30 マトリョーシカと焼き肉。
学校の帰りに寄り道をしました。
マトリョーシカが置いてあるらしい、民芸品屋さんです。
「こう、中に入っています」
『おぉ』
中から小さい人形が出て来て、その中からまた小さい人形が。
どんどん、次々に出てきました。
何故。
《コレはねぇ、そこの、寄木細工は分かるかい》
猫が出て来た箱と同じ柄。
『コレですか』
《そうそう》
『昨日見ました』
《そうかい、それはね、からくり箱なんだよ。どれ、貸してご覧》
『はい』
《こう、ね、こうすると》
『開いた』
《まぁ、コレを見た悪魔がね、面白いってんで真似したのがコレだそうだよ》
『ココから、マトリョーシカになりますか』
《コレも木だからねぇ、どうにか地元の民芸品にしようとして、こうなったらしいよ》
『ほー』
《で、コレも寄木細工だ》
『紙では』
《まぁ、そう見えるね。で、コレを張って有るのがコレだ》
『貼ってあるんですね』
《安いのはね、高いのはこうだ》
『おぉ、箱がコレで出来てる』
《もっと大きいのや特注品はね、もっと高いよ》
『あ、床』
《そうそう、そりゃ寄木張りって言うんだよ》
『何でこんな事をしますか』
《装飾は勿論だけれど、やっぱり丈夫さだねぇ》
『丈夫になりますか』
《木って言うのはね、こう生えているだろう》
『はい』
《コッチからの力には強いんだけれど、コッチからの力には弱いんだ、直ぐに割けちまう。だからね、こう組み合わせると》
『どっちも強くなる』
《まぁ、そう言う事だね。木はね、何処ででも手に入るからね、昔は色々と皆が手を掛けたんだよ》
『成程』
《折角だ、コッチへおいで》
『おぉ、色んな色の、何ですかコレは』
《小物入れだね、コッチはボレツカヤ塗り、コレはメゼーニ塗りだよ》
『皆、木が好ですね』
《そうだねぇ、松なら松の実が食べれるし、白樺はシロップが出るからねぇ》
『この青いのは何ですか』
《グジェリだね、グジェリの薔薇だよ。北の青い蓮に有るグジェリって言う村の民芸品だね》
『コレも、コレは薔薇に見えますが』
《あぁ、そうだよ、グジェリの職人が描く花は全て薔薇だけ。薔薇が花の意味なんだよ》
『成程』
《そうだ、いつか美術館に行ってみると良いよ、もっと詳しい解説も付くし。品物も沢山有るからね》
『買えますか』
《いや、まぁ、買うならウチだねぇ》
『コレは何ですか』
《コレはホフロマ塗りだねぇ》
ヒナ様に宝物が増えました。
『送るか渡すか悩んでます』
「では、お届けに行きましょうか」
『良いんでしょうか、昨日会いましたが』
「門前まで行き、何も無ければ、少しの間なら問題無いかと」
馬車の中で箱を眺め、暫しの沈黙の後。
『行ってみます』
「はい、では向かいましょう」
ヒナ様が選んだ品は、グジェリの陶器。
絵皿や平皿の様な形に、小さな蝶が付いた小物入れ。
仕入れは常に4つ単位だそうで。
4つ購入し、1つは将来のご友人用だそうです。
『大丈夫ですか』
《勿論》
「休憩する所だったので大丈夫ですよ」
『あ、いつケンカしに行きますか?』
《実は明日なの》
「少し緊張していたので助かりました」
『緊張しますか』
「多分ですけど、大勢の前で喋るので」
《私は応援》
『あ、じゃあ応援の品です、頑張って下さい』
《お、何かな》
「頂きます」
ネネちゃん、演説の練習してたっぽい。
で、私は私で、お料理してた。
うん、内緒で焼肉の準備。
《おぉ、青磁?》
「にしては絵柄が西洋風かと」
『グジェリ陶器だそうです、マトリョーシカを見に行ったら有りました』
「グジェリ陶器」
《ネネちゃんでも知らない単語が出た》
『北の青い蓮のグジェリって村でだけ作ってるんだそうです』
「コレは、藤?」
『薔薇なんだそうです、グジェリでは花は薔薇なんだそうです』
《言われてみれば、ココが薔薇、かも?》
「コレは蝶々ですよね、多分」
『はい、コレは蝶々です、小物入れだそうです』
《そっか、成程、ありがとう》
「ありがとうございます」
『ウチはミルク入れにするつもりです、その為にも買いました』
《成程、確かに飲み易いかも?》
「それもですけど、多分、光景が可愛い」
《あ、ミルク持って来るね》
『山羊ミルクでお願いします、ウチの子はそれしか飲まないので』
《了解~》
ヒナちゃん、焼肉は、無いだろうなぁ。
「可愛い」
『はい、可愛いです』
小さな毛玉が2つ、可愛い平皿でミルクを飲んでいる。
いや、実際の毛玉は可愛く無いのに。
この毛玉は可愛い。
何だ。
何だろうか、この不思議な感覚は。
「ありがとうございます、既存の品で満足していました」
『私もです、でももっと可愛い物とか綺麗な物を増やしたいです』
「良いですね、私も、そうなれる様にします」
『ネネさんは今、不自由ですか?』
いや、不自由さは感じていない、今は。
でも、将来不自由になるかも知れない、だからこそ問題を先送りにしている。
けれど、コレが解決してしまったら。
「実は問題が他にも有るんです」
『何ですか、お手伝いします』
「お相手を、選ばないといけないんです」
『いっぱいの中から』
「いえ、2人だけですが、はい」
『両方はダメじゃない筈ですが』
「えっ」
『向こうはダメでもココは良い筈です、争いになるより両方ですから』
「まぁ、そうなんですが」
『どっちも嫌ですか』
「嫌では、無いんですが」
『何がダメですか』
「ぐぬぬ」
『何でぐぬぬしますか』
「ヒナ様、お腹がいっぱいだとします」
『はい』
「どちらかのデザートしか食べれない程、お腹がいっぱいだとします」
『どっちか』
「かも、知れませんよ」
『それは大変ですね』
「はい」
《お待たせ~夕ご飯ですよ~》
『生肉ですか?』
《今日はねぇ、焼肉です》
『焼肉、お店じゃないのに出来るんですか』
《うん、コレから七輪を持って来るから、待っててね》
『はい!』
焼肉。
ずっと調理場に居るとは思いましたけど、焼肉ですか。
《では、頂きまーす》
「頂きます」
『頂きます!』
先ずは自分の分を網に乗せます。
焼き加減は良く分からないので、ユノさんにひっくり返して貰います。
ちょっと待ちます。
《はい、どうぞ》
『はい!』
「じゃあ私も」
タレに付けてちょっと冷まして、ご飯を経由してタレを溢さない様にして。
食べます。
『あふい』
《あ、気を付けて》
「最悪は出しても良いですからね」
美味しい。
『大丈夫です、美味しいです』
《よし、次は葉っぱで少し冷まして食べようか》
「だと豚ですかね」
《だね》
「先ずは豚を焼きます」
『はい!』
焼肉にもお作法が色々と有りました。
葉っぱに豚用のタレとお肉を乗せて巻いて食べると、冷めて丁度良かったです。
内臓は良く焼きで、ハラミとか言う部分もよく焼きじゃないとダメです。
それと豚と鳥も良く焼きです。
でも羊や牛は中が少し赤くても大丈夫で、そう焼くと柔らかかったです。
塊より薄切りのお肉がゴハンと良く合います、ゴハンが直ぐに消えました。
ゴハンのお代わりはビビンバでした。
色んなお野菜とゴハンが混ざったヤツです。
それをお肉と一緒に食べると美味しいです。
あ、白いわかめスープも飲みました。
骨とかを煮込んで作ったそうです、ニンニクの匂いがして美味しかったです。
《では、デザートです》
プリンのパフェでした。
『凄い』
《でしょ~、でも簡単だから大丈夫、後で執事君に教えるね》
『はい!ありがとうございます』
《さ、どうぞ》
『いただきます』
勿体無い。
見た事しか無い、プリンのパフェ。
凄い、勿体無い。




