表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

189/193

187 勉強と石選び。

『まだダメです』


《ダメか》

『はい、レンズも消化器官を育てるべきです』


 レンズには好きな事が少ないです。

 私も少ないですが、今は増やそうとしています。


 普通を知る為に、中庸の為に。

 それに、消化器官を育てるにも、色々と知るべきだとエルネストが言っていました。


 それはレンズもです。


「あの、宜しいでしょうか」

《おう》

『はい、どうぞ』


「僕としては、お勉強して頂くのはどうかと。コチラです」


 アズールが差し出した冊子には、公認立ち会い人制度、と書かれていました。


『コレは何でしょうか』

「向こうで言う民生委員、だそうで、問題が起きた場合の仲介役です」

《あー、そう言えば監督所でも言われたな、取ってみたらどうだって》


『取って下さい』


《一応、何でか聞いても良いか》

『お勉強が趣味になるかも知れません』


《まぁ、確かにな》

『何で気が進みませんか』


《あんまり愚かなのと関わるのは、な》

『加害者は愚かかも知れませんが、被害者はそうとは限りません』


《まぁ、確かに。けど、あんまり、活躍させる気は無いんだが》

『資格は無いより有った方が良いと思います』


《結構、圧が強いな、何でだ》

『余計な事を考えないお手伝いです。考えないは難しい事です、でも夢中になると、その時は忘れます』


《そっか、ありがとな》

『受けますか』


《おう、受けてみる》

『頑張って下さい』


《おう》


 レンズは最近、匂いを嗅いでくれません。

 多分、悲しくなるからだと思います。


 ですので、まだ、私は何が有ったのか聞きません。




「はい、何か」

《ソチラで所持している宝石について、出来れば交渉させて貰いたい、妹に身に着けさせたいんだ》


 俺は勉強も程々に、先ずはヒナの印章を使い、例の宝石を所持する家に来たワケだが。

 さ、信用してくれるかどうか。


「あぁ、成程。分かりました、どうぞ、お上がり下さい」


 試験の内容は、俺にとっては勉強するまででも無かった。

 それと、正直、コッチの方がずっと気になってたんだ。


 ヒナの宝石。

 赤いムーンストーンなんて、絶対にヒナ用だろ。


《急にすまない、まだコッチには不慣れなんだ》

「でしょうね、コチラは新造の印章、しかも私が初めて見た印章ですから」


 かなり、悪魔に詳しいのか。


《そうか、あまり知られて無いんだな》

「いえ、新しい方がお生まれになった事は、地獄(ゲヘナ)の者は全て承知しておりますよ」


《だが、宝石が継がれていないんだ》

「きっと、以前の方は無頓着だったか、若しくは敢えてなのでしょうね」


《悪魔は、分身しか居ないらしいな》

「はい、ですが、記憶を継承なさらない方も居られる」


《ラウム男爵だけ、だろう》

「72柱の方だけなら、そうですね」


《そうか、確かに、本当に詳しいな》

「私の後見人はXezbeth(ゼズベス)、嘘と伝説・創話・物語・虚構の悪魔、72柱には列席しておりませんから」


《すまん、不勉強で》

「いえ、向こうの東の国で知る者は、そう多くは無いと聞いておりますから」


《天使名は、無いんだな》

「はい、中にはMemuneh(メムネ)と呼ばれる、天使であり悪魔である者も居りますし。ココでは、悪魔、その括りにより存在は幾ばくか変更されております」


《良い意味で、か》

「はい」


《すまん、脱線した》

「赤いムーンストーンですね、宝石屋から連絡が有りお待ちしておりましたが、知恵熱を出されていたとか」


《あぁ、やっとな》

「おめでとうございます、受け入れ、認められたのですね」


《それは誰に、何に、なんだろうな》


「私の後見人は、世界、そう申しておりますね」


《世界》

「はい、神は敢えて、永遠にお隠れになられている。その前提を元にし、であるならば、この世界が認め受け入れたのだろう。と仰っておりました」


《世界、か。宝石屋から連絡が有ったとは知らなかったんだが》

「その殆どを、私が管理しておりますから」


《名を上げさせない為に》

「そして諍いを起こさせない為に」


《誰の案なんだろうか》

「来訪者様です、宝石が大好きだからこそ、向こうの様に争いの種にしない為。そう伺っております」


《後見人、ゼズベスによってか》

「はい、どちらに致しましょうか、黒く光るモノか白く光るモノ」


《そこが悩み所なんだよな、先ずは見せて貰えるか?》

「はい、少々お待ちください」


《あぁ》


 初老の、人の良さそうな男。


 (ヒト)種に見えるが。

 だからと言って、実際は人種かどうかは分からないんだよな。


 と言うか、美味い紅茶だな。


 それに菓子も。

 甘い品だけじゃない、招く事に相当慣れてる。


 だが、譲って貰おうとするのは、そう居ないだろうに。

 いや、寧ろ多いのか。


「はい、お待たせしました。どうぞ、コチラです」


 6カラットは有るだろう、楕円で丸みを帯びたカボションカット。

 この色合いと発色、真っ直ぐに強く輝く光のライン。


 いくらムーンストーンでも、コレはもう、絶対に高いだろう。


《本当に、凄いな》

「いえ、コレは組み合わせから生み出された品、誰かを思い生み出された事には叶わないかと」


《いや、まぁ、止めておく。この、端に有る石は何なんだろうか》

「向こうのレッドムーンストーン、と呼ばれる存在です」


《あぁ、有るのか。けど随分と違うな》

「はい、ココまでの透明度、均一さや鮮やかさはそう無いかと」


 差し出された肌色のベルベットのトレイには、提案した以上の品が並んでいた。


 雲の様な白色に、真っ赤な光の筋。

 それと明る過ぎない、深紅に近い濃い赤に白い光の筋、それから黒い筋の品に。


 黒に近い濃い赤に、真っ赤な筋。


《はぁ、マジで悩むな》

「宝石の言葉や意味とは、結局は印象でしかありません。アナタが送りたいお相手に、どちらが合うか、かと」


 ヒナに合う石。

 ヒナの印象。


《よし、決めた》

「ではお持ちになって下さい、以降はアナタが所有者となります、どうぞ」


《何の対価も無しにか》

「相応しい方にお譲りすべきだ、とお伺いしておりますので、はい」


《だが、証明書だとかは》

「コチラで処理しておきますが、ご一緒にご確認をなさいますか」


《疑ってるワケじゃないんだが、すまん、念の為に同行させて欲しい》

「はい、では、参りましょう」




 レンズさんが向こうで言う民生委員、公認の立ち合い人になるらしい、と。


「それで、何故、私なのでしょうか」

『シイラはレンズと気が合うと聞きました』


 まさかの呼び捨て。


 それに一体、誰に。

 いえ、それより目的です。


「それで一体、私に、何をお求めで」

『レンズは直ぐに試験を受けてしまうと思います、なので見守りをお願いしたいです、また知恵熱が出たら困ります』


「成程」


 ガン見されている。


『変装してもダメでしょうか』


 無表情ですけど。

 多分、コレは、懇願されている。


「変装、ですか」

『どんな姿でも構いません、ダンダリオンやシトリーも協力してくれます』


 レヴィアは。

 遠くで微笑むだけで、良く分からない。


 多分、結局は自分で決めろ、と言われるだけ。


「分かりました」

『ありがとうございます』


 あぁ、ちょっと口角が上がってる。

 そんなに心配なんですね。


「容姿を、少しお借りしても構いませんでしょうか」


『何故でしょうか』

「理想が、そう無いんです」


 今と違うなら、もう何でも良い。

 そればかりで、しかもまさか、叶うだなんて。


『分かりました、他に何を混ぜますか』


 あぁ、混ぜる、が基本なんですかね。


「玉響さんとか、どうでしょうか」

『良いと思います』


 即答。


「では、そこから更に、変更しようかと」

『後はダンダリオンやシトリーが何とかしてくれます、サレオス、お借りします』


『良いよ』

『ありがとうございます』


「いえ」


『シイラは不思議です、ネネさんと似ているのに少し違います』

「あの立派な方と、何処が似ているんでしょうか」


 まさかの長考。

 良いですね、思い付きで言ってくれているんですね。


『傷や問題に、ネネさんより慣れているんだと思います』

『そうだね』

「そうなんですかね」


『そうだよ』

『謙虚で控え目です、ネネさんもです』

「あぁ、私のは後ろ暗いからですよ、全く違うかと」


『だから顔を隠していますか』

「それも、ですね、顔に自信が無いんです」


『私にも見せられませんか』


「いえ、どうぞ」


『普通だと思います』

「ありがとうございます」


 あぁ、話が途切れてしまう。

 周りに子供は居なかったし、そもそもコミュ障。


 一体、どうすれば。


『ふふふ、緊張しているんだねシイラ』

『何故緊張しますか』


「言葉は、とても難しい道具なので。慣れない私には、誤解や問題が無い様に言うのが、とても難しい。ですかね」


『レンズは、シイラは直ぐに言葉が出ると言っていました』

『つまり、遠慮しているんだよ。子供に不慣れ、しかも関わりにも不慣れだからね』


『私と同じです、私も遠慮すべきでしょうか』

「いえ遠慮は不要です、何でも言ってくれて構いませんよ」


『妙さんはウ〇コに、私の抱える問題に不慣れなので、あまり言わない様にしています。ウ〇コは合図です、悲しかったり、辛い事に耐えられない時はウ〇コと言います』


 合図まで有るとは。

 と言うか、美幼女のウ〇コ発言って、ちょっと脳がバグりますねコレ。


「私も使って宜しいでしょうか」

『はい、ご自由にお使い下さい』


「お2人で考えたのでしょうか」


『はい』

「ありがとうございます、レンズさんもヒナちゃんも親切で、とても優秀ですね」


『ありがとうございます』


 この、僅かに姿勢を正したのは。

 多分、自慢げ、なんですかね。


「いえいえ、私こそありがとうございます、頼んでくれてありがとうございます」


『ハグをどうぞ』

「あぁ、ありがとうございます」


 美幼女、強い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ