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21 学園への準備。

 今日はヒナ様と学園に来ました。

 下見と通学の練習です。


『遊園地みたい』

《中もそうかも知れませんな、では、ご案内致します》


『はい』


 彼は、グシオン理事長。

 伯爵でも無く侯爵でも無く、理事長。


 肌は褐色ながらも、真っ直ぐな黒髪を撫で付けており、前髪には幾ばくかの白髪が生えている。

 そしてお顔は、どちらかと言えば東洋や東欧的な特徴を持っている。


《この顔が不思議ですかな》

「はい、珍しいかと」

Xenopilus(ゼノピルス)、異国人の特徴を持つのが彼の特徴です。何処でも浮きます、目立ちたがり屋さんなんです』


《ふぉっふぉっふぉっ、ですな》




 グシオンは、嫉妬・羨望を司る悪魔。

 豊潤・多量・成功・快楽、そうした性質を持つ者を好む。


 過去・現在・未来の全てを見通せるので、全ての質問に対し解決策を呈示出来るのは勿論。

 友情の修復、名誉と尊厳を与える事が出来る。


 天使としての名は、Laviah(ラヴィア)

 崇高・勝利・名声、雷から絶対的に守る者。


『ロノヴェと申します、教師をしております』

『教師だけですか』


『はい、爵位は敢えて持ってはおりません』


 ロノヴェの本来の姿は、鼠の尻尾を持った鬼。

 けれど今はお婆さん、しかも他と違って作業服を着ている。


『何故です?』

『奴隷と言えば清掃、束縛と言えば制服ですからね』


 ロノヴェは奴隷制度と束縛を司る悪魔。

 弁論・演説・説得の専門家、だからか友人や敵に好意を与える事が出来る。


 けれど残虐で利己的な者、過剰を性質に持つ者を好む。


 天使としての名は、Ierathel(イエラテル)

 光により悪しき者を制し解放と保護を行う、平和と正義、科学と芸術を守る者。


《私もですね》


 ウヴァル。

 本来はヒトコブラクダだけれど、今は女か男か分からない人種の姿。


 肌は少し焼けてて、黒髪だけれど金色の目。


 愛・寛大・官能・幸運さを愛し、誰からの愛も獲得させられる術を教え、友人と敵との友愛も齎せる。

 過去・現在・未来の全てを見通せるけれど、不可能な計画の代名詞。


 天使名はAsaliah(アサリア)、公正な裁きを司る。

 愛嬌・愛想、神秘学への欲求、瞑想・宗教儀式への手助けをし。


 ココでは神明裁判を司っている。


『ですが、東のルキフゲの部下では』

《いえ、直属はサタナキアです》


 サタナキアはソロモン72柱には居ない悪魔。

 あのロキとサタン、ルシファーが融合した様な悪魔。


『あ、先代はどうされていますか』

《今は東の国に遊びに行かれているそうです》


『そうなんですね、神明裁判とは何ですか?』

《魔女裁判と同じ様なモノです》


『そうなんですね』

「では、次はワシですかな、オロバスと申します」


 オロバスの本来の姿は馬、今はグシオンよりも凄いお爺さん。

 天使名はMehaiah(メハイヤ)


 過去・現在・未来の全てを見通せ、神秘や世界の創造について教える事が得意。

 人種が特に大好きで、他の悪魔から守られるからと人気が高い。


 名誉・地位、友人や敵への好意を。


『友情をココで育ませる為ですか』

「はい、良くお分かりで」

『是非、スズランの君にご説明をば、お願い致しますね」


『はい喜んで』




 僕にしてみれば、お屋敷が大きくなった程度、なんですが。


《昂ってらっしゃいますね》

『だって、凄い大きいんですよ、廊下も広くて長くて大きい』


 灰色兎に抱えられたヒナ様が、興奮なさっている。


 ネネ様やユノ様から、少しお聞かせ頂いていたのですが。

 やはり、ヒナ様は外に出られた事が殆ど無いのでは、と。


 当初、単に物珍しさから喜んでらっしゃったのかと思っていたのです。

 まさか、そもそも外が珍しいとは、流石に思ってはいませんでした。


「他にも学園は有りますし、見比べるのも良いかも知れませんね」


『他にも、見比べる』

「学園にも様々な特色が有るそうですから、先ずはお試し、だそうです」


『成程、試食するんですね』

「はい」


 もしかすれば、ヒナ様は学園や人種を嫌ってしまうかも知れない。

 その懸念は僕にも幾ばくか有りました。


 ヒナ様は星の子の認定も、星屑の認定もされていない。

 非常に珍しい、無印と言う存在。


 悪魔の方々は星の子だと思ってらっしゃる様ですが。

 僕には、それは願望を含んだ希望的観測、願いの一種だと思います。


 もし、万が一にも、この世界を嫌う事は無いでしょう。

 ですが、人種を疎む様な事になってしまったら。


『また何を心配しているのでしょうか』


「僕は人種が苦手ですので、その事ですね」


《それは、何故でしょうか》


「愚か者は、とことん愚かですから」




 愚か者は何処にでも、必ず居る。

 それはある意味、働かない蟻の原理と同じだ、と聞いたんだが。


《何処にでも必ず、下は居ると思いますが》

「似ているからこそ、嫌なのかも知れませんね」

『似ているから嫌、同族嫌悪ですか』


「当たらずも遠からず、ですね、違うからこそ嫌な面が強調されて見えてしまう」

『私も半分は人種ですが』


「ヒナ様は愚かでは無いので大丈夫ですよ」

『愚かって、何でしょうか』


 ヒナ様は、頭が良い。

 けれども物を知らない部分が多い。


《それらを、ココで学ばれるのでは》

『確かに』

「ヒナ様なりの愚かさとは何か、答えが出来上がるかも知れませんね」


『はい、頑張ります』


 人種の扱いは難しいとは聞いていた。

 だがココまでとは、どうやら、かなりの難易度の相手と契約してしまったらしい。




《ネネちゃん、可愛いねぇ》


 制服が異例の速度で出来上がった。

 しかも成人サイズで。


「で、コレを、こう」


 先ずはしゃがみ、念じつつ、首元のブローチを回すと。


《おぉ、瞬きしたら変身した》

「みたいですね」


 視界が低い。


《本当、こんなに可愛いのに放置は無理だわぁ》

「高い、大人になってからの高い高いは怖いんですが」


《大丈夫、慣れてるし》

「いやコッチが慣れてねぇですよ」


《せーい》

「ひっ」


《2回目のひっ、頂きましたー》


 ヒナちゃんとのお正月を終え、コチラは一時的に強欲国へ戻り、色々としていたんですが。

 まぁ、酷い悪夢を見たのです。


 ユノちゃんに裏切られる夢を。


「はぁ」

《超凍り付いてたけど、そんなに怖かった?》


「落とされる不安と言うより、この子供の時の体感ですよ、全然忘れてました」

《あぁ、確かに、その感覚は覚えて無いかも》


「こんなのだった気もするんですが、新鮮で恐ろしい」

《遊園地好きなのに?》


「この大きさで乗れるモノ、限られますからね?」

《そんなに怖かったか》


「いや、まぁ、慣れれば」

《そっかぁ》


「いや、本当に気を付けて下さいよ、ギックリ腰は本当に痛いらしいので」

《そっちかぁ》




 今、男に変身してネネちゃんを高い高いしてるんだけど。

 両親が必要な理由って、ココにも有るのかも。


「慣れると、結構楽しいですね」


《やっぱり、男手って大事だよね》

「え?まぁ、安心感はかなり有りましたけど」


《臓器提供とか骨髄提供とかの問題も有るけど、こうして男手って本当は必要だよね》

「まぁ、無いよりは有った方が良い、とは思いますけど」


《もし、親戚も誰も頼れなかったら、凄い困るなと思って》

「大家族的には、寧ろ分からない感覚ですからね」


 もし、ヒナちゃんがそうだったなら。

 最後まで放置されたのも、もしかすれば仕方無いのかなって思うけど。


 大人なら、そこまで見越して欲しいよね。

 自分が急に倒れたり死んだら、子供が凄く怖くて悲しくて、困るんだから。

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