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182 ジェルネイル無双。

 私は異世界転移して、来訪者と呼ばれる存在になった。


 だから功績を上げて、自由に楽しく暮らしたくて。

 向こうのジェルネイルを再現する為に、魔獣に協力して貰って。


 樹脂からジェルネイルを、分解にはモグラの魔獣に魔法を貸して貰い、特殊な泥で分解出来る様にして貰った。


「どう、かな?」


「結構」

『良いじゃーん』

《かなりイケてるよ》


「良かった」


「けどさぁ、やっぱ商売には不慣れでしょ?」

『ウチらに任せなよ』

《お給料は日に6,000で良いよ》


「えっ、かなり安いですが、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫」

『材料を集めたり作ったり大変っしょ』

《そうそう、ウチらネイルに慣れてるし、この子はコレでも経理出来るし》


「ウチ商業高校出させられたんだよね、マジ意味分からないって思ってたけど」

『役に立つ事って意外とあんだよねー』

《ね?一緒にやろ?》


「はい」


 まさか、誰かが騙されるだなんて思わなかった。

 騙そうだなんて思っても居なかった。


 まさか、悪用されるだなんて、本当に考えもしなかった。




《アナタ方には詐欺罪共謀の容疑が掛かっております、大人しくご同行を》


「えっ?」

「ちょっ、何なのよ」

『何もっ』

《まっ、待ってってば》


 私達は監督所に連れて行かれ、それから直ぐに裁判が始まった。


『先日、貴族令嬢を詐称する単なる庶民の少女が貴族の婚約者として現れ、危うく本来望まれるべきでは無い血筋が誕生してしまう所でした。アナタ方が客としたのは、この方ですね』


 私は担当していないけれど、ちゃんとした身なりで、お金も出し渋らなかったお客さん。

 普通の、ご令嬢さんだな、と思った方なのに。


「はい、ですが」

『彼女が庶民だと知っていましたか』


「いいえ」

『はぁ、では、他の貴族令嬢の爪と同じでしたか』


 私は施術していないけれど。

 確かに、手は荒れていた。


 けれど、爪までは覚えて無い。


「分かりません、ですが確かに、手は荒れていたとは」

『貴族令嬢だと偽る為に施していたのでは』


「いいえ!」


『貴族令嬢は雑用をこなしません、だからこそ爪が長く手荒れも無く、爪の白い部分も少ない。違いますか』


「その通り、だとは思いますが」

『地の爪の色に近い塗装、白い部分を偽装した事に間違いは有りませんか』


「はい、ですが」

『手には様々な情報が存在します、もし令嬢の爪が庶民の様だったなら、先ずは虐待か偽装を疑います。それらを覆い隠してしまう行為は、禁じられている変身魔法と同等の事、であるにも関わらず偽装では無いと仰いますか』


「偽装の為では無いです、でも結果として、偽装に手を貸してしまった事は認めますが。私達の本意では無いです、あくまでも美しく丈夫に保つ為の手段、決して偽りの為では有りません」


『ですが、コレからも同営業を続けるおつもりなのでは』


 そんな事は、もう出来無い。

 誰かに迷惑を掛ける為じゃない。


 喜んで貰う為。

 私の生き甲斐になった、だから、辞めたくない。


「いいえ、以降偽装となり得る行為はしません」


『だけ、ですか』


 偽装になるだなんて思わなかった。

 けれど、手から情報が得られた筈なのに、偽れる様にしてしまったのはいけない事。


 だから。


「罪人の、爪を染める提案をしたいと思います」


『成程、続けて下さい』

「はい、今は刺青が有りますが、顔を隠す場では分からない事が有ります。ですので、爪により罪状を示す、そのお手伝いをさせて頂こうと思います」


『最悪は、国からの補助金は出ませんが』

「それは、効果次第でお考えになって頂ければと思います。それに、もし効果があまり無かった場合、他の策を考えたいと思います」


『良いでしょう、猶予を与えます、期日までに具体案を提出し実行に移して下さい』


「はい、本当に、申し訳御座いませんでした」


 喜んで貰いたかっただけ。

 綺麗なモノを皆に知って欲しかっただけで、誰かを困らせるつもりは本当に無かった。


 けど、貴族の方が騙された。

 悪用された。




「ちょっ、大丈夫だってば」

『ウチらが居るんだし、ね?』

《ごめん、受けたのウチなんだ、本当にごめんね》


「ううん、私も」

《少し宜しいでしょうか》

「ちょっと、何よ」

『まだ何か有るワケ?』

《少しは空気呼んでくんない?》


《どうもシトリーと申します。コチラの帳簿、かなり誤魔化されてらっしゃいますよね》


 シトリーと言えば、悪魔の監督官。

 それに、騎士爵を持つから、法律も監督する方。


 嘘や誤魔化しを見抜く方。


「えっ?」


「いや、何か誤解してるだけで」

《経費で計上されているコチラの品、店の何処に、有りましたか?》


「そ、それは」

《それにコチラ、随分と接待費が高いのですが、同席されていますか?》

「いえ、私は裏方なので」

《何よ、その位の接待費、ソッチとコッチじゃ違うのよ》


《では全て、何処の誰との接待だったかを、お教え頂けますか?》


《そんなの、教えられるワケ》

《では尋ね方を変えましょう、男性との食事に、一体幾らお使いになりましたか》


「えっ?」


《いや、お客さんを紹介して貰う為に。ね?接待しただけ、だから》

《何度も同じ方に、ですか》


《そん、ちょっと位》

《では次に、コチラの特別手当、ですが。チップ代では?》


『それは、だって、どうしてもって』


「チップは無しでって、言ったよね?」

「けどさぁ、やっぱり良い家には住みたいし」

《美味しいものだって食べたいし》

『ちょっとだけ、じゃん、ね?』


 お金に余裕が無いと思ってたから、だから色々と我慢した。

 週に1度のケーキセットをご褒美に、狭い部屋で頑張ってきたのに。


《アナタの案と技術に惚れ込んだ方が居ります、ヴァサゴ監督官です、後見人にお選びになればアナタの名誉は回復し。そして彼女達の処分は、後見人が全て処理します》

《納得ゆくまで、付き合おう》


 彼女達は、私を騙して嘘を吐いて、好き勝手にやってた。


「ねぇ、もうしないからさ?」

『真面目にやるから、ね?』

《ウチら、友達じゃん?》


 友達だと思ってたのに。

 仲間だと思ってたのに。


「ヴァサゴ様、宜しくお願い致します」

《あぁ、構わない、全て任せろ》




 彼女達は、向こうに送り返された。

 いずれ酷い死に方をするか、消えない傷を負う場所へ。


「どう、でしょうか」


「凄いです、知ってはいたんですけど、こんなに綺麗に仕上がるとは思いませんでした」

「ありがとうございます、私には、コレしか無かったので」


 計算も営業も下手だから、一生使われる側だと思ってた。

 だから店が持てると思った日、仲間が出来た時、凄く嬉しかった。


 良いか悪いかなんて、誰かに相談する事さえ頭に無かった。


「私に、特段に秀でている事は、特徴は絶対音感程度なんですが」

「え、凄い、良いじゃないですか」


「音楽にもデザインにも、才能って必要じゃないですか。でも私には無かったので、無用の長物、大した意味は無いんです。なので羨ましいです、好きな事が得意って、本当に羨ましい」


「でも私、失敗して」

「アレは悪用ですし、そもそも貴族の方が怪しんで調べた結果で、誰も被害には遭わなかった。罪人への爪の加工、凄く良い案だと思いました、償いとしては十分ですよ」


 アレから1ヶ月。

 私は店を畳み、ヴァサゴ監督官から紹介された方にのみ、爪の加工を行っていた。


 そして今日は、隣の国。

 帝国で活躍している、自分と同じ来訪者、と呼ばれる存在の方に施した。


 怖かった。


 もしかしたら、叱られるかも知れない。

 嫌味を言われるかも知れない、と。


 でも、違った。


「すみません」

「いえいえ、大変だったと聞いてます、辛かったんですよね」


「本当に、信じてたんです、嬉しかったのに」

「分かります、私も恋人に裏切られてました」


「ぅうっ」

「分かりますよ、辛いですよね、悔しいですよね」


「ぐやじいでず」


 信じてたのに。

 裏切った。


 私は裏切って無いのに、裏切った。


「物凄い綺麗事を、敢えて言いますね。幸せになって見返す、羨ましがらせる、悔しがらせるのはどうですか?」


「本当に、悔しくなっでぐれるが、わがりまぜん」

「どれだけ見栄を張る方か、どれだけの嘘吐きか、次第ですね」


 何も、見抜けなかった。

 帳簿は誤魔化しばっかりで、お店用のお金も使い込まれてたし、3人は良い家に住んで可愛いドレスを何枚も持ってた。


 高いお店にだって、何度も。


「ぜんぶでずぅ」


 私だけ、惨めな生活をしてた事を、笑ってた。


「なら、絶対に悔しがってます、羨ましくて叫び狂ってる筈です。超、幸せになりましょう」


「はい、がんばりまず」




 善人は爪が透けるキラキラネイル。

 でも罪人には、黒くて汚いネイルだけ。


 夢から覚めた時、罪人の爪は汚く染まる。

 黒くてザラザラして、とっても汚い爪。


《正しく、真反対だな》

「ですよね」


 私はキラキラ、悪人は汚い。


《明日は令嬢だな》

「はい」


 私は、新たに爵位を貰ったり、爵位が上がった令嬢の爪を綺麗にしている。


 爪を大事に出来る様に。

 まだまだ新米だって分かって貰える様に。


 綺麗にするのも、汚くするのも好き。

 だって、危ないヤツだって分かってたら、私はあんなに悲しまなかった。


 失敗しなかった。

 裏切られる事も無かった。


《ケーキを食べに行くか》

「いえ、先約が有りますから」


《そうか、行ってくるが良い》

「はい、行ってきます、ヴァサゴ様」


 私はモグラの魔獣と婚約した。

 私に力を与えて、助けてくれるモグラの魔獣。


『罪人の匂いがする』

「そうなの、でも明日はキラキラにする日、ケーキを食べに行こうね」


『良いよ、行こう』


 目は見えないけど、私より何でも器用に出来る魔獣。

 絶対に裏切らない、私だけのモグラ。

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