45 司書の友人候補。
「到着しましたが、如何なさいますか」
《あ、どうしましょう、か》
『続きを後で聞かせて頂けますか』
《あまり、愉快な事では無いですよ?》
『構いません、行きましょう』
「どうぞ」
《あ、はぃ》
司書は苦手だとする者の家に、渋々入ると。
挨拶もそこそこに、その家の主に挨拶へと向かった。
『真っ黒で素敵なお家ですね』
『ありがとう、元が暗い場所の者だからね』
『何故、彼女が素っ気無いか分かっている筈ですが』
『そうだね』
『アナタは精霊の血が強い、それに人種の血も』
『そうだね、それで君には、僕が何故そうするのか分かるかな』
『いいえ、全く分かりませんが、何かしら理由が有るのだろうとは思います』
『それは悪魔貴族だから、だろうか』
『分かりません』
『敢えて、君はそうである事と、幾ばくか関係していると思うよ』
手紙を検閲させて頂きましたが。
先代の事には触れられず、悪魔貴族である、としか書かれてはいなかった。
では何故、彼はそうであるだろう、と予測したのか。
『知る喜び、でしょうか』
『そうだよ、僕は冥府のエレシュキガル神の友人でもある、マシュキム。人を観察する悪霊の属性を持つ者』
『知って楽しむ彼女を、ほくそ笑んでいたんですか』
『まぁ、もう少し言葉の種類を変えたいけれど、有り体に言うならそうだね』
『回りくどいのも、知る機会を与えたのも、見ていて楽しいから』
『そうだね』
『何故、彼女なんでしょうか』
『他よりは遥かに知る事が多く、知る事を好んでいたから、だね』
『過去形なのは、今は、知る事を恐れているから』
『だからこそ僕はシルキーとバンシーに忠告したんだ、知るだけでは得られない、経験を獲得する機会を損ねているとね』
『そこまでは伺いましたが、結果はこうですが』
『親とは時に過保護になる、経験で得た痛みを避けさせたかった、その気持ちも分かる。けれど彼女は憶病になった、最小限の苦痛で免疫を獲得する時期を過ぎ、物事を避ける様になった』
『過保護は良くないと聞きましたが、そう悪い事では無いのでは』
『知ろうとする事に躊躇いが生まれた、しかも他よりも遥かに大きく、乗り越えるには苦痛を伴う』
『関わらなければ、知らなければ良いだけでは』
『そこも親の懸念が関わる事になる。本当に、その子が愛を知らないままで良いのだろうか、と葛藤する』
『愛を知らずとも幸福になれるのでは』
『それは知らない者の意見、けれど知ってしまうと選択肢は増え、迷う事になる』
『2人は知っているから、迷いながらも過保護になった』
『けれど、君は違う』
『はい、愛が行き過ぎた結果、守る為の行動との類似性は非常に低いです』
『けれど、実際や思いは別だ、事実を知るなら様々な分類が必要となる』
『はい、知る準備が必要だと言われました』
『そう、なら君を愛してくれている者が、既に居るんだね』
『私は、愛されていますか』
『例え保護者と言う分類に居なくとも、過不足無く監督や指示をし、しかも殆どの利害の関係無しに行う者が支配的では無いなら。それは君を愛する者として認めるに足り得る者、じゃないだろうか』
お腹とは少し違う、胸の、心の奥から何かが凄く湧き出てきました。
しかも温かくて、色んな色がする様な感じで。
嬉しい。
凄く嬉しい。
『はい、私は愛されてます』
『けれど、愛にも様々な分類が有る、まだまだ君は知る必要が有る』
『はい』
『そして時には不愉快な事も知る必要が有る』
『はい、良いしか知らないと不測の悪いに対処が難しくなります』
『面白い歪さだね、君は既に愛されていた、その事も分かるね』
『はい、改めて実感しました、とても嬉しいです』
『コレから君は多くを知る事になるけれど、知って良かった事として、この事を忘れないで欲しい』
『はい、忘れません』
知る事は良い事です。
良く分かりました。
《大丈夫だった?》
『はい、彼は意地悪で』
『昔の君の様に、とても有意義な時間だったよ、ね?』
《もう、逃げるんじゃなかった》
『そう、君は逃げたんだね』
《だって意地悪ばかり》
『そうかな、例えば、僕は何をしたんだろうか』
《失礼しました、意地悪な問答ばかり、ですね》
『君は僕にされたかな?』
『いいえ、されませんでしたが。不思議です、何故ですか』
『それは彼女が好きだから、愛しているから』
僕は悪霊属、だからこそ幾ばくか捻くれている。
如何に悩ませ考えさせるか、そうした事を寧ろ得意とし、滅多にはすんなりと教える事はしない。
しかも彼女は人種。
教える時期を見計らい。
ずっと、待っていた。
それに、この反応も。
驚いて暫く目を見開いていたかと思うと、長い沈黙が続き。
疑念を抱いた表情を向け、猜疑心丸出しで問う。
《流石に、誂いが過ぎるのでは》
困惑の果てに、僕の言葉を否定する。
ココまでは、計算通り。
『では何故、君が思う意地悪な問答を僕が続けたのか、この答えを前提に考えて欲しい』
『数学で言う因数分解ですね』
『そうだね、答えが既に出ている、後は考え方次第』
『私は公式を殆ど知りません、一緒に考えましょう』
《え、あ、はい》
彼女はイレギュラーな存在。
けれど、悪魔なのだから仕方が無い。
悪魔は人種の味方。
精霊とは一種の対立する存在、なのだから。
『何か公式は有りますか』
私は愛されていると分かったのは嬉しかったのですが。
彼女は、嬉しそうじゃありません。
《と言うか、当初考えていた理由なら、はぃ》
『それは何ですか』
《意地悪が好き、なだけ、かと》
『あぁ、居るには居るそうですが、本当に居るのでしょうか』
《会った事は無いですけど、居る、そうで》
『そうですか、では紹介して貰いましょう、明日は何か用事が有りますか』
《有ると言えば有りますが》
『ではいつなら都合が良いですか』
《あー、えーっと》
『何故、知りたくないのでしょうか』
「それはきっと、怖い事、だからかと」
《はい、すみません、はぃ》
『私は、知る怖さが分かりません、どうすれば分かると思いますか』
《怪談は、どうでしょうか、怖い話です》
『怪談は知っていますが、何が怖いんでしょうか』
《んー》
「人種には得手不得手、時間制限も有りますし、彼女には既に課題が出ています。先ずはお互いに宿題、と言う事で、我々は他に独自に知るべき事を知るのはどうでしょうか」
今回は愛について、1つ知りました。
でも間違わない為にも情報源や母数は種類が多い方が良いので、他にも行ってみるべき、なので。
『はい、そうします』
《すみません》
「いいえ」
私は、考えない、と言う事を拒否してきたのに。
今、そうしようとしている。
と言うか、もう既にその状態なのが、凄くムカつく。
《うぅ》
もどかしい。
したいのに出来ない。
「どうしたんだい?」
『また意地悪な事を言われたのね』
違う。
でも今までと似てる。
彼は考えろ、と私を促していただけ。
意地悪な言葉だけど、意地悪じゃなかった。
考えさせる為に、敢えて、遠回しに言っていただけ。
全部、全て。
《違うの、違かった》
じゃあ、何の為か。
考えさせる為。
考えて欲しいから。
それは何故か。
好きだから。
愛してるから。
「なら」
『私達がどうしたら良いか、教えて?』
外に出さなかった。
人種に育てさせなかった。
それは私を愛しているから。
シルキーもバンシーも、マシュキムも精霊種。
行き過ぎたり歪だったりするのは、人種と同じ。
もう答えはうすぼんやりと見えているけど。
見たくない。
《分かりたくない》
怖い。
怖いから知りたくない、分かりたくない。
何が怖いか、も分かってる。
傷付くのが怖い。
傷付けてしまうのが怖いから。
そうなるかも知れない、その先が怖いから。




