かな』


「全く知らない家は、初めて、ですが」


 成程、混同しても仕方無い。


『そう、ヒナ、少し彼と良いかな』

『はい、どうぞ』

《じゃあ、アセクシャルやノンセクシャルについて学びましょうかね》


『はい、宜しくどうぞ』


 執事君、本当の願いが分かると良いんだけれど。

 受け入れられるかな。

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