29 猫と名付け。
ヒナちゃんの猫は、本来は茶トラ柄らしい。
けれども、メラニズムと言う黒色種だそうで、メラニーと名付けられ。
そしてコチラは。
「セサミちゃんです」
コチラも本来は茶トラらしいが、灰色の地に黒ゴマの様な斑点から、セサミちゃんとなった。
小さくて香ばしいゴマちゃん。
太陽の匂いがする。
《まぁ、雌なら良いんだ雌なら》
『うん』
何故、そこなのか。
人種に転化しようとする猫属は非常に稀有だそうで、警戒する必要が無いとバルバトス騎士爵は言っていたと言うのに。
《ネネちゃん、あんまり喋って欲しくない系?》
「まぁ、偶になら、ですかね」
『俺達五月蠅い?』
「いや、愛でるとなると、寧ろヌイグルミには遠慮しない感じですかね」
《あぁ、何か分かるかも、触り過ぎか気にしないとだもんね》
「それもですし、ウチは動物を飼った事が無いので」
《あぁ、それもそうか、お父さんが麻酔科医だもんね》
「それもですし、母は猫アレルギー、父は犬のアレルギー持ちなので」
《あー、けどほら、それこそ兎とか小鳥は?》
「そこもですね、海外遠征と患者さんへの配慮から。外では触って良いけれど、お風呂に入って着替えないと、お客さんや患者さんが病気になるから気を付けなさいと言われてまして」
《命が掛かってるんだもんね、そっか》
「ですけど本人達も好きは好きなんですよ、動画見まくってましたから」
《あー》
「正直、最初は話が通じて凄く助かりましたけど。やっぱり、愛玩動物となると」
《最低限で良い?》
「今は、ですね、後になって欲するかもなので。まぁ、保留ですね」
『じゃあ、多分、話さない子になるかも』
《私達で意思の疎通が図れてしまう可能性が高い》
「何か要求している気配が」
『うん』
《白い液体、ミルクだろうな》
「あ、はい、直ぐにも」
成長するまでは、影には入らないらしく。
暫くはこうしてお世話をする事に。
《で、ネネちゃんは猫を得ました》
『そうか』
この方はネネちゃんラブズの1人、レオンハルトさん。
もう1人はルーイさんなんだけど、最近は忙しいらしくて、報告はレオンハルトさんにだけ。
《何か、落ち込んでます?》
『向こうでも言われているかも知れないが、ココでは犬や猫を得た女性を得る事は、非常に難しいとされているんだ』
《あぁ、何か似た事は言われてますが》
『そのモノにも好かれるか、警戒されない必要性が出てくるんだ』
《あぁ、壁が増えた》
『ネネは、分かっていて』
《いえ多分、欲望に負けただけだと思います、癒しの欲望に》
『そうか』
《あの、ルーイさん、どうしてます?》
『ネネの話題を、一切出さない、聞こうともしないんだ』
《もしかして諦める方向ですか?》
『いや、1度破棄するのか尋ねたが、それは拒否していた』
拗ねてるのかな。
《拗ねてます?》
『分からない、傍に居る時間を削られているんだ』
やっと、ライバル同士っぽくなった様に見えるけど。
何か、それとも違う気がする。
《会って確かめてみても良いですか?》
『あぁ、頼んだ』
こうなんだよね。
取り合うって言うより、既に共有する感じなんだけど。
どうしたんだろ。
《どうもー》
《あぁ、ユノ、どうしたんだろうか?》
《拗ねてます?》
お、ちょっと時が止まったかも。
《そう見えるかな?》
《ぶっちゃけ、はい、そうですね》
物分かりが良さそうな子って、捻くれ易いんだよね。
《大丈夫、僕なりに作戦が有るから》
《成程、では余裕ですかね?》
《まぁ、余裕と言える程のモノは無いけれど》
《あ、ネネちゃんが猫を得たんですよ、クロアシネコって種で超凶暴だそうです》
《はぁ》
《そんなに壁になりますか》
《もう既にレオンハルトから聞いているだろうけれど、愛玩魔獣は障壁になり易いんだ》
《今日の今日なんですけど、まだ私も触れてません、凄い勇ましい子ですよぉ》
プルプル震えてるのに、凛々しくお座りしてるんだもん。
マジで超、可愛いの。
《ネネにそっくりな子か》
《あ、確かに》
通りで可愛いワケだ。
《それで、ユノはどうしたいんだろうか》
《あ、篩い落としてやろうかと思ってたんですけど、先ずはネネちゃんの何が良いか訊ねてやろうと思って》
《優しくて勇ましい、豪胆だけれど小心者で慎重さと賢さを持っている、有能なのに謙虚な所が可愛らしいし。同じく勇ましい小心者さも可愛い》
分かる。
《でも、有能だから好きとか不純だと思いますよ?》
《けれど賢さから出る有能さだからね、本当はもう、何も成果を残して貰いたく無い程だよ》
《ライバルが現れるから?》
《いや、忙しくなられたら困る、ネネは真面目だから応え様とするだろう》
《あー、確かに》
《例えネネが結果を出さなくても、僕は。いや、王族でも何でも無ければ、確実に結婚出来る様に動いたと思う》
そうだよね、試すしか無かった立場。
立場って、難しい。
確かに凄い偉い人が、凄いアホな人を娶ったってなると、その会社に所属し続けるのって不安に思う。
外見だけかよ、アホで良いんかい、って。
しかも堅い仕事なら尚更。
そこを覆してまで惚れるのも、それはそれで怖いなと思う。
万が一、情に流されて会社のお金に手を付けられたら困るし、そんな会社は直ぐに見限りたいし。
《あー、じゃあ、もしルーイさんが愚か者だったら、惚れてた?》
《どうだろうね、その魅力に気付けたかどうかは、分からないね》
《だよねぇ》
どアホだから、ネネちゃんの前の彼氏は、平気で浮気したり復縁を申し込んだんだし。
しかもルーイさんには立場が有る。
元彼さんは、こんな立場でも何でも無い平民だし。
やっぱり、そこかな。
もしネネちゃんが皇族の方とかに見初められた事が有ったなら、まだ。
いや、それもそれで要求が高くなるか。
《ネネは、元気そうなんだね》
《はい、お陰様で》
少なくとも、恋愛の事で悩まないで済んでるからね。
『はぁ、コレは大変な生き物です』
ヒナ様が魔獣を得た。
しかも猫種、サビイロネコ属を。
「僕も初めて見ましたが、こんなに小さいものなのでしょうか」
『ネネさんと私の猫は最小種だそうです』
「成程」
灰色兎により、ミルクを要望していると知り。
人肌に温めたミルクを何種類か出させて頂いたんですが、山羊ミルクを気に入ったらしく、そればかり飲み。
他には手を付ける事すらせず。
飲み終わるとヒナ様の手に収まり、眠った。
《まるで、こうしているとマトリョーシカですね》
「確かに」
『マトリョーシカ』
「民芸品です、明日にでも見に行きましょうか」
『はい』
彼女は名前を与えられました。
名はメラニー。
黒色種、メラニズムから取ったそうで。
彼女も気に入っているそうです。
《でしたら、もう少しマトリョーシカらしくしてみましょうか》
『ほう?』
《どうぞ》
どうぞ、とは。
もしかして、僕がヒナ様を抱えるんでしょうか。
確かに大きさは順当ですが。
「分かりました、失礼します」
『アズールが合間に』
《コレでココのマトリョーシカが出来ましたね》
「まぁ、そうですが」
『灰色兎の触り心地は如何ですか』
「まぁ、確かに、類を見ない感触ですが」
『私が居ない間でも触っても良いですよ、灰色兎が許せばですが』
《興味は無いかも知れませんが、お好きにどうぞ》
『興味が無いんですか、有り得ない』
「いや、興味が無いと言うか、あまり触り心地を優先する事が無いので」
『した方が良いですよ、心が豊かになる気がします』
触り心地によって、豊かに。
「分かりました、検討してみます」
『はい、是非して下さい』
明日はヌイグルミの購入も検討して頂くべきかも知れません。




