19 三が日。
《はい、今日は三日とろろです》
お吸い物と玄米ご飯、それと。
『コレ、初めて食べます』
《あー、じゃあ痒くなるかもだから、先ずは少量からね》
「色の濃い方は味付きで、コチラは何も入って無いとろろです」
《では先ず、見本を……》
ユノさんは味無しに、刻んだ梅干しとお出汁と刻み海苔。
ネネさんは味付き、納豆と卵黄と青ネギ。
「本来は、良く噛んだ方が良いんですけど」
《まぁ、飲んじゃうよね、頂きまーす》
あっと言う間に無くなった。
「コレはちょっと良くない見本にしましょう」
『はい』
私は、味無しに卵黄の醬油漬けと、青のりにしてみました。
「では、頂きましょうか」
『はい、頂きます』
とろとろ。
けど特に味が無い。
《味が足りなかったら足しちゃえば良いからね》
『はい』
ちょっと納豆。
うん、美味しい。
けど直ぐに飲み込んじゃう。
「因みに、こんな事も出来ます」
味無しにマグロのお刺身、卵黄の醬油漬けに納豆とネギ。
『それ、してみます』
《あー、じゃあお刺身漬けにしちゃお》
小盛のお茶碗とは言えど、5杯も食べてしまった。
やっぱり和食のバリエーションの豊富さは異常。
「ご馳走様でした」
『ご馳走様でした』
《はい、ご馳走様でした。じゃあ、今日は将棋と囲碁かな》
『将棋と囲碁』
「チェスはどうでしょうか」
『知らないです』
《それ私も知らなーい、執事君はどう?》
「チェスは知っていますが」
「では先ずはチェスからで、お願いします」
「あ、はい」
《じゃあコッチは将棋を揃えておこう》
「あ、はい」
そうして将棋の駒を揃えている間に出て来たのは、凄く綺麗なガラスのチェス駒。
鏡の盤の上で、映える映える。
『凄い、キラキラですね』
《色んな意味で、凄い、眩しい》
「ですね、触るのが怖いんですが」
「耐久性は有るので大丈夫ですよ、では先ず、キングの説明から……」
執事君は説明上手でした。
ただ、問題は駒の役割なんですよ、将棋を知っていると少し違和感が有る。
《じゃ、次はネネちゃん、将棋の説明をお願いね》
「あ、はい」
うん、試しに連続で説明して貰ったけど。
《役割を覚える所からだねぇ》
「ですね、将棋を知っててもチェスが混ざると混乱しますし」
『混ぜたらダメですか?』
どうなんだろ。
ネネちゃんが将棋の駒で、執事君がチェスの駒だと。
「将棋は手駒に出来るので、そこをどうするかですね」
「お互いに有りで構わないかと、確認もしながら出来ますし、敢えて使わないと言う手も有りでしょうから」
「成程、では1局、お願い致します」
「はい、宜しくお願い致します」
コレ、意外と良かった。
執事君が動かす前に駒の説明をしてくれてから、動かして。
ネネちゃんもネネちゃんで、駒を説明してから動かすし。
外野が忘れてて質問するのも有り。
で、待ても有り。
ゆるくてガバいけど、エキシビジョン的な感じで、覚えるには良い感じ。
「何か、有りですね」
《うん、アリ》
『コレ、どちらが勝ちますか』
「まだ、分からないですね」
でも執事君の勝利となった。
若いからか妖精だからか、本当に物覚えが早いの。
「負けました、ありがとうございました」
「いえ、ありがとうございました」
《じゃ、次はこのまま、ヒナちゃんとネネちゃん。執事君、解説をお願いね》
「あ、はい」
『頑張ります』
負けました。
「良い勝負でしたよ」
『そうなんですか?』
「何手か前に危ない手が避けられたので、勝因はそこですしね」
《あー、そう?》
「再現しても?」
「あ、はい、どうぞ」
確かに、見覚えの有る盤面です。
『あ』
「はい、ココで、こう」
「そうなんですよ、そこに入られると」
《あぁ、成程》
『凄いです、良く覚えてましたね』
「実はチェスは何度かした事が有るので」
《おぉ、けど接待無し》
「はい、手加減は無用かと」
「助かります、知ってはいても得意では無いので」
『難しいですもんね、分かります』
《覚えてまでしないからなぁ、逆に難しさが分からないかも》
「大会が有る位ですしね、趣味じゃないと無理ですよ」
「ですね、はい」
『お好きですか』
「どちらかと言えば、ですね」
『今度、教えて下さい』
「はい」
《じゃあ、次は将棋崩しにしよー》
「逃げましたね」
《いや休憩休憩、箸休め》
計略性の有るチェスも好きですが。
単純さに運の要素が入るので、コレはコレで面白いですね。
『コレも難しい』
「ですね」
《けど単純で、しかも早く終わる》
「酷いと一瞬で終わりますからね」
1番下から、駒を引き抜くだけの遊びなんですが。
単純だからこそ、白熱すると言いますか。
『はぁ、緊張する』
「分かります」
1度、駒を触ってしまっても、3回まではお手付きが許され。
同じく先送りも3回まで出来るんですが。
その使い所もまた、考慮しなければならず。
《あー、ダメだ、見るからにダメだよぉ》
「超絶裏技有りますよ」
《何、教えて》
「いっそ弾くんですよ、勢い良く」
《で、どっちの音か分からなくする、みたいな?》
「まぁ、殆ど成功しませんけどね」
《一発勝負かぁ》
「ですね」
そうした大勝負にも出れるんですね。
成程。
『鏡開き』
《うん、アレ飾りだけど、食べれるんだよ》
『そうなんですね』
《では先ず、お餅を焼く所から、した事は?》
『無いです、お餅も始めて食べます』
「では小さく切りましょう、この位で」
『はい』
恐ろしい程の切れ味の包丁。
豆腐の様にお餅が切れる。
《はい、では焼きましょー》
『はい!』
血反吐の量はかなり減りました。
もしかすれば、親御さんは物凄い都会っ子で偏食で、少し不思議な宗教に入っていたのかも知れない。
そう思える余裕も出来ました。
習うより慣れろ。
百聞は一見に如かず。
まさにその通り。
それに、少なくともヒナちゃんは悲しい、寂しいとは思っていない。
ただ、無かっただけ。
コレは年齢差のお陰だとも思います。
コチラはお姉さん、色々と知っていて当たり前、自分は知らなくて当たり前。
そう思える環境だからこそ、疑問には思わない。
けれど、もし疑問に思う時が来たら。
もし、同年代との違和感に気付いたら。
異世界だからこそ違う。
だけ、で済むとは思えない。
「執事君」
「はい」
「凄い切れ味ですねコレ」
「はい、ヒナ様用にと頂いた品です、生き物は切れない刃で出来ているそうです」
「成程」
「何を危惧してらっしゃるのでしょうか」
流石、精霊種の妖精属。
「ヒナ様は、同年代と、いつ関わる事になるのでしょうか」
「準備を終え次第、直ぐにでも」
過保護にも、家庭教師で十分じゃないかと考えてしまいそうになったけれど。
集団生活への慣れは、試しても無駄にはならない。
ただ、子供とは無神経なモノ。
幾らココでも、下には下が居る筈。
「とても、心配なんですが」
「はい、僕も付き添いますが、ご懸念は最もかと」
「アナタの懸念点は何でしょう」
「異物への拒絶反応です。ヒナ様は珍しく人種と悪魔の子、しかも他の子供とも違います、かなり」
執事君ですら違和感が有るなら、同年代は無意識に無自覚に警戒する可能性は高い。
野生の勘から違いを排除しようとする。
コレは防衛反応、野生動物なら悪い事では無いが。
『綺麗に焼けました!』
「凄い美味しそうですね、私のもお願いして良いですか?」
『はい喜んで!』
可愛い。
守りたい、この笑顔。
「良い遊戯をありがとうございました」
「いえいえ」
《やっぱり将棋が1番?》
「僕はそうですが、ヒナ様には将棋崩しが1番かと」
《それと凧揚げかな?》
「ですね」
「後は、五目並べですね」
楽しい時間も、あっと言う間に終わり。
お昼は鏡開きをして、色んな味でお餅を食べて、ヒナちゃんはお昼寝中。
そして夕飯は七草粥と、ヒナちゃんが気に入っていたおせちの具。
簡素過ぎたし、いつでも食べれるんだよって事をね、分かって貰うのに丁度良いかなって。
《執事君は、どう思う?ヒナちゃんの事》
「少し変わった過ごし方をされてらっしゃったのかと、ですが僕は向こうの事は知っていても実態までは知りませんので、評価は難しいですが。少なくともお2人が違和感を覚える程の事だろうとは思っています」
《ネグレクトは分かる?》
「はい、ただ最低限度の放置か、死に至る放置か。そこまでは分かりません」
「そうした事は話に出ないんですね」
「はい、先代により、お尋ねする事は禁止されておりますから」
《そっか》
「先代との面識が」
「いえ、雇用契約書に記載されていました、面識は有りません」
「あぁ」
《ネグレクトをされていたと思うんだけど、それはココではどうなの?》
「有り得ません、魔獣に差し出すか世話をするか、若しくは施設へ送るかの3択です。互いに不適合だと思った段階で相談をせず、施設へも送らない、それはネグレクト。虐待です」
《だよね》
「相性の問題や、何かしらの親の事情によるもの、子供にはどうしようもない事ですが。ココの同年代に、理解が出来る事でしょうか」
「全てでは無いかと、やはり庶民と貴族の育ちには違いが有りますし、義務教育なるモノはソチラより遅れているそうですから」
識字率はほぼ100%。
計算も1桁の割り算までは義務教育、でも、そこまで。
庶民の殆どは農民や技術職。
政治は貴族、庶民にはまだ、あまり関わりが無い事。
道徳と性教育は有るけど。
アレだったし。
「私、一緒に通おうかと」
《へっ?》
「学園に」
《へっ?どうやって?》
「そこです、どうしましょうか」
過保護?
いや、見学じゃなくて通うとか言ってるし。
そこまで体験しちゃう?
「あの、一体、何を悩んでらっしゃるのか」
「出来れば同年代として暫く様子を伺おうかと、ですけどコレですし」
「でしたら、魔法で小さくなられては」
《出来るの?》
「はい」
《出来るか、そっか》
「確かに、ココには魔法が有りますもんね」
こうして、ネネちゃんも学園に通う事になったんだけど。
初等部って。
普通、高等部だよね?




