28 バルバトスと猫。
ヒナちゃんからの情報を纏めると。
ソロモン72柱、8位 バルバトス騎士爵。
天使名はCahethel、名の意味は、崇拝される神。
セラフィムの合唱団の一員、神の祝福を以てして、悪霊を追い払う。
絶望と苦しみを知り、残酷さと無慈悲さを持ち、苦難と喪失を経験した者を好む。
動物の声を理解し、隠された財宝を探し出し壊す事が出来る。
過去や未来を見通せるので、権力者や友人を慰める術を教えてくれて、美徳の聖歌隊の能力を今でも有している。
美徳の聖歌隊とは、ミカエルを筆頭とした奇跡を起こせる天使の軍団で、全員で10人。
エジプトのデカンとの繋がりが有り、デカンとは占星術に使われる星の群れの事を指す。
そして問題の、お仕事が好きで、お仕事を好きにさせられる能力が有り。
主に農村地帯、農業と狩猟の守護を司る。
コレ、どっちの側面なんでしょうか。
『ヒナです』
「宜しくお願いします」
《します》
「あぁ、宜しく」
無骨な体躯の非常に良い青年。
濃い灰色のスーツに深緑色のネクタイとハンカチーフ、同じく深緑色の帽子には深紅の房とリボン、胸元には王冠を被ったトランペット吹きが4人並んだブローチ。
中々の配色の達人と言うか。
存在通り、若さと渋さが混在する配色。
「皆さん、お洒落でらっしゃる」
《先ずはそこ?》
「この姿でも悪魔と分かる様に、その意味が込められている」
『本当は狩人です、灰色のマントに深緑の衣装と帽子、深紅の房と弓矢が特徴です』
《成程》
「あぁ、所で用件は猫の事、で良いだろうか」
『はい、猫を触った事が無いので触りたいです』
「そうか、では先ず歴史からにしょう」
『はい』
ほんの少し眉をひそめた後、話しながらヒナちゃんの頭を撫でた。
やっぱり悪魔は、優しい。
「猫の歴史は古く、精霊と悪魔、次いで猫が魔獣として現れた」
昔々、人種の居ない寂しさに呼応する様に、猫が現れました。
真っ黒でスラりとした黒猫と、白く長い毛を持つ白猫。
悪魔も精霊も、それはそれはとても可愛がりました。
そして月日が経ち、黒猫と白猫から、灰色の猫が産まれました。
灰色猫が大きくなると、何処からともなく茶色の猫が現れ。
子は三色の三毛猫が産まれました。
ですが三毛猫には子を成す力が有りません。
そこで精霊と悪魔は虎の子供を呼び出しました。
繫殖力の強い虎は、三毛猫に子を産ませる事が出来ましたが。
そして精力旺盛な虎は、黒猫とも白猫とも子を成し、灰色猫とも子を成しました。
そうして、様々な柄を持つ猫が産まれました。
それから暫くは猫と悪魔と精霊の楽園でしたが。
やはり、悪魔も精霊も、そして猫も人を恋しく思う様になりました。
猫は悪魔も精霊も好きですが。
やはり最も長く傍に居たのは、人です。
猫もまた、善き人も悪しき人も良く知っていますが。
離れ難い存在であると、やはり猫も思わずには居られませんでした。
ですが、猫に願いを叶える力は有りません。
ただ癒しを与えるだけ、それがココの猫なのです。
どんなに魔獣になろうとも、猫は猫。
魔を払い、気紛れに変身し、気紛れに人の言葉を話す。
そして長寿であり、短命でも有る。
時には存在し、時には存在しない生き物。
それが猫。
猫は気紛れに人種の存在を願い、気紛れに存在を否定しました。
自分達がされた様に、悪魔や精霊と同じ様に、人種を求めました。
「つまり、あまり居ないのでしょうか」
「いや、居る」
《あ、居るんですね》
『会えますか』
「あぁ、この箱の中に」
《寄木細工?》
「あ、シュレディンガーの箱ですか」
「あぁ、もし猫が応えたなら、その手に乗って現れるだろう。ソチラで言う麒麟相当だ」
《キリン?》
「いえ、東洋の麒麟、良き皇帝の前にのみ現れる角を持った瑞獣」
「あぁ」
《えっ、手を突っ込むの怖いかも》
「良し悪しで現れるかどうかでは無い、互いに必要かどうかだ」
《じゃあ私は止めときます、いずれココを去る予定なので》
『じゃあ私が』
ヒナちゃん、片手を突っ込んだけど。
大丈夫かな。
片手で足りるかな。
《大丈夫?重くない?》
『居るのか居ないのか分かりません』
「引き抜いてみれば良い、居れば姿を現す」
ヒナちゃんがゆっくり引き抜くと。
居た。
「ふわぁ」
《ちっさ》
「サビイロネコだな、亜熱帯地域に生息し、穏やかな性格だ」
『まだ話せないんですね』
「慣れれば話す事も有るだろう、コレはメラニズム、アルビノの反対に位置する黒色種だな」
『そうなんですね』
ネネちゃん、変な声が出てたけど。
どうするんだろ。
《凄い悩んでる?》
「正直、試さずに後悔するよりは、とは思いますが」
「話さない者も居る、猫は気紛れだ」
『私はどっちでも良いです、もふもふが増えました』
ヒナちゃん、両手で抱えて猫吸いしてる。
「もし、得てしまったら、更に自堕落に」
「成しているだろう、問題無いと思うが」
悩んでる悩んでる。
「寿命は」
「其々が、向こうと違い規則性は無い」
「こう、ご飯は」
「其々だ、魚を好物とするモノ、魔力だけでを得るモノも居る」
《流石魔獣、って言うか猫の特性?》
「あぁ、だな、三毛猫ながらに繁殖出来るモノも現れる」
「稀有」
「あぁ」
「選ばれない子は、どう思うんでしょうか」
「存在しない、現れるべき時に発生する。そして人種への転化を望むモノは非常に稀有だ、なんせ猫は猫生を好む、態々人種になろうとするモノは滅多に居ない」
「成程」
突っ込んだ。
「居るなら、もう居る筈だ」
「全く、感触も何も無いんですが」
『分かります、何の重さも感触も無かったです』
ヒナちゃん、話しながら親指で撫で撫でしてる。
確かに、コレは他の魔獣が嫉妬するの分かるかも。
「はー、よし、行きます」
ネネちゃん、凄い渋い顔してる。
入れる時は勇ましかったのに。
「砂漠地帯のクロアシネコだな、性格は真逆だ」
ネネさんの子は、柄が濃く出ていて。
ちょっともふもふで灰色です。
『この子は強い子です、キリンにも立ち向かいます』
「ラーテルか」
「あぁ、良く知っているな」
《ラーテル系かぁ》
勇ましい子です。
怯えてふるぷる震えているのに、しっかりとお座りしています。
「覆ってやると良い、暫くすると落ち着くだろう」
「あ、はい」
ウチの子はもう、馴染んでます。
『触りますか』
《良いの?》
『はい、大丈夫ですよね』
「あぁ、問題無い」
《じゃあ、ちょっと失礼して》
人差し指でこちょこちょすると、直ぐにお腹を出しました。
本当に人懐っこい子です、良い子です。
『あ、名前を付けた方が良いんでしょうか』
「あぁ、この魔獣にはそうすべきだ」
《そっか、魔獣だったんだ》
「だが、どちらかと言えば愛護魔獣だ、チンチラ種も殆どがそうだが。警戒心が非常に強く現れる事は滅多に無い、向こうは寧ろ狩られる側、手懐けるのは相当に難しいだろう」
「ウチの子でも探すのに苦労したそうですしね」
「だが狩らなかったのだろう」
「はい、あまりに小さくて可哀想になったそうです」
「それこそ魔獣の特性だ、庇護欲を増大させ、狩る意欲を削ぐ」
《合理的》
「あぁ、だな」
名付けるだなんて考えてもいませんでした。
どうしましょう。
名付けって、どう選ぶんでしょうか。
「あの、辞書を」
『あ、私も見たいです』
「貸そう、じっくり考えると良い」




