34 悪魔と予測。
ユノさんが居なくなりました。
気配が消えてました。
次も会えると思ってたのに、会えなくなりました。
『何で私は分からないんですか』
私は、私とボティスに怒っています。
《悪魔の全てが未来視を出来るワケでは無いからね》
「明記されていないだけかと思っていたんですが」
《それこそだよ、定義から外れる事は出来無い、けれど振れ幅の中では自在に変える事が出来る》
『私も出来無いのはおかしいです』
《君は封じられているからだよ》
『何故ですか』
《悲しい事も、楽しい事も既に知っていたら、サプライズが無くなってしまうよ》
『じゃあ悲しい事だけ分かります』
《残念、悪魔は便利で不便なんだ、全く無いか有るかだけ》
『お別れが言いたかったのに』
《言えたなら、その寂しさはどれ位、減っただろうか》
『多分、ちょっとだと思います』
《そうだね》
「手紙を書きましょう、届く様に燃やすんです」
《冥銭と同じだね、異界の地に居る相手に届ける手法》
『届きますか』
《心配なら予備も置いておけば良いんじゃないかな、渡せる様に、他の手段が見付かった時の為に》
『そうします』
《じゃあ、先ずは下書きをしてみようか、上手に伝えるのは難しいからね》
『はい』
ヒナちゃんは泣いた後、拗ね始め。
いきなりボティス侯爵に会う、と、こうなったワケですが。
今は侯爵から紙とペンを借り、手紙の下書きを書いております。
「あの、質問を宜しいでしょうか」
《構わないよ》
「ヒナちゃんだけかも知れませんが、悪魔は何処かに叡智が存在していて、自由にアクセス出来るだけ。引き出し、使用する事を選択しないと、有効にはならないのでは」
《良く分かったね》
「精霊に近しい存在と一緒に居たので、ですが、ほぼ真逆の存在では」
《そうだね、精霊には制御盤無しにそのままに伝わり、僕らは何かしらを介する事で情報を遮断している》
「精霊さん、大変過ぎでは」
《だからこそ》
『だからこそ、こうして滅多に人種と関わる事はしない、だが東のや一部のモノは別だ』
「一部の、とは」
『時に精霊は人種を介し、人種と関わる』
「あぁ、シャーマニズム的な」
『そうだ、精霊の殆どはその猫と同じ。求められ具現化し、また空や地に還り、個人では無いモノになる』
「何か出来ませんか」
『誰しも、蔑ろにされるよりは、模倣であれ敬われる事を嫌悪するモノは居ないだろう』
《つまりは、儀礼は大歓迎って事だよ》
「あ、消えた」
《君と同じで恥ずかしがり屋だからね》
「軽んじているワケでは無いんですが、儀礼程度で、良いんでしょうか」
《常にと言うよりは、思い出した時や、新たに知った時で構わないと思うよ。久し振りと挨拶をする様な、お邪魔します、そんな挨拶が嬉しいんだよ》
コレは、確かに自然崇拝に馴染みの無い文化圏の方々には、しかも多神教で無い者には非常にハードルが高いだろう。
となると、逆に挨拶だけでも嬉しい理屈は分かるけれど。
そうか、母数が圧倒的に少ないからか。
「お酒をぶち撒ける儀礼でも」
《神ならパチャママが喜ぶね》
「パチャママ」
《南米の地母神でね……》
僕ら悪魔も精霊も、元は人から生まれたモノ。
人こそ創造主、僕らにはその共通認識が有る。
だからこそ、当然に創造主を求めた。
けれど、僕らが知る、人では無かった。
良く似た何か。
それを僕らは、人種と名付けた。
そしていつか、本物の人が現れる事を期待した。
けれど、僕らの人種を傷付ける、悪しき人だった。
精霊はソレを、人と認めなかった。
だから悪しき者は星屑と呼び、明けの明星と呼んだ。
堕ちたルシファーの異名、明けの明星。
輝ける者、エルを奪われた悪魔。
『ネネさん、寝てる』
《慣れない土地で疲れていたのかも知れないし、時差が幾ばくか有るからね》
『1番に教えに来てくれたんですね』
《そうだね、君が悲しまない様に言葉を選び、出来るだけ忠実に伝えた。簡単だけれど、難しい事だよ》
『ネネさんも私も寂しい、悲しい』
《そうだね。手紙には、何も自分の事だけを書く必要は無いんだよ、誰かの気持ちを敢えて書いても構わない》
『ボティスは寂しく無いですよね』
《そう断言されてしまうと少し悲しいけれど、そうだね、知っていたからね》
『どうしようも無いですか』
《この世界は、偶に僕らや精霊でも分からない仕掛けが有るんだ。何がどう影響し、どう関わり動くのか分からない仕掛け、その仕掛けは見る事も触れる事も敵わない》
『悪魔なのに』
《神では無いからね》
『あぁ』
彼女には神の概念はほぼ無い。
ほぼ、存在していない。
仕方無い。
知る事も、関わる事も無かったのだから。
《良い夢を見させる方法を教えようか》
『はい、お願いします』
《君が嬉しいと感じる事を、起こさぬ様に与えてあげる事だよ》
ただ、僕らは与えているだけ。
命を奪った数を、比べてみて欲しい。
与えているのは誰か。
奪っているのは誰だろう。
「何だか、良い夢を見た気がするのは、この状態のお陰でしょうか」
《だろうね》
香ばしくて甘い香りは、焼き菓子と花。
温かさや心地良い肌触りは、灰色兎とセサミちゃんに、メラニーちゃん。
灰色兎が膝枕をしてくれていたのは分かるんですが。
焼き菓子が乗った皿と花に囲まれているのは、何故。
『あ、おはようございます』
「この状態は、何でしょうか」
『良い夢を見て貰おうと思って頑張りました』
「あぁ、成程、ありがとうございます」
『どうでしたか』
「猫に乗って花畑で焼き菓子を貪り食っていた気がします」
『良い夢ですね』
「ですね」
『花冠を作ってました、起きる前にと思っていたんですが、凄く難しい』
「刺繡と同じで慣れですよ慣れ」
『出来ますか』
「多分、最近はしてないので」
『じゃあ競争です』
「では何を賭けましょうか」
『賭け』
「それかボティス侯爵に何か用意して貰いましょうか」
《なら僕も参加しよう、優勝者が賞品を独占だ》
「絶対に器用なんですから、何かハンデをお願いします」
《なら君が3割を編んだだろう段階で参戦するよ》
『それでも勝てますか』
《経験が有るからね、ギリギリかな》
『頑張ります』
それにしても、いつの間にこんなにシロツメクサが。
いや、ココ異世界ですし、魔法が有りますしね。
「負けた」
『私も負けました』
《経験の差かな》
私より早いのに、綺麗。
ネネさんのも上手だけど、ボティスのはもっと綺麗。
『悔しい』
「ですよね、私もです」
《練習あるのみ》
『練習したんですか、大人なのに』
《そうだね、凝り性なんだ、悪魔は殆どが凝り性だからね》
「あぁ」
『私は何の凝り性も無いです』
《まだ経験していないからね》
「本の知識や知っているのと実際は、かなり違いますからね」
『確かに、おせちは食べれる』
《確かおせちは、節句でも食べるモノだよね》
「はい、節目の行事に食べますし、この前頂きました」
『アレが最後でした』
《良い思い出になったと思うよ》
「そうですよ、私はもっと何も出来なかったんですから」
『何がしたかったですか?』
「安心して貰う事、ですかね」
《なら今からでも出来るじゃないか、もっと家族を増やせば良いんだよ》
『あ、お兄ちゃんが出来たって、どうすれば出来ますか』
「んー、先ずは気が合う相手が必要ですね」
『気が合う』
「一緒に居て緊張しない、苦じゃない相手。私にとってユノちゃんは妹みたいでしたけど、寧ろ友達で同志でしたから」
『同志』
「支え合う仲間、ですかね?」
《そうだね、他の国では人種はどうしても見極める存在だから、守り合う者が必要だったんだよ》
「でも大丈夫、最悪はココに逃げ込みます」
『東の国じゃないんですか?』
「向こうは髪型が特殊ですし、生活様式はコッチの方が楽ですから」
『お兄さんは良いんですか?』
「それが家族、ですかね、会わないでも平気なのが家族かなと思います」
分かる。
『分かります。私も先代に会わなくても平気です、でもネネさんはダメです、偶に会ってくれないと寂しいです』
《遠足でね、少し寂しかったらしい》
『はい、東の国に行かれて寂しかったです、でも会えれば大丈夫』
「また、他の国に行く事になるんですが、必ず会いに来ますね」
『はい!』




