18 遊戯。
夕食はネネちゃんの家の伝統で、すき焼きだったんだけど。
コレも初めてで、ネネちゃんの唇が悲鳴を上げるかと思ったんだけど。
ネネちゃんも、ひたすら可愛がる事に決めたらしい。
「可愛がるだけで構いませんかね」
《そこは、少しは躾けて欲しいかな》
相談相手は、結局ボディスさんだった。
「躾けも何も未経産なんですが」
《妹が居ただろう、十分だよ》
「妹を躾ける間は無かったんですが」
《あー、下の子って極端だよねぇ、上手に過ごすか個性的か》
《そうだね》
「まだ少し、傷付けてしまいそうで怖いんですが」
《君は傷付け無いよ、そう言う風には出来ていないからね》
《ほらね》
《性質は変えられない、君は寧ろ寡黙な方、何かキツい言葉を言うなら熟考し相手を思っての事》
「それでも」
《消せば良い、ココは消せる世界なんだから》
「結構、倫理観がぶっ飛んでる気もしますが」
《そうかな、寧ろ向こうの方が僕には驚きだよ。たった1回の失敗で、と言いながらも騒ぎ立てたり、たった1人のあやふやな証言で人を死に追い遣る者が居る。少しのミスも許されない、酷く緊張感の有る世界だと思うけどね》
うん。
でも戻りたいんだよね。
もしかして私。
《私、マゾなんですかね?》
《いや、寧ろ負けん気かな》
「あぁ」
《あぁってー》
「ケンカ凧、凄い上手じゃないですか」
《才能かもよ?》
「いや、練習しまくりましたね」
《だって、お年玉を掛けてたんだもん》
「なんつー事を」
《君も、花札で賭けてたよね?》
「いや、アレはお菓子で」
《花札、明日しよう》
「ルール分かります?」
《ううん、でも麻雀なら分かる》
「あ、麻雀もしますか、アジア圏ではするんですよね確か」
《そうだね》
《よし、明日も遊び倒そうー》
「いや〆ないで下さいよ」
《大丈夫、何か有れば僕らも補佐をするから》
《ほら大丈夫、よし、ラブズに見せびらかしに行きましょう》
「絶対に嫌です」
ネネちゃん、本当に恥ずかしがり屋さんなんだから。
「はぁ」
《頑固》
「勝ち気」
《恥ずかしがり屋さんなのぉ》
「それで結構です」
《まぁまぁ、私達はお屠蘇を飲もうじゃないか》
「おぉ」
《まぁまぁ、どうぞどうぞ》
「下戸なので秒で撃沈しますが」
《うん、はいオツマミ》
湯上がりお屠蘇と、ワンスプーンのクリームチーズキャビアや、蟹爪の蟹味噌乗せ。
こんなの、撃沈するに決まってるじゃないですか。
「何ですか一体」
《そりゃ労いの気持ちだよぉ》
「それは、私もなんですが」
《まぁ、1回位はね?見てみたいじゃん?》
「まぁ、お正月ですし」
《そうそう》
1杯で、もうぽかぽかですよ。
「また、すき焼きを食べさせたい」
《分かる、あの恍惚とした表情だもん》
「天丼も、特大の海老と、何かを」
《あ、ロブスター天丼?》
「蟹、カニクリームコロッケ」
《あー、身が凄い詰まってるの食べさせたいね》
「蟹味噌は、早いですかね」
《いや、けどココは敢えて、大人の階段って事にしとく?》
「貝柱と海老まみれの、かき揚げ」
《良いねぇ》
「お味噌汁は、アオサ」
《もう眠いのぉ?》
「赤だしで、アオサ」
料理に興味が無かったのに。
こんなに食べさせたいと思う日が来るとは、思わなかった。
『おはようございます』
「はい、おはようございます」
《おはよーう、じゃあ今日はウチのお正月2日目を実践してみたいと思います》
『はい!』
《では2日目のお雑煮とおせちを朝食として食べます》
『はい!』
今日は着物じゃなくて、動き易い少しお洒落な寝間着。
ヒナちゃん、今日も嬉しそうに食べてくれてたんだけど。
お代わりもせず、おせちにも手を付けなくて。
《もう良いの?》
『余れば、また食べれるので』
コレ、知ってる。
野良猫が餌を残すアレだ。
《大丈夫、いつでも食べれる様にレシピを伝えて有るから、ね?》
「はい、特にお雑煮は意外と簡単ですので、僕でも作れます」
『いつでも食べて良いんですか?』
「勿論、お祝いの時も、何も無い日でも食べて良いんですよ」
「ですけどおせちはダメですよ、幾ばくか栄養が偏ってしまうので」
《だね、3日間まで》
「明日は明日で特別な食事を用意してますから」
『そうなんですね、じゃあお代わりします』
「はい」
《ネネちゃんはね、黒豆大好きなんだよねー?》
「一時は常食してました、既製品が有りましたから」
『デザートですか?』
「両方ですね、箸休めにしたり、デザートにしたりです」
『箸休め』
《あー、ちょっと口の中を変えたい時?》
「ですね、お茶請けでも良いですね。デザートと言う程でも無いけれど、お茶を飲んでる間に挟む、飲料促進剤です」
『飲料促進剤』
《あぁ、お漬物とか、お茶を飲む為に食べる感じ》
「水分不足は体に悪い、でもお茶や水だけじゃ飽きる」
《で、なますばかりだと飽きるけど、数の子と混ざると少し口の中が嫌だなって時に。お茶だけじゃ口の中を変えるのに足りないな、若しくはお茶は要らないけど変えたいな。よし箸休めだ、みたいな?》
「ですね、いっそ家庭教師を目指しては?お金持ち相手なら楽ですよ?」
《1対1より大勢が良いなぁ》
『先生になるんですか?』
《迷い中、寧ろネネちゃんの方が》
「興味が無いんで無理ですね、身内で手一杯なので」
『私は入ってますか?』
「勿論入ってます」
《私は?》
「入って無いと思います?」
《質問を質問で返すのは良くないよ?》
「何故です?」
《あー、ね?何でだろうね?》
『ややこしくなるからですかね?』
「ですね」
私でも血反吐出ちゃいそうになるんだもん。
そりゃね、ネネちゃんだけに任せるだなんて無理だよ。
「強いですね執事君」
「計算のし甲斐が有るので好きなんだと思います、かなり気に入りました」
『勝つコツは何ですか』
《計算か経験かなぁ?》
「僕は経験から導き出された計算に近いですね」
「絶対、ポーカーすると負けそう」
『した事無いです』
《お、じゃあコレが終わったらしますか》
『はい!』
花札は勝ちましたが。
麻雀は執事君の勝利。
そしてポーカーは。
《うぅ、何も勝てなかったよぉ》
ヒナちゃんの勝利。
「いや、ケンカ凧が有るじゃないですか」
『私、ユノさんとしてません』
「では改めて勝負してみましょうか」
『します!』
昔の遊びって健全ですよね。
ちょっと頭を使って、体を動かして。
こうして集団行動への慣れを。
《あ、将棋》
「ほら負けん気が強いじゃないですか」
《いやもう、いっそ遊び尽くそうかと思って》
「囲碁いけます?」
《いやー、五目並べなら》
「じゃあ、明日はそうしましょうか」
《だね》
めたんこに甘やかしてやろう、と思えると。
血反吐の量も幾ばくか減りますね。
そう、結局はどうしたいか。
それと覚悟。
「はー、古式ゆかしい生き方、良いですね」
《何て言うか、本当に健全だよねぇ》
「賭けなければ」
《いや、損から学ぶ事も有るじゃん?》
「まぁ、そこから確率の勉強に繋がる場合も有るとは思いますが」
《あぁ、それ良いね》
どんな人が良いか、今まで考えても居なかったんだけど。
やっぱりネネちゃんみたいな人が良いかも。
「この、真面目過ぎるのが」
《いやいや、何なら今、真面目な人が良いなとか考えてたんだけど?》
「大家族計画ですか」
《やっぱり外からどうにかするって、制限が有るし凄く難しいじゃん?》
「まぁ、はい」
《大人数に影響させるってなると、そうかなって》
「でも、真面目過ぎるのは」
《真面目過ぎるって、何処から?》
「理屈っぽい過ぎる?みたいな」
《道理だとか理屈が通じない事を良しとする方がマズくない?》
「そこは、こう、感情論でぶん殴る的な?」
《あー、昨今ね、どうなるか分かって。やって無いか》
「かと」
《真面目過ぎるって、ぶっちゃけ低能の言い訳だと思うの》
「ユノちゃんから、まさかの衝撃発言が」
《だって、ネネちゃんの言う通り、向こうは感情論でぶん殴ってくるだけじゃん?それを許してたら、いつか躾けのされて無い猛獣になるワケじゃん》
「ウチの子が猛獣になるワケ無いわ」
《いやお前は神様か何かかよと、何で将来が分かるのよ》
「だって、私がそう育てるんですもの」
《専門の方で?》
「違うけれど、偉い人の本に書いて有る事や、ネットでもしっかり調べているし」
《全て書いて有って、それ正しいの?》
「じゃあ、どうやって教育の指針を建てろって言うのよ」
《ネネちゃん、上手いね?》
「まぁ、義姉がそうだったので」
《わぁ》
「外国籍の方で、文化の違いも有り。でもすっかりですよ、馴染み過ぎて昔から住んでるのかって感じですから」
《まさか身内に居たとは、大変だったね》
「兄が1番、大変だったと思います、苦労しての結果ですから」
《で、何とかなると思っちゃった?》
「うっ、その考えは、根底に有ったかも知れません」
《好きでもね、諦めた方が良い時は有ると思う》
「ですよね、明らかに損切りに失敗しましたし」
《大丈夫、こうして第三者が絡むんだし》
「コチラ寄りですけどね」
《バランス的には丁度良いじゃん?》
「ですね」
喧嘩にならないのが良いんだよねぇ。
しかも演習にも付き合ってくれるし。
あ、ワンチャン、ネネちゃんの家族になるのもアリかも。




