33 遠足。
私は自分を主人公だなんて勘違い、絶対にしない。
折角、転生したんだから。
折角、素敵な世界に転生したんだから。
《良いですか、絶対に、森に入ってはいけませんよ》
今日は学園行事。
知らない人は中世っぽいと思うかも知れないけれど、ココにはボタンが有る。
魔法のせいで歴史が違うにしても、文明文化的には明らかに近世。
中世ヨーロッパに、子供の人権なんて無い。
それは貴族だろうと同じ事、平民だろうと何だろうと、親の道具か使い潰されるだけの労働力に過ぎない。
如何に多く産み育てるか。
なんたって、乳児死亡率も何もかもが半端無い。
だからこそ、避妊だ中絶だは大罪。
でも今は、ココは子供を大切にする世界。
でも、だからこそ賢くない子は。
『先生、ココが分かりません』
質問する子なんて、滅多に居ない。
けれど、この子は仕方無い。
劣等種である人種と悪魔の子なのだから。
「可哀想、何も教えて貰えなかったの?」
『いえ、何も、では有りませんが何か』
「そうなの、ごめんなさい、つい心配で。本当にごめんなさい」
知恵を授けるのが悪魔の常識。
最初からマナーを知り、道徳を知っている。
だからこそ、この世界の水準は高い。
馬鹿な子は捨てられる。
可哀想。
でも、私は妖精と聖獣の子。
絶対に、今回こそは失敗しない。
もう、絶対に死なない。
「宜しいんですか、ヒナ様」
大粛清の開始に伴い、僕はヒナ様と学園に通う事になりました。
『今日は可哀想を学ぶ日なんだそうです』
「成程」
大粛清により、ヒナ様へ正も負も教える事になったそうですが。
あまり心配する必要は無かったようです。
「あの、森には行かない方が」
《身を守れないなら、だよ》
『身を守れる賢さや強さが無い子には、森が危険だって事だから』
「けど」
《君は無理に行かなくても良いんだよ、ただトリュフが取り放題なだけだし》
『ほら、白トリュフ、母さんの贈り物にするんだ。じゃあね、行くなら気を付けて』
「そう、そうなの」
そしてヒナ様に無礼な態度をとった女は、森へ入りました。
『ウヴァル先生、良いんでしょうか』
《いえダメですが、つまりは殺処分対象、と言う事ですよ》
『そうですか』
聞き分けの無い子は、実力を見誤る子は、例え人種でも探しに行く手間すら掛けては貰えない。
勝手に柵から抜け出す愚かな羊は、言いつけを守れない狼は、いずれ誰かに迷惑を掛けてしまうから。
誰も探さない、誰も助けない。
可哀想な羊の親。
可哀想な狼の親。
「あの、質問を宜しいでしょうか」
《はい、何でしょうアズール君》
「何故、彼女は森へ入ったのでしょうか」
《欲張りだからですよ、ちょっとしたお小遣い稼ぎ、少しでも余裕が欲しい短絡的犯行。でしょうね》
実に可哀想ですね、宿星の親が。
「助けてー!誰か、誰か助けてー!!」
狼の魔獣に囲まれた。
物語なら、誰か来てくれるのに。
物語なら。
『絶体絶命ですね』
「あ、アナタ」
『折角なので眺めていようかと、何も残せないのは勿体無いので』
「いや、お願い、助けて」
『何故です』
「助けるのが普通でしょう!!」
『いいえ、ココでは助けないのが普通なんです』
「何を、言って」
『向こうと常識が違うんだそうです、向こうは部分的にとても甘くて厳しい、ココは満遍なく普通なんだそうです』
「でも、だからって、お願い、助けて」
「ココでも尚、真っ先に謝らない性格の悪さ。無謀にも森に来てしまう頭の悪さを持つアナタを助けて、どんな得が有りますか」
「アナタ、ご、ごめんなさい!何でもするから!!」
『アナタにして貰いたい事が無いんですが』
「だそうで」
「謝るから、お願い」
物語なら助かる。
なのに。
『何故です』
「良いから助けなさいよ!!」
『嫌です、損にしかなりませんから』
「いや、痛い!助けて!助けて!!」
肉の裂ける音がする。
骨の砕かれる音がする。
体の中から、ブチブチ、バリバリ。
『コレが向こうの可哀想、やっぱり分かりません』
「僕の考えで恐縮ですが。可哀想だと公言する事で、さも慈愛や慈悲の有る者だ、そう思われたいだけでは」
『成程、分かりません、まだまだ私は経験不足みたいです。お腹が空きました』
「お夜食をお作りしますね」
『あ、灰色兎の好きな夜食をお願いします』
「では、薄いパンケーキで」
『ベーコンかハムも下さい』
「はい、畏まりました」
ゴリゴリ、ミチミチ、バリバリ、むしゃむしゃ。
こんな筈じゃなかったのに。
今回こそ、間違えない様にしたのに。
『寂しい気がします』
ネネさんが東の国に行ってしまいました。
それから直ぐに学園の遠足だったんですが、暫く会えないのが、何だか嫌な気分です。
「お会いになりたいですか?」
『はい、何を話したいワケでも無いんですが、暫く会えない事に不満が有る気がします』
「会いに行かれますか?」
『いいえ、ネネさんの見極めの邪魔はダメです、私は邪魔してしまいます』
私が森に入った時、獣は怯え、魔獣が平伏しました。
私は強い。
強いモノは必ず影響させてしまいます。
でも、暫く会えないと思うと、悲しい気がします。
もう会えないワケじゃないのに、もう会えないみたいでモヤモヤします。
「寂しいで合っていると思いますよ」
『メラニーも居るのに、また会えるのに』
「はい、会いたいと切望する事は、寂しさの1つだと思います。先ずは日記を書き整理し、落ち着いてから、手紙を書かれてはどうでしょう」
『はい、そうしてみます』
先代にもこんなに会いたいと思わないのに、不思議です。
少し悲しくて、モヤモヤします。
ヒナ様は手紙を書く事を諦め、代わりに日記の内容を報告する事にしたらしく、良く日記を書いている。
《影響が怖いんですか》
『はい、飛んで来られたら困る気がします』
《確かに、お忙しいですかの一言で、アレでしたしね》
『なので溜めて置きます』
《ならきっと、沢山褒められるかも知れませんね》
俺にとっては何気ない言葉でも、ヒナ様には新鮮らしい。
『私は、褒めて貰いたいんでしょうか』
《褒められるのは嫌ですか》
『いいえ、でも、そこまで褒められたいとも思いません。出来るなら、いつも通りが良いです』
俺にあまり知恵は無いが、日常こそ最も幸福である事は、素晴らしい事だと思う。
《なら、先を見越して予定を立ててみましょうか、報告を分割する為にも》
『はい、そうしてみます』
東の国から、先ずはゲヘナへ。
ユノちゃんが居なくなった事を、ヒナちゃんに報告しなくてはならない。
正直、どんな反応なのか。
意外と流されたら、もしかすれば引いてしまうかも知れない。
そんな不安の中。
お屋敷へ。
「お邪魔します」
『どうぞ』
からのハグ。
一体、どうしたんでしょうか。
「ヒナ様は遠足に行かれたんですよね」
「あ、そうだったんですね」
『はい、ユノさんはどうしました?気配が、何処にも、無い』
どうやら悪魔は、いやヒナちゃんだけかも知れないけれど。
何処かに叡智が存在していて、自由にアクセス出来るだけ。
引き出し、使用する事を選択しないと、有効にはならないらしい。
精霊とは真逆の存在。
「不意に、はい。どうやら、旅立っても良いと思える状況が揃ったみたいです」
『ちゃんと、お別れが言えると、勝手に思ってました』
「正直、私もです」
『何か、寂しいです』
「ですね、私もです」
『悲しいんだと、思います』
「ですね」
子供とは思えない程、静かに泣き出した。
肩に湿り気を感じなければ、ただハグをし続けているだけに思える程、啜り泣く音も何もしない。
もしかして、初めての別れか。
「ヒナ様、そろそろ鼻をかみましょうか、垂れそうです」
『あ゛、はい゛』
がっつり泣いてた。
って言うか、執事君に鼻をかんで貰ってるの、可愛い。
「初めてですか」
『お別れは、多分、初めてです』
無表情で涙が止まらないの、可愛い。
「私も、友達が自分の居る世界から消えるのは初めてです」
『寂しいですか』
「はい」
『悲しいですか』
「はい」
『でも、ちょっとしか泣いてない』
「東の国に入った直後だったのと、家族が出来たからかも知れません」
『結婚したんですか』
「いえ、兄が出来ました」
『お兄ちゃん、後から出来るんですか』
「地が繋がって無くても、家族や兄妹にはなれるので」
『確かに』
「後、もしかしたら、いつかココに生まれ変わるかもですし」
『確かにそうですね、でも、もう会えないかも知れません』
「ですね、だから大切な人は、大事にしないとですよね」
『はい』
蛇口が有るのかって位に、涙が弱まったり、またポロポロ流れたり。
素直。
後、一応お姉さんの立場なので、涙が引っ込んでるだけです。
我慢するつもりだったのに、ちょっと出ちゃいましたけどね。




