172 純真無垢。1
《私、どうしてか、直ぐに怒られてるんです。いつも》
私は無知だった。
何も知らなかった。
『何故、怒られていたのでしょう』
彼女はヒナ様。
この学園の転校生。
真っ白な髪に真っ白な肌、瞳は燃える様な真っ赤。
綺麗で可愛い女の子。
《私は無知で、何も知らなかったんです》
『そうですか、失礼しました、さようなら』
「何、あの子」
『関わらない方が良いよ、あの子、苛めっ子だって噂だから』
私は、ココに悪魔と人種の子として転生した。
既に皆は知っている、私が転生者だと。
だからなのか、とても優しい。
無能だった私にも、悪魔も人種も優しくしてくれる。
物騒な名前の場所だけれど、寧ろココは天国。
《ありがとう、でも、知らないのに悪く言うのはいけないし》
「優しいのね」
『でも関わらない方が良いよ、きっと何の得にもならないだろうし』
もう私は、失敗しない。
この優しい世界で、平和に暮らすのだから。
『結構です』
「なんでよ」
『折角、アイリが作ってくれたお菓子なのに』
「どうしましたヒナ様」
『何でも無いです、行きましょう』
何故、どうして。
私の謎は尽きません。
何故、どうして付き纏うのか。
何故、取り入ろうとするのか。
《あの、この前はごめんなさい》
『構いません、では失礼します』
「折角、アイリが構ってあげてるのに」
『もう行こう』
分からない。
何故、仲良くしようとするのか。
何故。
「ヒナ様、アレを」
『いいえ』
「分かりました」
何故、私に絡むのでしょうか。
何故、私と仲良くしようとするのでしょうか。
何故。
《ごめんなさい、私、知らなくて》
コレで3回目です。
この学園で僕はヒナ様と一緒に過ごしています。
そして僕と居る間に3回目なら、もう既に、ヒナ様のカウントを超えている筈なのに。
何故、ヒナ様は。
「ヒナ様」
『考えていました、無知な愚か者と純真無垢な者の違いについて』
愚かな女は顔色は変えないまでも、明らかに動揺を隠している。
「そうでしたか」
『答え合わせがしたいです、教えてくれますよね』
ヒナ様は女へ向かった。
けれど女の顔色は変わらず、動揺も収まっている。
《ごめんなさい、何を言っているのか良く分からなくて、ごめんなさい》
「どうしたんだい、問題かな」
《先生、ごめんなさい。私、何故彼女が怒っているのか、分からなくて》
「元はこうです……」
この女が馴染めない、と他者に愚痴っている所へ、ヒナ様が仰いました。
何故、分からないんですか、と。
この女は言いました、前世でイジメられていたから、どうすれば良いのか分からない。
ヒナ様は仰った。
そうですか。
それ以降、彼女は纏わり付いて来た。
可哀想な女として。
無知な女として。
「そうですか、成程。アナタはまだ無知な子供のまま、純真無垢に、彼女に優しくしようとした。なんて、言うとでも思いましたか、アイリ」
《先生》
「確かにアナタは無知だった、人の情に疎く、情を理解出来無い無知な者。ですが、もう分かっているでしょう、如何に自分には琴線が無かったかを」
《言わないで!!》
「繊細で純真無垢なだけだ、周りだってこうじゃないか、どうして私がそんなに責められないといけないの」
《止めて!!》
「自分の事ばかりには繊細で、言葉や口調の違いは些細な問題、誰だって少しの問題や間違いは有る。何故、どうして、私ばかり」
《止めて!!》
『何故です』
《機嫌を損ねたなら謝るわ、ごめんなさい》
『何故、私に付き纏っていたんですか』
《ごめんなさい、もう付き纏わないから》
『何故、今でも質問に答えないんでしょうか』
《それは》
『先生、鏡を』
「仕方無いですね」
先生が差し出した鏡には。
《何で、何で以前のままなの》
「与えたんだよ、君に琴線の多い状態と、ココでの偽の記憶を」
『教えて下さい、愚か者と純真無垢な者の違い』
《何で、何でなの》
「そうして向こうの世界と同じ様に、直ぐに質問には答えず、困れば泣くかキレるか。まだ、琴線が足りなかったらしい」
《誰が、こんな》
「僕だよ、ヒナ様の為に、僕が見繕ったんだ」
『そうでしたか、成程、ありがとうございます』
「で、答えられるかな、〇〇 ✕✕子ちゃん」
全部、知られてた。
全部。
《ごめんなさい》
『何について謝っているのでしょう』
《嘘を言いました》
『何故、どうしてこんなに言葉が細切れで、そうやって合いの手を必要とするのでしょう』
「以前は、そうやって追い詰めるから、怒られて怖いから。だっけ」
《ごめんなさい、ちゃんと話します》
「で」
《ごめんなさい》
結局、彼女の口からマトモな説明は聞けませんでした。
「もう少し与え、様子を見させて下さい」
『はい、分かりました』
私でも分かる事が有ります。
心に琴線の少ない者に多くの琴線を与えると、壊れてしまう。
恥を知り、感じ、後悔や罪悪感から壊れてしまいます。
なのでとても調節が難しいそうです。
「もう転校なさいますか」
『いいえ、調節に付き合います、早く知りたいですから』
「分かりました」
私は知りたいです。
人種の考え方を、どんな事を考えるかを。
《私、どうしてか、直ぐに怒られてるんです。いつも》
私は無知だった。
何も知ら無かった。
『何故、怒られていたのでしょう』
彼女はヒナ様。
この学園の転校生。
真っ白な髪に真っ白な肌、瞳は燃える様な真っ赤。
綺麗で可愛い女の子。
《私は無知で、殆ど琴線の無い子だったんです》
『そうですか、失礼しました、さようなら』
「何、あの子」
『関わらない方が良いよ、あの子、苛めっ子だって噂だから』
私は、ココに悪魔と人種の子として転生した。
既に皆は知っている、私が転生者だと。
だからなのか、とても優しい。
無能だった私にも、悪魔も人種も優しくしてくれる。
物騒な名前の場所だけれど、寧ろココは天国。
《ありがとう、でも、知らないのに悪く言うのはいけないし》
「優しいのね」
『でも関わらない方が良いよ、きっと何の得にもならないだろうし』
もう私は、失敗しない。
この優しい世界で、平和に暮らすのだから。
『関わる利が見出せないので関わりません』
「なんでよ」
『折角、アイリが作ってくれたお菓子なのに』
「どうしましたヒナ様」
『何でも無いです、行きましょう』
何故、どうしてか。
もう分かりました。
何故、どうして付き纏うのか。
何故、取り入ろうとするのか。
《あの、この前はごめんなさい》
『構いません、では失礼します』
「折角、アイリが構ってあげてるのに」
『もう行こう』
私が貴族だから。
優しいと周囲に思って貰う為の、良い道具になりそうだから。
「ヒナ様」
『クラスを変えて貰います』
「はい」
何故、私に絡むのか。
何故、私と仲良くしようとするのか。
分かりました。
自分の利益の為だけ。
道具にしようとしただけ。
私に興味は無かった。
最初から、ずっと興味が無かったんです。
ずっと。