表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

197/206

195 無能な仲介者、有害な立ち会い人。

 弁護士は居るし、家庭裁判所も有るが。

 ココでは立ち会い人制度が主に活用される。


 嘘を嘘と見抜く能力、を保有している事が受験資格の最低要項、なだけ。

 勿論、前科持ちに受験資格は無い。


《ようこそ、ダンタリアンと申します。本日は公認立ち会い資格に受験頂きありがとうございます、では、試験の概要をご説明致します……》


 曰く、数人で組み、実際に起きた事案の模擬演習を行うらしく。


《レンズだ、宜しく》

『宜しくお願いします』

「宜しくお願いします」

『あ、はい、宜しくお願いします』


 今回は俺と現地民らしき中年の女と、ヒナと玉響(たまゆら)を足した様な少女、それと俺と同郷らしき男と組み。

 友人の元恋人を襲撃し復縁要請をさせようとしたが、早々に捕まり全て白状した、と言う案件なんだが。


 しっかり、当事者らしきのも居る仕様だった。


《強くしっかりしてると分かってくれたら、復縁出来ると思っただけで傷付ける気は無かった、本当に悪いと思ってる》

『友達があまりに可哀想で手伝っただけで、別に大事にする気は無かった、けど反省してる』


「絶対に、2人を許しません」


 女性の要求は顔への刺青と、爪の染色、金銭的賠償は治療費のみ。

 対する男達の要求は、刺青や染色の拒否、代わりに多額の慰謝料の分割払い。


 コレは、バランス感覚を試される試験。

 彼女の要求は妥当、だが男達の方も、分割払いがしっかり行われるなら妥当とも言えるが。


 彼女の要求は、金じゃない。


《譲歩は、難しいだろうな》


『でも、彼だって反省して、これだけ謝っているのだし。少しは情状酌量の余地が有っても』

《いや、被害者に妥協しろは違うだろ》


『違うのよ、誰にでも間違いは有るのだし』

《被害者も加害者も、向き合うべきはそんな事じゃない筈だ。しかも、アレだけで加害者擁護は、流石に限度が有るだろ》


 書類にも謝罪した、との記載しか無い。

 立ち合い人は、中立公平を信条としなければならない筈が。


『でもだって、ご友人の方は可哀想じゃない、ただ巻き込まれただけで』

《最も可哀想なのは被害者だ、中立公平の立場からかけ離れ過ぎだろ、事件や事故はアンタが善人ぶる為の道具じゃないんだぞ》


 凄いのが紛れ込んでるな、何なんだ一体。


『私、別に、そんな』


《そんな、何だよ》

『ごめんなさい』


《何が》


 あぁ、このパターンか。


『アナタの機嫌を』

《俺は機嫌を損ねて無いし、そもそも俺の機嫌は関係無いだろ》


『でも』


《でも、何だよ》


『ごめんなさい』


《だから、何の謝罪だよ》


『良かれと思って、けれど、少し言い過ぎてしまったみたいだから』


《何処が、どう言い過ぎたと思うんだ》


『勿論、彼女は可哀想だけれど』

《情状酌量の余地が有ると思う根拠は何だよ》


『確かに私も、少し、偏ってしまったかも知れないけれど』


 こう、中途半端に会話を止める理由は分かってはいるが。

 にしても、不快感はぬぐえないんだよな。


 体言止めと同様、強調や注目の為の言葉止め。

 障害が有るならまだしも、コレは明らかに、直されなかった悪癖。


《少し話しは逸れるが、その相槌が無いと話さない癖、誰にも注意して貰えなかったのか?》


『ごめんなさい』


 このコミュ障を立ち合い人にしちゃ不味いだろ。

 寧ろ問題を絶対に拡大させる側だぞ。


《それ返答じゃないよな、何について謝ってるんだ?》


『多分、私が対応を間違えてしまったから』


 多分。


《多分、そう予断を挟む必要性が、保身以外の何処に有るんだ》

『保身だなんて、そんなつもりは』


 否定だけは脊髄反射並みに早いが、言語化が難しい状態で立ち合い人は。

 マジでダメだろ。


《じゃ、保身以外が有るなら言ってみろよ》


『そのつもりは無かったのだけれど、結果として、そう思わせてしまったなら謝るわ。だから、今回の問題に戻りましょう?』


 つもりが無いから許せ。

 ソッチの受け取り方次第だろう、か。


《凄いな本当に。1つ、明らかにそう思われる様な言葉選びしかしなかったのにも関わらず、そのつもりは無かったと言った》


『確かに他にも』

《2つ目、そう思う以外無いだろう言葉選びをしたにも関わらず、そう思わせてしまった。とは、あくまでも誤解だ、ソッチの受け取り方次第だろう。そう突き通そうとする為の言い訳にしか誰も受け取れない筈だが、まだ、言い訳を重ねるんだろ》


『言い訳だなんて、私はただ、説明をしただけで』


《説明と言い訳の区別が付かないんだな》


『そう言うワケじゃ』


 悪い印象を持たれる言葉だけには、脊髄反射並みに反応はするが、あくまでも否定のみで論拠も根拠も無い。

 単なる感情論。


 コレも、対処するしか無いのか。


《自分が対応を間違えたと断言しない事に、保身以外に何が有るのか、いい加減教えてくれよ》


『ごめんなさい』


《だから、何について謝罪しているのかの説明をしてくれよ、アンタは他にもやらかしてるんだから》




 今、私はヒナちゃんの要請でレンズさんの立ち会い人試験に、レンズさんには内緒で同行しているんですが。

 いい加減、口を出すしか無いですよね、味方になってくれないかってコチラをチラチラ見てますし。


 この女性、凄いストレス。


「どの事か分かりませんか」


『色々と、言われたので』

「先ずその言葉選びです、色々と言われたから混乱している、それは他責的が過ぎるのでは。自身が未熟が故に対応が後手に回り問題が散逸し、どの事か全く分かりません、と言う事に問題が有りますか」


『いえ』


「いえ、そう以降の言葉も無く、こうして相手に返答を待って貰っていて申し訳無い。そんな態度が見受けられませんので、ごめんなさい、そう言われた程度で何にについて謝罪しているのかコチラは見当が付きません」


『すみません、頭の回転が遅くて』

「そう(へりくだ)る機会、(おもね)る機会は、もうとっくに過ぎているかと。今の状態では、完全に話を終えたいが為の謝罪にしか、どう考えても受け取れませんが」


《そもそも、そんなつもりは無い、と言うが。包丁を振り回しておいて、他人が怪我をしてもそんなつもりは無い、そう言ってるのと同じだぞ》


『そんな、傷付けるつもりは』

《出た、つもり、な》

「傷付けるつもりが無いなら、何を言っても許されるのでしょうか」


『そうでは無いけれど』


《そう相槌を欲するのに、次々に問題提起をされて困る、と思われてもな》

「はい、問題行動が多過ぎます。1つ、被害者の前で加害者を擁護する姿勢を見せました」


《2つ目、被害者に許す様に誘導しようとした》

「誰にでも間違いは有るのだし、コレは誘導です、誰にでも間違いが有るとは言えど限度が有ります。その限度について疑問を抱かせ、加害者の有利になる様な動きは公平さに欠けます」


『すみませんでした』


「既に問題は多岐に渡っています、何について謝罪しているのか説明して下さい」


『言葉選びを、間違えてしまいました』


「誰でもこの位、言葉選びを間違えている、その認識で宜しいでしょうか」


『そこは、あまり私は気にしないので』

「でしたら気にする事は出来ますか、気付けますか」


『そう断言は出来ませんが』

「仲介、立ち会い人なのに、ですか」


『すみません』


 レンズさんに、ガン見されている。


 ヒナちゃんを見本に色々とトレースしてしまいましたが。

 もしかしてレンズさん、既に気付いてますかね。


『あの、確かに彼女も間違えたとは思いますが、お2人で言い募るのはあまりに酷では』


 黙っているなと思ってましたが、凄い、まだ伏兵が居たとは。


《はぁ》

『いえ決して、お2人を責めているワケでは無く』

「彼女も、ですか、では他の誰が何処を間違えたと言うのでしょうか」


『問題とは、どちらかだけの原因で』

「起こる場合も起こらない場合も有るのでは、それで、誰が何処を間違えたと言うのでしょうか」




 私はダンダリオン。

 男女の顔を持つ悪魔、だからこそ男女の考え、いえ寧ろ人類の考える事は全て承知している。


 けれど、理解し難い者が居る事も事実。


 平和が故に、擬態能力さえ有れば、一定の期間は目を逃れる事が出来る。

 だからこそ、その違いに気付く事は難しい。


 けれど、答えが1つでは無い問題、前例の無い問題には対応が難しく。

 表面化する頃には、修正が容易では無い状態となる事が多い。


《で》


『そんなに、威嚇しなくても』


《尋ねただけで威嚇、か》


『尋ね方に、問題が、有るかと』


《なら、そっちの言い方に問題は無いとでも》

「彼女も、とはつまり私達どちらか、若しくは両方に問題が有ったと示唆したワケですが。どちらですか」


『彼の尋ね方を、もう少し、工夫しても問題は無いのではと』

「では具体的にお願いします」


『それは、全体的に、で』

《敬いつつも子供扱いしろとでも》


『別に、そこまで言ってるワケじゃ』

「では詳しいご説明をどうぞ」


『ですから、お2人を責めているワケでは』

「責められているとは微塵も思ってはいません」

《あぁ、だから詳しい説明を頼む》


 論点をズラしている事に、全く気付かず、如何にただ相手が分かっていないかのみを考える。


 そして、長い長い沈黙の後、謝罪し事を済まそうとする。

 多いんですよ、向こうの方では特に。


 自己主張さえすれば、正義になると勘違いしてらっしゃる方。

 若しくは、賢く見せたい虚栄まみれの愚か者か、行間や空気が読めないか。


『すみませんでした、出しゃばってしまい』

「いえ出しゃばりでは有りません、尋ね方について詳しくお願いします」

《おう、だな》


 そして沈黙の後に再び謝罪し、時には涙や仮病を使い、問題を有耶無耶にしようとする。

 ですが、お2人には通じない。


『僕、本当に、ただ、良かれと思って』

「落ち着くまで幾らでも待たせて頂きます、今日は1日中、時間を取っていますので」

《だな、俺もだ》


 さぁ、大袈裟に土下座するまで。

 3、2、1。


『本当に』

《お時間となりました、では書類をお渡ししますので、記入後は待ち合い室でお待ち下さい》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ