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32 快気祝いで祝賀会。

『もう大丈夫ですか』

《うん、ありがとう》


 いつもより、ギュが強くて長いです。

 そんなに大変なんですね、知恵熱は。


「この飾り付けは」

「全て、ヒナ様がされました」

『頑張りました、最初はネネさんの頑張ったね会だったんですが、今回はユノさんも頑張った会にしました』

《私、何もしてないけど、ありがとう》


 何だかユノさんの胸がチクチクしてる。


『何か有りましたか』

《まぁ、うん、色々ね。でも先ずは、ネネちゃん頑張ったね会を開こう、後でちゃんと話すよ》

「では、乾杯の音頭を、ネネ様に」

「えっ、私がですか」


「いえ、冗談です。どうぞ、ヒナ様」

『はい、本日はお集まり頂き、誠にありがとうございます。私は良く知りませんが、ネネさんが頑張ったので、お祝いします。おめでとうございます!』


「ありがとうございます」

『続きましてユノさんです、私は知恵熱はまだなので良く分かりませんが、元気になってくれて安心しました。おめでとうございます!』

《ありがとう》


 ネネさんもハグが長いから、多分、2人共凄く大変だったんだと思う。


「お食事もご用意しておりますので、お席へどうぞ」

『ネームプレートとか言うのも作りました』

《おぉ、この黄色い花はミモザかな?》


『はい、ミモザを頑張って書きました。ネネさんのはスズランです』

「ありがとうございます、お料理も楽しみにしてます」


『あ、それからお品書きもつくりました、コレです』

「ヒナ様、お席へ」


『あ、はい』

《ヒナちゃんのお好みおせちプレート?》


『お祝いとかにおせちを食べるって言ってました、それと好きなものを乗せました』

「成程、合理的ですね」

《どれどれ》

「少しお待ちを、直ぐご用意致します」




 ユノちゃんのメランコリックにヒナちゃんが引きずられそうでしたが、何とか持ち直し、ヒナちゃんはウキウキとお料理を紹介してくれました。


『エビフライとハンバーグです、海の物と山の物をコレからもずっと食べられる様にです』

「成程」


『キノコグラタンは生命力です、何も無くても山に生えるって聞いたので、生命力がいっぱいになる様にです』

「確かに、キノコの生命力は凄いですからね」


『はい。次は黒豆です、豆々しくは良く分かりませんが、美味しかったし縁起が良いと聞いたので入れました』

「うん、良い箸休めですね」


『それとワカメスープは骨を使ってると聞いたので、骨が丈夫になって怪我をしない様にです』

「気に入りましたか」


『はい、気に入りました』

「ゴハンを入れ、最近の朝食にしてらっしゃいます」

「成程」


『後は、もう、書いて有るので食べましょう』

「ですね、頂きます」

《頂きます》


 ユノちゃん、まさかのメランコリック期ですか。




「ご馳走様でした」

《ご馳走様でした》

『ご馳走様でした、まだ具合が悪いですか?』


《ネネちゃんの発表の後に、色々と分かって知恵熱を出しちゃったんだ。それがね、凄く、申し訳無くて》

「どうやら気弱を引きずっているみたいなんです」

『心細かったですか』


《何か、情けないなと思って》

『皆出すんだそうですが』

「ユノちゃん向こうだと凄く元気だったから、病弱な人の気持ちが分かって、申し訳無くなっちゃったんだそうです」


『私、多分ですが、熱を出した事は有ります。でも、良く覚えてません』


《そっか、あまり具合が悪くならなかったんだね》

『はい、良く痒かったりしましたけど、ココで良くお風呂に入ったらならなくなりました』

「大きくなったらサウナに入りましょうね」


『サウナ』

「蒸し風呂」


『蒸し風呂は大人専用ですか』

「もう少し、大きくなったら、ですね」


『もう少し』

《アチアチになっちゃうから、執事君より、少し小さい位かな》

「遊園地も身長制限が有りますからね」


『もっと牛乳飲まないと』

「もしかして、その為に」


『はい、学校では牛乳を飲んでます』

「ココでもお出ししていたんですが、無限に飲んでしまうので」

《毎日、少しずつじゃないと、お膝が痛くなるんだよ?》

「私はなりませんでしたが、兄と妹がなってましたね」


《私無かったんだよねぇ》

『痛いより痛くない方が良いです』

「あ、胸も成長痛が有るって本当ですか」


『有るんですか、おっぱいが痛くなる事』


《まぁ、少し》

「それすら羨ましい、何を主食にしてたんですか」

『どうしたら背が伸びますか』


《バランスの良い食事と、適度な運動》

「してたんですが、家族で下から2番目に小さいんですが」


《胸が?》

「胸もです」


《よしよし》

『ネネさんは気にしてますか、小さい事』

「胸が、ですね」


《けどモテモテじゃん?》

『あ、どうなりましたか』

「先送りにする事にしました」


『良いんですか』

「まぁ、デザートでは無いので腐りませんし」

「ですが、生き物には寿命が有るかと」

《お、執事君、もしかして私が居ない間に何か話してた?》


「はい、お選びになるかどうかについてですね」

『両方選べないかもって聞きました』

《そんな事は無い筈だけど?》

「いや、私は不器用なので」


《自分、不器用ですか》

「いや器用で無い事はご存知かと」


《大丈夫大丈夫、向こうが器用そうだし》

「そこが懸念点なんですが」

『何かに例えて下さい』

「頭が良過ぎる王か、それなりの王なら、それなりの王で良いのでは」


《但し体力が凄そう》

「あぁ」

「あぁって」


「ヒナ様、どうやらかなり大人の問題の様です、僕らには分からない領分ですね」

『そうなんですね』

「1番は、私に度胸が無い事かも知れませんが、はい」

《まぁ、ネネちゃんが誰かとくっ付くか、ヒナちゃんの背が伸びるか競争だね》


「そうですね、切磋琢磨して頂いた方が、ヒナ様のご心配も減りますから」

『番う特性なら番うべきですから』


「はい、良き伴侶を見付けられる様に、努力します」

『はい、お互いに頑張りましょう』


 我は猫の魔獣です。

 我々魔獣は知恵は有っても、言葉だけ、欠落しています。


 言葉と共に知恵が形となり、個体独自の叡智を形成し、個性を発揮します。


 そうです、ヒナと同じなのです。

 単語だけ、知恵だけでは個は成り立たない。


 知恵を認識し、活用し、身にしてこそ叡智となり。

 個性となる。


 言葉は引き金です。

 良き言葉は良い引き金となりますが、悪しき言葉は悪しき引き金となる。


 ココには良き言葉が溢れています。

 我が言葉を挟む必要が無い程、良き関係、良き環境なのです。


ね、そうでしょう(ニャー)

ですな(ニャー)


「鳴いた、初めて鳴きましたよ」

『ウチの子もです』


 ね、ほら、コレで十分なんですから。

 お喋りなんて、必要無いんですよ。




《ごめんね、ありがとう》


「胸の事ですか、王子達の事をバラした事ですか?」

《それはほら、率直な意見って大切じゃん?》


「率直過ぎてぐぬぬさせられたんですが」

《私の居ぬ間にぐぬぬさせられちゃったのぉ?》


「ミルクを準備して頂いてた時です」

《あぁ、アレね》


「今日もですよ、執事君の機転がなかったらどうなっていたか」

《何か冗談も言ってくれてたし、何か雰囲気変わったよね》


「もしかすれば、ヒナちゃんが良い方向へ向かう方法が分かったのかも知れませんね」

《あぁ、確かに》


「ユノちゃんは十分に優しいです、器用だから少し雑になっただけで、そんな事は誰にだって有ります」


《ありがとう、本当に泣きそうになっちゃったよ、お品書き》

「アレは効きましたね、久し振りに血反吐が口から溢れるかと思いました」


《少しでも落ち込んでる時はダメだね、うん、コッチのメンタル保って無いとマジでダメだ》

「血反吐仲間」


《凄い病弱っぽい》

「健康で結構、人其々、それなりの苦労が有るんです。気付いたか帳消し、無い無いしましょう」


《謝れたら捨てる》

「じゃあ端に置いておきましょう、何重かにして、弱味にならない様に」


《うん》


 昔は、我々は随分と重宝されたが。

 今やただの、撫でられるだけの愛玩魔獣だ。


 気は楽だが、些か張り合いに欠けると言うか。

 コレで良いものかと、幾ばくか悩んでしまうが。


《ニャー》


《あぁ、癒し》

「ですよね」


 こう撫でられてしまうとな。

 何だか、どうでも良くなってしまう。


 なんせ、猫は愛される動物。

 愛される為の動物。


 実に容易い生き物なのだよ。


《ニャー》

《きゃわわ》

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