17 お正月。
今日はネネさんがおもてなしをしてくれる事になり、私は綺麗な着物を着せて貰った。
『何故、袖の長さが違うのでしょう』
「向こうでは未婚の者は振袖なんですが、ココでは未成年は振袖、だそうです」
《苦しくない?大丈夫?》
『はい、凄い防御力が上がった気がします』
「分かります、コルセットもアレは防具ですから」
《試しに着けてみたけど、キツかったもんねぇ》
「本当に。では、どうぞ」
『わぁ』
扉を開けると、おこた。
それとテレビでしか見た事が無い、おせち、お雑煮も有る。
「日頃のお礼です」
『凄い、コレ、本当に食べられるんですね』
《勿論、どうぞ》
食品サンプルと言う存在は知っていたので、飾りなのだろう、と半信半疑だったんですが。
『コレ甘いです』
《黒豆だね》
「コレは紅白なます、甘酸っぱいですよ」
『甘酸っぱい、不思議な味ですね』
《分かる、複雑な味だよねぇ》
「コッチは塩味、数の子です」
『全部、意味が有るって本当ですか』
《うん、長生きだとか子宝に恵まれますように、だね》
『だからウチには無かったんですね、成程』
けどネネさんとユノさんは用意してくれた。
来年は私も準備しよう。
《お雑煮はウチの味付けなんだ》
「私の家の雑煮は関西風なので、今回はユノちゃんにお願いしました」
『来年、お願いしても宜しいでしょうか』
「はい、勿論」
《いっぱい有るんだよぉ、種類、都道府県の数だけ有るんだよ》
『凄い、お正月って大変ですね』
《うん、おせちは何日か掛けて食べるんだよ、だから味が濃いの。程良く食べたら書き初めしようね》
『書き初め?』
《お習字、それに羽子板に凧揚げ、福笑いにカルタもして遊びます》
『はい!』
幾度、血反吐を噛み締めただろうか。
勝手に同情し、勝手に疲れてしまった。
「はぁ、すみません」
《良いの良いの、上出来上出来。顔に出て無かったし、贈り物のお陰で気付かれて無さそうだし、大丈夫大丈夫》
「どうしたら慣れるんでしょうか」
《大人の小手技で誤魔化す、良い誤魔化し、良い騙し》
「不器用、申し訳無い」
《どうどう、私も戸惑いそうになるけど、慣れたのも徐々にだったからだよ。正直、ヒナちゃんのはエグいよ、素人が手を出せないレベルだと思う》
「ヒナちゃんは、ココで本当に良かったと思う」
《それはそう》
「でも、いつか気付く事になる」
《自分の家の異常性、違い》
「全く、どうすれば良いか」
《正直に話す事だと思う、それと必ず親は子が大好きなワケじゃない事も》
「だとしても、何で産んだのか、と」
《本当にね、どうして誰も気付かなかったのか、本当に分かんない》
「ユノちゃんでも分からない事が」
《有るよぉ、暴力とかが一切無かったのは分かるんだ、だからこそ通報されなかった。けど学校に通ってないとかって、まさか》
「何ですか」
《戸籍、無かったのかも》
「いや、まさか」
《居るんだよ、現代の向こうでも》
「えっ、法整備って」
《役所に行けば何とかなるっぽいけど、ごめん、そこまでの知識なんだ》
「そこは、私も初耳だったので」
《いや私もどうしてかは、もしかしたら住所変更せずに引っ越したとかで、単に行政の目が届かなかったのかもだし》
「確かに、専門家が必要と言うか、素人が関わって良いのかどうか」
《そうだね、ちょっと誰かに尋ねる必要が有るよね》
そうして私達は、ヒナちゃんがお昼寝をしている間に紹介所へ行き。
お正月のおもてなし後、悪魔の方に会う事に。
「はい、少し順番が前後しましたが、年越しそばです」
お昼寝の後に、お蕎麦。
ウチ、年末こうだったんだよね、お昼にお蕎麦の習慣だったんだ。
天ぷらは手作りだし、数が多かったから。
『色々有るんですね』
《今日はお蕎麦だけだけど、お蕎麦が苦手ならうどんでも良いんだよ、細く長い人生をってお願いだから》
もり蕎麦に天ぷら付きのセットと、温かい天ぷら蕎麦、それと天丼とミニ蕎麦のセット。
コレは食べさせて貰ってたみたいで安心だけど、多分、食べ残しを貰ってたかもなんだよね。
「お好きなのをどうぞ」
《私のオススメはコレ》
『じゃあコレにします、ありがとうございます』
《いえいえ、じゃあ、ジャンケン》
「ポン、はいどうぞ」
《じゃあ遠慮せずー》
「どうぞ、さ、頂きましょうか」
『はい、頂きます』
ヒナちゃん、あまり好き嫌いが無いんだよね。
言える環境じゃ無かったのは勿論、多分、好き嫌いが育たなかったんだと思う。
「はぁ、天丼って狡い存在ですよね」
『狡いですか』
「人の大好きが全部入っているんです」
『全部』
「甘い、塩っぱい、それと油と炭水化物。食べさしですが、どうぞ」
ヒナちゃんが選んだのは、私のオススメ、温かい天ぷら蕎麦。
で私が選んだのは、もり蕎麦セット。
『確かに、甘いと塩っぱいです』
《天丼は初めてかな?》
『いつもユノさんのでした、初めて食べました、コレは凄い食べ物です』
「じゃあ半分こしましょうか」
『はい、ありがとうございます』
ココ、コレ。
ヒナちゃんは善意を遠慮しない、だから逆に凄い付き合い易いんだよね。
甘やかし放題出来ちゃう。
《次は天丼パーティーだね》
『はい!』
可愛い。
うん、可愛い可愛いで甘やかして大丈夫だコレ。
《頼むね執事君》
「はい」
午前中はお習字、凧揚げ。
午後は福笑い、かるた、そして羽子板。
電線が無いから中庭で。
と言うか何処も中庭が広いんですよねココ、庭園かって位に広い。
《ネネちゃんの家、こんな感じの順番だった?》
『ですね、明らかに体力を消耗させる流れですよね』
《だよねぇ、ウチも書き初めが最初で、最後は羽子板か凧揚げだった》
今ヒナちゃんは、執事君と全力羽子板。
そしてコチラは凧揚げ。
近年は下が育ったのでして無かったんですけど、意外と楽しい。
「ケンカ凧って知ってますか」
《お、やっちゃう?》
「壊さない程度で」
《大丈夫大丈夫、直して貰えば良いんだよ》
そうしてユノちゃん式のケンカ凧は。
意外と、白熱してしまった。
「負けた」
《勝った》
『何ですか今のは、どう言う事ですか』
《ケンカ凧、遊び用のルールだけどやってみる?》
『はい!お願いします』
ルールは簡単。
本来は糸を切るのが勝ちですが、ユノ式は絡まったら引き分け、ぶつけたら1ポイント。
3ポイントで1勝分。
時間交代制で、10秒以上高く上げられていたら1勝、先に3勝した方が勝ち。
見事に大負けしました。
「生き生きしてますね」
《ですねぇ》
今度は執事君と走り回っている。
子供は風の子、元気の子。
「来年は袴を着せようかと」
《良いね、まだ走り回ってそうだし》
「失礼は百も承知で言いますが、ずっとこのままで居て欲しい気持ち多めです」
《うん、分かる》
穢れずスレず、このまま育って欲しい。
でもそれは。
ココなら、出来るのかも知れない。
「精霊さん、何とかなりませんでしょうか」
『忘れてはいなかったらしいな』
「ココぞと言う時の切り札、最終兵器です」
《そこまで》
『私達も、そう願うとは思わないか』
つまりは、このまま育つ。
「ありがとうございます」
《あ、お雑煮どうです?》
『頂く』
頂くんだ。




