173 純真無垢。2
「ごめんなさい、私、ドジばかりしちゃ」
『では以降、関わらないで下さい、さようなら』
彼女はヒナ様。
この学園の転校生。
真っ白な髪に真っ白な肌、瞳は燃える様な真っ赤。
綺麗で可愛い女の子。
だから知り合いたかっただけなのに。
また、嫌われちゃった。
《何、あの子》
『関わらない方が良いよ、あの子、苛めっ子だって噂だから』
私は、ココに悪魔と人種の子として生まれ変わった。
既に皆は知ってるし、だからなのか凄く優しい。
無能だった私にも、悪魔も人種も優しくしてくれる。
物騒な名前の場所だけど、寧ろココは天国。
「ありがとう、でも知らないのに悪く言うのはいけないし、意外と良い子かもだし」
《優しいのね》
『でも関わらない方が良いよ、きっと何の得にもならないだろうし』
もう私は、失敗しない。
この優しい世界で、平和に暮らすんだから。
「あの、お菓子を」
『結構です』
「一緒に食べたら美味しく」
『結構です』
《少し位》
『止めよう、もう行こう』
僕には悪魔の考える事が分かりません。
そして、人種の考える事も。
何故、どうして、関わろうとするのだろうか。
「ヒナ様」
『きっと善意でしょうから見守ります』
「分かりました」
きっと、また何か有る筈。
そう考えていた数日後。
「お友達になって下さい」
『何故です』
「きっと、分かり合えると思うから」
『いいえ無理です』
《一緒に遊んだ事も無いのに》
『何が分かるって言うの』
「お願い、せめて1回だけでも良いから」
『分かりました、ではソチラに合わせます、またご連絡下さい』
それからヒナ様は、彼女の遊びに付き合いました。
ですが、何の意味も有りませんでした。
『本当に愚かですね』
「酷い、何で」
『無神経で鈍感な者を、純真無垢と言うんですか』
「確かに、私は物知らずだけど」
『はいそうです』
「私だって、好きでこうなんじゃ」
『本当に、そうなんですか』
「アナタに、私の気持ちの」
『先ず1つ、分かる意味が有るのでしょうか。そして2つ目は、何故、分からないと決め付けたのでしょうか。3つ目は、ではアナタに私の気持ちが分かるか、です』
《何でそんな》
『こんなに優しい子に、どうして酷い事を言うの』
『優しい、ですか』
《そうよ》
『苛めっ子だって噂のアナタに、わざわざ関わろうとしていたのに』
『では何故、関わろうとしていたのか、アナタの口からお聞かせ下さい』
「私は、ヒナ様が、可愛くて綺麗だから」
『だから何ですか』
「だから、友達になりたいなと、思って」
『何故、友達になりたいんですか』
「それは」
『関わろうとする理由は何ですか』
「だから、私はただ、お友達になりたいだけで」
『私達が友人となり、アナタ達の得になったとしましょう、私の得は何ですか』
「それは、一緒に遊んで楽しく過ごしたり、美味しい物を食べたり。そう言う事を、一緒にしたいだけで」
『私はアナタとしたいと思っていません』
「何で」
『何故だか分かりませんか』
「私が、庶民の」
『違います』
「じゃあ、何で」
『良く考えて下さい、アナタの問題です』
「私が、無知だから?」
『それしか思い当たりませんか』
「分からない、何で、どうして友達になってくれないの」
『自己の利益の為には他者の気持ちを蔑ろにする、自分勝手で気紛れな、私のお母さんだから』
「えっ?」
『見て下さい』
私は。
私の本当の姿は。
「嫌、思い出したくない」
『お母さんにも、きっと良い面が有る筈だ、捻じ曲がったせいだと思いました』
「嫌っ」
『でも、元からアナタはアナタでした』
《無知で無能だった、けれど外見は良かった》
『無知で可愛い、その事に満足していた』
『押し付けがましい、恩着せがましい、善意だと言い張れば何をしても良いと思っている』
「止めて、ごめんなさい、謝るから」
《謝れば良いと思っていた》
『純真無垢なだけだ、悪意は無い、善意を無碍にする方が悪い』
『そうやってアナタは純真無垢なまま、子を作った』
『男は子が出来たら掌を返した』
《子にもアナタにも、最初から興味が無かった》
『単なる親孝行の道具、アナタも私も単なる道具だった』
「だから、私は何もしなかった」
世話をしないと義母に五月蝿く言われるから、言われない程度に世話をした。
全部嘘だった。
騙された。
だから関わりたくなかった。
顔も見たくない男の子供なんて、関わりたくない。
何もしたくない。
だからしなかった。
暴言も暴力もしなかった。
けど世話は、最低限はした。
『だからアナタは悪くないとでも言いますか』
「だって仕方が無いじゃない!!」
《いいえ、出来る事は有った、預けられる施設が有った》
『相談出来る場所も相手も、探せば有った』
「だって!何もしたくなかったんだからしょうがないじゃない!!」
《そう言い訳をし、何もしなかった》
『純真無垢さを言い訳に、学ぼうともしなかった』
『そうして、私が産まれた』
「仕方無いじゃない!あんな男だって気付かなかったんだから!!」
《見抜く努力をしましたか》
『何を学び、どう選ぼうとしましたか』
『金が有るから選んだだけでは』
「しょうがないじゃない!お金は必要なんだから」
『アナタは純真無垢じゃない、こうやって言い訳ばかりで謝りもしない、単なる愚か者』
「だって」
《もう良いでしょう》
『送りましょう、鋸球体へ』
『そうですね』
「何よ、それ」
《別名、試練の間、意味は分からないでしょうね》
『でしょうね』
「あ、アナタ達」
《私はラウム、ヒナ様のお友達》
『私はベリス、私達はヒナ様の為の悪魔、さようなら』
『さようなら、お母さん』
それから私は、何度も死んだ。
溺死したり、落ちて死んだり、内側から溶けたり。
だから私は何もしなかった。
「餓死すれば良いと思ったのに、何で死なないのよ!!!」
ずっと喉が渇いてるのに。
ずっとお腹が空いているのに。
私は死ねない。
私は。
《お、お前、何してるんだ》
あぁ、苦しんで死にたくない、痛い思いもしたくない。
ただ何もしなかっただけなのに、何で。