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2 執事。

 執事、若しくは侍女長を探しに街へ行きました。


『意外と、明るい』


《ふふふ、あそこだけが常夜ですから》


 執事が指差した方向には、柵。

 その柵を境に明暗がくっきりと分かれている、どうやらコチラ側の光は通さないらしい。


 不思議。

 門をくぐった後、茨のトンネルを通ると目の前に家が有った筈が、目の前に有るのは門だけ。


『茨のトンネルは』

《入り方と出方は違いますから》


『成程』

《さ、参りましょう》


 ふわふわのドレスや、シュッとしたの、色んなドレスを着ている人や獣人が居る。

 それにお城みたいな家も有る。


 綺麗。

 綺麗で明るくて素敵な場所。




『ではコチラが新しい印章と謄本と証書です、ご確認頂けましたら、お受け取りのサインをお願い致します』


 印章の指輪の下に置かれているのは、戸籍と言うモノが書かれた紙とパスポートみたいな身分証。

 私の名はヒナ、となっている。


 そして性別や種類、前世は不明(アンノウン)と書かれていて。

 親の欄は、他の事は読めるし分かるのに、どうしてか読めない。


《はい、では次ですね》


 そうして次に向かったのは、紹介所。

 透明なガラス板が、タブレットみたいに使える不思議な場所。


『こんなに執事になりたがる者が居ますか』

『コレでもご案内出来る者は限られているのですが、そう仰って頂けて助かります』


 後で教えて貰ったけれど、人が混ざっていると嫌がる者が多いらしい。

 けれど選び放題だと思っていたし、そのつもりで選んだのは今の執事と同じ種族のシルキー、男の子。


《では、この者へ案内を》

『はい、直ぐに手配を』


 少し前に食べたのに、何だかお腹が。


《ふふふ、アレは肩慣らしだと思って下さい。さ、次は空腹の鐘の音を止めに行きましょう》

『はい』


 私の空腹の鐘が鳴ってしまったので、レストランへ。

 そこで私は私が本当に変わってしまったのだと、思い知らされました。




《次へ参りましょうか?》


 先代から、当主様が気に入るだろう、と教えられていたレストランのメニューを1周してしまわれたので。

 次のお店を、と思っていたのですが。


『いえ、もし図書館が有れば行きたいのですが』


 新鮮さと驚きに満ち溢れた眼差しで各所を回ってらっしゃったので、もしかすれば、とは思っていたのですが。

 予測通り、先代はお知恵を殆どお授けにはならなかったらしく。


《公文書館は御座いませんが、お知りになりたい事が有れば、私にどうぞ》


『買い食いは出来ますでしょうか』

《勿論、参りましょう》




 私の所属はソロモン72柱。

 つまり、例の女性が悪魔、と呼んでいたのは正しいみたいです。


 ココは地獄で異世界で、何でも居る世界。

 けれど私が悪魔だからなのか、楽しいです。


 ココでは生活の殆どがタダ、偶にはお金が掛かるけれど、殆どは物々交換。

 それは私の爪だったり、髪だったり、色々です。


 しかも悪魔や精霊は本来、食べ物を必要としないそうです。


『ですが何故、働くのでしょう』

「それが自分のしたい事、だからです」


 目の前には、今日発注したばかりの執事。

 買い物や買い食いを経て帰宅すると、既に家で待っていた、なので直ぐに面談となったので。


 今、色々と尋ねています。


『何を、主になさりたいんでしょう』

「世話全般です」


 先代の執事は、うんうん、と頷いている。

 私には良く分からない。


 爪を磨く事も頭を結い上げるのも、殆ど全て世話をして下さいましたが、何が楽しいのか。


 あぁ、外見、そうだ外見がかなり良いんだった。

 しかも外で稀有だと認識しましたしね、真っ白な髪に真っ白な肌、それに濃い赤の目。


 同じ方は居ませんでした。


 そして彼は水色の目と青を煮詰めた様な黒髪、真っ白な肌色。

 悪魔にしてみれば生まれたばかりの、未経験の方にお願いしたんですが。


《返品は7日以内でしたら受け付け可能ですから、先ずは試用で、どうでしょう》

『うん、はい、宜しくお願いします』

「はい、宜しくお願い致します」




 僕の様なシルキーやブラウニーは、先ずはこの世界で修行し、主に結婚するか新しい世界へと行く事になる。

 コレは基礎中の基礎、なんですが。


『常識が欠落していますね、私』


 親の愛が足りないか、敢えてか。

 ヒナ様に問題は無さそうですし、先代に至っては愚かな行為は決してなさらない方で有名ですから、何か意図して知識や記憶を授けなかったのかと。


 以前の執事から、そう聞かされている。


「出来るだけお教え致しますが、教え忘れが出る可能性も有りますので、遠慮せずお尋ね下さい」


『はい、ではこのまま伺わせて頂きますが、ユニコーンもそうなのですか?』


「ソチラで言う、野良猫と同じかと。意思疎通をしたいと思う者にだけ接し、擦り寄るので、好きに行き来しているモノが殆どです」


『野良猫を見た事が有りません』


 バルバトス騎士爵からも推薦され、浮かれてすらいたんですが。

 (ヒト)種混ざりは兎も角、こう知恵が無い者を産み落とすとは、先代は本当に何を考えてらっしゃるんでしょうか。


 分かりません。

 既に知識の有るモノが殆どの世界で、何故、先代は知恵を敢えて与えなかったのか。




《では、どうか健やかに》

『はい、ありがとうございました』


 先代の執事が、行ってしまいました。

 この先、他の世界に行き、人と結婚なさりたいそうです。


 ココは、神話の者が生きる世界。

 悪魔も聖獣も普通に、いえ寧ろ、とても平和に過ごしています。


「ヒナ様」


 私を拾った方は、男女すら分からぬ美貌だったのに、私は女の姿のまま。

 と言うか、幼女の分類、だと言う事は分かります。


『先代に私が混ざり、濁ってしまわれてはいないでしょうか』

「大丈夫かと、先代様はお美しい姿で旅立たれた、と記録されておりますから」


 彼は阿らない、だから本当なのだろう。

 けれど、それなら私は与えられただけ。


 例え全てを持ってらっしゃる方の気紛れだったとしても、私は何かがしたい。


 お返しがしたい。

 恩返しをさせて頂きたい、けれど先代の行く先は、不明。


『知りつつ体験出来る事は何でしょうか』


「刺繍は、どうでしょう」

『では刺繍をします』


 ココの常識を知るだけでも、かなり時間が掛かるそうです。

 少し聞けば理解する事も有りますが、殆どが知らない事ばかりです。


 なので並行作業、逸話等も含めて、聞きながら刺繍をしました。


 少なくとも、刺繍を贈ったら喜ぶだろう方だ、そうした記憶は有ります。

 そしてお優しい方だとも、私は分かりますから。

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