27 灰色兎のお見合いと猫。
獣人や妖精と契約するのは、人種だけ。
僕らには必要が無い。
補うべきは、寧ろ経験ですから。
《俺の妹です》
灰色兎は家族と連絡を取り、1番下の妹とヒナ様を会わせた。
『小さい』
《はい、俺の家族の中で最も小さい家族です》
『本当にご家族ですか、全く似てない』
灰色兎は獣人。
けれど妹は、魔獣。
《魔獣ですから》
『分かっているのに不思議です、獣人と魔獣が家族』
《あまり一緒に過ごす事は無いですからね》
棲み分けは何処の国でも行われている。
魔獣や聖獣は獣と共に、獣人や亜人はその中間に、そして人種は人種と過ごす。
全ては星屑のせい。
悪しき人種のせい。
『震えてるんですが』
《緊張しているだけですよ、どうぞ》
『嫌がっているのでは』
《慣れれば大丈夫です、どうぞ》
『ぅうっ』
ヒナ様が怯えている。
コレも初めてだ。
「怯えては怯えが伝わるかと」
『小さくて、壊れてしまいそうなんですが』
《穴掘り兎の魔獣です、こう、少し覆ってやって下さい》
『うぅ、あ、止まりました』
《ココもヒナ様も怖くないと理解してくれました、コレでもう大丈夫です》
『ふわふわは同じですね』
《はい、兄妹ですから》
ヒナ様の心象風景に、外部から手を加える事は出来無い。
あくまでも、育つ過程で吸収されたモノが反映される場。
ただただ僕らは与え、時に間引く事しか出来無い。
歯痒いですが、それが先代の願いでも有る。
ヒナ様の親鳥。
先代の願い。
「長かったですね」
《すみません、若輩者がご迷惑をお掛けしました》
「いえ、基礎の蓄積が足りないだけかと」
《はい、思い知らされました》
人種以外、全てに先人の知恵が流れている。
それは祖先が蓄えた知識の分だけ、その一族に与えられる。
だが、俺の一族は長年人種とは関わらなかった。
本能が、人種を恐れているからだ。
狩られ剥がれ、食われる。
その恐怖から脱したモノは居らず、俺は寧ろ稀有な存在だった。
「少し調べたんですが、似た配合の方が居まして、独身だそうです」
《それは、人種寄りだと有り難いんですが》
「獣人ですが、会われてみますか」
もう直ぐ、3月が来る。
もし運が良ければ、ヒナ様の家族が増える事になる。
《はい、宜しくお願いします》
流石、異世界。
コチラが考えていた事を、当然の様に提供してくれていた。
『こんなに小さかったんです』
《ヒナちゃんの手で?》
『はい、私の手でこんなに小さかったんです』
狐が見付けた個体と同個体だろうか。
あまりに小さくて可哀想だからと、食べる事を諦めて帰って来たらしく、毛皮を諦めたと謝られた。
《見てみたい気もするけど》
『かなり臆病でした、弱い子は怯えます』
「ですよね」
魔獣種の穴掘り兎属だそうで。
基本的には巣穴に居り、繁殖の時だけ外に出るらしく、餌は魔素と言う実に異世界個体。
非常に珍しいらしい。
『あ、でも灰色兎が結婚するかも知れません』
《おぉ》
「お相手が見付かったんですか?」
『今日、会う予定だそうです』
少し、興味が湧いてしまった。
《見てみたいなぁ?》
「ですね」
『はい、私もです』
「仕方無いですね、少しだけ、ですよ」
そうして向かった中庭には、灰色兎と似た個体が。
髪色は同じ灰色、配分からして獣人だろうか。
見える限りでは、手の甲にフワフワが存在しているだけの様に見える。
『いっぱい増えて欲しいので、丈夫だとありがたいんですが、どうでしょうか』
「そこはちょっと、分からないですね」
「兎は多産だそうです」
《あ、そうなんだ》
「ただ個体は魔獣が多く生まれる傾向だそうです」
『向こうでの人種との関わりが反映されます』
出た、ヒナちゃんの先代知識。
必ず表情が消える。
コレは、良い事なのだろうか。
「執事君」
「はい、何でしょう」
ヒナちゃんのお昼寝を待って、質問タイム。
「あの先代の知識を引き出させる事は、悪影響を及ぼさないんでしょうか」
「いえ、寧ろご本人も喜んでらっしゃいますし、問題は有りません」
《無いんだ》
「はい、叡智と繋がれる事で、先代の愛を感じるんだそうです」
「はぁ、異世界」
《でも、無表情だからちょっと良いのかなって思っちゃうんだけど》
「処理の問題、だそうです」
《あぁ》
「辞書を引いている最中だとして、その引き出された知恵はどうなるんでしょうか」
「ご自分の経験と重なる事で、次回からはご自分の知恵になるそうです」
《まぁ、良い、のかな》
「いえ、寧ろ私は逆に懸念すべきかと。段階を経ず得た知識は、偏りを生むかと」
「それもまた、個性ですから」
あぁ、だから消す事が当たり前なんだ。
《ネネちゃんが危惧してるのって、人種を嫌う事じゃない?》
「はい、嫌うのは構いませんが、総合的に判断した場合のみ。下地に嫌悪が有れば、何を得ても嫌だとしか思えないかと」
「僕の事を、仰ってる様に聞こえるんですが」
《下地からして嫌いなの?》
「少なくとも僕の祖先は、人種に対して嫌悪が有ります」
《あぁ》
出た、不思議叡智。
人種以外は、祖先の叡智と繋がってるんだよね。
だから最初から知恵を持ってて、賢い。
「向こうの獣や魔獣を祖としているのは分かるんですが、猫の魔獣は、どうなるんでしょうか」
《あぁ、狼とかはね、人の理屈で狩られたり絶滅してるんだし》
「では、ヒナ様とお知りになられてはどうでしょう」
《確かに》
「でも確か、猫の悪魔は居なかったかと」
「はい、魔獣と関わる事になりますが、何か制約が」
《私達が忌避させたいだけだ》
『うん、ネネは直ぐに得そうなんだもん』
ネネちゃんの黒髪さんと、狐さん。
影から頭だけ出して抗議してる。
ウチの子達って、こんなに過保護じゃないんだけどなぁ。
「そう、何でもホイホイと拾う様に」
「正直、僕も危惧しています。ヒナ様に対して」
《過保護に思えるけど、まぁ、嫌悪が下地に有る子で嫌な思いはさせたくないしね》
「はい、人種に近ければ、それだけ知識も豊富なんですが。元は獣、自由に生きる事が本来ですから」
《となると、悪魔さんにご紹介して貰うのが妥当だと思うんだけど》
《益になるとなれば宛がう事に対して警戒している》
『この小さいのに与えるのは良いけど、ネネには絶対にダメだからね』
何か、嫉妬?
「過保護は良くない、実に良く分からされました」
『得たらダメだからね?』
《せめて雌の個体にしろ、孕まされては敵わん》
《あ、そっち》
「では以上を加味し、紹介所へ伺わせて頂きます」
《あ、うん、お願いします》
「宜しくお願いします」
ネネさんとユノさんは、お休みの日は必ず、1回は会ってくれる様になりました。
なので今日は、お昼寝の後はお出掛けです。
楽しみ。
『何処へ行くんですか?』
「ヒナちゃん、猫を触った事は」
『無いです』
「猫の魔獣が居るんだそうで、お会い出来るかご相談させて頂こうかと」
『猫の魔獣、考えてもいませんでした』
「ですよね、私もです」
《ココでも全然見掛けないもんね》
『確かに』
「なので、先ずは詳しくお伺いする為に、詳しい方にお伺いに向かっています」
《楽しみだねぇ》
『はい!楽しみです』
猫。
どんな触り心地だろう。
「間も無くですね」
『あ、この道はバルバトスですね』
「はい」
「バルバトス」
《ヒナちゃん、教えてくれる?》
『はい、良いですよ』
ソロモンと8番目に会った悪魔、バルバトス。
今も多分、騎士爵です。
「はい、そうお伺いしております」
『絶望と苦しみを知り、残酷さと無慈悲さを持ち、苦難と喪失を経験した者を好みます』
動物の声を理解し、隠された財宝を探し出し壊す事が出来ます。
それから過去や未来を見通せるので、権力者や友人を慰める術を教えてくれて、美徳の聖歌隊の能力を今でも有しています。
「美徳の聖歌隊」
『はい、ミカエルを筆頭とした奇跡を起こせる天使の軍団で、全員で10人です。エジプトのデカンとの繋がりも有ります』
《デカン?》
『占星術に使われる星の群れです』
《ほう》
『あ、天使名はCahethelです』
名の意味は、崇拝される神、セラフィムの合唱団の一員です。
そして神の祝福を以てして、悪霊を追い払う役割を果たします。
「悪魔祓い的な」
『はい』
お仕事が好きですし、お仕事を好きにさせます。
「主に農村地帯、農業や狩猟の守護を司る方、だそうです」
『はい、騎士ですが農業特化の騎士です』
「農業特化の騎士」
《何だか、温厚そう?》
『はい、多分、その筈です』
「成程、ありがとうございます」




