186 お礼参り。
《すまん、まだ言えん》
珍しく苦虫を嚙み潰した様な、余裕の無い表情ですね。
「分かりました、それよりどうでしたか、お見舞いの品」
《あぁ、コレに書いといた》
「お礼状」
《ヒナが紙を漉いてくれてたんだ、コレ用に》
「成程」
頑張って気を紛らわせていたんですね。
会いたいのに我慢して、次の行動を考えた。
《ただ、ヒナからの贈り物は、まだ受け取れて無いんだ》
「何か問題でも」
《俺がコレでボロ泣きした》
「分かります、成長してますからね」
ですが、成長は同時に問題と直面する時間が迫る事にもなる。
いつか再び、知る欲求が勝る筈。
《俺が泣かなくなったら、くれるんだと》
「更に泣かせる事を言いますね」
《あぁ、最高に追撃だった》
だとしても、シャキッとして下さい、と言えれば良いんですが。
正直、レンズがコレだけ衝撃を受ける何かを知ったと言うなら、コチラは確実に知恵熱を出す自信しか無い。
「趣味を作るべきかと」
《あぁ、それな、弁当とか料理らしいんだ》
「家族用、ですかね」
《おう、如何に効率良く作るかもポイントだな》
「あぁ、ぽい」
《ぽいかぁ》
「姉がまさに、なんですよ、如何に妥当なラインの弁当を早く作るかを目指してましたから」
《あー、子供用な》
「はい、キャラ弁より休息、ですけど流石に海外のお弁当には引いてましたからね」
《サンドイッチと林檎とスナック菓子、しかも夕飯にマカロニチーズだけ、とかだからなぁ》
「太る為に試してましたけど、結局はバランスって事に落ち着きましたからね」
《そこまでか、ちゃんと食ってるか?》
「食べてるんですよね前より、なのにコレですよ」
《感想が言い辛いんだが》
「食べて身に付けば苦労しない」
《ご苦労様です、燃費が悪いんだな》
「そこなんですよね、まだ神経を使っているからか、抜け出ちゃう感じらしいんですよ」
《あー、謎の魔法の膜な》
「レンズのってどうなってるんですかね」
《そこは普通らしい、食えば太れる》
「凄いマッチョになりそうですよね」
《見たいか?》
「黒光りした」
《いやー、そこまでは流石に興味が無い》
「男性の憧れでは」
《そこまで外見にもコンプレックスは無いからなぁ》
「凄い、様々な筋肉の妖精を敵に回して」
《アレもアレで、相当に手間暇を掛けての事だろ、執着だとか何かが無いと厳しいだろ》
「それと才能」
《まぁ、体を壊さない程度だな、動きが悪くなるのは流石に嫌だ》
「こう、シャツをバンっと」
《勿体無い》
「ですよね、羨ましい」
《ソッチか、アレは胸囲だろ》
「バストはバストですが」
《マジで嫉妬の対象か》
「ですね、弾け飛ぶボタン」
《成程、マッチョは嫌いじゃないんだな》
「まぁ、筋肉質は安心感、ですから」
《もう1人か》
「あ、会ってませんでしたか」
《おう》
「大丈夫ですよ、真面目で素直な筋肉マンですから」
《正反対か》
「はい」
《なら安心だな》
「ですね」
安心して下さい。
少なくとも私は、もう大丈夫ですから。
《夫人、少し良いか?》
お礼の品とお礼状を受け取るだけ、かと思ったんですが。
「私で良ければ、はい、どうぞ」
いきなり、ネネさんは非常にモテるんだ、と。
幼いが純粋そうなの、異国情緒溢れる妖艶なの。
更には、筋肉質に賢い粘着系も揃っている、と。
《個性が強過ぎるし、何より勝ち目が無さ過ぎる》
「レンズさん、何故、私に?」
《この前、多分夫人にバレたと、ウチの執事から改めて言われてな》
「あぁ」
《別に、言う気も隠す気も》
「いえいえ、良いんですよ、長く生きれば色々と有るでしょうから」
まぁ、私には何も有りませんでしたが。
《夫人、マジで無理して無いか?》
レンズさん、本当に察しが良い。
「どの、事なのか」
《あぁ、その態度や口調についてだ、少し間が気になってたんだ》
「あぁ。正直、口調は気を遣ってますね、年長者であろうとしてますから」
《だよな、けど俺の前では別に良いからな》
気遣いの人なんですよね、レンズさん。
「助かります、英語ならまだしも、母国語だとどうも違和感が有って」
《あぁ、だから妙さんと会わせた時、英語のままでも良い派だったんだな》
「暴きますね」
《だからシイラに少し怯えられてるかも知れない》
「あぁ、何か有りそうですもんね」
《聞いて無いんだな》
「私も聞かれたくない事は多いですから」
《そう圧を掛けてるワケじゃ》
「そこは大丈夫ですよ、シイラさんも多分、そうは思って無いかと。ただ私、全然気付かなかったので、自信は無いですけどね」
《いやマジでバレ無いに越した事は無かったんだ、マジで》
「プロでも難しいですか」
《いやガチは、そう無かったんだ》
あら。
「あらあら」
《いや、コレが諦めるのに、長く掛かってて》
「そりゃそうでしょうよ、向こうでも長く想ってたんですよね?」
《おう》
「なのに、近くで少ずつでも諦め様としてるとか、本当に凄いですね」
《まぁ、諦める他にマジで無いからな》
そんなに婚約者の方とラブラブなんですね、ネネさん。
「ドンマイ」
《諦められるオススメの方法5選》
「会わない」
《無いな、ヒナの事が有るから》
「趣味に逃げる」
《俺の趣味は効率的な料理》
「美味しかったですよ、ありがとうございました、特に白身フライが好きなんですよ」
《あー、クリームコロッケとかどうだ》
「良いですねぇ、偶に店に頼んでるんですよ、そんなに料理に興味が無いので」
《あぁ、頼むのも手か、確かにな》
「ですけど勝手に魔改造して、更に魔改造品を間違えて届けられる場合も有るので、任せる場所の吟味が必要になるんですよ」
《あー、魔改造か、確かにな》
「それをコチラが別注したなら良いんですけど、以前、そうした問題が実際に起きちゃったんですよね」
《ならやっぱり、全部自作か》
「あ、佃煮は是非ウチのでお願いします」
《しそ昆布が特に美味いよな》
「あー、ウチの子達ダメなんですよ、バジルだってシソ科なのに」
《あぁ、系統が少し違うからな。苦手なの有るか?》
「甘い卵焼きがダメなんですよ、プリンとご飯食べてるみたいで、どうしてもダメなんですよね」
《成程、クラム夫人は甘い卵焼きが苦手、そぼろもか?》
「はい、卵そぼろも、けどピンクのデンプンは好きなんですよ」
《結構、意味が分からないな》
「ちらし寿司ですよ、アレの卵焼きは甘くないですし」
《ちらし寿司か、良いかもな》
「是非お願いしますね、作るとなると凄い面倒ですからお金払いますよ」
《いや、それだと商売になるからダメなんだよな、何か違う》
「あぁ、本当に良い趣味ですね、羨ましい」
《無いのか?》
「正直、働くのが趣味なんじゃないかって思ってきたんですよね。お金が貯まりました、はい、長く休んで下さいって言われて困ったので」
《あー、売り上げ良さそうだしな》
「はい、どうも、お陰様で。けど、私も探そうかなと思ってます、商品開拓にもなりそうですから」
《利が無いと誰だって動かないからな》
「はい、レンズさんも出逢いを求めては如何ですか、無理にでも外に目を向けないと苦しいままかと」
《努力はしてみる》
「では、お互い頑張りましょう」
《おう、だな》
何故、いつも最後なのでしょうか。
「あの」
《コレは後で読んでくれ、今だとこっぱずかしい》
お礼状。
「それはつまり、今読めと」
《いやマジで止めろ》
「何故、毎回最後なんですかね」
《〆》
「〆て」
《いや、打ち上げだな》
「打ち上げ、まぁ、挨拶回りも一仕事だとは思いますが。大丈夫ですか、かなり掛かりましたよね」
《父親が育ての義母に懸想していて、その義母に良く似た女と結婚したが、懸想してた事が嫁にバレてヒナが放置される事になった》
「なん」
《ネネが好きだった、と言うか今でも引き摺ってる》
「私に、知恵熱を出させる気ですか」
《その時はサレオスが居るから大丈夫だろ》
「おま」
《正直、挨拶回りをしていて、シイラに相談するのが妥当だと思ったんだ》
「何処をどう」
《警戒心が高いのは身近に問題が有ったから、クラム夫人は問題が起きた時期が多分遅い、大人になってからの問題が何か有った。ジュリアは純粋無垢な現地民、妙さんは幸せな家で育った、けどシイラの問題は幼少期からだろ》
「まぁ、そう考えると適切かも知れませんが」
《コレには耐性が必要だ、しかも最悪は誤解だ何だと言われる事になる、耐性持ちがシイラだけなんだ》
「断られるとか」
《無いな、ヒナが可哀想だろ》
「何か、凄い、憎たらしいですね本当」
《別に深く関わらなくて良い、ただもし、何か間違ってそうなら言って欲しいだけなんだ》
「取り敢えず、ヒナちゃんはネネさんの事は」
《知ってる》
「あぁ、だから香水屋さんとクラム夫人だったんですね」
《ほら、そこまで説明しなくても理解するだろ》
「実は」
《嘘も言わない》
「この、ヴェールから見えている口元だけで、この何とも言えない感情を理解して貰えますかね」
《ヒナの為にも頼む、対価に料理を差し出す》
正直、願うだけで出るので料理は別に要らないんですが。
「私が知らなそうなお弁当や、料理をお願い出来ますか」
《おう、食性がヒナと似てるからな、良い練習になる》
確かに、多少は放置されてましたが、死ぬ程じゃなかった。
と言うか。
「利用されるの、不快に感じるべきでしょうか」
《勘で分かるだろ、少しでも関わればヒナの為になる》
「いや、勘が良いなら悩みが少なかったかと」
《けど野生の勘は有る、ヒナの事でさしてダメージを負って無いのが良い証拠だ。平凡な家の人間は、驚いて大抵は否定するんだよ》
得意げに。
「どうすれば、そんなに性格が悪く生きられますか」
《その観点も認めてる、頼む》
私の悪魔に相談しても、きっと後悔しない道を、としか言わないだろう。
そして私の後悔しない道は、ヒナちゃんと言う存在を無視しない事。
「私の相談にも乗って貰います、的外れな事を嘲笑わないで下さい、お父さんの料理を食べさせて下さい」
《分かった、チャーハンで良いか?》
「凄い、本当に、何処をどう読んでるんですか」
《一般論だ、一般論》
本当に、魔法も何も使って無いんですかね。
凄い。