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178 レンズの知恵熱。

 レンズは妙さんの時みたいに、1日経っても熱が下がりません。

 大丈夫なのは分かりますが、とても心配になります。


『大丈夫、まだ平均の範囲内、しかも高熱じゃないから心配は要らないよ』


 香水屋さんの名前は、エルネスト・タプティ。

 調香師の家系の養子、だそうです。


『多分、レンズは、タプティが可愛いから恥ずかしいんだと思います』


『そう?』

『音の響きが可愛いです、波が揺れる音に似ています』


『成程、そうなんだね』

『今日もありがとうございます、でも私は気が気では有りません』


『けれど、レンズは休んで欲しいだろうか』


 本当なら、今日も学校です。

 レンズの傍に居たいのですが、私を見て凄く泣いて、ずっと謝っていました。


『いいえ』


『敢えて、どれだけ君が頑張ったか、普通に過ごす事で示す事も出来る。悲しかった、心配だった、そう示せるのは言葉や文字だけじゃない筈』


 普通にして、普通は大変だったと分かって貰う。


 しかもずっと学校に行かなかったら、多分レンズは謝ります。

 それは望んではいません、なので行きます。


『はい、やってみます』

『じゃあ、行ってらっしゃい』


『はい、行ってきます』




 僕にとっては、ヒナ様が1番重要です。

 そしてヒナ様の安定には、レンズ様に安定して頂くのが1番。


玉響(たまゆら)様、暫く残っては頂けませんでしょうか」


《あの》

「香水屋の方、エルネスト様が最も安定なさっていたのは、アナタ様のお陰ではと。そして、レンズ様との相性が良い、そうヒナ様からお伺いしております」


《安定なさっていたのですね》

「はい。眠る体力が無く、起きているしか無い時間でも、何も考えず穏やかに居られるそうです」


 エルネスト様は敢えて、女性だからか、と誂ってらっしゃいましたが。

 レンズ様は抗うでも無く、そうかも知れないな、とだけ仰り。


 頂いた石を静かに眺め。

 実際、熱はかなり落ち着いていました。


《ふふふ、不謹慎だとは重々承知しておりますが、やはり嬉しいものですね》


 決して、関わろうとはなさらなかった方。

 けれど遠慮だけ、では無いのでしょうか。


「暫く、お付き合い頂けませんでしょうか」

《ネネ様より仰せつかっておりますし、落ち着くまで、コチラこそ宜しくお願い致します》


「はい、宜しくお願い致します」




 本当に、何か考えようにも纏まらない。

 ただ、吐き出しはしたい。


《久し振りなんだ、こんな状態》

『そう寝込む事は無さそうだしね』


《本当に、健康に恵まれてたと思う》


『寧ろ、君が病弱だったら驚くよ』

《弟は病弱だったんだけどな、だからだろうか》


『それはどうだろう、気を張ってた程度で病が防げるなら、そう医者は要らないと思うよ』


《だよな、本当、本当にどう過ごしたら良いか分からないな》


『農家の子にはどうしてたんだい』

《酒と、食べたい物の事だな》


『君の好物は刺激が強いから、暫くは禁止だね』


《今こそな気もするんだけどな》

『ダメだよ、酸味が強い、しかも刺激物。またお腹を壊すかもよ?』


《アレは本当に、祈った、何処かの何かに祈り続けてたな》

『トイレの神様が居るんだろう、本当に凄いよね、何にでも神様が居る』


《髪の神様も居る》


『心配、いや、実際なんだね』


《正直、どうにかしたい》

『丸刈り』


《最後の砦だ》


『そもそも、ココならハゲないかもよ』


《余裕か》

『だね、理髪師のお墨付きだから』


《あぁ、髪もな、そろそろ行かないと》

『はいはい、僕が居ると気が休まらないのかな』


《いや、さっき目覚めたばかりで、眠れる気がしない》


『じゃあ、専門の子を呼ぶよ、待ってて』

《変なの連れて来るなよ》


『はいはい』


 それで来たのが玉響だったのが、本当に意外だった。


《帰って無かったのか》

《ご心配無く、コレはヒナ様の為でも有りますから》


《そうか、ありがとう》

《いえいえ、眠れませんか》


《起きたばっかりで、しかもこう、ゴロゴロ過ごした事が殆ど無いんだ》

《やはり勤勉ではらっしゃったんですね》


《あぁ、まぁな》

《爪のお手入れを致しましょうか、幾ばくか気が紛れるかと》


《ついでに、食い物の事も頼む》

《はい、畏まりました》




 多分、彼女はレンズの相手。

 とても相性の良い相手。


『君はレンズの相手だね』


《あら、お言葉が》

『東のお客さんが増えたからね、より良い調香の為に、言葉を得たんだ』


《それだけ、でしょうか》

『友人の為にもね、初めてなんだ、人の友人は』


《きっと、レンズ様も同じかと》

『らしいね、あんなに人との関わりには詳しいのに、ね』


《ずっと気を張ってらっしゃったのかと》

『だろうね、彼女は他とは違うから』


 立場、だけじゃない。

 表情まで無い子は、本当に珍しい。


《どう、お分かりになったのでしょうか》

『匂いだよ、強化して貰ったんだ、相性が分かる程に』


《そうでしたか》


 あまり深くは関わっていないけれど、そう主従関係に厳しい様には見えない。

 けれど、実態はどうかは分からない。


『主従関係に近いのだと思うけれど、複雑そうには見えないね』

《私も、あの歯の妖精と同じく、かなりの歳月を生きておりますから》


 あぁ、幼い妹として扱っているらしい。


『流石、東のは見た目では分からないね』

《ふふふ、ありがとうございます》


 レンズは良い相手に恵まれた。

 しかも、とても早い段階で。


『僕は、自分との相性が良い相手かは、判別が出来無いんだ』


《自分の事は占えない、まるで占い師の様ですね》

『いつ、そう心が揺さぶられる時が来るんだろうか』


《揺さぶられるだけが情愛では無いかと、アナタ様の心地好く感じる方が、もう既に傍にいらっしゃるかも知れませんよ》


『だと良いんだけれどね』


 僕に惹かれ、僕が惹かれる誰か。

 本当に、この世に居るんだろうか。


《私の国には縁を繋ぐ方も居りますから、大丈夫、お願いしておきますよ》

『ありがとう』




 やはり気になってしまったので、アズールと一緒に走って帰って来ました。


『ただいま帰りました、レンズはどうですか』


《お帰りなさいませ、お食事を摂り、またお眠りになられましたよ》

『お帰り、まだ波は有るけれど、かなり落ち着いたよ』


『エルネストは、いつ言葉が出来る様になりましたか』

『昨日には、けれど言う機会を逃して、ね』

《レンズ様に教えては、またぶり返してしまうかも知れませからね》


『同一言語は助かります、知恵熱にも幾つか分類が有ると教えて貰いました』

『そうだね、今回のレンズみたいに熱が上下する場合や、そのまま熱が続く場合も有るね』

《桜と同じく、一定の熱量が出終わり次第下がる、とも言われておりますね》


『桜は熱が出ますか』

《気温の総合計数により、開花するとされておりますよ》


『レンズは何度出せば気が済みますか』

《平熱が高い方ですから、もう暫くかと》

『そうだね、熱の上下が徐々に収まりながら、だろうね』


『良い情報のお陰と、問題無いとする母数の多さから安心に傾きました、オヤツは如何ですか』

《はい、是非》

『頂くよ』


 稽留熱形、間欠熱形、波状熱形。

 分利形、渙散形と、熱の出方や対処法を学園で色々と教えて貰いました。


 やはり情報は大事です。

 少しだけ、安心しました。




「一足、遅かったでしょうか」


 レンズさんが知恵熱を出したと聞いたので、お見舞いかお祝いかで悩み、日を置いてお祝いをと思ったんですが。

 どう見ても、お見舞いのお花ばかりで。


『いや、単に僕らのは知恵熱のお祝いなだけ』

「はい、お見舞いの品は頂いておりますが、お祝いはシイラ様が初めてです」


「気が、早過ぎたでしょうか」

「いえ、お気遣いにレンズ様もお喜びになるかと」


 明らかに、誂われそうなんですが。


『大多数と同じでは無いからと言って、彼は嫌味を言う様な人間では無い筈だよ』


「まぁ、かも知れませんが」

《何か問題でも》

「いえ、コチラはシイラ様、サレオス様で御座います」


《あぁ、どうも、ネネ様のお世話係をやらせて頂いております。玉響と申します》


 ネネさんは、もしかして美幼女や美少女が相当にお好きなのでしょうか。

 和の美少女ですよ、凄い。


「シイラと申します、お世話になっております」

《いえいえ、コチラこそ。お品物に何か問題でも》


「もう、お祝いの品を、用意してしまいまして」

《成程、流石です、ネネ様がお褒めになっていた通りの方なのですね》


「褒められる事は、何もしていない筈なんですが」

《いえいえ、本当に驚いてらっしゃいましたよ、レンズ様を驚嘆させられる稀有なお方だと》


 コレは、喜んで良いのでしょうか。


『大丈夫、褒め言葉だよ』


「そう、受け取っておきますが。コレは奥に、目の付かない所にお願いします」

「はい、畏まりました」

《明日にも容体は良くなるかと、ヒナ様もかなり落ち着かれましたよ》


「あぁ、ヒナちゃんは、お昼寝でしょうか」

「はい、学園での情報収集も有り、安心なさったのかと」


 賢い美幼女。

 情報を得て安心を得たんですね、本当に賢い。


「では、落ち着き次第、またお伺い致します」

『そうだね、じゃあ、また』

「はい、本日はお越し頂きありがとうございました」


「いえ、では」


 半ズボンが似合う、賢い美少年。

 和装美少女。


 一体、何が起きて、最長老であろうレンズさんが熱を出したのか気になりますが。

 美少年、美幼女、美少女。


 凄いお屋敷ですね、本当。


『何を考えてるのかな?』


「美少女について、ですね」

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