49 ベジタリアン・リキッダリアン・ブレサリアン。
本来ならば、人は太陽の光と呼吸だけで生きられる筈だ。
私は悪くない。
あの子が少し弱かっただけだ。
現に今の子は、元気にしている。
私は正しかった。
確かに餓死した者も居るが、それは慣れていないからだ。
私の正しい方法で行っていれば、必ず成功した筈だ。
あの子は死んでしまったが、あの峠を越えれば太陽光と呼吸だけで生きられた筈なのだから。
「捕縛する」
『邪魔をするな!もう少し、もう少しなんだ、もう少しで息子は太陽の光と呼吸だけで生きられる様になるんだ!!』
「何を言っているんだ、そんな事は無理に決まっているだろう」
『いいや!現にこの子を見てみろ、こんなに』
《私が隠れて母乳を与えていたからです》
『何て事をしてくれたんだ!!』
「それはお前だ、連れて行け」
『どうして皆、俺の邪魔をするんだ』
俺は成果を取り上げられた。
今回こそ、成功した筈だったのに。
どうして、邪魔をするんだ。
《では、審判を始めます。被告人、先ずは主張をどうぞ》
『私は息子の為を思い、太陽の光と呼吸だけで育つ子にしたかっただけです』
審判には、嘘を見破る魔道具が用いられている。
その事は伝わっている筈なんだが。
《アナタの目の前に有る魔道具について、ご存知なら、ご説明を》
『嘘を見破る道具だそうですが、何か』
《そうですか。では続けます、アナタも実践していましたか》
『勿論です』
《肉も野菜も食べず、水も取らなかった》
『残念な事ですが、私の体は不完全です、水を飲まなければならないのは事実です』
《では肉も野菜も口にしていない》
『はい』
魔道具は嘘だと示したが。
道具を信じていないのか、男は反応を気にも留めていない様子。
《では、子供の為、だけですか》
『はい、勿論です』
ココでも反応が出たが。
もしかして知能に問題が有るのか。
『知識や知能に関し、問題を指摘された事は有りますか』
《いいえ》
無いのか。
『ではお伺いします、アナタは農民です、肥料も何も使っていないそうですが何故ですか』
《自然の姿に反しているからです》
『では自然な姿とは、どの様なモノですか』
《本来であれば肥料や虫除けを使わずとも作物は実る、肥料や虫除けは余計な事、余分な事なんです》
『収穫量が最も低く、常に追加労働を課せられているそうですが』
《それもおかしいんです、余分に作る必要なんて無い》
『他の者が食べる食料の製作も担う、それが農民の仕事ですが』
《皆が自分の食べる分だけ、を作れば良いんです》
『芸術家でも、ですか』
《それは家族が支えれば良いんです》
『では孤児は』
《その地域が支えれば良い、それこそ隣人が支えれば良いだけです》
『では孤児院しか無い場所はどうなさるんですか』
《それは国の不備です》
『仮にアナタの地区に孤児院が建ったら、それでも子供に作らせるのでしょうか』
《いいえ、太陽の光と呼吸だけで生きられる方法を伝授します》
『では、孤児院への配属を命じます、以上』
男は理解を得られたと喜んでいるが。
一体、審判長は。
「審判長」
『大丈夫、子供は強いですから』
子供はまだ無知だ。
肉食の危険さ、そもそも食べ物を接種する恐ろしさを、少しは理解すれば私の考えが正しいと直ぐに分かる筈だ。
『宜しく頼むよ』
人見知りか。
それもコレも食べ物の影響だ。
不自然に与えられた肥料や、虫除けの副作用に影響されての事。
ココには予防接種なんてものは無いと言うのに、こうして人々は生きられているんだ。
だと言うのに。
「水だけで生きているって、本当ですか」
《それと太陽の光と、呼吸だけだよ。君達も》
『精霊種でも無いのに、行こう、どうせ直ぐに死ぬんだから』
精霊種とは、一体。
《はぁ、また、変なのが来たんだって?》
「仕方無いよ、僕らは養って貰ってるんだから、その対価だよ」
『次は水と太陽の光と呼吸だけで、生きられる、らしいぜ』
《へー、ならいつも通り、か》
「いつも同じだと飽きるし、そろそろ見張りの順番を変えようか」
『くじ引きで決めようぜ、もう幾つか作って有るんだ』
《よし、俺は良いぜ》
「僕は最後で良いよ」
『よーし、今回はコレ、な』
《おう》
「うん」
『皆もやろーぜー』
彼ら彼女達が、自身でも気付いていない根本的な欲望が有る。
自分は正しい、自分は特別だ。
だから認められたい、褒められたい。
手を変え品を変え、言葉を変え表現する。
真実に辿り着いたんだ、裏を暴いたんだ、本当はこうなんだ。
結局は裏を返せば、他とは違う扱いをしろ、だ。
認められたい、褒められたい、普通とは違うのだと知らしめたい。
人生が上手く行かないのも、成功しないのも、全ては外的要因のせい。
食べ物のせい、親のせい、環境のせい。
自分が成功しないのは邪魔をされているからだ。
間違っていない、間違えるワケがない、間違っているのは周りだ。
国が間違えている。
偉い人が間違えている。
国は金儲けの為に真実を隠している。
偉い人は金儲けの為に真実を隠している。
私こそが、世の為人の為に真実を照らす正義。
だから邪魔されているんだ。
だからこそ否定されているだけ。
成功出来ず認められないのは、周りが間違っているから。
成功しないのも認められれないのも、全ては邪魔をされているからだ。
邪魔をされているのは、私が真実を示している何よりの証だ。
私は間違えてはいない。
ほら、コレだけ証拠が有るじゃないか、上手くいかないのが何よりの証拠だ。
周りがおかしいだけだ。
私は正すべく、正義を貫いているだけだ。
全ては世の為、人の為に。
自身の利益の為だけ、じゃない。
本当に国を思い、良かれと思いやっているだけ。
《尽きないもんかねぇ》
「そうだね」
全ては善意なのに、正しいのに、何故か理解されない。
きっと、国が邪魔をしているからだ。
何かの圧力に違い無い。
肉を食べた事の有る犯罪者は、ほぼ100%だ。
肉を食べて早死した者が居るのは確実だ。
しかも殺す事は残酷だ、肉を食べるには殺さなければならないから残酷な行為だ。
だから事件が起こる、肉さえ無ければ事件は必ず減る筈だ。
エビデンスが無いのは隠蔽されているからだ、関連性が有るのは明らかだ。
医師が言っていた。
偉い人が言っていた。
ほら、私は正しい。
『はい、最後だよ』
「ありがとう、じゃあ、表を作ろうか」
《おう》
子供達は、明らかにおかしい。
私の言う事を全く信用せず、24時間見張り続けている。
しかも空腹では無いのに腹が鳴ると、全員に知らせ記録まで付けている。
それに排便回数も、排尿回数もだ。
どうやって見張っているのか分からないが。
全て知られ、記録されている。
《ねえ、何で痩せてってるの》
『太陽の光と呼吸、それと水だけ、で生きられるんだよね?』
「まさか、単なる拒食症じゃないよね」
『違う、私はブレサリアンだ。確かに少し瘦せているけれど、それは太陽の光が少し足らないだけで』
《記録によると、ココ最近の日照時間は平均より少し上だよ》
『お水の摂取量、明らかに増えてるけど、そのせいじゃない?』
「人なら、水だけで持つのは平均して14日~21日前後、全く飲まないと4日前後で死ぬね」
『私なら大丈夫だ、少し不調なだけで』
「そう」
『なら働いてよ』
《せめて自分の事は自分でしてくれないと、大人でしょう?》
『あぁ、すまない』
約400日の断食が公式の記録に残っているんだ。
大丈夫だ、死ぬワケが無い。
私は正しいのだから。
「あ、バルバトス騎士爵」
「また死んだそうだな」
《そうなんだよー、今度は水だけで、食べないで死んだんだ》
『はい、記録です』
「良く出来ているな、ご苦労だった」
《騎士爵、もう飽きたよー》
『結局、同じ事しか考えて無いんだもん』
「最後の言葉も、私は間違っていない、でしたからね」
『うん』
《そうそう》
「すまないが、まだまだ、居るんだが。暫くは、他に移すか」
「あの、公式記録がどうとか言っていたんですが」
「あぁ、断食の世界最高記録だろうな、どれだけの長さだと思う」
《んー、30日》
『じゃあ僕は、100』
「なら、200前後ですかね」
「382日だ」
《凄い》
『そんなに』
「あ、体重は」
「目の付け所が良いなアズール、その男の体重は207kg、最終的には125kgの減量に成功し終了した」
《減量、あ、医師の管理が有ったんですね》
「そうだ」
『そっかー、だからアイツ、直ぐに死んだしね』
「それなら少し見てみたいけれどね」
「流石に飽きたか、なら少し似たのが居る、特別な浴室を用意しておこう」
《うげぇ、お風呂系かぁ》
『アレ自分の臭いを分かって無いから、本当に困るんだよね』
「なら逃げれば良いんだよ、僕らには避ける自由が有るからね」
《ま、養って貰ってる対価だもんな》
『どうせ病んで止めるか暴れるかですし、記録は適当で良いですよね?』
「あぁ、無理なく出来る範囲で構わない、決して少なくは無いからな」
「はい、分かりました」
人種に良く似た、人の魂を持つ者。
宿星。
だから僕は嫌いなんです、人も、人種も。




