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42 嫉妬と夢中。

『あんなにも好きが強い方を、身近で初めて見ました』


 エルはアンドレアルフスに連れられココまで戻って来たのですが、今でも図面とにらめっこをしています。


《僕もだよ、エルを超える子はそう居ないからね》


 まさに夢中、です。

 夢中。


 私は、何かにこんなに夢中になれた事が有ったでしょうか。


『どうすれば、あんなにも夢中になれるのでしょうか』

《ネネの事はどうかな?》


 確かに、ネネさんの事ではあんな風に夢中になった事が有りました。


『でも、こんなに長続きする夢中ではありません』

《コレはもう、半ば愛、だからね》


『愛とはどんな感じなのでしょうか』

《無いと死んでしまうかな》


『ネネさんが居ないと死にますか』

《そうだね、だから魔獣になったんだ》


『スライム種ですか、珍しいかと』

《流石、やっぱり分かるんだね》


『はい、ですが全てでは無い、抜け洩れが有ります。私は半ば赤ちゃんです』

《ならネネと一緒だね、ココに来て1年も経っていないからね》


『一緒ですね』

《嬉しいかい》


『はい、一緒は嬉しいです』

《なら笑顔の練習をしようか、嬉しい時は笑顔になる方が、きっとネネも喜ぶよ》


『嬉しいですか』

「嬉しい時の笑顔は、はい、勿論」

《周囲の者を良く見て学ぶと良いよ、いずれ上手に笑える様になれるから》


『良い指導者になれたのに、何故譲りましたか』


《今は平和だからね、寧ろ僕には不向きだと思ったんだ》

『そうですね、英断です、アナタは何処ででも活躍出来ますから』


《ふふふ、ありがとう。褒められたよ》

「そうですね、私はどうでしょうか」

『ネネさんは優し過ぎるので、アナタの名前を良いでしょうか』


《ルーイだよ》

『ネネさんは優し過ぎるので、ルーイが傍に居る方が良いです、彼は器用で大概の事は上手ですから』


「凄い」

『あ、過去は見ていません、それから未来もです。私には見れないので、何となく分かる事を言っただけです』


「それで何か困る事は無いですか」

《ほら優しい》

『大丈夫です、私には仲間が。家族と仲間は、どう違うのでしょうか』


《今の君にとって、そんなに違いは無いのかな》

『はい、困っていれば助けます、慰めたり褒めたりもします。無視はしません、でも進んで関わる事もしません、最も関わりたいのは人種ですから』


《僕の勘に間違いが無ければ、君も僅かに人種だと思うんだけれど》

『はい、先代に融合して頂きました。先代は凄い綺麗な方だったんです、男の人なのかも分からないくらいの方でした』

「それはまた、凄そうですね」


『はい、満月の日に、満月みたいに綺麗でした。私は恩返しがしたいんです、何かオススメは有りますか』


《適切かどうかは分からないけれど、君も家族を持つのはどうだろうか》

『はい、そのつもりです、でも異性への好きや愛は良く分かりません』


《僕が思うに、まだ少し早いのだと思う、何にでも段階は有るからね》

『でもエルには有ります』


《予備知識が有ってこそだよ、エルは家族を良く知っている、でも君はどうだろうか》


『その違いだけですか』

《だけでは無いかも知れないけれど、番を持つ者の殆どは家族を良く知っているんじゃないだろうか》


『でも、お母さんもお父さんも、知っていた筈です』

《そこは僕やネネにも謎なんだ、何故、どうしてそうなったのか分からない。僕らには、そんな事をする者の気持ちが全く分からないからね》


『ですが予測は有る筈です』


「もしかすれば、夫婦仲が良くなかったので、八つ当たりをしてしまったのかも知れません」

『でも、向こうにも預ける場所が有ったと聞いています』

《うん、だからこそ謎なんだ。何故、どうして施設や他の家族に預けなかったのか、ご両親にご家族は居たかい》


『はい、お母さんの方とお父さんの方、両方にお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが居ました。でも良く顔を合わせたのはお父さんの方です、お母さんの方は覚えている限りは話だけでした』


《そう、更に謎だね》

『そうですか。あ、お父さんの方の家族は学校へ行く鞄をくれました』

「そうなると、やっぱり夫婦仲が悪くなる何かが有って、八つ当たりをされていたかも知れない。なんですが、なら父親がどうにかすれば良かったのでは、となるんですよね」


『はい、私も良く分かりません、喧嘩しているのは数回だけでした』


 ネネさんにも、皇帝の命運を持っている者にも分からない事。

 何故、どうして私は。


《出来ましたわ!ヒナと私で遊ぶ道具ですの!》




 エル様が持って来た図面は、見た事が有る様な無い様な。


『あ、コレ、公園に置いて有るヤツですね』

「あぁ、確かに」

《公園に児童向けの遊具が?》


「はい、面積にもよりますが、大抵の場所には大なり小なり遊具が有りました。と言うか、公園と言うには何かしらの設置が必要だった筈なので、椅子だけの公園も有りましたが、私達の公園とは遊具有りの場所ですね」

『はい、そうですね』

《ヒナ、どんな道具で遊びたかったか覚えてらっしゃるかしら?》


『ブランコ、ですが』

《ブランコ、遊園地に大型のブランコは設置しようとは思っていたのですけれど》

「人力で、1人用が2組で1つから2つ、設置されていたんですよ」


《それは中々、凶器ですわよ?》

「はい、鎖と板で出来ていたので、中には額をバックリ切る子も出まして。中には撤去されている公園も有りました、こうした土台だけ残される形で」


《そうなると、見張りはいらっしゃらない?》

「ですね、大昔は誰か大人が居たんですが、核家族化の弊害かと」


《家族を分断させるなんて、百害あって一利なしだと言うのに。では見張り役を、ダメですわね、責任を押し付ける輩が出るかも知れませんわね》

「なので、寧ろご家庭でのみ、設置するのはどうでしょう」


《ですわよね!他には何が有るのかしら?》


『シーソー』

「至極簡単な仕組みで、こう、ココに乗って」

《こう、ですわね!成程、2人で遊ぶモノが多いんですのね》


「ですけど、やっぱり主役は滑り台かと」

『大きいのも小さいのも有ります』


「それに長さや角度も、色々ですね」

『あの長いのは乗った事が有りますか』


「はい、ですけど速度が足りないので、途中で少し飽きましたね」

《成程》

『プールの滑り台したかったです』


《作りますわよ!夏までには必ず》

『応援しています、頑張って下さい』

「では私は、流れるプールを所望します」


《流れるプール》

『アレは流されるプールの間違いだと思います』

「流れるプールで流される、ですかね」


『成程』

《ふふふ、時間が足りませんわぁ》

《エル、楽しむのも良いけれど、ちゃんと夜は寝るんだよ》


《もう、分かってますわよ》

《抜き打ちで見回らせるからね》

『そんなに眠れませんか』


《だって、中途半端で終わらせるのは、とても気持ち悪いんですもの》

「エル様、作家の中には、敢えて中途半端に留め眠るそうです」


《そんな、何故ですの?》

「区切りが良いと先が思い付かなくなってしまう方も居るそうで、敢えて、中途半端に終えるそうです」


《そんな生き地獄を》

『大きくなる方が優先です、肌触りの良い魔獣がオススメです、私の子を紹介しても良いですか』

「凄いですよ、私も驚いた程の触り心地ですから」


《そんなに、では是非、お願い致しますわ》




 そしてヒナちゃんの灰色兎は、エル様を見事に落とした。

 勿論、夢の中へ。


《凄いね、相当に寝かし付けの才能が有るらしい》

《自分でも知りませんでした、お褒め頂きありがとうございます》

『どうにかご家族を紹介して貰えませんか、コレは死活問題です』

「ですね」


《尋ねてはみますが、あまり期待しないで頂けると助かります》

《ありがとう、宜しく頼むよ》


 こうして、お茶会は解散となり。


「どうでしたか」

『はい、ありがとうございました、友人候補が増えました』


「それは良かったです、ですが嫉妬はどうですか」

『かなり慣れました、それにエルにはエルの良さが有ります、嫉妬する必要が無いと理解しました。嫉妬とは自身に無いモノを羨み妬むのが主だと教えられましたが、合っていますか?』


「ですね。そして恋愛では、領空侵犯や権利の侵害で起こる、憤りに近いモノも嫉妬と呼ばれます」


『領域を侵されたなら怒って当然では』

「ですが、向こうでは正当な憤りが、何故か嫉妬として容易く片付けられてしまう。向こうには不条理で理不尽な事が多い、そう思っています」


『私の事も、不条理で理不尽ですか』

「はい、そう思っています、今でも」


『何故でしょう、私が嫌われる何かをしていたのかも知れないのに』

「人は人を滅多には嫌わないと思っています、そして良い大人なら、余計に。ご両親がお幾つだったか、覚えていますか」


『産まれてから数年後の事なら殆ど覚えていますが、分かりません、でもお母さんの方が若かったのは知っています。お父さんは課長でした、お金には困って無い筈だそうです』


「いつも、お母さんは何をしていましたか」

『テレビやスマホを眺めていました、ずっと家に居ました、何処かに行っても直ぐに帰って来ました』

                     

 良心の呵責から出掛けなかったのか。

 出掛ける気力も無かったのか。


「働いてはいなかったんですね」

『はい、多分、どうして何もしないんだと言われていましたから』


 どうしてか、無気力だった。

 それこそ外部に、家族に助けを求めない程に。


「私も同じ様な時期が有ったので、1つ予測が有ります」

『何でしょう』


「とても嫌な事が有って、頭を働かせたく無かったんです、何も考えたく無かった。少しでも何かを考えようとすると、どんな楽しい事が目の前に有っても、とても嫌な事を思い出してしまうから」


『どうやって、今の様になったんですか』


「納得、ですね」


 何故、どうして、あんな事をしたのか。

 何故、どうして、あんな事をされたのか。


 それらが全く分からなかった、納得出来無かった。

 けれど時間を掛けて納得した、理解した、周りが補佐してくれた。


『私も、困ってはいませんが、納得したいです』

「何故、どうして。それらを理解し納得するには数が必要です、なので出来るだけ、多くの情報と関わる必要が有ると思います」


『はい、結論を出すには最低限の母数が必要だと思います』


 何故、クズな行動をするのか。

 何故、どうしてクズになったのか。


 そのサンプルが私には必要だった。

 そうして多くのサンプルを摂取して、私は納得を得た。


「時には分からないままでも、そうであると決め付ける必要が有ります、でも私は不器用だったので不得手でした」


 理由も無しに、クズはクズとなった。


 良いご家族だった。

 なのに、何故か彼だけは。


『其々に出来が違うので当然です。良く分かりませんが、きっと向こうにも様々な血統が有ったのだと思います、なので酷く違っても当然だと思います』


 悪魔の血筋、精霊の血筋。

 魔獣の血筋、聖獣の血筋。


「成程、賢くてらっしゃる」

『コレは先代のお陰です、向こうの私は何も考えてませんでしたから』


 無から有は生まれない。

 笑顔の無い環境では、子供は笑顔を示さない。


「確かに、恩返しが必要だと思わざるを得ませんね」

『はい、何か良い案は無いでしょうか』


「今は、何をなさっていますか」

『知る事です、知るだけで一苦労です』


「ですね、分かります。では、焦る必要は有りますか?」


『いえ、無いです、でも早くしたいのは何故でしょうか』

「それは多分、嬉しいからだと思います、感謝を示したいのかと」


『はい、そうです』

「では手紙はどうでしょう、感謝したくなったら書いて、纏めて渡せる様にしておく。日記でも良いかも知れませんね、感謝の日記」


『そうします、綺麗な日記帳を買ったのでそれを使います、手紙の様に書いてはおかしいでしょうか』

「いいえ、良いと思います、私も書いてみますね」


『同じですね』

「ですね」


 涙が出そうになった。

 無表情だけれど、ヒナちゃんは同じ事を喜んでいる。


 何故、どうして、理不尽な扱いをしたのか。

 私も、知りたい。

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